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魔女伝  作者: 倉トリック
最終章
128/136

反撃

 拳が振り下ろされる、その直前に、床から生えた大量の氷柱によってエルヴィラは難を逃れた。氷柱は天井にまで伸び、巨大な拳をがっしりと固定する。


「記憶曖昧で良く分かってないけど…とにかく、お前は倒す」


 ゲルダが氷で作った剣を握りしめ、その剣先を向けながら王に言う。


「ゲルダすまん、助かった」


 エルヴィラはそう言って、王から一歩退く。そして得意の転移魔法で大量のナイフを宙に出現させた。


 さて、相手は一人、こちらは魔女が三人、しかも全員一つ以上の特異魔法を持っている。だが、それらのどれほどが敵に有利なのか、未だに把握出来ていない。


 下の階に人質を取られている以上、下手に攻撃を避ける事は出来ない。受け止める、もしくは弾き返す、という方法を取るしか無いだろう。しかし、それが満足に出来るほど、この部屋は広く無い。ケリドウェンと戦った時は、彼女が空間を歪ませていたせいで、広さなど関係なくなっていたが、今はモロに地形の影響を受けて、無闇に動けなくなってしまっている。


(いや、待てよ? アイツは、人質を最終的に生かすつもりなんて無いんだよな? だからこそ、物理的な、破壊目的の攻撃を中心にしてくる。それはつまり、攻撃がワンパターンになるっていう、いわば弱点なんじゃねぇか?)


 その攻撃も、確実に自分達に向いてくる。攻撃は受け止めるしか無いと言ったが、一口に受け止めると言っても、方法は様々だ。ゲルダの様に、押し除ける事だって出来る。


「力を合わせてってか……ハッ、面白え」


 不敵に笑って、エルヴィラはナイフを全て王に向かって発射し、攻撃の波に隠れながらゲルダとジョーンの元へと駆け寄った。


「お前ら、耳貸せ、共同作戦だ」


「エルヴィラが? マジで?」


「信じましょう、エルヴィラさんは、ジャンヌさん達と、七つの魔法を回収した人なんですから」


 魔女達はそれぞれの能力と役割を確認し、即興だが、作戦を練った。


「ハッ、小賢しい」


 そんな間にも、当然の如くナイフ群は王によって弾かれてしまう。よく見ると、弾いたのは、王の背中から生える無数の腕だった。


 エルヴィラ達は見た事も聞いた事も無いが、王は、まるで千手観音のような姿へと変貌していたのである。


「使い魔だけが俺の武器と思ったか、言ったろ、俺は七つの魔法を全てこの身に取り込んだんだ、なんでもアリだ、お前らが何をしようと、俺には敵わん」


 電撃を帯びる触手を自らの腕に巻き、拳から火花を散らせる。巨大な使い魔を従え、自らも異形と化したその姿は、もはや国王では無く、魔王のようだった。


「敵わないか? どうだろうな……私達は、お前が今持ってる魔法の元の持ち主と戦って勝ったんだぞ? ソイツはな、七つの魔法級の特異魔法を千個近く持ってたらしい」


 エルヴィラは、手元にあるナイフをぶらつかせながら、ニンマリと笑って言う。


「テメェが持ってるのはせいぜい七個、アイツのほんの一部でしかねぇ、それで、本当に私達3人に勝てると思うか? お前がケリドウェンより弱いなら、絶対に私達は負けないな」


 エルヴィラの挑発じみた言い方に、初めのうちは馬鹿にした様に笑っていた魔王から、ついに笑顔が消え、代わりに拳が飛んで来た。


「雑魚が、生意気にほざくな」


 何か対策は練ってくるのは分かっている。そして、それは巨大な使い魔の攻撃で、建物が崩壊する恐れを無くすための作戦だという事もお見通しだ。


(浅はかだよなぁ)


 使い魔を使う事を前提とした作戦など、簡単に打ち破れる。()()()()使()()()()使()()()()()()()()()()。そんなものに頼らなくても、この拳で直接砕けば良い。


 早速生意気な魔女の頭部を粉砕して


「今だ! ゲルダ!」


 エルヴィラは拳を直前で避ける。その背後には、両手に氷を構えたゲルダが立っていた。


「お前こそ砕け散れ」


 突っ込んで来た王に向けて、氷の魔法を撃ち放つ。一度包まれれば最後、その身は芯まで凍りつき、蘇生する間も無く粉々になって死んでしまう。『反乱の魔女』の一人、圧倒的治癒力を誇るグローアですら、再生が間に合わず、落とすはずが無いと思われた命を、落としたのだから。


「それが、どうしたぁ!」


 しかし、魔王が繰り出す防御壁にあっさりと塞がれてしまう。そのまま、自ら作り上げた防御壁を粉々に破壊して、ゲルダの頭を掴み、激しい電撃を流し込みながら、ぐしゃりと握り潰した。


「お前は最強の治癒魔法を持っていたな、先に殺せて良かった……まず一匹目だな」


 痙攣するゲルダの体から火花が散り、ついに大きな炎をあげ、燃え始めた。不老不死の魔女でも、体を焼き尽くされれば死んでしまう。体が燃えるなんて、魔女にとっては決定的な致命傷であった。


 それが、()()()()()()の話だが。


『誰がどうなったって?』


 声と同時に、鋭い氷柱が魔王の頭に向かって飛ぶ。


 焦りもせず、魔王は瞬時に再び防御壁を展開した、が、壁に触れる直前に氷柱は砕け、壁を避ける様に分かれ、そのまま魔王に見事直撃した。


「なんだっ……! 氷が避けたぞ」


 魔王に命中した氷の欠片達は、みるみるうちに体を包み込もうと、植物の根のように広がっていく。


「これは……!」


『氷を自由に操れてこその『凍結の魔女』なんだよ……私の氷は蒸発して完全に消えて無くなるまで死なない、欠片でもある限り……どんな形にでも作り直せる』


 腕の使い魔を抑えている氷柱から、何かが飛び出して来た。ソイツは、氷が纏わり付き、動きが鈍くなった魔王の顔面へ、大砲の如き威力を持つ拳を叩き込んだ。


 だが、直前で、魔王は背中の腕を集中させ、その拳を防ぎ、強襲者の姿をやっと確認する。


 そこには、氷の鎧を纏った化け物が、こちらを睨み付けていた。


「バカな……コイツはそこで死んでいるはず!」


 魔王の視線の先には、変わり果てた姿のゲルダが確かに倒れている。しかし、目の前にも同じ魔女がいる。


『ああ、あれ? あれはね、過去の私、私自身である事に間違いは無いけど、でもあえていうなら、偽物の私だよ』


 そこで魔王は思い出す。直前までゲルダの前に居た、『縄張りの魔女』の魔法を。


「過去から人や武器、果ては現象まで引き摺り出せる能力だったか……!」


「引っ張り出して来たコイツらに意思はねぇけどな、もうちょっと工夫すれば、この能力はもっと進化すると思うんだが……まぁそんな事はどうでもいいや、ほら、よそ見すんなよ、お前が今防御してる方が本物だ」


 ジリジリとゲルダの拳に押されていく。


「コイツ……魔獣化もしてないくせに、それに匹敵する力を持っているのか……!」


『褒めてくれてありがとー、それよりお前、触ったね』


 ゲルダの拳を防いだ魔王の腕が、みるみるうちに凍り付いていく。あっという間に腕の感覚が無くなり、続いて硝子のように崩れ落ちて行った。


「ぬぅっ!」


 咄嗟に魔王は腕を自ら千切り、凍結の侵食を抑えたが、しかし、右半分の腕は全て砕け散ってしまった。


「調子に乗るなよ化け物がぁ!」


『お前にだけは言われたくないっ』


 魔王が右腕を振り上げる。しかし、その形状は生物の『腕』では無くなっていた。

 一言で言うなら、大剣、しかも青白く燃えていた。


「たかだか氷で無敵ぶるなよゴミが」


『なるほど、避けきれないな』


 超至近距離で、燃える大剣を振り下ろされる。避けられない、しかし、ゲルダはそもそも避けようとはしなかった。


「解除っ」


 そう言って、ゲルダは身に纏っていた氷の鎧を爆散させた。


 炸裂手榴弾のように氷の破片が辺りに飛び散る。しかし、所詮は破片、剣の熱であっという間に蒸発させられ、辺りが白い蒸気に覆われ、ゲルダの姿は見えなくなる。


 しかし、的確に、そして素早く魔王はゲルダの首に剣を振り下ろした。姿は見えなくとも、はっきりと分かる。


「目眩しのつもりか? 魔力で居場所はバレてるんだよ!」


 あと数センチで首が飛ぶ、はずだった。


 しかし、その剣は寸前で弾かれてしまう。


「ーーあ?」


 弾かれる、そんな事があるはずない。氷どころか、鉄でも溶かしてしまうほどの高温で燃える剣が、一体何に弾かれると言うのだろう。


「魔力を探知出来ても、それが()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その異変に気付いた時には、もう遅い。魔王の体が突然燃え上がり、いくつもの斬撃が襲いかかってくる。


「がはっ……! なんだ……これは……!」


 蒸気の中から出て来たのはゲルダでは無かった。自信なさげな表情で、懸命にこちらを睨みつける小柄な魔女。彼女は、氷で作られた檻の中にいた。


「バカな……! そんなもので、俺の剣が」


「防げるんですよ、私の特異魔法はそういう魔法です。使用条件がかなり限られますけど、それを破られない限りは無敵のカウンター魔法になります!」


 特異魔法『転嫁人』。ジョーンが室内にいる限り、自分に対する敵意や殺意のある攻撃全てを無効化し、その威力をそのまま相手に返すカウンター魔法。自前の檻じゃなくても、氷で作った即席の檻だったとしても、その効果は十分に発揮される。


「それに、脱出に瞬間移動を使う事は出来なくても、私とゲルダさんの立ち位置を入れ替えるぐらいの事は出来るようですね、貴方、王の割には詰めが甘過ぎますよ」


「なめやがって!」


 更に何か仕掛けようとした魔王だったが、突如足下から噴き出るように現れた氷に四肢を奪われ、磔にされたような状態になり、ついに行動不能になってしまう。


「やだなぁ、私の攻撃はまだ終わってないよ」


「今です! エルヴィラさん!」


 氷の足場を利用して、エルヴィラは魔王の目の前に立つ。彼女は、まるで硝子細工のような剣を握っていた。


「覚悟決めろよこの野郎っ! 私の魔法だって成長してるからな、この一本で全部奪ってやる!」


「きぃぃさぁぁまぁぁらぁぁぁああああっ!」


 絶叫する魔王。容赦無く、エルヴィラの剣が魔王の心臓を貫いた。


 膨大な魔力が剣に流れ込んでくる。最初の頃は、一つか二つ、魔法を吸収するのが精一杯だったが、魔法集めをしているうちに、自分の魔法の使い方を覚え、成長した今は、その剣一本で七つの魔法全てを吸収できるほどになっている。


「どれだけ記憶を消そうと、過去で得たものまでは消せねぇよ! 人が成長しようと足掻いて努力して歩んできた道のりは、ただの過去じゃねぇ! 命削って歩いて来たそれは、小さくても偉大な歴史になるんだ! テメェ如きが他人の歴史まで操れると思ってんじゃねぇ!」


「ぐぬぅううう! 俺が……! 最強の魔法を全て取り込んだこの俺がぁあああっ!」


「私の仲間を奪った報いだ……全部……返せ!」


 エルヴィラは剣を更に深く刺し込み、一気に斬り裂いた。


「がっ!」


 小さな断末魔と共に、王の変異が全て解け、元の人間に戻っていく。


 膨大な魔力を封印した剣は、ズルリと王の体から抜け落ちた。


「終わった……」


 呟いて、ゲルダは王の拘束を解く。ぐったりとしている彼に、息があるのを確かめてから、ヘタリと座り込んで大きなため息を吐いた。


「はぁあああ、ビビったぁ! でも勝ててよかったぁ!」


「大丈夫ですか、ゲルダさん、貴女いっつも前線に立たされますよね」


「ジョーンの瞬間移動があと一瞬遅れてたら、死んでたかも……ありがとね」


「いえ、私は何も……あ、それより! みんなの記憶は!」


 ジョーンが言った直後、慌ただしい足音が下の階からこちらに上がってくるのが聞こえた。そして、勢いよく扉が開かれる。


「ご無事ですか⁉︎」


 現れたのは、冷や汗を垂らして、困惑を隠せない表情を浮かべたジャンヌだった。


「忘れ形見……」


「え、エルヴィラ……? それにジョーンさんにゲルダも、みんなこんなところで何してるの……?」


 名前を呼ばれた。それだけで、彼女がちゃんとジャンヌだという事が証明出来た。


「はぁ……手間かけさせやがって」


「良かったですね、ジャンヌさん」


「なに、みんな、どうなってるの……っていうか、そこに倒れてるのって」


 ジャンヌが、ぐったりと倒れた王を指差す。


「あ、いや、これは」


「あのごめん、全部説明してくれる?」


 長い長い事情聴取が開始された。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そんな……王様が……というか、私まで記憶を操作されてたなんて……ああもう、不甲斐無いなぁ」


 ジャンヌはがっくりと肩を落とす。


「いや、仕方ないですよ。まさかの人物がまさかの行動に出たんですから、対応出来なくて当たり前です」


「でも、やっぱり私の油断もあったんだよ。人は力に簡単に溺れちゃうって、これまでの旅で嫌というほど経験したはずなのに……」


「まぁ、解決したから良いじゃん? それよりさ、このおっさんどうするの? 処す?」


 ゲルダが眠ったままの王の顔を突きながら言う。


「いや、とりあえずは地下牢に入ってもらおう、事情も聞きたいし……それで、エルヴィラ、七つの魔法は?」


「…………」


「エルヴィラ?」


「あ? ああ、魔法な、これだ」


 そう言って、エルヴィラは剣をジャンヌに差し出す。


「七本あったのに、一本にまとまっちゃったんだ……すごいね」


「私の成長だ、感謝しろよ」


「うん、ありがとう」


 冗談のつもりだったのに、素直に礼を言われたエルヴィラは、小恥ずかしいそうに頭を掻く。


「さて、とりあえず、町中混乱してるはずだよ、早速騎士に戻らないと」


「私達も手伝うよ」


 ジャンヌに続いて、ゲルダが手をあげて言う。


「私も、エルヴィラさんも行きますよね?」


 ジョーンがエルヴィラに向いて言う。


「ん? んん、ああ、行くよ」


 しかし、エルヴィラだけは、どこか上の空というか、心ここにあらず、と言った感じだった。


「エルヴィラさん? 何か気になる事でも?」


「ああ、冷静に考えたら色々な、王の動機も含めて、まだ納得のいってない部分があるんだが……」


「その辺は彼が起きてからまとめて聞こ? 魔法も取り上げたし、もう敵じゃないよ」


 ジャンヌが言って、エルヴィラに手招きする。


「心配かけてごめんね、エルヴィラ」


「何回言うんだ……戻って来たんだから、それでいい。ただ、師匠がいつも言っててな、飼ってるカブトムシの尾がどうのこうの」


 は? という空気が全体に流れる。


「……あ、もしかして『勝って兜の緒を閉めろ』かな?」


「ああ、それか。まぁ、なんにせよ、納得のいってないうちは油断しない方がいいだろうと思って」


「確かに、一理あるね、でもとにかく今は他のみんなを」


「ジャンヌ様!」


 扉を開けたジャンヌの前に、今にも泣きそうな顔をした青年が現れた。


「わっ、びっくりしたぁ。というかサッフィ! 良かった、無事だったんだね」


「それは僕の台詞です! 良かった……ご無事で……本当に!」


 元に戻ったジャンヌを見て、サッフィは崩れるようにその場に座り込んでしまう。


「そいつ、人間のくせに魔王の洗脳にかかってなくてな、どうも私達が来るまで一人で戦おうとしてたみたいだぜ」


 結局、手も足も出ずにボコボコにされていたわけだが。


「サッフィ、ありがとう!」


 ジャンヌはそう言って、力の抜けたサッフィを抱き締める。


「ーーはえっ⁉︎」


 自分がなにをされているのか理解できず、数秒遅れて、サッフィは顔を真っ赤にしながら変な声を上げた。


「いえ! あの! 僕は結局何の戦力にもなってなくて! ですので! あの! これは身にあまり過ぎてると言いますか! 対価としては不釣り合いといいますか!」


 サッフィが既に限界を迎えようとしている事にも気付かず、ジャンヌは密着をやめようとはしなかった。


 ジャンヌにとっては本当に感謝のあまりに出た行動であり、そこに他意は無い。


「だからこそアイツ質悪いよな、無自覚でアレなんだから、今までも相当男泣かせてるはずだぞ」


「なに? 何の話?」


「なんでもねぇからさっさとソイツ離してやれよ、いい加減色んな意味で可哀想だろ」


 言われて、ジャンヌはようやくサッフィが真っ赤な顔で気絶寸前である事に気付き、慌てて手を離す。


「わー! ごめんね! キツく絞め過ぎた! 大丈夫サッフィ⁉︎」


「も、問題ありません……あの、はい、とりあえず、みんなの安否を確認しに行きましょうか……」


 サッフィは立ち上がるが、色んな意味で限界だった彼は、フラフラとよろけてしまう。


「あぶないよ!」


 そんな彼の手を掴み、背中に手を回して言う。


「無理しちゃダメだよ、サッフィはゆっくりしてて。休めそうなところまで、私が支えてあげるから、ゆっくり歩こ?」


 意外と長身なサッフィを支える為、ジャンヌは再び彼の体に密着する事になる。いつもの鎧姿では無いので、彼女の柔らかい感触が、強制的にサッフィに伝わっていく。


「トドメじゃね?」


 案の定、サッフィは幸せそうな顔のまま気を失った。


「ほらやっぱり無理してた! みんな、先行っててくれる? 私はサッフィを休ませてから行くから」


 ジャンヌ達を見送って、ゲルダとジョーンも行動を始める。


「エルヴィラは、ソイツを見張っててくれる?」


「おお、分かった」


 そのまま、ゲルダとジョーンも出て行った。


「戻って来た……のか」


 さっきまで命をかけた戦闘をしていたとは思えないほど、騒がしい茶番劇。しかし、その茶番の中に、それでも何か安心出来るものを感じたエルヴィラは、小さく呟いた。


 しかし、それでも、謎の違和感は拭えない。


「妙にあっさりしてたな、お前」


 気を失ったままの王に、エルヴィラは言う。


「魔法の使い方を知らなかったのか? 七つの魔法全部だぞ? 万が一にも、たかだか魔女三人に負ける事なんてあるのか?」


 人質をとられたり、弱点を突かれたり、確かに危機的状況には変わり無かったが、どうにも自分達の勝利に納得がいかない。


「いくらでも対処法はあったはずだ……そうじゃなけりゃ、魔法一つに私達は何度も死にかけたりしないんだよ……あんなに詰めの甘い奴は居なかった……特異魔法だけで勝てるような奴なんて……」


 みんなで協力して強い敵を倒したぞ! これで平和な日常が戻って来た!


 と、まるで子供の絵本のような展開。


 あまりにも出来すぎているようで、それはまるで。


「まるで、これこそ全部茶番劇じゃねぇか……」


 考え過ぎ、なのだろうか。


「まぁ、一人で考えてても仕方ねぇか」


 とにかくアイツらが戻って来てから、一緒に考えるか。


「お前にも、起きたら色々教えてもらうからな」


 そう言って、エルヴィラはペタンと座り込む。


 連続して魔法を使い過ぎたせいか、流石に疲れてしまった。


「いやいや、寝たらダメだぞ。まぁでも一応、念の為に……」


 エルヴィラは、自分と王の掌に小さく魔法陣を描いた。もし王が起きて逃げようとすれば、お互いの掌が熱くなる。これがある限り、万が一寝てしまっても大丈夫だろう。


「……追加効果もつけておこうかぐぅ」


 体力も無いくせに、更に魔法を使ったせいか、突然猛烈な眠気に襲われて、エルヴィラはそのまま眠ってしまった。


 もちろん、エルヴィラは知らない。


 その眠気が魔法によるものだという事を。


 時を同じくして、仲間も含めた、すべての生物が眠っていた事を。


 事件は何一つ解決しておらず、全て黒幕の手の内だという事を、知る由も無かった。

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