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魔女伝  作者: 倉トリック
第1章 魔女狩り
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後日談

 暗い、陽の光すら届かない森の奥で、彼女はニヤリと笑みをこぼした。

 腰まで伸びる白髪を揺らしながら、茶菓子の入った包みを抱え、彼女は奥へ奥へと進んでいく。


 ある人物から「話がある」と言われてここまで来たが、道中で魔女狩りに襲われる事は無かった。


「なるほどねぇ…『防衛の魔女』による命をかけた戦いは無駄じゃなかったってわけだねぇ」


 あの『最後の魔女狩り』から既に三ヶ月が経った。

 魔女が国を命がけで守った、という話がたちまち広がり、魔女狩りは当初の約束通り、世界中で廃止となった。


 今では普通に町の中を歩く魔女を見る事が出来る。


 しかし、魔女を野放しにしていいはずが無いと、反発する声も当然ながらある。

 異能を使い、不可能を可能にする存在が、危険視されるのは当たり前、警戒がそう簡単に解けるわけが無い。


「いや、むしろ警戒してるぐらいがちょうどいいんじゃないかな?」


 国王不在の今、国を動かしているのは沢山の()()()()

 彼らは魔女への警戒を怠らず、魔女狩りを廃止にはしたが、新たに、魔女用の法律をいくつか作ったのだった。

 中々に賢い判断だと言えるだろう。ちゃんと裁き、抵抗する力を持っていればの話だが。


「まぁその辺は、ベル君がなんとかするだろうねぇ」


 新兵器でも作るのか、それともまた魔女に頼るのか。

 ありえるとすれば前者か。


「人間の考える力ってのはすごいからねぇ、時に魔法さえ凌駕する」


 法律、戦略、武器、全て人間の生き残る知恵から生まれた産物。

 脆弱だ、愚かだと『反乱の魔女』はもちろん、『防衛の魔女』の中にもいただろう。自分だってそうである。


 だが、その弱さと愚かさをも武器に変えるのが人間の能力、特異魔法とも言えるだろう。

 犠牲を払い、苦渋を飲み、途方も無い時間をかけて、彼らは進化して、そしてどんな困難も乗り越える。


 魔法のような、目に見える超常的な能力と比べれば、確かに人間は無能に見える。

 しかし、生き延びるための知恵ならば、不老不死の魔女よりも人間の方が遥かに上だ。

 寿命があるから、限りある時間の中で、何かを残そうと必死になり、次に繋げられる。


 それに、どれだけ愚か者に見えても、何も考えてないように見えても、突拍子も無い発想というのは、時に超能力にすらなり得て、あらゆる才能を超えてしまう。


「まぁ、そういうのが全部できるのが、魔女なんだけどね」


 とどのつまり、真の意味で無能など、この世には一人も居ないという事だ。

 品行方正な真面目人間も、人間の風上にも置けない人殺しのクズも、魔女も、それぞれが何かしらの能力を持って生きている。


 無能などいない、ただ、それが人より目立つか目立たないかというだけの事。

 自分の能力が役に立つ機会が多いか少ないかというだけの事。


 たったそれだけのことなのだ。


 そうこうしている間に、森の奥にある、広い空間に出た。

 この空間にだけ陽の光が降り注いでおり、中央には大きな泉がある。それを囲うように緑が生い茂っているというなんとも幻想的な光景だった。


 その泉を挟んだ、彼女から見て向かい側に、小さな小屋がある。

 キャンディやクッキー、ケーキやビスケットで装飾された、不思議なお菓子の家。


「相変わらずだねぇ」


 彼女は、自分の顔が映るほど水が澄んでいることを確認すると、その上に足を乗せ、なんと水の上を歩き出した。

 彼女が歩くたび波紋が泉全体に広がって、ゆらゆらと水面を揺らし、降り注ぐ光を散りばめていく。


 再び地面に足をつけ、彼女はお菓子の家の玄関まで歩き、ふんわりと甘い香りのするドアをノックした。


「やっほー、こんにちわー、来たよー」


 軽いテンションで挨拶すると、中からパタパタと慌ただしい音がして、すぐに扉が少しだけ開かれ、その隙間からひょっこりと彼女は顔だけ出した。それは、結った桃色の髪を双方から垂らし、満月のような大きな瞳をした小柄な少女であった。


「随分早かったですね、まだちょっと散らかってるんですけど…」


 少女は恥ずかしそうに隙間から覗かせる顔を赤らめる。

 そんな少女の姿を見て、白髪の女は嗜虐的な邪悪な笑みを浮かべた。


「気にしなーい気にしない! 外歩いて疲れたんだからちょっとぐらい休ませてー! ってなわけでお邪魔しまーすっ!」


「ちょっ!」


 少女が抵抗する間も無く、彼女は部屋の中に侵入した。

 少女はそこから微動だにしていない、それでも白髪の女は、室内へと侵入出来たのだ。


 壁にかけた丸い小さな鏡から、彼女は現れたのである。


 はしゃぐ子供のように、彼女は部屋を散策し、大きなソファを見つけた途端、その上にぐったりと座り込んだ。


「色々お行儀悪いですよ」


「全然散らかってないじゃんうそつきー」


 呆れ顔の少女に対し、彼女は思っていた部屋のイメージと違うという謎の不満をぶつける。


 少女は「お茶淹れるので待っててください」と言ってキッチンへと向かった。その間に、彼女は自分が持って来たお茶菓子を、テーブルの上に並べる。


「おおー、すっごーい、この皿チョコレートで出来てる」


「あー、それ飾りなんで、使っちゃダメですよ、溶けちゃうんで」


 部屋を遠慮無く物色していく彼女に、少女は大人しく座れと言いたそうな顔をしながらソファを指差す。

 程なくして、少女が紅茶と手作りのお菓子を持ってやって来た。


「あれ、お菓子持って来たんですか? 私の家に来るなら一番不必要なモノでしょうに」


 不思議そうに首をかしげる少女に、白髪の女は自分が持って来たお菓子を頬張りながら手を横に振る。


「手ぶらっていうのもなんだしね、形だけだよ、形だけ、君の作るお菓子に勝るものはないからね」


「だったら他にも選択肢があったでしょうに…」


 少女は、紅茶の入ったカップを差し出して、焼きたてのクッキーが盛られた皿を置くと、お辞儀をしながら言う。


「『お菓子の魔女』ペリーヌ」


「『鏡の魔女』ジュリア」


 お互い挨拶してから、紅茶を一口飲む。


 ふうっと一息ついてから、先に言葉を発したのはジュリアだった。


「さてペリリン、反省会を始めようか」


「その変な呼び方、次したらもう口ききませんから」


「もうっ、冗談じゃないか、相変わらず君は真面目だなぁ…分かったよ、もう言わないから許してよペリペリ」


 クッキーと紅茶を片付けられそうになったので、ジュリアは慌てて謝罪する。今回の謝罪はかなり本気だった。


 気を取り直して本題に入る。


「改めて聞くけど、ペリーヌ、この魔女狩りは君にとって有意義なものになったのかい?」


 ジュリアの質問に、ペリーヌはうーんと顎に手を当てて考え込む。


「魔女狩りが廃止されたのは狙い通りの目論見通りだったんですけれど…それでも犠牲が多かったですね…なにより計算外だったのは、エルヴィラさんが巻き込まれた事です」


 ペリーヌが残念そうに言うと、ジュリアは「相変わらずだねぇ」と半笑いで紅茶を啜る。


「確かに、『縄張りの魔女』があの場にいた時はどうなる事かと思ったけど、ってか『幽閉の魔女』も中々予想外だったけど、まぁ結果オーライじゃないか、二人とも生き残ってる」


「私はもっと圧勝して欲しかったんですよ、あんな残り物で構成した『反乱の魔女』相手に、十人も犠牲が出て欲しくなかった…だって」


「これじゃあ、魔女が大した事無い奴らだって思われる?」


 ジュリアが言うと、ペリーヌは小さく頷く。


「圧勝してこそ人間側に売れる恩は大きくなるのに、互角のいい勝負されてしまったら、人間達の事ですからね…『自分達でも勝てるんじゃないか』なんて愉快な勘違いをしかねません」


「そうかなぁ、あんな化け物同士のバトルロワイヤル見て、自分達も参加できそうだ、なんて思う人間いるかなぁ」


「そういう考えが基盤にあったから、そもそも魔女狩りなんてやってたんでしょう?」


 力の弱い魔女を狩って、それが全ての魔女の実力だと勘違いして、増長して、思い上がって、そして何人も死んでいった。

 根拠の無い自信を持つ事の何がいいのか、ペリーヌには分からなかった。


「私嫌いなんですよね、気合いで乗り切れる的なあのノリ、根拠も無いのに勝てる勝てるって精神力だけで乗り切ろうとするあの姿勢、だから大人は嫌いです。お菓子で大喜びしてくれる分かりやすい子供の方が、無垢で可愛くて好きですよ」


 自分勝手な癖に人のためだとこじつけて考える大人より、素直に自分の楽しい事をみんなとしたいと思っている子供の方が、邪気がなくて接しやすい。


 大人の相手は疲れる、特に大人ぶった大人の相手は。


「しかし、ほんと良くやったよね『反乱の魔女』のみんな」


 ジュリアが言うと、今度はペリーヌも肯定的に頷いた。


「正直、ケリドウェンさん以外は期待してなかったですけど…あの子、人を見る目だけはあったようですね…流石()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。勝ち目のないメンバーから互角に渡り合えるメンバーに総入れ替えたのは流石としか言いようがありません、よく負けたなぁって思いましたし」


 まぁ、今回の敗北は仕方なかったって話ですけど、と言ってから、ペリーヌは紅茶を飲み干した。

 なんでもない会話のはず、しかしジュリアはそこに小さな違和感を覚えた。


「ねぇペリーヌ? 仕方なかったって…まるでペリーヌはあの激戦の末に『反乱の魔女』が敗北する事を知ってたかのような言い草なんだけど…なんか隠してる?」


「…」


 ペリーヌが気まずそうに目をそらす。


「……あーっ! ペリーヌ! まさか特異魔法使ったの⁉︎」


「だって仕方ないじゃないですか!」


 図星だったようで、ペリーヌは頬を膨らませて顔を真っ赤にする。

 怒っているというより、不貞腐れてる感じだった。


「あーあ、そりゃ勝てないわ、どれだけ『反乱の魔女』が頑張っても…ってか、何が圧勝して欲しかっただよ、結局ペリーヌが五分五分にしたんじゃん」


「だーかーらー! 仕方なかったんですよ! エルヴィラさんが参加させられるなんて予想外だったんです! ああなったらエルヴィラさんの命を助ける事を優先するに決まっているでしょう⁉︎」


「いや、そんな当然のように言われても…もっと良い未来は無かったのぉ?」


 呆れた表情を浮かべながら、ジュリアはやれやれと首を横に振る。


 彼女達は、現在反省会をしている。

 他でもない、『最後の魔女狩り』の反省会。


 ここまでの会話の流れで察しがつくかもしれないが、ここで一応明言しておく。

 彼女達二人が、今回の戦争の首謀者である。


 動機は単に、激化した魔女狩りを抑えるため、である。

 特定の魔女を狩るならばいいが、無害な魔女、ましてや魔女でもない人間の女性まで殺すなど、無駄以外の何物でもない、いきすぎた行為だったから。


 自分達が自ら動かなかったのは、バランスを保つ為。

 圧倒的な力でねじ伏せてしまえば確かに早いが、それではただの独裁国家、どころか、独裁世界になってしまう。


 魔女は人間にとって、それほど脅威ではなく、でも障ると危険、それぐらいのバランスを保つ為には、人間側に魔女勢力を作り、国を守らせるのが一番手っ取り早いと言う判断のもと行われた作戦だった。


 圧倒的な力。恐らく人間も、世界も、『防衛の魔女』も『反乱の魔女』も、この二人…否、ペリーヌ一人にだって勝つ事は不可能であろう。


 魔女が持てる特異魔法は通常一つ、頑張って二つ、無理をして三つが限度だ。

 あのケリドウェンですら、所持していた特異魔法は()()()とあったが、まともに使えるのは自分の特異魔法一つだけであった。


 しかし、『お菓子の魔女』ペリーヌ。彼女が所有し、そして扱える特異魔法はなんと計二十個。


 今回、ジュリアに不正だと咎められているのは、その二十個の内の一つ、『知りすぎた未来(トゥノウフューチャー)』によるイカサマ行為の事だ。


「何万通りとある未来から、自分が選んだ結末を選択して確定事項に出来る、究極にして最悪のイカサマ魔法…つまり、この戦争は出来レースだったってわけだ!」


「違いますっ! ちゃんと、『エルヴィラさんが生き残る未来』で確定しました! 確定してたのはエルヴィラさんの生存だけで、誰が生き残ってどっちが勝つかまで確定した覚えはありませんよ! ちゃんと鏡の世界にまでいって見てきましたし」


「ん? ボクの世界に入ったのかい? 気付かなかっ…もしかしてさ、時止めた?」


 再度、ペリーヌが気まずそうに目をそらす。今度は冷や汗までかいていた。


 特異魔法『ウォッチング・ストップ』。時を止める事の出来る魔法。何秒でも、何分でも、何時間でも、何日でも止める事が出来るが、止めた分だけ休憩を挟まないと再発動出来ないというペリーヌのもう一つの特異魔法。


 否、正確にはこれはペリーヌの特異魔法では無い。旧メンバーの『時の魔女』ラミアから回収した魔法だ。

 あの『大虐殺』で、致命傷を負った彼女から、消えてしまっては勿体無いと、ペリーヌが回収していたのだ。


「危ない事するなぁ、『ウォッチング・ストップ』の休憩中は、全ての魔力、魔法が遮断、使用不能になるんでしょ? そんな無防備な状態で戦場にいたら危ないじゃ無いか」


「今はそんな事どうでも良いでしょう? それよりも、今回の反省点、やっぱり役者は自分達で揃えた方が良さそうですね」


 当たり前のように話を切り替えて、ペリーヌは自分のカップにお茶を注ぐ。

 あまり自分の行動を咎められたく無いようだ。


「そうだねぇ、うっかり誰かさんの友達が巻き込まれて、不正が起きないようにねぇ」


 ジュリアはたっぷりと皮肉を込めて言う。また怒られるかと思ったが、意外にも、ペリーヌは冷静だった。

 冷静に、ジュリアの紅茶を取り上げようとしていた。

 実際、これはペリーヌにしか分からない事なのだが、確定する為に見た何万通りの未来、そのほとんどが『反乱の魔女』の勝利だったのだ。


 別に人間を滅ぼしてやりたいわけじゃない、いいように利用できるほどには生かして、信頼させておかねばならないから。


 だからこそ、『防衛の魔女』には勝ってもらわねばならなかった。なのに、ほとんどの未来で負けていた。

 例えば『芸術の魔女』ロザリーン。彼女一人で『防衛の魔女』が全滅させられた未来もあったし、『屍の魔女』モリーに全員操られるという地獄絵図のような未来もあった。


 ペリーヌの助けなしでの勝利は難しかっただろう、彼女の若干チートじみた手助けは、意に沿わぬ形で自分達の目的の成就に繋がっていたのである。


「まぁ、どうにでもなるでしょう、後のことは、知りませんよ、世界がどう変化していくのか、またしばらく様子見です」


「そうだね、あと数十年後か、数百年後か、はたまた千年後か、また極端な乱れが出たら、調和するとしようか」


 ティーカップを取り返したジュリアが、ペリーヌの意見に賛同する。

 世界の管理者、圧倒的な力を持つ二人は、こうして乱れたバランスを保つ為に動いているのだ。


「戦いはこれからも続くって感じ? そんなつもり微塵もないけどね」


「でも『反乱の魔女』を倒すのが目的と言えば、実質戦いは終わってませんよね…まだリーダーが残ってます、ここに、しかも二人も」


 ペリーヌが言うと、ジュリアは妖しげな笑みを浮かべる。


「初代と二代目が残ってるもんねぇ、三代目のケリドウェンが先に死んだだけ…順番的には次はボクかな? 原点にして頂点である君を倒せる何かが居るとは、到底思えないけどね」


 血気盛んなジュリアに、興味無さげな視線を向けながら、ペリーヌは紅茶を飲む。


 彼女達こそが、『反乱の魔女』の創設者。


「別に戦闘なっても、どっちでも構いませんけどね…私はエルヴィラさんが、幸せに生きていけたらそれでいいんですけど」


「ラブラブだねぇ、羨ましいよ、ボクにもそう思える相手が欲しいもんだ…そういえばさ、『防衛の魔女』のその後はどうなったんだい?」


 ジュリアが言っているのは、ペリーヌのみが見ることのできる、別の時間軸に生きる彼女達のことでは無く、この世界で戦死した彼女達が、守りたかった、救いたかった者たちのその後である。

 ペリーヌもそれは気になっており、こっそりと調べていたのだ。


「えっとですね…」


 許しを得ようとしていた『残虐の魔女』フランチェスコは、人の命を材料にした薬で今まで救ってきた人々に、神のように崇められていた。

 彼女の慰霊碑の前には、彼女の罪を何一つ知らない人々が今も跪いて、彼女の死を悼んでいる。


 純粋に国を守りたかった『誠実の魔女』アリスと、そんな彼女を支えたかった、弟子の『現実の魔女』ペトロは、二人揃って土の下で眠っている。二人の活躍を知る者はほとんどいないが、彼女達が望んでいた『いつも通りの平穏』は、確かに守られていた。


 謎多き『偽りの魔女』クエットは、実はまだ生きている。彼女の本当の特異魔法は、身代わり人形を作り、それを遠隔操作できるというものなのだ。戦争の観察者と呼ばれている彼女についた噂、それは彼女が戦場に現れたら、大きな変化の兆しというもの。

 今回の『最後の魔女狩り』も、噂の例外にならず、大きな変化をもたらした戦争となった。


 潰れかけだった『餓狼の魔女』シェイネの道場は、彼女が命を賭して国を防衛したおかげで、汚名は払拭され、今では門下生で溢れている。道場では、顔も声も知らないシェイネを、誰もが尊敬していた。


 魔女に全てを奪われ、そして自らも魔女になり、この世の全てを憎み、復讐を果たそうとした『皮剥の魔女』マリ・ド・サンスの願いは叶わなかった。しかし、魔女というだけで殺されない世界なり、彼女が殺戮を繰り返す理由も無くなった、憎しみに囚われた魂が解放されたと思えば、救われたのかもしれない。


 魔女狩りの姉弟、『凍結の魔女』ゲルダとカイ。二人の過去が公表されると、人身売買や売春などを行なっていた犯罪組織が一斉に捕らえられた。人権を踏みにじる様な卑劣な行為に対する罰が厳しくなり、姉弟のような、辛い思いをする人は、少なくなった。


 天才だった『鎧の魔女』ジャンヌが一族で管理していた傭兵騎士団は、彼女の功績により、上位騎士団へと引き上げられた。魔女の力も失われ、一族の悲しき継承の儀にも、ひとまず幕を閉じた。しかし、ジャンヌの名の引き継ぎは継続となり、現在は、彼女の弟子だった少女がジャンヌとして団をまとめている。


 彼女達は、惜しくも敗れ、命を落としてしまった。

 しかし、彼女達は生きている。彼女達が守った人が、繋いだ心が、受け継いだ意思が、彼女達をいつまでも生かし続ける。


「生き残った二人はどうしてるんだい?」


「え、願いを叶えてもらって、静かに暮らしてますよ」


 素っ気ないペリーヌの答えに、ジュリアは不満そうに頬を膨らませる。


「死者を弔って、魂の尊厳を大事にするのは良いけどさぁ…生き残った子達を雑に扱うのはどうかなぁ、労をねぎらってあげなよ、特に一人は君にとって特別な人だろ?」


 生き残った二人、『幽閉の魔女』ジョーンと、『縄張りの魔女』エルヴィラ。


 ジョーンが願ったのは、他者との交流を断ち切り、一人にして欲しいという願いだった。

 しかし、どういう心情の変化なのか、『自分を必要とする人』は自分に会いにきても良いという条件を付け足していた。


 彼女は、誰かの役に立つ為に、魔法を使おうとしている。師匠に、そして短い間だったが、共に戦った仲間に教えてもらった通り、ジョーンは自分の過去を否定せず、成長への糧としたのだった。


 そして、『縄張りの魔女』エルヴィラは。


「エルヴィラさんは、死にました」


「は?」


「という設定です、あの人は今、死んだ事になってます」


 彼女は最後まで歪みなかった。戦いが終わり、魔女狩りが廃止されても、人を信用しようとせず、ベルナールにこっそりと「私を死んだ事にしてくれ」と願ったのだ。

 他人から遠ざかる為、というのも勿論理由の一つだが、なにより大きかったのは、死んでいった魔女達の命を背負って生きていくのは、あまりにも荷が重い、という身勝手なものだった。


「なんだいそれ、なんか失望しちゃうなぁ…国を守った英雄の一人が、そんな無責任な子だなんて」


 ジュリアがつまらなさそうにカップに口をつける。そんな彼女とは反対にペリーヌは、とても優しい笑顔で目を瞑り、ティーカップを愛おしそうに撫でていた。


「失望する必要ありませんよ、エルヴィラさんは、その特異魔法の性質上、過去から逃れる事は絶対に出来ません。死んでようと生きてようと、エルヴィラさんはあの人達の命の責任を背負う運命なんです」


 だからこそ、ペリーヌは彼女を愛している。


「あの小さな体と心で全てを背負って、それでもなお生きていこうとする強い意思、弱そうだけど頼りになって、崩れそうなのに頑丈な、そんなあの人が大好きなんです、うっかりしてると私もエルヴィラさんに背負ってもらいたくなる…」


 妖艶な笑みを浮かべて語る彼女を見ていると、ジュリアは背筋が凍りつきそうになった。

 愛おしそうに語っているのに、いつかエルヴィラを殺してしまうんじゃないかと思わせる、そんな雰囲気を彼女から感じた。


「もっともっと、エルヴィラさんのあの姿が見たい…だから私はあの人を守り、支えるんです、それがどんなに悪に染まるような愚行でも…」


 それに、とペリーヌは続ける。


「やっぱり心配ありませんよジュリアさん、近々エルヴィラさんには、責任を取らなければならない状況が来ます。あの人は文句を言いながらもきっとその責任を果たすでしょう、あの人は英雄です、他の誰でもない、私の親友なんですから」


 ペリーヌの、無邪気な少女のように微笑む声が、静かな部屋に響いている。

 全て彼女達の手のひらの上とも知らず、人々は、大きな変化に戸惑いながらも、いつも通り暮らしている。


 誰も気付かない、全ては彼女達の手のひらの上だという事に。

 全て管理され、監視され、試されている事に、誰も気付かないまま、何事も無かったかのように、当たり前に、世界は今日も回っている。


 何も知らない顔をして、今日も当たり前が続いていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 かつてこの国は、魔女を狩っていた。


 人々は彼女達を、恐れ、嫌い、許さず、必要とせず、見下して、罵って、憎み、哀れんで、感情の赴くまま殺し続けた。


 魔女は報われない、許されない、救われない。


 しかし、それでも、彼女達は、そんな国を強大な脅威から、命がけで守った。


 それは大切な家族の為。


 それは大切な思い出の為。


 それは大切な約束の為。


 それは大切な命の為。


 多くから嫌われようとも、全てが彼女達の敵では無かった。

 彼女達を、讃え、好いて、許して、必要として、憧れて、賞賛を送り、愛して、自分達と同じだと迎え入れようとした人がいた。


 そんな人達を救う為、彼女達は戦った。


 彼女達に救われた人々は、確かに存在している。

 彼女達が守った未来を、生きていく。


 彼女達の生き様と死に様は、彼女達の本当に守りたかった者達に、夢と希望と、救いを与えたのだ。


 彼女達が紡いだ言葉、彼女達が繋いだ未来。

 彼女達が存在した、永遠に続いていく証。


 それは、彼女達にとっての、せめてもの救い。


 魔女達は、最後に、報われ、許され、救われたのだ。


 魔女による魔女狩り。

 彼女達の生き様と死に様の物語。


 国を揺るがす『最後の魔女狩り』に参加した魔女達の物語、『魔女伝』は、ひっそりと語り継がれていく。




 彼女達が守った大切な人達の中で、いつまでも。

とりあえずここで魔女狩り編は完結です。

長かったですが、物語的にはとても短いですね。

もっと中身のある話を書きたかったのですが、私にはこれが限界でした。


ですが、それでも応援してくださった皆さんがいてくれたからこそ、ここまで書き続けることが出来ました。


皆さんが、私の救いです。

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