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魔女伝  作者: 倉トリック
最終章
127/136

乱心

「何がどうなってるのさ」


 街に蔓延るゴーレム達を鏡の向こうから見ながら、ジュリアは言う。彼ら彼女らには嫌な思い出しかない。それが、街を蔓延っているという悪夢のような光景に、流石のジュリアも今回ばかりは笑っていられなかった。


「どうやってコイツらを作ったのさ……いや、それよりも、みんなの記憶がぐちゃぐちゃ、騎士団に至ってはジャンヌちゃんなんかいなかったっていう、現実の改変が起こってる……誰が、何のために、どうやって」


「七つの魔法でしょうねぇ……何の為にかは、定かでは無いですけど、誰がって部分にはなんとなく察しがつきますよ」


 転移魔法で騎士団の魔具を手元に揃えながら、ペリーヌは言う。


「いや、七つの魔法はジャンヌちゃん達が回収して、今は王宮に……って、ああ、なるほど? よくもまぁそんな裏切りみたいな行為が出来るね」


 そこで少しだけジュリアは笑った。


「王宮にある七つの魔法全てに手が出せる人間なんて、一人しかいないでしょう。本当に、何の為にこんな事をしでかしたのか……事実を隠蔽するにしても、ここまでエルヴィラさんの逆鱗に触れずに出来る方法だってあったでしょうに」


 ペリーヌは呆れたように言って、窓から王宮を見つめた。

 いつのまにか外は雨が降っており、雨だれのせいで建物が歪んで見える。


「結局あの時と同じだね、どうする? もう滅ぼしちゃう?」


 ジュリアは魔具を鏡の中へと収納しながら尋ねた。しかし、ペリーヌは何か考えている様子で、じっと窓の外を見ている。


「……少しだけ、引っかかるんですよね」


「ん?」


「もし、今回の件を、この国の現王が引き起こしていたとして……その目的が、七つの魔法の事柄全てを隠蔽する為だった、と仮定しても……ちょっとおかしいんですよね」


「どういう事?」


「七つの魔法なんて無かったと、偽りの記憶を植え付ける……なら、分かりますけど、ジャンヌさんの記憶を消して、テレサという新しい存在にしている……この改変いらないですよね?」


「あー、確かに、別にジャンヌちゃんが団長やってるままでも状況は変わらないだろうに」


「それを抜きにしても、中途半端なんですよ、今回の魔法。ジュリアさんやジョーンさんには別世界に行ったり、限定的でも無敵に近い防御魔法を持っていたりと、今回の記憶操作の効果を受けていない理由は分かります…でも、エルヴィラさん、そして、私、それにゲルダさん……は、ちょっとだけ記憶を失ってますけど、そもそも効果を受けていない者との違いって何なんでしょう?」


 ペリーヌは神妙な面持ちで言う。


「確かに人間は愚かな生き物です……だからこそ、もっと慎重に行きましょう。その愚かさで、私達すら滅ぼされる可能性だって無いわけじゃ無いんですから」


「君がそう言うなら従うけどさ、でも、杞憂だと思うよ? 大方七つの魔法を使って記憶を操作しようとしたけど、魔法に慣れてるわけでも無い人間が使うんだから、その能力が曖昧になって不安定な効果になった……とか、そんなとこでしょ」


 チェーンソー型の魔具を装備して、ジュリアは外に出る。


「そんな単純な話だと良いんですけどね……」


「まー、とりあえず、今ボク達に出来る事は、このおっかないお人形さん達を駆逐する事だよ」


 彼らに魔法攻撃は効かない、倒す方法は、純粋に強い力でねじ伏せる事である。


「…そうですね、とにかく、問題は一つずつ解決していきましょうか」


 数多の魔具を装備して、ジュリアとペリーヌは、雨に濡れる街へと出陣していった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 不気味なほど、街は静かになっていた。ジョーンが一番警戒していた化け物達の姿も見当たらない。


「誰かが代わりに戦ってくれてたりして」


 ゲルダが辺りを見渡しながら言う。


「そんな事出来る奴がいるなら、今すぐここに加勢して欲しいな。しかし、呆れたもんだ、まさかこんな形で裏切られるとはな」


 エルヴィラは目の前にそびえ立つ建物を睨みながら言う。三年前のあの日も、丁度こんな風に雨が降っていた。


「こんな事ならケリドウェン達を殺すんじゃ無かったな。アイツらが居た方が、世界はまともになってたかもしれねぇ」


 エルヴィラは扉を蹴破って、中へと侵入する。もっと兵で固められているかと思ったが、すんなりと進む事が出来た。


 逆に、不自然である。まるで、最初から自分達を呼んでいるかのようだった。


「エルヴィラさん、どうするつもりですか」


 殺意に満ち満ちているエルヴィラの様子を見かねて、ジョーンが問う。手荒な真似をするなとは言わないが、それでも加減はして欲しかった。


 状況が状況なだけに、迂闊な事はしたくない。そもそも、敵の真意が分からない以上、全てが罠だと思って行動した方が良いとすら思っている。


「別に、大した事はしねぇよ……ただ、色々返してもらうだけだ、言ってるだろ? 私は別にこの世界に興味なんてねぇ……ただ、身近にあるもんを奪われたらムカつくからな、私の世界の中にあるもんは私のもんだ、だから、それを返してもらうだけだ」


「また横暴というか傲慢というか……」


 そんな事を言っている間に、王室の前まで辿り着いていた。


 異様な魔力、などは感じない。それでも、妙な静けさと、空気の重さで、嫌でも警戒する。


「さて、ご対面といこうか」


 扉を開けようと手を伸ばす。しかし、エルヴィラは背後からすごい力で引っ張られ、強制的に扉から離された。


 その直後、勢いよく扉が開き、中から何かが飛び出してきた。


「っ⁉︎」


 エルヴィラ達は咄嗟に武器を構えたが、すぐにそれが攻撃を受けた者なのだという事に気付き、その警戒を室内へと移した。


「がはっ! お、お…う」


 飛び出してきたのは、使用人の男、サッフィだった。全身傷だらけで、顔面には酷いアザがある。強い力で殴り飛ばされたのだろう。


「大丈夫? 治してあげる」


 ゲルダはすぐに彼を治した。指で触れただけで、全ての傷が一瞬で治癒し、荒かった呼吸が穏やかなものになる。


「話せる? 何があったの?」


「あ、ありがとうございます……あ、それより! 助けてください! お、王が……王がご乱心です!」


 サッフィが指差す方向には、王座に座り、こちらを睨み付ける王の姿があった。


「おい、おっさん……テメェ、これはどういうつもりだ?」


「ああ……魔女か……そうだ……そもそも、お前らがいるから……バランスが悪くなる……下手な奴が……力を持つから」


 ぶつぶつと呟きながら、彼はゆっくりと玉座から立ち、こちらに向かって歩いてくる。


「王様、どうしたんですか? この現象は、あなたの仕業ですよね? 何故今になって七つの魔法なんかに手を出したんですか?」


 今にも飛びかかりそうなエルヴィラを制しながら、ジョーンが言うと、王は不気味な笑みをこぼしながら答えた。


「力だよ、見ろ……ただ、一人、力を持つ者がたった一人君臨すれば世界はまとまる。俺も……アイツも……余計な重荷を背負わなくて済むんだ。誰も彼もが、余計な力を下手に手にするから……乱れる、戦いが起こる、血が流れる……お前らの事だぞ、魔女」


「あ? テメェ何を言って」


「お前らが邪魔なんだよぉおおおお!」


 突然豹変した王の指先から、まるでクラゲの足のような透明な触手が伸びる。蛇のようにうねりながら、触手はエルヴィラに伸びていった。


「てめっ!」


「魔女様! 危ない!」


 瞬間、なんと、エルヴィラの前にサッフィが飛び出し、触手に右肩を貫かれてしまう。しかし、それだけでは終わらなかった。


「邪魔だ無能がぁ!」


「王様! どうか目を覚ましーーぎゃあああああああああああああっ!」


 貫いた触手から青白い光が放たれ、凄まじい電撃がサッフィの体を襲った。


「テメェ!」


 すぐにエルヴィラはナイフで触手を斬り落とし、サッフィを解放する。そして、そのまま王に突撃していく。


「ゲルダ! そいつ頼む! おいテメェ! アイツは仲間だろうが! ずっと世話になってきた奴にも容赦ねぇのかよ!」


「俺の邪魔をしたからだっ! 俺は王だぞ? 王に逆らってただで済むとおもってるのかぁ⁉︎ そこの無能も……お前もなぁ!」


 王が宙に手をかざす。すると、空間が歪み、その中心から、巨大な腕が現れた。


「な、なんだ……」


「知ってるだろう……お前ら魔女の仲間にもいただろう? 使い魔だよ、ジャンヌが集めた魔法を、俺が使ったら使い魔を使役する魔法になった。もっとも……お前らの知る使い魔とは……ちょっと格がちがうだろうけどな」


 巨大な腕。それから先は姿を見せない。しかし、それだけでも十分に戦えるだろう。あんな巨大な拳で殴られたら、エルヴィラの小さな体など一撃で木っ端微塵だ。


「砕け散れ」


 王が腕を振り下ろす。それと同時に、巨大な拳がエルヴィラに向かって振り下ろされた。


「っ!」


 ギリギリで避けるが、拳が床を殴りつけた瞬間、凄まじい衝撃と風圧に襲われ、エルヴィラは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「エルヴィラさん! ……これは!」


 ジョーンが駆け寄ろうとしたが、その足がピタリと止まる。彼女は悔しそうに、床とエルヴィラを交互に見て、小さく唸った。


 ジョーンが見つめる床、巨大な拳が殴りつけた部分が、激しくひび割れ、崩壊しそうになっているのだ。


「ま、まずいですよ……これ以上暴れたら……王宮が潰れる」


「よく気付いたな、檻の魔女。お前らが余計な抵抗をすれば、この建物は崩壊し、無関係な人間が大量に死ぬぞ? ここに人がいなかっただろ? 全員中央広場に集めてる……記憶を操作すれば、操り人形みたいにする事も可能だからな……んで、その中央広場っていうのが、ちょうどこの真下だ」


 王は、ニヤリと笑みを浮かべる。


「テメェ……!」


「魔女ども、お前らが大人死ねば、アイツらは死なずに済むぞ」


「ここまで……下衆に成り下がれるもんなのか……人間ってのは……だがな、勘違いすんな? 私はここの連中に思い入れなんてねぇ。お前が勝手に人質にした奴らが死のうが、最悪私には関係ねぇよ」


「ほお、随分と冷たいな。思い入れが無いなんて……可哀想な事言ってやるなよ……なぁ?」


 おもむろに、王は玉座から、水晶の付いた杖を取り出した。そして、それを空中に向かって振り上げると、水晶が光り、そこに映像が映し出された。


 そこには、虚な表情を浮かべた人が集まった部屋の様子が映し出されている。


「……これは」


「そうだ、中央広場の様子だ……見た顔ねぇか? ええ? お前が、大事に大事にしてた、思い入れのある顔はねぇかぁ?」


 無数の人影の中に、金髪の女性がいた。虚な顔をしている周囲とは違って、彼女は、必死に泣き喚く子供達をなだめながら、不安そうな顔をしていた。


「忘れ……形見……?」


「ビンゴォ! 今はテレサっていう別人になってるけどな! アイツは騎士のままにしておいたら邪魔になるだろぉ? だから騎士としての記憶を消して、ジャンヌっていう存在そのものを無かったことにしてやったのさ! そしたら簡単に言うこと聞くからつい悪戯したくなっちまってなぁ! アイツとガキどもここに呼んでからすぐに、アイツらの洗脳だけ解いてやったのよ!」


 ジャンヌの不安そうな顔を見て、王は、いや、目の前にいるクズは、ゲラゲラと笑う。


「出来るか? ああ? コイツら巻き添えにして、俺と戦えるか? 魔女ぉ! テメェに最初から選択肢なんてねぇんだよ! さっさと死ぬって選択肢しかなぁ!」


「何が、面白いんだよ……アイツが、頑張ってくれたから……お前の国は……平和を保ってきたんじゃないのかよ! アイツがいたから! 大勢の命を救えたんじゃないのかよ!」


「だからそれが邪魔なんだよ! 王は俺だ! 偉いのは俺なんだよ! まるでアイツが英雄みたいに祭り上げられて、見ててイライラする! 力を持ってる奴が偉いなら、今一番偉いのは俺だ! 人間を操れる俺は王だ! 王より目立つな、そういう事だ」


「意味が……分かんねぇよ」


 あまりにも、自分勝手を通り越した支離滅裂な発言に、エルヴィラを含めた全員が、唖然とするしか無かった。魔法の力に精神を蝕まれているのかもしれない。だとしても、許せない行為である。


「意味なんて分からなくていいんだよ、だってお前らはここで死ぬんだからな……あばよ」


 王が拳を振りあげる。それとリンクして、巨大な拳も振りあげられる。


「ーーっ! ジョーン! 瞬間移動だ! 青い鳥の時みたいに!」


「分かりました! ……? あ、あれ?」


 魔力を込めるジョーンだったが、しかし、すぐに異変に気付く。


「……瞬間移動が……出来ない?」


「ああ、言い忘れてたが…この場所に入った瞬間…お前らは俺の仕掛けたフィールド魔法の罠にかかってるからな」


「フィールド魔法……!」


「ああ、『この部屋からの脱出はいかなる方法も禁ずる』っていう効果を持つフィールド魔法だ……なんせ七つも魔法があるからな、なんでも出来るぜ? ひゃはははははは!」


 閉じられた出入り口の扉も、もう開かなくなっている。


 これ以上避けて、建物にダメージが入れば、真下にいる人間の多くは確実に死ぬだろう。


 エルヴィラに出来る事は、攻撃を受ける、だけであった。


「テメェ……! マジで許さねぇからな……!」


「言ってろ、死ね雑魚」


 虫でも見るかのようにエルヴィラを見下ろし、王は、その拳を振り下ろした。

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