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魔女伝  作者: 倉トリック
墓標の剣編
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形代の案山子

 ランスロットは、自分の名前が昔から嫌いだった。大袈裟につけられた円卓の騎士の名前、その名に恥じぬような立派な騎士となれ、いかにもそんな願いが込められているようで、その心は常に重圧に侵されていた。


 幼くして、彼は自分がどんな立場なのかを知っていたのだ。


 種役と母体役から産まれさせられる、ジャンヌ候補の子。生まれながらに戦う事を義務付けられた者達。


 戦う為の、最早人間兵器とも呼べるような存在として産まれて来た者達。


 自分がその内の一人だという事を理解するのに、時間はかからなかった。


 だから、ランスロットは必死に剣を振った。一心不乱に、懸命に、一生懸命、死に物狂いで、朝も昼も夜も、剣を振り続けた。


 ジャンヌ候補の子が、使い物にならないぐらい弱かった時、どういう処分をされるのかも、彼は分かっていたからだ。


 しかし、成長するにつれ、ランスロットは自分の体が他よりも随分病弱だと気付いた。


 暑さに弱く、寒さにも弱い。事あるごとに体調を崩し、本来の力を発揮出来ない。

 五歳になった頃、自分を見る先生達の目が、日に日に変わっていく事が、嫌というほど良く伝わった。


 同じ訓練所の候補生達が、ランスロットの事を馬鹿にした。


「木偶の坊」「病弱」「騎士には向いていない」


 身長の高いランスロットは、その病弱な体とのギャップが原因で、前からからかわれていたのだが、先生達がそれを止めなくなった頃から、彼への誹謗中傷は更に悪化していった。


 先生達が、いじめを止めようとしない。それはつまり、自分が弱いと思われている何よりの証拠だった。


 弱い。それはランスロットにとって、最も怖い事で、避けねばならない事だった。


 だから、更に剣を振った。


 高熱に侵されていようと、身体中が痛もうと、咳が酷くて呼吸がままならなくなっても、頭痛が酷くて考えがまとまらなくても、涙で目が潤んで視界が悪くなっても、喉が痛んで声がまともに出なくなっても。


 どれだけ体が悲鳴をあげようとも、彼は剣を握り、振り続けた。


 罵倒なんか怖くない、自分の事は好きに言えばいい。そんな事より怖いのは、自分が意味もなく死ぬ事だ。


 勝手にこの世に産み落とされ、勝手に未来を決められ、自分の意思など全く尊重されないまま、役立たず扱いのまま死ぬ。何の為に生まれてきたのか分からないまま、死ぬ。


「どいつもこいつも分かってない、俺は違う、俺は違う、俺は最強になって、あの馬鹿どもに分からせてやる、俺がこの世に居てくれた事を感謝させてやる、俺が最強の騎士になるんだ」


 その想いを糧にして、いつしか自分が最強だと称えられる日を夢見て、いつの日か、生まれてきて良かったと、自分が心から思える日を夢見て、彼は、剣を振り続けた。


 その結果、彼は十歳にして同期だけでなく、大人の騎士にも負けないほど強くなった。その一年後、十一歳になった頃には既に実技訓練として、実際の戦場に連れていかれた。


 負ければ死ぬ、本物の戦場。そこはまさに、自分の人生そのものだった。


 死にたくはない、負けるから、負けたら死ぬから、死にたくない、負けたくない、自分は強いんだ、強ければ勝つ、負けたくない、負けるのは、弱いやつ、弱いのは嫌だ、弱いと死ぬ、弱いまま死ぬ、死んだら、何の意味もない、自分が生まれてきた事には意味がある、死んだら意味がない、負けたら、意味が無い。


「負ける奴が、悪い」


 彼は、その初陣で、敵の小隊をたった一人で全滅させるという異常な功績を残した。


 その日から、周りの彼を見る目が変わった。


 誰も自分を馬鹿にしなくなった、むしろ、ランスロットを笑っていた彼らの方が落ちぶれていった。


 それから、様々な訓練施設を周り、時には戦場へ足を踏み入れ、その全てで生き残ってきた。


 勝つたびに、生きていると思えるたびに、自分の強さに自信が持てた。


 殺して生き残れば、沢山の人に褒めてもらえた。別に賞賛の声が欲しかったわけじゃないし、それ自体が嬉しかったわけではないけれども、彼らの声は、自分の存在を全肯定してくれるものだったから、安心出来た。


 これからも自分は戦い続けて、色んな人に必要とされるのだろう、そしていつかは、その全ての人間が、自分を敬い、跪く事だろう。


 ゆくゆくは、騎士団の団長だろうか。今は『鎧の魔女』という存在がトップに立っているらしいが、自分の実力を考えれば、世代交代どころではない、革命が起きるかもしれない。


 団長などという立場にこれっぽっちも興味は無いが、ランスロットという存在を強くするのには丁度良いかもしれない。


 弱い体を引きずって足掻くだけのランスロットは、もうどこにも居なかった。強靭な、一人の騎士に育っていたが、しかし、その心は徐々に歪みつつあった。


 そして、ある日四人の候補生が中央支部に集められた。


 ランスロットとゼノヴィアとローラン、そして、一番年下の少女。各支部で、最も成績の良かった者達だろう。


(ゼノヴィアとローランは知っているが…誰だコイツ)


 自信たっぷりな表情を浮かべている二人とは違い、その顔は常に緊張で強張っており、いかにもランスロットの嫌いな『弱そうな奴』に見えた。


 ゼノヴィア達は特に気にもせず気軽に接していたが、それに対しても一歩引いたようなおどおどとした態度に、ランスロットは苛立ちを募らせた。


(こいつの事は、嫌いだな)


 そこへ、四人の前に彼女が現れた。その瞬間、どこかふわふわしていた雰囲気は消え去り、候補生の四人は一斉に彼女の前で整列した。


「…硬いな、皆楽にしてくれていい」


 彼女、騎士団の団長を務める魔女。


『鎧の魔女』ジャンヌを見たのは、これが初めてだった。しかし一度見ただけで、圧倒されるオーラというものを常に持っている正真正銘の強者だという事が分かった。


「…今日君達には、私と共に合同訓練をしてもらう」


 不安と緊張が伝わってくる中、ランスロットは内心歓喜した。


(団長の前で、俺の実力を知らしめる良い機会だ)


 ジャンヌの指示で、四人はそれぞれ五分交代で手合わせする事になった。


 ほとんどいつもと変わらない稽古、だから、ランスロットもいつも通り、剣を振って同期をねじ伏せた。


 ローランも、ゼノヴィアも、そして名前も知らない少女も。


(今の中じゃ、ローランが一番手応えがあったな、ゼノヴィアは…まぁ速さだけは一丁前だったな…だが)


 自分の前で、今半泣きになりながら再び木刀を握る少女。


(コイツは一体…何をしに来たんだ?)


 はっきり言って話にならない。剣の筋自体は悪くないし、フットワークだって軽い、全体的な潜在能力の高さは確かに認めるが、それらを全く活かしきれていない。


 攻撃を繰り出してくる癖に、何故かあと一歩踏み出さずみすみす攻撃を外す。そして、その結果強烈なカウンターをくらって半泣きになる。


 ゼノヴィアが相手でも、ローランが相手でも、そして恐らくこの四人の中で一番強い自分に対しても全く同じ事を繰り返してきた。


 結果は全敗、本当にこれが彼女のいた支部の中で一番優秀だったのか疑わしい。いや、その支部全体の実力が低すぎるのだろうか。


「なんなんやろな、あの子、訓練の意味分かってんのかな」


「僕達に遠慮してる…様な気配も無いな、なんだろう、彼女が攻撃を止めるのには、理由があるのか?」


 他の二人も、少女の行動は不可解だったのだろう、各々で推測を立てているが、どれもこれも的外れに思えた。


「…ただの、雑魚だろ」


 その考え過ぎな考察もどきにもイラっときたので、ランスロットはそう一言だけ残して、訓練が終わった事をジャンヌへと報告した。


「よし、よく見せて貰ったよ、最後に、全員で私の相手をしてくれないか」


 最後の訓練は、順番にリーダーになり、全体に指示を出して、ジャンヌに一撃加える、というものだった。


 ランスロットにとって、一番難易度の高い訓練だった。


(コイツら、俺について来られるのか…?)


 しかし、意外にもランスロットがリーダーを務めた際の結果は良かった。ものの二分ほどで、ローランがジャンヌの鎧に木刀を当てた。


 ゼノヴィアがリーダーを務め、次にローランが務めた、そのどちらも結果は良好で、ランスロットは二人を少し見直した。


 だが、ランスロットのその評価は、次の少女がリーダーを務めた際に、ガラリと変わる事になる。


 わずか四十秒、それだけで、ランスロットはジャンヌに一撃を加える事が出来た。


 いや、そもそも彼女が少し手加減していたのは分かる、でなければ、年端もいかない候補生如きに、団長であり魔女でもある彼女が遅れをとるわけがない。だが、訓練としての全力は出していたはずだ、だからこそ、自分達も少なからずダメージは受けている。


 だが、この回だけは違った。全員が無傷で、しかも速攻で、訓練の成功条件を満たしたのだ。


「なるほどな…やはり君か」


 ジャンヌはそういうと、周りに居た騎士達を集めてなにやら話を始めた。そして、再び四人の前に立つと、弱気な少女の手を引いて、自分の元に引き寄せながら言った。


「君が、私の後継者だ」


 ざわつく周囲、しかし、何より驚いていたのは、少女本人だった。


「あ、あの…えっと…わたし」


「団長、質問よろしいですか」


 出来るだけ、落ち着いた声で、ランスロットは言った。しかし、どうしても、顔が引きつってしまい、声は少し震えてしまった。


「許可する、なんだ」


「何故…彼女を選んだのですか…」


 ローランとゼノヴィアの視線を感じる。


 ランスロットはそんな二人に、お前らだっておかしいと思っただろ、と、目で訴えかける。


「わ、わたしも、適切では無いと…思います…」


 更には、他ならぬ少女本人まで、目を泳がせながら言った。


「適切かどうかの判断は私が決める、申し訳ないが、こればかりは君達の意見は尊重できない…だがあえて言うなら…そうだな、彼女が一番、私に無いものを持っていたから…だな」


 納得、出来なかった。


「貴女に…」


 だから、答えて欲しかった。


「貴女ほどの実力者に、足りないものがあるって言うんですか?」


「ちょ、ロット、なに言うてん」


「黙ってろゼノヴィア」


 俺より弱い奴が口を挟むな、とも付け加えたかったが、そこは堪えて、ジャンヌへの質問を続ける。


「百歩譲って貴女にすら足りないものを、そんな奴が持っているって言うんですか?」


 だったら、だったら自分にだって持てるはずだ。


「そんな奴、とは?」


 そこで、ジャンヌは少し声色を変えて、ランスロットに聞く。


 適切な表現では無かったのは自覚していたが、それ以外に言葉が見つからない、いやむしろ、それだってかなりオブラートに包んだ方だ。


「何が言いたいんだ、ランスロット」


 更にジャンヌは問い詰める、だから、ランスロットも思っている通りの事を口にした。


「そいつは、自分達の中で一番弱かったじゃ無いですか、そんな弱い奴に、貴女よりも優れている部分があるとは思えません」


「…なるほどな、君は…私と一緒だ」


 それだけ言うと、ジャンヌは少女を連れて背を向けた。


「団長!」


「私は、この子は私に無いものを持っていると言っただけで、優れているとは一言も言っていない…君の価値観は強さに偏っている…もう少し広い視野でものを見るべきだ…まぁこれは、私にも言える事だがな…」


 そう言って、彼女は去っていった。


 理解、出来なかった。


「あーあ、ウチも結構自信あったんやけどなー、なんやろな、団長にすら足りひんもんって」


 ゼノヴィアが肩をすくめて言う。


「惜しかったね、ゼノヴィア、君は僕らと違ってチャンスがあるとは思っていたんだけど」


「僕らと違って…だと? ローラン、お前、何の為にここにいるんだ…わざわざ、負けに来たのか⁉︎」


 ランスロットは、怒りに満ちた目でローランを睨みつけ、胸ぐらを掴み上げながら言う。


「だ、だってそうだろ! 僕らは男なんだから、魔女にはなれない! 団長は代々魔女が務める、僕らがなれるのは精々支部長ぐらいだ! 僕ら二人は団長にはなれない…というか、勝ちも負けも無いだろ!」


「そんな事は分かってるんだよ、俺が言いたいのはそっちじゃない…お前、お前は、分かってるのか? 俺達が、どういう存在なのか、どういう理由でこの世に産み落とされたのか!」


「ちょっ、離せって! 落ち着けよランスロット! なんか変だぞ!」


「ロット!」


 ゼノヴィアに引き剥がされ、ようやくローランは開放される。


 ローランは激しく咳き込んでいたが、そんな事はもう眼中に無かった。ただ、ひたすら、困惑し、絶望していた。


 最近は無かったのに、昔と同じように、酷い頭痛がして、考えがまとまらない。


 理解出来ない、納得出来ない。


 あんな弱いガキが、あれほどまでに強い団長に認められた。しかし、自分は何一つ評価を受けていない。


 それはつまり、自分はあんな奴よりも、劣っているという事だ。


 劣っているという事は弱いという事で、弱いという事は、いつか負ける。負けたら、死ぬ。


 弱いまま、負けて死ぬ。負けたら意味が無いのに、意味が無いまま、この世から消えてしまう。


「認めない…認めないぞ、認めるわけがない、俺が、強いんだ、俺が、俺が俺が俺が! 俺の方が…強い、強くないと意味が無いだろうが…俺は無意味に死んだりしない…俺の方が強かったはずなのに…おかしい、おかしいぞ…待てよ、なるほど、不当な評価だ…魔女の力を受け継がせたいが為に…適当に選んだに決まっている…本当に強いのは俺なのに、俺が男だからという理由だけで、それだけで、俺を見下しやがった、許さない、見てろよ、あの小娘、アイツが魔女になったとしても、俺には勝てないと見せつけてやる…」


「ランスロット…? 落ち着きなよ君も僕も、誰も見下されてなんか」


「黙れ敗北主義者、お前は精々その境遇を理解もせずに甘んじてろ、俺は違うんだ、お前らボンクラとはな…」


 いつか、その顔を絶望に染めてやる。そして認めさせてやる。


 優秀で強靭な騎士の心は、歪みきってしまった。


 その闇を抱えたまま、今まで生きてきた。


 だが、その首は、今落とされた。


 当時の自分と同じ様な、とても若く優秀な騎士の剣によって、斬り落とされた。


 負けたら、意味が無い。


 負けとは、つまり死。


 逆に言えば、死ななければ、負けないのだ。


 そう、だから、魔女は強かったのだろう。当時の団長も含め、だから強かったのだ。


 そこを補えば、誰よりも強くなれる。


「ウル! 油断しないで!」


 ジャンヌが叫んだのと同時に、ウルは回避行動に出ていた。


 しかし、それでも間に合わず、致命傷は避けたものの、両腕を貫かれ、硬い墓石に叩きつけられた。


「油断大敵だ、若い騎士。だが、剣筋は悪くない…命までは取らないでおこう、俺が団長になった暁には、部下にしてやろう」


 そう喋る頭を、首無しの胴体が持ち上げ、そして切断された首に乗せる。


「どういう事だ…これも魔具の力か…? それにしたって、こんな異常な再生能力あるかよ…ゲルダ、お前ミスって治癒したんじゃねぇだろうな」


「馬鹿言わないでよエルヴィラ、いくらこの魔法が強くても、死んだ人間は生き返らないよ…まぁ私は偶然が重なってギリギリ蘇生したっちゃしたけど」


 困惑する二人の魔女を見て、ランスロットは得意げな笑みを浮かべる。


「ランスロットさん…それは、一体」


「…俺にあって、お前に無いものだ」


 そう言って、ランスロットは動いた。


 さっきよりも速く、鋭い攻撃がジャンヌを襲う。


(ダメ…! 防御が間に合わな…!)


 ランスロットの剣がジャンヌの首を落とす、事は無かった、しかし、代わりに強い衝撃がジャンヌの顔面に走る。


 剣ではなく、ランスロットの拳が、ジャンヌの顔面にめり込んだ。つまり、ぶっとぶほどブン殴られたのである。


「ぐっ、ブハッ!」


 顔面を強打し唇が切れ、歯が一本折れた。噴き出した鼻血と、情けなく溢れる唾液混じりの血で、ジャンヌの顔面は真っ赤に染まる。


 うずくまるジャンヌを、見下しながら、ランスロットは


「いい気味だなぁ…お前」


 と、初めて大きく表情を歪ませ、狂気に満ちた笑みを浮かべた。


 髪を掴み、無理矢理起こした顔を見て、その笑みは更に深くなる。


「鏡を持ってきてやりたいぐらいだ、血に染まったその面、見るに耐えないほど醜く不細工だな、女の顔じゃ無い、そうだな…猿の尻と似ているかもしれんな」


 恐ろしく品のない罵倒には少し驚いたが、それよりも、ジャンヌは不思議だった。


(さ、さっきより、攻撃の重さと速度が違う…強く速くなってる…! いやそもそも、どうやって蘇生したの…あの状態から…)


 魔具の能力は一つじゃないのか…それとも、魔具が一つじゃないのか。


「何か考えているな、お前はそういう奴だものな、お前自身への罵倒なんて、効果は無いか、じゃあ教えてやる…お前らの追っている七つの魔法、この剣がその魔法で作られた魔剣だと思ってたんだろう? ハズレだ、バカが」


 当たり前のように七つの魔法については知っている、だから問題はそこじゃない。


 嫌な方の読みが当たった。


「この剣も確かに魔具だが、実はそれほど強力なものじゃない…まぁ、多少強化…いや、凶暴化はさせているがな」


「ま…まさか…魔具で、魔具を強化しているんですか…危険すぎる…魔具は…し、使用者の体に大きな負担をかける…」


「ああ、知っているよ、だからこその七つの魔法だろうが」


 そう言いながら、ランスロットはおもむろに上着を脱ぎ、上半身を晒す。


 その姿に、ジャンヌは息を飲んだ。


 ランスロットの屈強な肉体、その胸元に、小さな人形が打ち込まれていたのだ。


 十字架に磔にされた聖人のような姿で、禍々しいオーラを放つ顔の無い人形が、彼の肉体に直接、釘や刺繍糸で打ち込まれて、縫い込まれていたのだ。


「コイツがある限り、俺は死なない、いやむしろ、他人の死が俺を強くする」


 くっくっく、と、ランスロットは愉快そうに笑う。


「俺が人を殺した分、俺は蘇生することが出来る、更には自分の死を他人に押し付ける事も可能なのさ、まぁ色々条件はあるがな、まぁとどのつまり、命を司る魔法だと思え」


 他人の死を自分の生へと変えることが出来る、そのおぞましい能力を聞いた時、ジャンヌは背筋が凍りつくような思いだった。


 そんな魔法を、当たり前のように、嬉々として使える彼の神経を本気で疑った。


 本当に、自分の為だけに人を殺せるのだろう。


 あの時彼が殺した人数は五十人ほどだった、つまり、彼は後四十九回は死に、そして生き返る事が出来るという事だ。


「『形代かたしろ案山子かかし』、俺はこの魔具をそう呼ぶ事にした」


 お前の死も、ちゃんと利用してやるよ。


 ランスロットは、高らかに笑った。

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