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魔女伝  作者: 倉トリック
番外編
122/136

カオス

 むかしむかしあるところに、お菓子作りが好きな魔女と、鏡を使ってシンメトリー遊びを楽しむ魔女がいました。


 お菓子の魔女は店番を、鏡の魔女は山と川で異端狩り狩りをしていました。


 ある日、鏡の魔女が川で返り血を落としていると、川上からどんぶらこ、どんぶらこ、と、ぐったりとした騎士が流れて来ました。


 マジか、超ウケる、と思った彼女は、その騎士を救助し、お菓子の魔女の元へ連れて帰る事にしました。


 その途中で、なんかめっちゃ光ってる竹があったので、騎士が持って来た剣で叩き斬ると、中から親指ほどの魔女が血塗れで出てきました。


 魔女はなにやら文句を言っていましたが、小さ過ぎて聞こえません。


 とりあえずエルヴィラと名付け、この魔女も連れて帰る事にしました。


 さて、瀕死の騎士とミニサイズの魔女を見たお菓子の魔女は大層驚き、家に連れて来たら誘拐扱いになる事、こういう場合はちゃんと警察に届ける事、と、鏡の魔女を説教しながら瀕死の騎士を介抱し、ミニサイズの魔女はお椀にお湯を入れて休ませてあげました。


 目が覚めた騎士は、ジャンヌという名前は覚えていましたが、なぜ自分が川に沈んでいたのかは覚えていませんでした。


 ジャンヌは助けてくれた二人に何度もお礼を言い、何か出来る事があれば何でもしたいと言いました。


 鏡の魔女が「ん? 今何でもするって」と言いかけましたが、それを阻止するが如く、お菓子の魔女が、魔獣退治をして欲しいとお願いしました。


 魔獣はこの世界に君臨する超絶危ない生き物で、人々はすごく困っていました。


 ジャンヌはこれを承諾し、早速魔獣退治に出かけようとしました。


 そんな彼女に、お菓子の魔女はお菓子とぶどう酒を、そしてさっき拾ったミニサイズの魔女を手渡しました。


 ミニサイズ魔女は絶望した表情で何か叫んでいましたが、小さ過ぎて何を言っているのか分かりませんでした。


 そして鏡の魔女は、ジャンヌに魔剣を、ミニサイズの魔女には縫い針を武器として渡しました。


 ジャンヌは二人に礼を言い、ミニサイズ魔女は何か叫んでいましたが何を言っているのか分かりませんでした。


 こうして魔獣を倒す為の旅が始まりました。ちなみにお菓子の魔女と鏡の魔女の出番はこれで終わりです。


 ジャンヌが道を進んでいくと、草むらから、お人形みたいに可愛い小さな女の子が出てきました。


 彼女は、「お菓子美味しそうだから頂戴」と言いました。ジャンヌがお菓子を分けてあげると、魔女はお礼に旅のお供になると言いました。ちなみに名前はドールというそうです。


 仲間と共にジャンヌが進んでいくと、何故か猿のコスプレをして、おにぎりを頬張る魔女がいました。


 彼女は柿と米しか食べてなくて飽きたからお菓子が欲しいと言いました。ジャンヌは彼女にもお菓子を分けてあげました。すると、彼女もお礼に旅のお供になると言いました。


 ちなみに名前はゲルダと言い、おにぎりは蟹が持っていたものを回収したそうです。蟹が持ってても仕方ないと思ったそうです。


 更に進んでいくと、青い鳥がこちらに向いて鳴いていました。


 これまでのパターンから、多分あの鳥もお腹を空かせているのだろうと思ったジャンヌは、砕いたお菓子を掌に乗せて、鳥の前まで持って行きました。


 鳥は嬉しそうにパタパタと羽ばたくと、自分の羽を千切って機織はたおりを始めようとしたので、そういうのはいいから旅のお供をして欲しいと、ジャンヌはお願いしました。


 鳥は意味深に羽ばたくと、ジャンヌの肩に止まりました。


 ジャンヌ一行が歩いていると、ついに、魔獣がいるとされる城が見えてきました。そこでは毒林檎をかじりながら鏡に向かって質問を続けるという奇行を繰り返す謎の魔女もいるという噂でしたが、今回の目的はあくまでも魔獣なので、それはスルーする事にしました。


 ジャンヌはとりあえず作戦を立てる事にしました。


 まずは城の裏口から、ドールの魔法で透明化して侵入。魔獣は魔物を従えているので、ゲルダの魔法で冷気を漂わせて索敵し、なるべく無駄な戦闘を避けながら魔獣の元へ、魔獣に魔法は通じないので、透明化に加え、鳥に強化して貰った状態でジャンヌが奇襲をかける、その際は、ガードの薄いであろう目をなるべく狙うという事で話はまとまりました。


 中に入ると、別に入り組んでいるというわけでもなく、広場のようになっていて、そこで狼のような魔獣は魔物の群れを従えて、普通に待ち構えていました。


 初っ端から計画がパァになってしまったジャンヌは、それでも勇敢に魔獣に立ち向かいました。


 魔女達はそれぞれ得意な魔法、もとい、特異魔法を駆使して魔物を退治しています。


 ジャンヌは精一杯攻撃をしますが、魔獣には傷一つ付きません。しかも、一瞬の隙をつかれて、ミニサイズ魔女も食べられてしまいました。


 ミニサイズ魔女は、体の小ささを活かして、魔獣を内側から針で攻撃してくれる、なんて事もなく、普通に食べられてしまいました。


 魔法が効かない魔獣に手も足も出ません、絶体絶命のピンチかと思ったその時です。


 魔獣が突如苦しみだし、滅茶苦茶に暴れ出しました。


 その隙を見逃さず、ジャンヌは剣で魔獣の目を貫き、脳を破壊して討伐しました。


 一体なぜ突然苦しみ出したのだろう、そう思っていると、魔獣の口の中から、ミニサイズ魔女が這い出て来ました。


 どうやら、彼女が何かしてくれたようです。


 喜んでいると、もう一人、ミニサイズ魔女が魔獣の口の中から出てきました。


 驚いていると、更に一人、また一人と、次々にミニサイズ魔女が出てきます。


 ミニサイズ魔女の特異魔法は、増える事が出来る能力だったようで、魔獣のお腹の中を自分でいっぱいにしたのでした。


 それにしたって異常な数の魔女が出てきます。ついに広場の床が埋まってしまうほどになってしまいました。


 大量の魔女に困惑していると、無数のミニサイズ達は、一斉にジャンヌ達を睨みつけて、何かコソコソと話し合い始めました。


 そして、突如一箇所に集まり始め、巨大な一人の魔女になりました。


 天井を破壊するほど巨大化した魔女は、大声で何かを叫びましたが、それはそれで何を言っているのか分かりませんでした。


 そして、何か分からないまま、ジャンヌ達はその巨大な足で踏み潰されーーー。


「うわあああああああああ⁉︎」


 叫びながら起き上がったジャンヌは、慌てて辺りを見回した。


 いつもと変わらない自室に、いつもと変わらない自分。


「夢か……ああああ良かったぁぁぁあ! 夢かぁ!」


 最悪の目覚めだった。なんであんな変な夢を見たのか。


 最近色々あって、疲れているのかも知れない。


 ふと隣を見ると、ドールがスヤスヤと眠っていて、その周りには色んな絵本が散らばっていた。


「あ、思い出した……昨日ドールちゃんが寝付けないっていうから、本読んであげてたんだっけ……」


 それが原因か…。


「あー、こっわ、お水飲もう」


 無駄に疲れたジャンヌは、ドールを起こさないようにゆっくりとベッドが降りて、水を飲む為に部屋から出て行った。


 その様子を、ベッドの下に隠れながら楽しそうに見ている者がいた。


「クックック……アイツめっちゃビビってたぜ」


「あんなベタな起き方するんだね」


 エルヴィラとゲルダは、小さな本を見ながら楽しそうに笑った。


「偶然見つけた魔具がこんなに面白いものだったとはな、なんだっけ? ゆめノート?」


「対象者が眠っている時に、夢の内容をこっちがコントロール出来る。誰が何の為に作ったか知らないけど、良いもの拾ったね、いやぁ、愉快愉快」


 夢を見せる相手の名前を書き、その下に夢の内容を書けば、その通りの夢を見る。と、最初のページには書いてあった。


 しかし、そのページは半分破られており、実は詳細は分かっていない。


「さて、バレないうちに私達もズラかろうぜ」


「そだね……あれ?」


 ゲルダが、窓を見て首を傾げる。丸くて黄色い光が、直ぐ近くにあった。


 はて、今日は満月だっただろうか?


 その光は、一瞬消えたかと思うと、再び現れる。まるで、瞬きをしているようだった。


「何してんだよゲルダ、さっさと……」


 エルヴィラとゲルダは、呆然と眺めるしかなかった。


 窓の外からこちらを覗く、大きな瞳。


 そこには、巨大なエルヴィラがらこちらをジッと覗き込んでいた。


 二人の絶叫が響く。


 その後、巨大エルヴィラが暴れ出す前に何とか消滅させたは良いが、エルヴィラとゲルダは、ジャンヌにこっ酷く叱られる羽目になった。


 正体不明の魔具を遊び半分で使った罰として、一ヶ月間、騎士団施設内の清掃を課せられた。


 後にわかった事だが、あの魔具は夢の内容を操れるが、書いた夢の内容が途中で中断された場合、その続きは現実世界で再現されるという、恐ろしい能力だった。


 誰が何の為に作ったかはさておき、今後一切、落とし物では遊んではいけないというルールが、騎士団に追加される事件となった。


 ちなみに、巨大エルヴィラを消滅させた際に、ノートもその場から消えている。


 消滅したのか、それともどこかに移動したのか。


 後者だとすれば、あの魔具は、今もどこかで、誰かの夢を再現しているのかもしれない。

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