歪んだ愛
客室に招かれたジャンヌとエルヴィラは、サッフィに言われるがまま席についた。お茶を淹れてきますね、と言って、彼が出て行くと、二人は一気に緊張が解けて息を漏らす。
「なんでこんなに無駄に緊張しなきゃならねぇんだよ」
「余計な事して離れ離れになっちゃったら、もっと大変な事になるでしょ」
だからと言って、こんなところでのんびりしている暇もない。一刻も早く、仲間の記憶を取り戻させる方法を探さねばならないのだから。それに、可能であれば、魔法も取り戻したいところだ。
いや、本来なら、まずはそっちを優先させるべきだろう。魔法を使う敵に対して、魔法無しで勝てるわけが無い。ジャンヌなら、魔法無しでも高い戦闘能力を持っているが、エルヴィラの場合、ただの子供になってしまっている。
それはわかっている、にも関わらず、何故二人が仲間を集う事を優先しているのは何故か。
答えは不安だから、である。もちろん、ちゃんとした理由があっての不安だ。例え魔法を取り戻せたとして、世界中の記憶を書き換え、現実を改変出来るような相手に、たった二人で勝てるだろうか。
望みは薄いだろう。実際、エルヴィラとジャンヌは、魔女としても精神的にも未熟だったドール一人にボコボコにされている経験がある。どんな相手だろうと、油断は出来ない。これは七つの魔法を集めながら得た絶対的な教訓だ。例え相手が動物だろうと、本来なら魔法を持つ事が出来ない男だろうと、老人だろうと、ただの土地だろうと、古びた建物だろうと、油断する事は絶対にしてはいけない。
未知の敵に対して、二人だけで挑もうなどと、思ってはいけない。
まずは仲間、この思考は、今までの二人の経験から来ているものなのだ。信頼出来る仲間を集めてから、彼女達の記憶と魔法を取り戻せれば良い。
と、二人は思っている。しかし、実際、この状況でどっちを優先させるべきか、という問題に、明確な答えは存在しない。
魔法を取り戻す事を優先しても、仲間を集める事を優先しても、敵が未知の存在である以上、そのリスクは同じものなのだから。
すなわち、こちらが気付く前に始末される可能性がある、という事。
「こっからどうするんだ」
「とりあえず……出来れば王宮内を探索したい、かな? 前世界では王が魔法を持ってた……今回ももしかしたら? って」
「望み薄だろうけど、今はそれぐらいしかやる事ねぇか……今の私はガキのモノマネぐらいしか出来る事ないし」
「大丈夫! 可愛かったよ」
「フォローになってねぇよ」
すると、ドアがノックされ、お茶とお菓子を持ったサッフィが帰ってきた。
「おまたせしました、ハーブティーです、落ち着きますよ」
笑顔でそう言って、サッフィはエルヴィラとジャンヌの前にカップを置く。彼は、いつもと違い、とても機嫌が良さそうだった。いつもなら、どこか不安そうというか、表情が硬いというか、ジャンヌの前では尚更それが酷くなるというのに。
「サッフィ、何か良い事でもあったの?」
「え? どうしてですか?」
「いつもより明るいし、何か嬉しそう」
「僕、そんなにいつも曇ってますかね……お恥ずかしい」
少し顔を赤らめながら、サッフィは頬を指で掻く。
「そんな事より、今はエリーさんのご家族を探す事が優先ですよ。確か、緑がいっぱいと言われてましたよね、つまり、森の奥に家があるんでしょうか」
「……うん」
サッフィは小首を傾げて、うーんと考える。
「近頃森は物騒になってますからね……うっかりしてると狼に襲われてしまう危険性がありますよ」
「そこは、ほら、私がいるし」
「ジャンヌ様の腕であれば、狼や熊ぐらいなら楽勝でしょうけれど……今は、万が一の事もあります。そこで、僕に一つ提案があるんですが」
「提案?」
サッフィは自信満々に胸を叩いて言う。
「狼などの野獣被害からの避難も考えて、エリーさんと、そのご家族を一旦王宮で預からせてもらう、というのはどうでしょうか?」
「え、それは……どうかな……」
ジャンヌの頬を、嫌な汗が伝う。サッフィは屈託のない笑顔を浮かべている、そこに悪意のようなものは無い。本当に、純粋に、避難勧告のつもりで言ってくれているのだろう。
しかし、物凄くタイミングが悪いとしか言えない。今、エルヴィラを持っていかれるわけにはいかないのだ。
「もちろん、ずっとここにいろ、というわけではありません、野獣被害が収まるまでの間、あくまでも保護という形を取らせていただくだけです、その間の生活も保証しますよ」
「確かに良い考えだけど……それでもまずはこの子の両親を探さないと、ね? だって、エリーがここにいるって知らないだろうし、私達も、この子がいないと、親を探せない……顔を知らないからね」
「国からの避難勧告を村に出せば、自然に全員集まりますよ、そこで我が子を探す人間を見つけ出す、闇雲に探すより簡単で無いでしょうか?」
「そ、そうかもしれないけど……まずは王様の許可を取らないと、だよね? サッフィ一人で決めれる事じゃないでしょ?」
ジャンヌが言うと、サッフィはキョトンとした表情を浮かべた。どうやら、ここまでの事を全部一人で決めようとしていたらしい。流石に無理があるだろうに。
「では、すぐに王に確認を取りましょう」
「いや、私より多忙な気がするんだけど……」
「幼気な少女を放って置かれるほど、冷血な人ではありませんよ……ですが、少し話をスムーズに進めたいので、ジャンヌ様も一緒に来ていただけると助かるのですが」
「え、今?」
「善は急げです! さぁさぁ、あ、エリーさんは少しここでお待ちくださいね」
人を一か所に集める、もしかしたら案外悪くないかもしれない、とジャンヌは思い始めていた。当然エルヴィラの両親なんて見つかるわけないが、記憶を失っている元仲間達を見つけ出すには都合が良いかもしれない、と。
サッフィの善意は本物だ、むしろこの流れに逆らわず、逆に利用出来れば良いのかも。
しかし、ジャンヌには、今一歩、踏み出せない理由があった。
(なんだろ、さっきから感じてる、この違和感)
何かモヤモヤする。納得のいかない部分があって、さっきからそれが引っかかって仕方が無い。普通に考えれば、迷う事でもないはずなのに、何かが自分を引き止める。
しかし、その思考とは裏腹に、ジャンヌは既に、サッフィについて行こうと行動し始めている。肯定的な言葉を並べながら、その部屋から出て行こうとしている自分がいる。
ダメな気がした。
今ここでエルヴィラと離れたら、本当に、今度こそ本当に二度と会えなくなる気がした。
だから、考える。必死に脳を回転させる。魔法で記憶を弄られる程度の頼りない脳だけど、記憶を手当たり次第探っていく。
「ね、ねぇサッフィ?」
そして、ついに声が出た。
「どうされました?」
「少しだけ、聞いても良いかな?」
「ええ? どうぞ、僕に答えられる事であれば」
正直まだ考えはまとまっていない、でも、口は自然に動いてくれた。感じていた、不自然な部分を。
「この子の家が……なんで森の奥にあるって分かったの?」
「……先程エリーさんが、緑に囲まれているとおっしゃってましたので」
「うん、そうなんだけど……それなら、森の近く、とか、せいぜい森の中って言うと思う……なんで、奥って思ったのかなって……」
「…………」
「後もう一つ……これは少し、屁理屈っぽくなるんだけど……狼や熊ぐらいなら私は楽勝、みたいな事言ってたけど……逆に、万が一、私が苦戦する相手って何? 熊って、森の獣の中じゃ一番危険だと思うんだけど……それ以上に強い獣って?」
そんなものがいるとすれば、それは多分、魔法の効果を受けた動物。
つまりは、魔物や、魔獣だろう。
「そんなに気にされなくても……純粋に、流れで言っただけだと思いますよ? そうですね、よくよく考えてみれば、熊より強い獣なんて、森にはいませんね」
「ううん、ごめん、多分違う。さっきのサッフィ、意図的に言葉を濁したように聞こえた、そう思うと、さっきまでの会話が全部、やけに誘導的に思えてくる……サッフィ、もしかして、私とエリーをわざと離そうとしてない?」
ずっと感じていた。不自然なぐらいまで強い、ジャンクへの善意。いや、アピールと言っても良いかもしれない、好きな女の子へ、自分を良く見せようとする男の子のような。
途中で勘付いた、そのアピールは、ジャンヌにしか向けられていない。エルヴィラには、一切の興味も関心も向けられていないと。
「サッフィ、貴方もしかして」
「いやぁ、恥ずかしいですね、僕という男は、こんな小さな子に、少しヤキモチを焼いていたようです」
「サッフィ?」
サッフィは、照れ笑いを浮かべながら言う。
「子供だから、ずっと貴女の側にいられる、こんな状況で言うのもなんですけど、僕は、ずっと貴女をお慕いしてました」
「え……あ、ありがと」
「でも、僕は貴女より弱くて、どんなに頑張っても貴女には届かない。力も無いから貴女を守れない、何をしたって、僕が貴女の側にいて良い理由が見つからない……」
「……そ、そんな事ないよ、でもサッフィ、今はそんな話じゃなくて」
「僕にとっては重要な話なんですよ」
サッフィの、雰囲気がみるみるうちに変わっていく。
さっきまでの朗らかな雰囲気は完全に消え去って、感じるのは、おぞましい殺気と悪意。それでも、絶やさない笑顔、そこから感じるのは、あまりにも不釣り合いな好意だった。
「貴女はずっと戦って、誰かを守って、その為に傷付いて……それを見ているだけしか出来なくて……僕は弱い僕が大嫌いでした」
サッフィは悲しそうに自分の両手を見つめて言う。しかし、次の瞬間には殺意に満ちた目でエルヴィラを睨みつけ、声を荒げる。
「でもそれ以上に! 力を持ってるくせにジャンヌ様を守りきれないお前達の事が大嫌いだ! 不可能を可能に出来る癖に! 致命傷を受けても死なないくせに! 僕に無いものを全部持ってるくせに! なんでジャンヌ様はいつも傷付いて帰ってくるんだ!」
「サッフィ……?」
「貴女を傷付けるバカどもも嫌いだ! 力がある癖になぜジャンヌ様の敵になる! 何故ジャンヌ様の力になろうとしない! この人は正しい! 貴女は一番正義のはずなのに! 何故敵が現れる! バカどもだ! どいつもこいつも愚か過ぎる!」
息を切らして叫ぶサッフィは、一度深呼吸をして、整えてから、天を仰いで言う。
「僕に力があったら……貴女を、戦わなければならない宿命から救えるのに……それぐらいの力が欲しい……僕はそう願った」
「願ったって……貴方まさか!」
そこで、ジャンヌは何が起こったのか理解する。七つの魔法が与える影響は、未だ消えていない。七つの魔法自体を封印したとしても、その副産物が消える事はない。魔法が存在する限り、決して。
サッフィはゆっくりと、ジャンヌに向く。彼は、満面の笑みを浮かべていた。
「鳥が、叶えてくれました」
「蒼い鳥に……願ったのか」
エルヴィラが言うと、サッフィはクックッと笑い、何度も頷いた。
「僕は、ジャンヌ様を救える力が欲しいと願いました……理想は、何者にも負けないぐらい強い魔法とかだったんですけど……いざ与えられた力は、記憶の操作」
彼は皮肉っぽく笑って言う。
「笑えますよね、結局僕に純粋な『力』なんて与えられていない、姑息な魔法がお似合いという事でしょうか……でも、願いは叶えられました、僕はね、この力を持った時思ったんです……ジャンヌ様を苦しめる原因になる連中を全て、ジャンヌ様から引き離せば良いと」
「……サッフィ、嘘だよね?」
「貴女を守れない役立たずも、貴女に歯向かう愚かなクズも、全て貴女の前から消してしまえばいい……そうすれば、貴女は戦わなくて済む、貴女を守れる、僕は、ようやく、貴女を守れるんです!」
サッフィは、笑顔を浮かべ、両手を広げながらジャンヌに近寄っていく。
「僕だけです、今、この世界で貴女を守れるのは、僕だけなんです……望んでください、貴女の為なら、僕はなんだってする」
「……望んでないよ……こんな事……嬉しいわけ無いでしょ! みんな、みんないなくなって……私、すごく寂しかったんだよ! すごく怖かったの……それが、全部私の為? ふざけないでよ!」
ジャンヌは剣を抜き、サッフィに向ける。
「確かに、最初はそうかもしれません……でも、僕だけはいつまでも貴女を覚えていますよ? 貴女は一人じゃない」
「それが本音か」
狂気的な笑みを浮かべるサッフィを睨みつけながらエルヴィラは言う。
「なんの話だ、役立たずの魔女」
「綺麗事抜かすな変態野郎、お前の目的は、忘れ形見を自分のものにしたいだけだろうが。しかも自分を拒まないように、わざと孤独にさせて、その弱みにつけ込もうとした……言ってて鳥肌が立つレベルだ、気持ち悪りぃ」
「気持ち悪いだと……? お前、お前なんかに! お前みたいな選ばれた存在に僕の何が分かる!」
叫びながら、サッフィはエルヴィラの腹に思い切り蹴りを入れた。
いつもなら簡単に避けられたし、防御も出来ただろうが、今はただの十歳の子供になっているエルヴィラは、嗚咽を吐きながら部屋の隅に転がっていく。
「エルヴィラ!」
「ぐっ……はっ!」
蹲るエルヴィラの頭を、サッフィは更に踏みつける。
何度も何度も踏みつけ、再び蹴り飛ばして仰向けにしてから、今度は腹を思い切り踏みつける。
何度も、何度も何度も何度も。
「お前みたいな奴に! 僕の! 何が! 分かる! 何も出来ない癖に! 今は僕の方が上だ! 偉そうにするな! 守れない癖に! 僕だけが! 僕だけがジャンヌ様を守れる! 引っ込んでろ! 役立たず! ジャンヌ様の側にいていいのは! 僕! だけだ!」
勢いよく踏みつけたエルヴィラの腕から、乾いた枝が折れるような嫌な音が鳴った。
骨が砕けたのだろう、みるみるうちに赤く腫れ上がっていく。
「ぐぅっ! がぁああああっ!」
そして遅れてやってくる耐え難い痛み。エルヴィラは腕を押さえながら悲痛な叫びを上げた。
「ーーっ! サッフィィィィィ!」
そんな様子に、激昂しないわけが無く。ついにジャンヌはサッフィに斬りかかった。
魔法が使えなくとも、ジャンヌの戦闘能力は高い。野生の狼に対応出来るレベルで素早いのだ。
戦闘においてド素人のサッフィが追いつけるはずもない。
はずなのに。
「……えっ?」
しかし、気付けばジャンヌは、サッフィに抱きしめられていた。いや、どちらかというと、まるでジャンヌの方から、サッフィの胸の中に飛び込んだような形になっていた。
「……お美しいですね、ジャンヌ様」
耳元で囁かれ、背筋が凍るような恐怖を覚え、咄嗟にサッフィを突き飛ばして離れた。
「なに……何が」
「……貴女の記憶は、本当はあまり弄りたくないんですよね、貴女にだけは、ありのまま、僕を愛して欲しいので」
何が起こったか分からない。抜いたはずの剣は、いつの間にか鞘に納めている。他ならぬ自分で、納めたのだ。
「……記憶操作……」
「そうです、一瞬記憶を操作して、僕に武器なんて向けず、抱かれに来るようにしました」
「〜〜っ!」
嫌悪感が全身に走る。今、彼に何をされてもおかしくなかったのだ。この体の全てを、操られたのだから。
「安心してください、それ以上に貴女の記憶を触るつもりはありませんから」
その様子に気付いたのか、サッフィは優しい声で言った。
「言ったでしょう? 僕はありのままの貴女に愛して欲しいと」
「よく言うよ……少なくとも二回、私は記憶をなくしてるけど?」
そう言うと、サッフィは不貞腐れたような顔をして、それから「すみませんでした」と、素直に謝った。
「色々、試行錯誤していたので、その間の話ですね、申し訳ありません……ですが、二回、では無いですよ?」
「……な、何言ってるの! エルヴィラ達が王様を……っていうか、あの王様だって! 貴方が操って」
「僕は、半年前から、色々試してます……意味分かります?」
「……半年…前?」
半年前、つまり、マシューとアレックスと戦って、七つの魔法を全て集めていたあの時から。
いや、まさか。
「……貴女が魔獣化した時は、かなり焦りましたけど、でも貴女は流石でした。それすら乗り越えて、更に強く、美しくなられたんですから」
「……嘘……だよね……まさか……あの日から、今日までの戦い、全部」
ジャンヌは、頭を抱えながら、息を荒げる。
しかし、サッフィは満面の笑みを浮かべながら、ジャンヌに言う。
「全て、僕が記憶を操作して仕組んだ事です」
ジャンヌは、頭が真っ白になった。今まで戦ってきた人が、自分が傷付けてきた人が、全部、サッフィに操られていただけ。
「いやぁ、全部じゃ無いですよ、少なくとも、マシューとアレックスが魔法を持っていたのは事実です、そこからですね、何度も何度も記憶を作り替えて、その度に貴女や、魔女達に戦わせて、なんとか貴女以外を消そうとしたんですけど……ダメでしたね、結果までは僕が決められないので……貴女は覚えていないでしょうけど、この半年間、ずっとですよ? 貴女も、魔女どもも、知らないうちに、何度も戦ってます」
「……ハッ……何が……守る……だ……ハァ……お前が……誰より……忘れ形見を……ゴホッ!」
サッフィはエルヴィラの口に爪先を突っ込み、強制的に黙らせる。
「ジャンヌ様の記憶の方を消してしまう、というやり方は、悪くなかったんですが、まるで貴女が人形のようになってしまうのが辛くて……一応役職を戻したんですが、結局こうなりますか」
やはり、と言って、サッフィはエルヴィラの首を掴み、持ち上げる。
「もう、コイツらを消した方が早いですね、貴女の為を思って、一応生かしておいたんですけど、やっぱり、コイツらがいる限り、貴女は戦い続ける」
首を掴む力を強くして、エルヴィラを締め上げる。
エルヴィラは苦しそうに咳き込んで、必死にサッフィの手を引き剥がそうと爪を立てる。足が虚しく宙を蹴るが、次第にその力も弱くなっていく。
「や、やめて!」
ジャンヌはサッフィに掴みかかろうとするが、気付けば元の場所に戻されている。
「分かってくださいジャンヌ様、全て、貴女の為なんです」
「お願い! 殺さないで! 殺さないでください! お願いします! わ、私に出来る事なら、なんでもするから!」
「なんでも……?」
「そう……なんでもする……貴方のモノにでもなる……だから、これ以上……私の仲間を奪わないで……」
ジャンヌはサッフィに土下座する。
その瞬間、エルヴィラの首から手が離され、そのままサッフィはジャンヌの肩を持ち、ゆっくりと立ち上がらせた。
「やめてくださいよ、まるで僕が貴女を無理矢理服従させてるみたいじゃないですか……でも、貴女の方からそう言ってくれるのは、やはり嬉しいモノですね」
ケラケラと笑うサッフィは、笑顔のまま言う。
「もう一度言ってくださいよ、僕のものになるって、そうすれば、もう何もしませんよ」
何もしない、そう言いながらも、サッフィの右足はエルヴィラの喉を踏みつけている。
「あ、貴方のものになります! サッフィ、私を、貴方の側に居させてください!」
気が気でない様子で、エルヴィラを見ながらジャンヌは言う。
「なぁるほどぉ! こういうのも悪く無いですね!」
サッフィは嬉しそうにエルヴィラの喉から足をどけて、そのままジャンヌを抱きしめた。
「今はこんなにギクシャクしてても、時間をかけて愛し合っていきましょうね、ジャンヌ様」
嬉しそうに言って、サッフィはボロボロになったエルヴィラを見下す。
「おい魔女、魔法も無いお前に何か出来るとは思ってないが、一応言っておく……これ以上邪魔するなよ? どうせ、何も出来ないけどな」
そう言って、高らかに笑いながら、サッフィはジャンヌを連れてどこかに行ってしまった。
しばらくして、サッフィに操られているであろう使用人たちが、エルヴィラを掴み上げて、外に放り出した。
冷たい雨が降っており、エルヴィラを容赦無く濡らす。
「……わ……す……形……」
王宮に、動かない手を伸ばしながら、かすれた声で呟いて、エルヴィラの意識は、そこで途切れた。




