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魔女伝  作者: 倉トリック
最終章
134/136

崩壊

「エルヴィラさん!」


 泣きそうな声に呼ばれて、エルヴィラは振り返る。そこには、ゲルダやドールを連れたジョーンが息を切らせながら立っていた。


「お前……記憶が」


「なんかいきなりブワーって色々思い出したんです、それより、なんですかこの惨状! なんですかあのおっきいの!」


 黒竜を指差しながら、ジョーンは言う。しかし、簡単に説明できる事でも、ましてや説明できる状況でも無い。人型の竜が蔓延り、街は大混乱の最中だった。気付けば既に、自分達も囲まれている。


「説明聞くより、今はこの状況を打破する方が先じゃない?」


 冷気を纏いながら、苦笑いを浮かべてゲルダが言う。確かに、ゆっくり話している時間は残念ながら無さそうだった。


「エルヴィラ、君の魔法で過去を変えられないのかい?」


 ジュリアの提案に、エルヴィラは残念そうに首を横に振る。


「もう試した、何回もな……でもダメだ、あの野郎、ペリーヌを取り込んだ事でめんどくせぇ能力を得たみたいだな……アイツは、時間への干渉を受けなくなってやがる、過去にも未来にも手出し出来ん、アイツの存在をどうこうしようとしても無効化される」


「それはさ、ペリーヌが殺されて、魔法を奪われたって事?」


 ジュリアの声は、殺意に満ちていた。返答次第では八つ当たりで殺されかねない、と思うほどに。


「……普通なら、な。でも、ペリーヌがそう簡単にやられるとは思えない、まだ内部で抵抗してる可能性だってあるだろ」


「まぁ、確かにね、それに、君を残して死ぬとも思えないし」


「とにかく今は私達が生き残る事考えねぇとなっ!」


 そう言って、エルヴィラは大量のナイフを出現させ、迫る竜達に投げつける。しかし、頭部や胸に刺さっても、倒れるどころか、怯む様子も無い。ズブズブと体の中へ沈んでいき、カランと虚しい音を立ててナイフが排出される。


「やっぱ効果無しか」


 予想はしていたが、そうなると今のエルヴィラにとって、かなり厄介な事になる。


「あれ? 魔法使えるの? 確か封印解いた代償で、他の魔法は使えなくなってるはずじゃ?」


 ジュリアの質問に、ナイフを回しながらエルヴィラは答える。


「あくまで、特異魔法が使えなくなってるだけみたいだな、簡易な魔法なら使える……とはいえ、そんな雑魚魔法で勝てるような敵じゃない、さぁてマズいぞぉ」


 強力な特異魔法を手に入れて、無敵になったつもりでいたが、まさかこんな、あっという間に役立たずになるとは思いもしなかった。いや、そもそも『時間干渉への耐性』などという想定外のデタラメな性能に、即座に対応出来るわけ無いだろ、と、文句を言いたくなったが、別に誰が悪いわけでもないので、そこはグッと飲み込んだ。


「まいったな……マジで私が他に出来る事なくなったぞ」


「エルヴィラ、全く効いてないってわけじゃないと思うよ」


 困り果てていたエルヴィラに、ジャンヌが竜を斬り裂きながら言った。()()()()()()()、その光景は、戦っているのだから自然に見えるが、しかし、エルヴィラはさっきの自分の経験と比べて、それが少し異様な光景である事に気付いた。


「なんだ、そいつら斬れるのか?」


 ボトッと斬り落とされた竜の首は、悲痛な叫び声を上げながら、蒸気を噴き出しながら溶けていく。残った体もバタバタと暴れてから、同じように溶けていった。


 周りを見ると、氷の鎧を纏ったゲルダが、竜の首を掴んで引き千切っていた。千切られた竜は、ジャンヌが斬った時と同じように、バタバタと暴れてから溶けていった。


「なんだ、随分あっさりと」


『多分だけど、それなりの破壊力を持った攻撃を受けて、体を大きく損傷すると、普通に死んじゃうんじゃないかな? すばしっこいし、攻撃力高いけど、すごく脆い、大した事無いよ、コイツら!』


 そう言いながら、ゲルダは氷の礫を無数に発射し、自分に群がる竜を一掃する。どうやら魔法攻撃も問題無く効くようだ。


 いつの間にか、騎士団の仲間達も、人々の救助や、防衛の為に出動していた。そして、魔法なんか持っていない彼らの剣や斧の攻撃でも、竜は問題無く対処されていた。


 しかし、槍や拳銃による攻撃の効果は薄いらしい。槍の先も弾丸も、ズブズブと体の中に飲み込まれて貫通してしまう。


「剣で斬り裂いたり、鈍器で叩き潰す方が効果的だっ! その手の武器を持ってない、扱えない騎士は『不可視の魔女』と『幽閉の魔女』と共に住民の避難に回って! 残りはここで引き続き竜の討伐を! 避難が完了するまで一匹も通さないで!」


 即座にジャンヌが指示を出し、騎士達はそれに従う。現場で偶然出会っただなのに、ちゃんと指示が出せて、その通りに動けるのは流石だと思う。そのおかげで、簡易的だが、統率の取れた部隊が完成し、戦いやすくなっていた。


 ドールとジョーンを非難部隊に回した事で、敵の撹乱も上手くいっているようだ。


 そして、何より、こちらの戦力としてジュリアがいた事がかなり大きかった。手持ちの鏡が無くなってしまい、特異魔法が機能しないという事で、少し心配だったが、何の問題も無かった。物体を移動させるという、ただの魔法で、彼女は巨大な瓦礫を宙に浮かせて、竜の上に落とすというシンプルな方法で敵を一掃していった。


 圧倒的戦力、しかし、それでも、だんだんと追い詰められていった。


「なんだよこの数……キリがねぇぞ」


 倒しても倒しても、無限に敵が湧いてくる。しかも、倒した敵も、一時的に戦闘不能になっているだけで、しばらくすればまた復活していた。


『わっかりやすい数の暴力だね、私達魔女を集中的に狙ってきてるのは魔力切れ狙い? いや、治癒れるから問題無いんだけど……これメンタル的にきっついなぁ』


「やっぱ元を……あのでっかいのをどうにかしないとダメかぁ……鏡があればなぁ」


 しかし、小さな竜達は巨大な黒竜の足元から生み出されている。必然的に、黒竜の周りは今以上に敵が多い。そんな所に突っ込もうものなら、あっという間に八つ裂きにされるだろう。この竜達、とにかく攻撃力は恐ろしく高い、一撃でもくらえば十分致命傷だ。


 ゲルダの治癒魔法で犠牲者は出ていないものの、何度か死ぬ寸前まで傷付けられた騎士の中には、精神が崩壊しかけている者もいる。


「戦力が足りない、でもどうすれば……」


 この状況で、まさか応援なんて呼べるわけもない。手段が無いし、そもそも竜は黒竜を中心に四方八方に広がっている、どこも自分達の防衛で精一杯だろう。


 無限に増え続ける敵に、満身創痍の部隊。状況は、あっという間に絶望的になった。


「本当に……世界を滅ぼすつもりなんだ……」


「何弱気になってんだ、忘れ形見、まさか諦めてるわけじゃねぇよな」


「諦めては無いけど……実際どうしようかと悩んでるかな……流石に世界崩壊の危機なんて初めてだし」


「そうか? 今までの敵だって、ほっときゃ世界の一つや二つ、滅ぼせる力を持った奴ばっかりだったぞ? ようするに、いつものことだ、こんなもん」


「そう言われてみればそうだけど……でも、流石に今回はいつもどおりに戦ってても意味が無いよ、何かこの状況をちゃんと打破できる作戦を考えなきゃ……」


「そうだな……だが、滅びの力に対抗できるのは、同じく世界を滅ぼせるほどの力を持った奴だけだ、残念ながら、私達にそんな力は無い」


 エルヴィラは、自分の小さな掌を見つめたまま、俯いて言う。


「エルヴィラ……」


「肝心な時に、私は何にも出来ねぇ役立たずだ、今の私には、滅ぼす力も、助ける力もねぇ」


「そんな事ないよ、今だって、私達の身体能力を上げてくれてるのは、エルヴィラだし」


「それじゃ根本的な解決にならない、この状況をどうにか出来るのは、圧倒的な力だ、それだけだ、私にはそんな力は無い……ああ、()()()……な?」


「エルヴィラ? それってどういうーー」


 エルヴィラの言葉に気を取られ、一瞬の隙を作ってしまったジャンヌは、鋭い牙を剥き出しにした竜に急接近されてしまった。既に生暖かい息が顔にかかる距離、このまま頭部を噛み砕かれてしまう、まさにその瞬間。


 その竜の頭部が、突如爆散した。


「ーーっ! え、なに……」


「おいおい、大丈夫かよ『鎧の魔女』」


 そこには、見覚えの無い少女が立っていた。犬の耳のようなものが頭に二つ生えており、口元には犬歯がチラリと見える。鋭い目つきの彼女は、拳に竜の血をべったりと付けながら、ジャンヌを見ていた。


「……あの、えっと、貴女は?」


「はぁ? なんだよ、意外と冷たい奴なんだな……ってか、ちょっとは可愛らしい顔付きになったんだな、あの時はもっとこう……鋭い雰囲気だったけどな」


 ジャンヌをほったらかしにして話を進める彼女を見て、ゲルダは口をパクパクさせる。驚きのあまり、声も出ない様子だった。


「お、『氷結の魔女』じゃねぇか……いや、待てよ? お前確か死んだはず……」


「いや、いやいやいや! それはこっちのセリフでしょ! なんで、アンタがここにいるの?」


「はぁ? それこそこっちのセリフだろ、つーかここどこだよ」


「わりぃな、急に呼び出して……早速で悪いんだが、ちょっと助けてくれ、世界崩壊の危機だ」


 エルヴィラが言うと、犬っぽい彼女は群がる竜達を見て、ツンッと鼻を尖らせる。そして、本当に犬のように「ぐるるる」と唸ってから、拳を構え、戦闘態勢に入った。


「世界の危機か……また防衛ってか、ハッ、やってやるよ、せっかく守った家族を、殺させるわけにはいかねぇからな!」


 そう言うと、彼女は自分の腕を引っ掻き、血を飛び散らせる。するとその血から、五匹の狼が出現し、遠吠えを上げると、一斉に竜達に襲い掛かった。その戦闘能力は凄まじく、次々と葬っていく。


 彼女は、魔女だった。しかし、全く面識は無い。


「エルヴィラ……誰、この人」


「あん? 助っ人だよ、しかも、とびきり強力な」


「助っ人……」


 何がなんだか分からない、そんなジャンヌを置き去りにして、今度は急に竜達が苦しみ出した。バタバタともがき、損傷も無いのに溶けていく。


「な、なになに! どうなったの!」


「ちょっと不安だったけど、こんな未確認生命体でもちゃんと呼吸はしてるんだね、だったら問題無いかな……全くもう、こんな国だけど、せっかく守ったんだから、そう簡単に壊れて欲しくないよね」


 いつの間にか、長身で長髪のスラリとした魔女がジャンヌの側に立っていた。


「あ、貴女は?」


「え? うそうそ、忘れる? 私を? 一緒に戦ったじゃん、案外冷たいんだね、『鎧の魔女』って」


 さっきも似たような事を言われたが、全く身に覚えが無い。


「よう、久しぶり、急に呼び出して悪いな、助けてくれ」


 そして、エルヴィラもさっきと同じような事を言って、彼女に協力を乞う。


「仕方ないな、ま、同じ防衛仲間だし、手伝ってあげるよ」


 そう言って、彼女も敵陣に攻め込んでいく。


「い、いつの間にこんなに」


 気付けば、他にも見た事のない魔女達が戦闘に加わっていた。


 彼女達の正体に混乱していると、エルヴィラがツンッと肘でジャンヌの脇腹を突いた。


「あ、エルヴィラ、これは……」


「挨拶してこい、向こうもお前の事は分かるはずだから」


 エルヴィラがそう言って指を差す。その先には、見覚えのある後ろ姿があった。綺麗な金髪を揺らし、鎧に身を包む懐かしい姿。


「……え」


 戸惑うジャンヌの声に気付き、彼女が振り向く。その顔を見た瞬間、ジャンヌは頭の中が真っ白になって、無意識に涙が一つ零れ落ちた。


「そうか……君が、今は『ジャンヌ』なのか、立派になったな」


「せ、先生……!」


 間違いなく、彼女は、ジャンヌのよく知る『鎧の魔女』、先代のジャンヌだった。


「よぉ、久しぶり」


「『縄張りの魔女』か、これは一体どうなっている? 戦いは終わったのでは無かったのか」


「いや、すまん、説明してる暇は無いんだ。ただ、世界崩壊の危機だ、力を貸してくれ」


「世界が? ふむ、人々を守るのが騎士の役目だ、それに、盟友の君の頼みでもある、断る理由は無いな」


 彼女は、ジャンヌの方を向いて言う。


「気持ちは分かるが、今はやるべき事に集中するんだ、成長した君の力を見せてくれ」


「は、はいっ!」


 そう言って、『鎧の魔女』は戦場に出る。


「エルヴィラ、これって」


 若干放心状態になりながら、ゲルダが言う。


「ああ、ちょっと反則くせぇけど、仕方ねぇだろ? 私達だけじゃ到底敵わない……だからさ、もう一回、一緒に防衛してもらおうぜ?」


「は、ははは、歴史の変革……からの、召喚」


 エルヴィラの魔法。過去を変革させ、無数の並行世界を生む。もしかしたら、あったかも知れない世界。()()()()()、もしかしたら、生き残っていたかも知れない彼女達。


 そんなもしもの世界から、エルヴィラは召喚したのだ。


 魔力の塊でも、記憶の残像でも無い、紛れもない本人達を。


「『防衛の魔女』の再集結だ、頑張ろうぜ」


『残虐な魔女』フランチェスコ。


『誠実な魔女』アリス。


『堅実の魔女』ペトロ。


『餓狼の魔女』シェイネ。


『皮剥の魔女』マリ・ド・サンス。


『鎧の魔女』ジャンヌ。


 あの時、戦う前に殺されてしまったせいで、エルヴィラどころか誰とも面識の無いはずの魔女、『飛来の魔女』ヴォアザンまでも。


「今生きてる奴らは呼び出せてねぇけど、とりあえずな」


 召喚された過去の戦士達。


 彼女達の力は強力で、次々と敵を倒していく。


 だが、それでも、まだ足りない。まだ、黒竜への道は開けない。


「まだ、足りねぇな……私達が経験してきた世界崩壊の危機は、こんなもんじゃない」


 エルヴィラは、更に召喚する。


 世界を崩壊させる敵には、同じく、世界を崩壊させる力を持つ者が必要だ。


 しかも一人じゃない、沢山。


「協力してくれるかな、アイツらは」


 エルヴィラの召喚に対抗するように、竜は更に増殖し容赦無く襲い掛かる。


「まだ増えるの⁉︎ このままじゃ……!」


 ジャンヌの剣が嫌な音を立て始める。それでも、全く手を緩める事無く、無尽蔵に増えていく竜。


 その竜達が、突然、一瞬にしてただの肉塊になってしまった。まるで何かに押し潰されたように、ぶちゅりと。


「な、何……いきなり」


「エルヴィラァ! やっていい事と悪い事があるでしょお!」


 ゲルダが、怒号を上げる。その声は怒りよりも、怯えの色が強いように感じた。


 それと同じように、『防衛の魔女』の面々が、エルヴィラを睨み付ける。


「仕方ねぇだろ……大丈夫だよ、協力はしてくれるっぽい」


 そう言うエルヴィラの背後には、新たに十二人の魔女の姿があった。


 その内の一人が、怪しげな笑みを浮かべながら、言った。


「久しぶりねぇ、『防衛の魔女』の皆さん? その節はどうもお世話になりましたぁ」


 緩く甘い声で話す彼女、しかし、そんな緩い雰囲気からは考えられないほど、彼女から発せられる魔力は、ドス黒く、殺意に満ちたものだった。


「まぁ、世界の危機ぐらい手を取り合おうぜ? この世界が無くなっちまったら、お前の目的も果たせないだろ?」


「それもそうねぇ、んー、じゃあ、みんなで片付けちゃいましょうかぁ」


 彼女がパチンと指を鳴らすと、再び無数の竜が潰れていく。


 そんな圧倒的な力を見せつけながら、彼女は言った。


「みんな、『反乱の魔女』として、か弱い魔女達を助けてあげましょうねぇ」


『黒猫の魔女』レジーナ。


『芸術の魔女』ロザリーン。


『破壊の魔女』ランダ。


『愛情の魔女』パシパエ。


『写し身の魔女』モーガン。


『救済の魔女』アラディア。


『治癒の魔女』グローア。


『贈呈の魔女』ベファーナ。


『樹木の魔女』ダイアナ。


『流星の魔女』パリカー。


『屍の魔女』モリー。


 そして。


「『才能の魔女』ケリドウェン」


 かつて世界を恐怖のドン底に叩き落とした十二人。


『反乱の魔女』までもが、再集結されたのだった。


 世界の終わりは、確かな足音を立てて、近付いている。

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