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魔女伝  作者: 倉トリック
紅の月編
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憂鬱な報告

 事の顛末をジャンヌから報告された王は、しばらく考え込むようにしてから、静かに頷いた。

 今回の件に、全く成果が無かったわけではない、現に、三つ目の魔法は回収しているのだから。しかし、それでも、王の反応はあまり良いものでは無かった。


「お前が無事だった事…魔法を回収してくれた事、私個人としては本当に喜ばしいんだ…だがなぁ…時期が悪かった」


「…時期?」


 確かに、魔女でも魔具使いでもない、新たな脅威を取り逃がしてしまったのは大失態だが、そこに時期など関係あるのだろうか。


「マギアと異端狩りが、またやらかしたんだ」


「なぁっ⁉︎」


 その言葉に、思わずジャンヌは叫ぶような声を上げてしまう。


 マギア、はともかく、異端狩りが。


 話が違う。マシューとの交渉で、彼らは、魔女への無作為な攻撃は辞めるという約束のはずだった。


(いや…彼らを信じた私が馬鹿だったのか…)


 カーミラの言葉が胸に刺さる。信じた結果、馬鹿を見たのか。


「住民がもう殺気立っててな、おちおち夜も眠れないと何件も苦情が入ってる…」


 そんな騒ぎの中、吸血鬼が世に放たれたとなれば、なるほど、更に厄介な騒ぎになる。


 時期が悪かったとはそういう事か。


「被害は…どれほどだったんでしょうか」


 震える声でジャンヌは聞く。しかし、それに対する答えは、意外なほど拍子抜けするものだった。


「あ、いや、被害という被害は出てないんだ、一般人の負傷者や犠牲者は出てない…ただ、建物の破壊が酷かったんだ…元々異端狩りの基地だったらしいが、全部崩壊した…それの後始末に手を取られている」


「被害は…ゼロ?」


 マシューなりに、約束を守っているつもりなのだろうか。いや、それとも、マシュー以外に支持者がいるのか。


 いや、いやいや、そもそも異端狩り側から攻撃を仕掛けたと決め付けるのが良くないのか。


 しかし、今までマギア側から直接的な戦闘に持ち込むような揉め事を起こした事は無い。何か問題が起きれば、まず異端狩りを疑ってしまうのも無理はないか。


 どれだけ歪んでいようと、組織である以上、攻撃されているのに無視は出来ない。状況に応じて武力を行使しなければならないのはお互い様である。


 こちらの方も、後で調べる必要がありそうだ。


「とにかく…今は、逃亡した吸血鬼の行方を追います、犠牲者が出る前に必ず捕らえてみせます」


「ああ、よろしく頼む…すまないな、本当は、魔法を回収してくれただけでも十分だと言ってやりたいんだが…」


 前から思っていたが、この人は少し優しい、というか、甘すぎるのでは無いかとジャンヌは思う。


 結果がどうであれ、国を守るべき騎士の団長が大失態を犯したのだ、それなりの処罰は覚悟していたのに、注意だけされてお咎めなし。


 別に何か酷い目にあいたいわけでは無いが、世間はそれで許すのだろうか。


「分かった、報告が済んだら、もう戻れ。まだお前の仕事は残ってるだろう?」


「はい、失礼します」


 そう言って、ジャンヌは王室を後にする。


「ジャンヌ様、お疲れ様です」


 部屋を出てすぐ、使用人のサッフィが声をかけてきた。


「あ、サッフィ、お疲れ様…もしかして、待っててくれたの?」


「あ、いえ、その…私は決して待ち伏せのような…後付のような真似をしていたわけでは…」


 慌てて、してもいない誤解を解こうとするサッフィに、ジャンヌは思わず笑ってしまう。


「あははっ! そんな風に思ってないよ、私達ってさ友達みたいなものじゃない、ほら、お互い三年前に職についた、同期、みたいな?」


「と、友達っ⁉︎ そんな、恐れ多い…私ごときが…ジャンヌ様と」


「あー、もう、私ごときとか言わない、身分なんて仕事上だけに付いてるようなものなんだから、少なくとも、私にとっては誰が上とか誰が下とか無いよ」


 ジャンヌの屈託の無い笑みに、サッフィは思わず赤面し、顔を背けた。


 彼のそんな様子を見て、まだ距離を感じたジャンヌは、とある提案をする。


「そうだ、サッフィ、ちょうどお昼だし、これから一緒にご飯でも食べに行かない?」


「ええっ⁉︎」


 ジャンヌに一切悪気は無い、だが、サッフィにとっては軽く事件だった。


 国の防衛を任せられる騎士団、その団長と、ただの使用人の自分が一緒に食事をするなど、どう考えても常識的にあり得ない事だったからだ。


「うん…もしかして、嫌、かな?」


 更に、畳み掛けるように、ジャンヌは気まずそうにそう言った。


 最早選択の余地などない、というか、サッフィだって本当はそうしたかったのだ。むしろ願ったり叶ったりの状況で、思わず口元が緩みそうになるが、必死に抑え、あくまでも立場を忘れずという態度で答える。


「いいえ、分かりました、お供させていただきます」


「ほんと? じゃあ、私の行きつけのお店があるから、そこに行こっか」


 そのまま二人は共に、というか、サッフィはほぼジャンヌに引っ張られるような形で馬車に乗り、目的地まで移動する。


 狭い馬車の中で向かい合う、ジャンヌは何か楽しそうに話しているが、緊張でそれどころではないサッフィは、当たり障りのない相槌しか打てずにいた。


 緊張、何故自分はこんなにも緊張しているのだろう。


 今更ながら、ジャンヌと初めて会った時から、以来、自分は彼女に会う度緊張している。


 身分の違い、というのが大きいのだろうか。しかし、もっと立場が上の王と接する時だって、こんなにも、胸が痛くなるほど鼓動が早まったりはしない。


(いや…分かってるけど…)


 この気持ちがなんなのか、勿論分かっている。でもそれは、友達というよりも、更に恐れ多い事だ。


 それに、例え優しい彼女が、自分の気持ちを受け止めてくれたとしても、自分は耐えられないだろう。


 今の自分じゃ彼女の隣には立てない。


(変わりたい…)


 これもだ、彼女といると、いつも自己否定ばかりだ。


「どうしたの? サッフィ?」


「あ…いえ、すみません…」


「もしかして…疲れてる…? お仕事大変そうだもんね…ありがとう、私のわがままに付き合ってくれて」


 貴女ほどの苦労はしてません、とは言えず、その場もまた、当たり障りの無い返答しか出来なかった。


 そんなやりとりをしている間に、目的の店に到着した。


 そこは、一般人も利用する大衆食堂であった。


「ここの奥さんの料理は絶品なんだよ、結構前から通ってるんだー」


 昼食時だった為、かなり混んでいたが、運良く二人分の席が確保出来たので、そこに腰を下ろす。


「遠慮しないでね、サッフィ、付き合ってくれたお礼も兼ねて、今日は私がご馳走するから!」


「えっ、いや! それはっ!」


「これは! お礼なの!」


 サッフィが何か言う前に、ジャンヌは更に強く念を押す。そして素早く店員を呼び、自分の注文を済ませた。


「サッフィは?」


「あ、えっと…じゃあ、私も同じものを」


 一瞬躊躇ったような素振りを見せたが、諦めたように控えめの声でサッフィは言った。


 注文を繰り返してから、店員が厨房は入って行くのを見送って、ジャンヌはコップに入った水をゆっくりと飲み干した。


「ふぅ…落ち着いた、なんかすごい久しぶりだよ、こんな風に誰かとゆっくりご飯が食べられるなんて」


「その久しぶりの相手が、本当に私で良かったのですか?」


「ん? 勿論良かったよ、むしろダメな理由無いでしょ?」


 今更そこを掘り返すのは最早失礼か。そう思ったサッフィは、なんとか気持ちを切り替える。


 ここは素直になった方がいい、変に意識していると、ジャンヌの気を損ねさせるかもしれない。


「あ、ねぇねぇサッフィ」


「え、あ、はいっ」


 何か話題を振ろうとしたが、先にジャンヌから切り出され、つい間抜けな返事をしてしまう。しかし、彼女はそんな様子など気にも留めないで、話を続けた。


「もしね、もしさ、サッフィに魔法が使えたら…どうする?」


「魔法…ですか?」


 まるで子供同士が話す内容だが、実際魔法が存在する以上、あり得ない話ではない。


 魔具を使えば、魔女じゃなくても魔法が使えるのだ、自分のような使用人や、一般人の手に渡る事などほとんど無いが。


「どんな魔法でもいいのですか? 物を一瞬で手元に出現させたり、透明になれたり」


「うん、何でもいいよ。もし、いきなり自分にそんな力が使えるようになったとしたら…どうしたい?」


 どうだろう。全く考えた事が無いといえば嘘になるが、それで何をしたいか、なんて、真面目に考えた事は無いかもしれない。


 子供の頃は、沢山やりたい事があったかもしれないが、今となっては、そんな純粋な夢などとうに忘れてしまった。


 別に空を飛びたいわけでも無いし、無限に金が増える財布が欲しいわけでも無い。恋人を魔法で作ったところで虚しいだけだろうし、力を行使して国や人をまとめられるほどの器量も度胸も自分には無い。


 欲が無いというよりは、ただ生きるのが下手なのだ。


「そう…ですね…あまりピンと来ませんが…私なら…どうしましょうか…ああ、そうだ、足りない調味料や掃除用具が自動的に補充できる様にしますね…あと実家の祖母の足の具合が良く無いので、それを治す薬とか作れたら良いとも思いますし…」


 意外と魔法のような力が必要な場面がスラスラ出て来た。自分も随分と欲深な人間だったようだ。


「あ、あと、素早く動けて、疲れない体が欲しいですね」


「あはは、やりたい事いっぱいだね」


 全く脅威性や異常性を感じない、平穏そのものと言えるサッフィの答えに、ジャンヌは何故か心の底から安心したのだった。


 カーミラは、力を手に入れた事により、自分の辛い記憶も加わって凶暴化してしまった。


 でも、それが普通なんじゃ無いかとジャンヌは思っていたのだ。


 誰しも頭が痛くなるほど辛い記憶ぐらいあると思う。それを消したいとも、その原因を潰したいと思うのも、自然な事かもしれない。

 誰だって、強力な力を手に入れたら、人を傷つけたがるのが自然な事なのかもしれない。


 少なくとも、自分が見てきた魔法は、なんであれ、戦闘に使われ、人を傷つけるものばかりだったから。


 そして他ならぬ、自分だって、魔法を戦う為に使っている。


(矛盾してるよね、言ってる事と、やってる事が)


 何事も、自分中心に、いや、自分の価値観を中心に考え過ぎるのは良くない。


 サッフィの平穏さで、自分が非日常に侵されつつある事に気付けた。今日彼と会って良かったと思う。


「あの、ジャンヌ様」


「え、あ、ごめん、どうしたの」


 いつの間にか、サッフィが話しかけていたらしい。


 しまった、考え事をし過ぎていたせいで、全く聞いていなかった。


「いえ、ジャンヌ様は、魔法が使えたら、何をどうしたいですか?」


「世界を超平和にしたい」


 即答だった。しかも嘘は吐いていない、綺麗な目をした即答だった。


「いつまでも戦ってばかりじゃ参っちゃうからね、血を流さなくても良い、争いが無い、平和な世界にしたい、かな」


「ジャンヌ様らしい願いですね」


「私らしい?」


「壮大で無茶で、素敵な願いです」


「うん? それ褒めてないよね?」


 ここで、初めてサッフィが、悪戯っぽく笑いながら「冗談です」と言った。


「あ、笑った」


「え?」


「サッフィ、ずっと緊張してるみたいだったから、笑った顔見れて、ちょっと嬉しいかも」


「え、あ、ああ!」


 すぐさま顔を強張らせて、赤面しながらサッフィは俯いてしまった。


 元に戻ってしまった、もっと上手く笑わせられる方法は無いだろうか、とジャンヌが考えていると、ゆっくりとサッフィが顔を上げ、口元を震わせながら言う。


「あ、あの…ジャンヌ様の願いが、素敵だと思ったのは…本当…です、だからその…私も応援しますので、何か力になれる事があれば、遠慮なく言ってくださいね」


「…サッフィ、ありがとう」


 ちょうどそこへ料理が運ばれて来て、気まずくなりかけた空気を打ち破ってくれた。


 二人の中で、色んな意味で一歩前進した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 食堂を後にして、サッフィと別れた後、ジャンヌは帰りの馬車の中で考え事をしていた。


 もう一つだけ、気がかりな事がある。


 王にも報告していない事であるが、個人的には、逃亡したカーミラより気になる事だ。


 ジャンヌ一行が桃月郷から帰った直後、突進するように抱きついて来たドールが、自分を置いて行った不平不満と共に、奇妙な報告をして来たのだ。


「透明になった私を認識した魔女がこの街にいるよ、あの魔女絶対、すごく強い、鼻血がすぐに凍っちゃったんだ」


 何を言っているのか理解出来なかった、それよりも、その話を聞いていたエルヴィラの反応がかなり気がかりだった。


「あんなに驚いてるエルヴィラ初めて見たよ…開いた口が塞がらないって感じで…」


 その後エルヴィラが何かドールに問い詰めていたが、それ以上の情報は得られなかったのか、その日はずっと不機嫌なままだった。


 むくれたドールの相手をしながら、ジャンヌも聞いてみたが、不気味な魔女、というざっくりとした雰囲気しか教えてもらえなかった。


「危ない魔女じゃなければいいけど…なんだろ、エルヴィラは何か心当たりがありそうだよね…とりあえず、聞いてみよう」


 墓荒らしの件も全く解決していない、というか、当初の予定では、ジャンヌ達は墓荒らし事件を追うはずだったのだ。


「予定通りにはいかないね…まぁ、吸血鬼事件がとりあえず落ち着いたのは…いいかな」


 そんな事を思っていると、どうやら騎士団の基地へと帰ってきたようで、ジャンヌは馬引きに礼を言って外に出た。


 すると、意外な人物が出迎えてくれた。


「お、帰ったな」


「え…クロヴィス?」


 そこにいたのは、正気を取り戻し、爽やかな笑顔をこちらに向けるクロヴィスであった。


 あの後、なんとか目を覚ましたクロヴィスだったが、異常に体力を消耗しており、意識が朦朧として、一人ではとても動けない状態だった。


 急いで医者の元へと連れて行き、ずっと治療を受けていたはずなのだが。


「もう、大丈夫なの?」


「ああ、いや、実はまだ貧血気味だが、ちゃんと飯を食えば治る」


「ご飯って…その…普通の?」


 ジャンヌが恐る恐るそう言うと、クロヴィスは不気味に笑いながら、チラリと牙を見せた。


「いや、まだ血がいるな」


「ど、どど、どうしよう、ちょっとだけなら私の血を吸っても」


 そう言って首筋を晒そうとするジャンヌ、かなり動揺していたのか、首筋どころか、胸元まで晒け出す勢いだったので、クロヴィスはカーミラに操られていた時以上の力で強引に止めた。


「じょ、冗談だよ! もう普通の食事が取れるようになってる!」


「あ、そうなの…良かったぁ…元に戻れたんだね」


「ああ、吸血衝動は全く無い…カーミラの支配は、一旦リセットされたみたいだな…俺以外にも何人か傀儡がいるとは言っていたが、彼らも解放されてるだろう」


 それを聞いて、ジャンヌはひとまず胸をなで下ろす。


 カーミラ本人も無傷では無い、しばらくは暴れられないだろう。


「迷惑をかけた…本当にすまない」


「え、クロヴィスが謝る事何も無いよ、困ってる人がいたら助けるのが私達の仕事なんだから、ちゃんと元に戻れて本当に良かった…」


 ジャンヌの言葉に、クロヴィスは安心したような笑みを浮かべる。


「強いな、俺はアンタ達に救われた…この恩は必ず返す、誰がなんと言うと、絶対に返す…助けてくれて、ありがとうな」


「え、えへへ…どういたしまして…?」


 素直に面と向かって礼を言われると、流石に照れる。しかもクロヴィスは容姿端麗な美青年ときた、これは何人もの女性が落とされる事だろう。


 それはそれで、ある意味事件かもしれない。


「これからどうするの?」


「旅を続けるさ、俺は吸血鬼じゃなくて旅人だからな、もし旅先で、アンタ達の役に立ちそうな物や情報を手に入れたら、すぐに届けに行くよ」


「嬉しいけど、無理しないでね、私達の事はあんまり気にせず、クロヴィスには自分の旅を自分の為にして欲しいな」


「それはアンタもな、あんまり自分の身を削り過ぎるなよ、アンタの普通の幸せを願ってる人は、実は結構多かったりするんだぜ?」


 お互い様だね、と言って、ジャンヌは笑う。


 ああ、やっぱり違うよ、カーミラ。


(私は別に誰かに強制されてるわけじゃない、こんな風に、誰かの役に立ちたいから、自分の意思で、騎士をやってるんだ)


「私への改めての礼や謝罪はねぇのかよ」


 そう言いながら、いつの間にか現れたエルヴィラがクロヴィスのポケットを漁る。


「うわびっくりしたぁ! 何漁ってんだお前!」


 手を振り払われ、つまらなさそうに頭を掻くエルヴィラのだらしない姿に、ジャンヌは呆れながら言う。


「ちょっとエルヴィラ、失礼でしょ。それに、もうその話は終わってるでしょ、っていうか寝起きでしょ! 髪も乱れてる…っていうかそのパジャマ私の!」


「あーあー、デカイ声出すなうるせーな、頭ガンガンするだろうが…おい吸血鬼」


「もう吸血鬼じゃねぇぞ」


「うるせぇ、私が吸血鬼と言ったらお前しかいねぇんだよ、察せそれぐらい…それよりお前…どこに行くか知らねえけど、ちょっと頼みがあるんだよ」


「ん、なんだ」


「もし、お前が行く先で、でっかい檻を背負ったチビの魔女を見かけたら、伝えて欲しい事があるんだよ」


 エルヴィラは、そこで一度咳払いをしてから、その見えない相手に対して怒りをたっぷりと込めて言う。


「テメェたまには連絡よこせや、サボってんじゃねぇぞっ…てな」


 何の事か分からないが、相手にかなり同情するクロヴィス。


 っていうかなんだ、巨大な檻を背負った小さい魔女って。絶対人違いしそうな相手では無いし、そもそもまともでも無さそうだ。


「私の名前を出せば絶対伝わるから、まぁ、もし出会ったらで良いけど、お前、私にも恩がある事忘れんなよ?」


「ぐ…恩着せがましい」


 そんだけだ、と言って、エルヴィラは背を向ける。


 しかし、思い出したかのように振り返って、


「元気でな」


 とだけ言って、眠そうに帰って行った。


「…あ、クロヴィスごめんね、エルヴィラは悪気があるわけじゃなくて…いや、その方がもっと悪いけど、その、無理しなくていいからね」


「いや、大丈夫だ、アイツの不器用さは、意外と慣れるものだな」


「…だよね」


 なんて事はない、別れの挨拶を言う口実が欲しかっただけだろう。素直にさよならが言えるほど、エルヴィラは大人じゃない。


「じゃ、そろそろ行くわ、他の奴らにもよろしく言っといてくれ」


「うん、じゃあね」


 そのまま、クロヴィスは小さな荷物を持って行ってしまった。


「救われた…か」


 自分の手と、腰につけた剣を見る。


 力を持ったら何をしたいか。


「自分の為に、誰かを救いたい、かな」


 ふと空を見上げる。太陽の光が眩しかった。


 いい天気だ、夜には綺麗な月が観れるだろう。


 だが、あの場所で、紅い月が観る事は、もう無いだろう。


「綺麗だったけどね」


 危険な光だったけれど、思い出すぐらいはいいかな、なんて思いながら、ジャンヌは自室へと戻る。


 まだまだ仕事は山積みで、まだお日様は空高く登っているけれど、少し休もう。


 なんだか今日は太陽が眩しい。


 たまにはお昼寝するのもいいだろう。


 ジャンヌは窓を閉め切って、部屋を暗くして、うとうとと眠りにつく。


 暗闇に身を任せよう。


 陽の光から逃れる、吸血鬼のように。

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