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魔女伝  作者: 倉トリック
魔女の館編
60/136

無冠城

 ずっと一人だったドールにとって、無冠城は初めて出来た居場所。それはまるで、初めて友人が出来たような気にもなれた。


 その気持ちに応えるように、いつしかこの館は、まるで意思を持つかのように、自動的に侵入者を排除し始めた。


 ドールが望めば、なんでもしてくれる。彼女の怖がるものは、全て取り除いてくれる。


 そして、その便利さに甘んじれば甘んじるほど、館は力を増していく。


 もう自分は何もしなくて良い、全部この、無冠城に任せればいい。


 そしてドールは、努力する事を諦めた、考える事をやめた。


 楽な方へと、逃げるように進む、怠惰な沼の底へと、沈んでいったのだ。


 館の特性を、もとい、七つの魔法の特性を、理解しようともせずに。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 先ほどよりも格段に、苛烈になっていく館の攻撃から、エルヴィラは逃げるだけで精一杯だった。


 壁が、柱が、床が、家具が、食器が、全て武器となり襲いかかってくる。


 ジャンヌは気を失っているのか、その場で倒れ込んでから、動かなくなってしまっている。


「クッソ…! なんでだ…! さっきからオーバードーズで斬りつけてるってのに…まるで効果がねぇじゃねぇか!」


 斬ろうが突こうが、館の猛攻が止まる事は無い、こっちが反撃に出れば、逆に大きな隙が生まれてしまう。


 オーバードーズが効かない、つまり、攻撃そのものに魔力が宿っていないのだ。

 だが、魔法攻撃には違いない、どこかにまだ秘密があるのだろう。


「この館そのものが魔具…だとしたら、オーバードーズとはかなり相性が良いはずなんだけどな…! どこ刺しても魔力を奪う事が出来るはずなんだから…全てが弱点みたいなもんだ、だが、そうじゃねぇ、オーバードーズによる攻撃がまるで意味を持たない…つまり正確には魔具は()()()()()()()()()()()()()()()?」


 そもそも、使い手がいてこその魔具なのだ。自動的に動かそうとするならば、それ相応の仕掛けが必要になるはず。


 この館にとっての、心臓のような存在。


「やっぱあのガキか…?」


 古時計の前でうとうとしているドールを睨みつける。


 いつのまにか、崩れたはずの階段や床が元に戻っている。


「いや…考えにくいな」


 館そのものを動かすほどの莫大な魔力を持てるほど、ドールの能力は高くない。それは、魔具と特異魔法を同時に使えなかった事が、なによりの証明となっている。


 再び古時計が大きな音を立てて鳴り響き、館全体が震える。


「うおっ! やべぇ!」


 すると、床から飛び出した大量の釘が、エルヴィラに向かって飛んできた。


「串刺しはマジで痛いからもうごめんだな」


 エルヴィラは冷静に、転移魔法で盾を出現させ、防ごうとする。

 下手にこの館にあるものを利用しようとするのは、あまりに危険だと判断したからだ。


 この場に自分達の味方をしてくれる道具なんて無いのだから。


 だから、自分で武器を持ってくる事にしたのだ。この館のものではない、私物ならば、ちゃんと使えるから。


 だから。


「ーーーーーーーーーーっ⁉︎」


 だからこんな風に、全身に釘が突き刺さる事など、本来ありえないはずなのだ。


 エルヴィラは、まさかの事態に対応できず、そのまま後方に吹っ飛ばされる。


 いや、それよりも、彼女は今、酷く混乱していた。


「なんでだ…? 今確かに私は転移魔法を…」


 硬い盾を出して、その後ろに隠れようとしたのだ。いや、しようとした、のではなく、実際に隠れていたのだ。


 それなのに、今の自分は、全身に釘を打ち込まれ、床に倒れている。


 何が起こった?


 しかし、それを推理させてくれる時間をくれるほど、館は優しくなかった。もとより、侵入者には容赦無いらしいのだから、こんな状況で休ませてくれるほど、甘い仕様ではないだろう。


 この館中の、ありとあらゆる刃物が、仰向けに倒れているエルヴィラを捉える。


「クソ…ヤベェ」


 急いで逃げようとするが、案の定、服が釘で床に貼り付けられている。


「またかよ! 釘恐怖症になりそうだわ! ってか、こんな状況だが、分かりかけてきたぞ…無冠城の能力!」


 しかし、自分の解釈があっているのだとすると、かなり厄介な能力だ。正直、打開策が思い浮かばない。


 よくよく考えてみればヒントはあった、初撃を受けたジャンヌの鎧が、バラバラに砕けたのは、どう考えてもおかしかったのだ。


 エルヴィラは、魔法でジャンヌの鎧の強度をかなり上げている。たとえ石柱を叩き込まれようと、衝撃を受けこそすれ、砕けるなんて事は、ほぼ無いはずなのだ。


 百歩譲って砕けたとしても、ジャンヌの身を守る程度には、役に立つはずなのだ。


 にもかかわらず、ジャンヌは攻撃をモロに受け、瀕死の重傷を負っている。


 今だって倒れたまま。


「うおっ」


 突然、エルヴィラの体が、板から強引に引き剥がされ、刃物群の射線から外れる。


「…流石だな、お前の事騎士もどきとか言ったけど、撤回するよ、忘れ形見」


「そ、その方が…嬉しいかな…ああうう…気持ち悪い…頭とお腹の奥がガンガンする…」


 全身ボロボロになりながら、それでもジャンヌは立ち上がり、剣を抜いて臨戦態勢に入る。


「助けてもらった身でこんな事言うのもなんだけどよ、お前あんまり無理すんなよ、私らと違って、一撃一撃がお前にとっては致命傷だろうが、鎧も壊れてるし、つか、半裸じゃねぇか、なんで下の服まで破れてるんだよ」


「そういうエルヴィラだって半裸じゃん…って、それは私がしたのか…何この物凄く危ない絵面…」


 軽口を叩けるぐらいには、お互い無事な事を確認する。そして背中を向けあい、辺りを警戒しながら、エルヴィラは言う。


「忘れ形見…とりあえず、分かった事だけ簡単に言うぞ、まず一つ、この無冠城は魔具そのものじゃねぇ、七つの魔法が影響している事は間違いないが、それが()()()()()()っていうのとは、少し違うな」


 エルヴィラは、自嘲じみた笑みを浮かべながら言う。


「恐らく魔法の特性は、バトルフィールドを作る魔法、つまりは結界魔法の一種だ」


「結界…?」


 あまりピンとこないのか、ジャンヌは不思議そうに復唱する。


 しかし、それも無理はないだろう。彼女が今まで見てきた結界といえば、目的の場所に辿り着けなくしたり、風景を変えてカモフラージュしたりといった、隠れるため、身を守る為の効果を持った魔法ばかりだったからだ。


 いや、それはジャンヌだけでなく、エルヴィラだって同じ事だった。


 確かに、攻撃用のギミックを結界内に仕掛ける事は可能である。しかし、それはこちらの意思がなければ、発動しないものばかりで、こんな風に、自律的に、なんならしっかりと思考、学習して攻撃を仕掛けてくる結界魔法など見た事も聞いたこともない。


 あくまで防御用の結界なら、の話しであるが。


「あるんだよ、自分が戦いやすいような状況を作る為の、自分の為だけにフィールドを整える事ができる、戦闘用の結界魔法がな」


 場所ではなく、特定の個人を守る為だけに特化した、結界魔法、とでもいうべきだろうか。


 しかし、その特性はまるで違うものになる。


「通常の結界魔法が、五感を妨げる効果を持っているんだとしたら、戦闘用結界は、敵の戦闘手段を妨げる効果を持っている、ってところか」


「戦闘手段…? って、まさか!」


 そこで、刃物群が一斉に襲いかかってきた。


 剣を振り、それらを防御するジャンヌに対し、エルヴィラは、ただ避けるだけだった。


 魔法を使って反撃する事もなく、シンプルに、体を動かして、避けているだけ。


「ああ、そのまさかだよ、今現在、私は、()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 言われて、ようやくジャンヌは、自分の鎧が砕けるという異常事態の正体に気付く。


「引き寄せも使えない…防御力増加の魔法が機能していない…全部無効化させられているんだ…この館の中では、戦闘に用いられる魔法が全て使用不能になってる…って事?」


「そうだ、こんな極端な行動制限の効果を持った結界、見た事ねぇけどな」


 いや、それこそ、『幽閉の魔女』ジョーンの、『転嫁人』はこれに近い魔法だろうか。彼女が室内に引きこもっている場合、全てのダメージは外か敵に返っていくという、強力なカウンター魔法。


 今の場合は、カウンターこそされないが、強制的に無力化され、一方的に攻撃されるあたり、何も変わらない。


「つーか、今思えば、オーバードーズが効かなかったのも、攻撃に魔力が宿っていないんじゃなくて、オーバードーズの、魔力吸収っていう効果が無効化されていたっつー事か」


 状況が、完全に詰んでいる。


 こうなるとやる事は限られてくる。


 こんな場所で、まともに戦えない状況で、回収なんて無理だ、誰にも。


 魔女にも、騎士にも、異端狩りにも、マギアにも、誰にもこの魔法を回収する事は出来ない。


 ならば、助かる方法はただ一つ。


「忘れ形見、今回は諦めて逃げるしか無いんじゃねぇか?」


「……」


 ジャンヌの表情が曇る。


 騎士として、与えられた任務を遂行出来ないのが悔しいのか、それとも、敵に背を向けて逃げる事を躊躇っているのか、しかし、そんな意地も後悔も、生きているから出来ることだ。


 死んでしまったら何も出来ない。


「気持ちは分かるが、忘れ形見、今回は大人しく退いとこうぜ…こんなもん、心配しなくても誰も取れねぇよ」


 しかし、ジャンヌの表情は変わらない。


「…おい、忘れ形見?」


「ねぇ、エルヴィラ、あそこ、ドールちゃん…あの子寝てるの?」


 ジャンヌが指差す方向には、古時計にもたれかかって眠るドールの姿があった。


 ジャンヌは、そんな彼女の姿を、とても不審そうに見ている。


「ちっ、私達が手も足も出ないもんだから、呑気に昼寝してやがるんだよ、確かにムカつくが、アイツに手を出すのが一番ヤベェぞ」


「昼寝…? 呑気に…? ねぇエルヴィラ、私にはさ、あの子、すごくぐったりして、意識を失っているように見えるんだけど、気のせい?」


「あ?」


 言われて、エルヴィラはもう一度ドールに視線を移す。


 目を瞑って、もたれかかり、眠っているようにしか見えない。しかし、よく見ると、その呼吸はとても浅く、そして、とても荒いものだった。


「魔具を使うには、それ相応のデメリットがあるって、エルヴィラが言ってたよね」


「ああ…でもこれは魔具じゃないってさっき」


()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「あん?」


「魔具と特異魔法…両方の特性を持っているからこそ、こんな強力な結界が作れる…逆に、そんな強力な魔法だからこそ、その代償は巨大なものになっているんじゃないの?」


 魔物とのリンク、オンオフができない脆化、どれもこれも使い方を誤れば死につながるデメリット。


 エルヴィラの特異魔法ですら、全力を出せば、敵も味方も全滅させかねないというリスクがある。


 なら、あるんじゃないのか、この結界魔法にも、使用する際に発生する、どうしようもないデメリットが。


「魔具は自分だけでは動けない、使用する者が必要…特異魔法を使うには、強力な魔力を消費する必要がある…じゃあ、その二つの特性を併せ持つこの館は…どうやって動いてるの…()()()()()()()()()()()()()()?」


「…マジか、なるほどな…そういう事か…だからか、だからこの館は、全力であのガキを守りに来てたのか…! あのガキが心臓っていうのは、あながち間違いじゃないわけか!」


 つまりは、生き餌。無冠城は、己の存在を保つために、魔力のある不死身の魔女を、守り続けているのだ。


 エルヴィラは、まだ形を保っているオーバードーズをジャンヌに渡す。


「やるしかねぇぞ忘れ形見! 魔力も回収して、ここから生きて出るには、もうその方法しかねぇ!」


「だよね…どのみちドールちゃんをこのままにしておけない…私は守るよ、騎士なんだから」


 ジャンヌは一気に階段を駆け上がる。


 しかし、大きく時計が鳴り響いたと同時に、床に敷かれていたカーペットが、波のようにうねり出す。


「エルヴィラ!」


「んだよ! 魔法の援護なら期待すんな! 今の私ほど役立たずはいねぇぞ!」


「違うよ! 確認したい事があるんだけど!」


 自分を締め上げようと、蛇のように襲いかかってくるカーペットから逃げながら、ジャンヌは叫ぶ。


「結界魔法って、普通の剣でも解除出来るの⁉︎」


「あん? 当たり前だろうが、結界魔法は、普通の魔法や特異魔法と違って、確実に術式をどこかに書き込まなきゃいけないんだ、つまり、その術式を崩しちまえば、結界は跡形もなくなる、それは別に魔力のこもった攻撃じゃなくてもいいんだよ」


「そう…わかった…じゃあ」


 そう言うと、ジャンヌは、何故かドールに背を向けて、階段から飛び降りた。


 一旦態勢を整えようとしているのだろうか、しかし、その先には、再び巨大な石柱が待ち構えていた。


「何やってんだ忘れ形見! 空中じゃ避けれねぇぞ!」


「分かってるよ…!」


 為すすべもなく、鈍い音ともに、ジャンヌは石柱に打ち上げられる。


 天井に届くほど高く打ち上げられたジャンヌは、「かはっ!」と小さく嗚咽を漏らした。


「なる…ほどね…確かに…抵抗しない方が…大人しくしてた方が…有利に立てるわけだ、この状況、それにしても、痛いなぁ…! でもおかげで…ここまで連れてきて貰えた!」


 天井、そこに浮かぶ顔に向かって、ジャンヌは不敵に笑いながらそう言った。


 そして、エルヴィラが、ドールとの戦闘時、防御の為に大量に転移させた短剣を二本、天井の顔、その目に投げ込んだ。


「効果あるといいなぁ」


 見事に二つの眼球に、短剣がささる。


 その瞬間、館は大きく震え出し。天井の顔面は、苦悶の表情を浮かべ始めた。


 様々な攻撃が飛んでくるが、どれもジャンヌには当たらない。


「やっぱり、視力生きてたんだね…流石、特異魔法は不思議だなぁ」


 ジャンヌは落下しながら感心したように呟く。


 しかし、顔にダメージを与えたのにも関わらず、以前この館の魔法は解除されない。


 あの顔は、術式本体ではないという事だ。


「ヤベェぞ忘れ形見! それじゃねぇ! 確かに一番怪しかったが、その顔面には何の効果も無いっぽいぞ!」


 焦るエルヴィラに、ジャンヌは「大丈夫」と小さく言う。


「アレが結界本体だと思ってないよ、私の行動が一瞬でも見えなくなればそれでいい…! 結界本体は…多分これだよ!」


 言い終わるのと同時に、ジャンヌは普通の剣で斬りつけた。


 ドールがもたれかかっている、大きな古時計を、叩き壊した。


 落下の衝撃も加わった強力なジャンヌの斬撃は、古時計を粉々にするには十分過ぎる威力だった。


「術式本体は…ここだね」


 ジャンヌは素早く、バラバラになった時計の振り子を回収する。


 攻撃のたびに鳴り響いていた振り子、その裏面に、奇妙な模様が描かれていた。


「…ドールちゃんを解放して、無冠城」


 そう言って、ジャンヌは、オーバードーズをその模様に突き刺した。


 魔獣化した村長を刺した時と同じ感覚が、再び剣から腕に伝わってくる。


 ドクンと跳ねる、心臓の鼓動のような感覚。


 それが治るころには、天井の顔面は消え、荒れ狂う攻撃も止み。


 無冠城は完全に、ただの廃墟と化していた。


「…終わった…のか」


 エルヴィラが呟くと、ジャンヌは剣を引き抜き、笑顔で言った。


「二つ目回収完了…だねっ」


 夜の闇の中で、その剣は、一際明るく輝いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 目が覚めたドールの前に、ボロボロの二人が立っていた。


 一人は成人した、優しい雰囲気の女性、もう一人は目付きの悪い、自分と同じぐらいの少女。


「…無冠城…?」


 ドールは、天井を見上げながら、小さく呟く。


 彼女の声に、もう館は反応しない。


「無冠城にはね…七つの魔法っていう…危険な魔力が宿ってたんだ…三年前、『才能の魔女』ケリドウェンっていう、強い魔女が死んだ時に漏れた、強力な魔力」


 俯くドールに、ジャンヌは静かに、全てを話した。


 七つの魔法の危険性も、自分達の目的も、魔法の回収方法も。


 無冠城が、ドールを生き餌として使っていた事も。


「そして、これが、無冠城に宿っていた魔力」


 ジャンヌは、オーバードーズをドールに見せてから、そのまま手渡した。


「おまっ! 忘れ形見! 何してんだ!」


「大丈夫だよ、エルヴィラ、ドールちゃんは大丈夫」


 不服そうなエルヴィラを、ジャンヌはなだめる。


 ドールは、手渡された剣を受け取ると、悲しそうな目でその刀身を見つめた。


「…ずっと一人だったの、私は…そんな私に、初めて出来た居場所だった…無冠城は、私にとって、初めての場所…」


 寒さを凌がせてくれた、暑さを防いでくれた、夜に怯える事も無く眠らせてくれた、怖いものから守ってくれた。


「三年前、確かにその頃、無冠城は意志を持ち始めた…でもそれ以前から、ずっと、この場所は、私を守ってくれた」


 初めて出来た自分の居場所は、初めて友人が出来た様な気持ちになれた。


「確かに危険な魔法だったかもしれない…私の魔力を利用してただけなのかもしれない…だけど…それでも…」


 ドールは、大きな瞳から涙をこぼす。


「私にとっては大切な場所だった、魔法とか関係なくて、大事な私の居場所だった…」


 剣を握りしめたまま、ドールは静かに泣く。


「お前がこのままここにいたら、確実に死んでたんだぞ、魔力を吸い取られて、命まで削られて、ケリドウェンの魔法はそういうものばっかりだ、場所より先に、お前の方が無くなってたろうぜ」


 エルヴィラはため息交じりに言う。それに、そうじゃなくても。


「そうじゃなくても、生きてる限り、場所も人もいつか失い続けるんだ、永遠を生きる私達なら、なおさらその機会は多い、私だってな、色んなもんを失ってきたよ」


 だがな、と、エルヴィラはジャンヌを横目で見ながら続ける。


「失う代わりに得られるもんも必ずある、失うばかりが生きる事じゃねぇ、この館との出会いは、お前にそういう生き方の教訓になってくれたんじゃねぇか? 変な言い方をすれば、無冠城が、お前に与えてくれたもんだ」


「無冠城が…」


 ドールは呟いて、それから、エルヴィラから目をそらす。


「変な気分、私から居場所を奪った貴女達に、そんな事言われなきゃならないなんて」


「仕方ねぇだろ、他にやり方を知らん」


「ねぇ、ドールちゃん」


 またエルヴィラが喧嘩腰になる前に、ジャンヌは一つの提案をする。


「貴女の家を、私達が壊したのは事実…だからね、こういうのはどう? 私達騎士団が、この館を綺麗に建て直すっていうのは」


「え…直せるの?」


 ジャンヌの思わぬ提案に、ドールは目を丸くする。


「勿論、こう見えて私、顔が広いんだから。設計士だって建築士だって、友達がいるから、頼んで直してあげられるよ」


「…でも、そんな目立つ事したら…また悪い人達が」


「大丈夫、騎士団の護衛もつけるよ、貴女の場所を破壊した挙句に魔法も奪った、アフターケアは私達の当然の義務だよ」


「…信じていいの?」


 ドールの大きな瞳は、不安で揺れている。


 そんな彼女に、ジャンヌは、笑顔で答えた。


「うん、信じて! 私は貴女を見捨てたりしないよ、もう暗闇で、一人ぼっちにしたりなんかしない」


 それでも不安なら、と、ジャンヌはオーバードーズを指差して言う。


「それを貴女にあげる、私達は、貴女がそれをきっと悪用しないって…信じるから」


「信じるから、信じろって事…? 見かけによらず、傲慢だね」


 あはっ、と、ドールは、初めて二人に弾ける様な純粋な笑顔を見せた。


「分かった、信じる、この館が綺麗になるのは、すっごく嬉しいから」


 別れがあって、出会いがある。


 無冠城が教えてくれた事。


「ありがとう、ジャンヌお姉ちゃん」


 そして、ありがとう、無冠城。


 さようなら。


 七つの魔法。

 二つ、回収完了。

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