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魔女伝  作者: 倉トリック
蒼い鳥編
121/136

愛し愛され

 簡単に、その後の流れを説明する。


 いや、説明なんて、まともにできるかどうか不安ではあるが、とりあえず、戦いの後何があったかだけを報告させてもらう事にする。


 結論から言えば、破壊された街や多くの負傷者達は、何事もなかったかのように、全て元どおりになった。


 戦闘の痕跡すら残さず、綺麗さっぱり。人々の怪我は一瞬で回復し、倒壊した建物は元の形を取り戻した。


 全て、ジャンヌの力である。彼女が天空に舞い上がり、翼を羽ばたかせた瞬間、光が波紋のように広がり、それが流れた場所から再生(という表現が正しいかは不明だが)していった。


「……なんだったんだ、あれ」


 目の前で起きた事を思い出しながら呟いて、エルヴィラは紅茶を啜る。


「ジャンヌさんは……魔女化、してなかったんですよね?」


 焼き立てのクッキーをテーブルの上に置いて、ペリーヌも席につく。


 エルヴィラとゲルダの入念な検査の結果、ジャンヌは、あれだけの事をしておいて尚、人間のままである事が発覚した。不死性も、強い治癒力も無い、魔力の欠片すら感じられ無かった。


 しかし、それにしてはあまりにもおかしい事だらけだった。


「アイツ曰く、七つの魔法を封じ込めたオーバードーズに触れたら、つーか、アレが勝手に刺さってきたらしい、んで、一時は魔獣化したらしいんだけど、最終的に、ああなった」


 まるで、女神のような姿に。


「ケリドウェンさんの魔法は普通では無いので……何が起きても不思議では無いんですけど、こればっかりは私にも分かりませんね、前例が無いです」


「だよなぁ……」


 エルヴィラは、頬杖をついて、小さくため息を吐いた。普段使わない脳をフル回転させると、どうにも変な疲れ方をする。


「それで、マシューとアレックスはどうなったんですか?」


「ん? ああ、あのアホ兄妹なら人里離れた場所で平和に暮らしてる……とは、いかなかったな。本来なら死刑らしいからな」


「本来なら、という事は、死刑にはなってないんですね?」


「ああ、それも、すげぇ理由でな」


 傷は癒え、建物も元通りになったが、死んだ者は生き返らない。あの破壊をもたらした元凶を前に、国民達は非難の嵐を浴びせまくった。


 当然の結果だ。多くの者が、彼らの死刑を望んだ。いや、死んでも償いきれる罪ではないが、愛する者を奪われた人々にとって、一秒でも早く、彼らがこの世から消えてくれる事だけが、怒りや悲しみを癒せる手段だと、思い込んでいたのだろう。


 その場限りなら、忘れられるかもしれないが、マシューとアレックスが死ぬ事は、根本的な解決にはならない。心に受けたダメージは、そう簡単に消えてはくれない。


 しかし、例えそれが分かっていたとしても、感情を抑えるなんて、容易では無い。ましてや取り返しのつかないものなのだから、尚更だ。


 それでも、それだからこそ、ジャンヌは、恨み募る彼らにお願いした、必死になって懇願した。


「『どうかこの二人を殺さないでください』だってよ。私も耳を疑ったよ」


 恨み続けても良い、いや、むしろ恨み続けられるべきだ、彼らは、それを背負って生きていかなければならない事をしてしまったのだから。


 でも、命を奪うという選択肢を、当たり前にしないでほしい。憎しみの感情だけで、人の命を奪う事を正当化しないでほしい、あなた達に、そんな闇に堕ちて欲しくないから。


 そう言って、ジャンヌは必死に懇願した。決して軽くない罰を二人には与えると誓った。何かあった時の責任は全て自分が背負うとまで言ってのけた。


「最終的には、民衆の前で土下座までしたからな。流石にそこで大勢に止められて、あの二人の身柄を騎士団に引き渡す事が決定したんだよ」


「まぁなんと言いますか……随分と大胆と言いますか、無謀な事をされましたね。非難の声もあったでしょう」


「そりゃもちろん、大バッシングだよ。でもアイツは、頑として人の命は奪わないし奪わせないって聞かなくてな。マシューもマーガレットも、一応は強制労働っていう罰を与えられてはいるが……あれじゃ騒いでる連中は満足しないだろうな」


 誰もが幸せで、誰もが納得する綺麗なハッピーエンド、とはいかなかった。しかし、多少強引ではあるものの、これ以上の犠牲は出さず、敵も味方も生きている限り守る、というジャンヌの目的は現時点では達成されている。


「問題はチラホラ残ってる……が、とりあえずは、これにて一件落着だな」


「と、言いますと?」


 首をかしげるペリーヌに、エルヴィラは「魔法の事だよ」と誇らしげに笑みを浮かべながら言う。


「七つ全部! 忘れ形見と私で一年ちょいで集められた! いやぁ、長いようで短かったな、マジで色々あった……ほんと、一年しか経ってねぇってのが、嘘みたいだな、内容が濃すぎる」


「エルヴィラさん? 魔法集めは終わったかもしれませんが……まだやり残してる事ありますよね?」


 ペリーヌはポカンとしているエルヴィラの頬を悪戯するようにつつきながら言う。


「ジャンヌさんに、言われたんじゃ無いんですか? 最後の魔女狩り……あの日、『鎧の魔女』がどうやって亡くなったのか、その真相を教えて欲しいって」


「や、やっぱ言わなきゃダメかな?」


「それも責任だと思いますよ」


 言われてエルヴィラはダルそうに項垂れる。


「本当に色々あったんですね、エルヴィラさんが人間関係を気にして不安がるなんて、今まで無かったのに」


「えー、別にそんなんじゃねぇけど……」


「ちょっと嫉妬しちゃいますね」


 クスクスと笑いながらペリーヌは言う。そんな彼女の様子に、少しだけ和んだのか、エルヴィラは紅茶を飲み干して深い溜息を吐いた。


「……やっぱ、嫌われっかな」


「さぁ、どうでしょうね。確かに、実際にトドメを刺したのは、エルヴィラさんです……でも、状況的に仕方なかった事も事実ですよ。ケリドウェンさんがそんなに弱い相手じゃなかった事は、ジャンヌさんだって重々分かっている事だと思います」


 ペリーヌはエルヴィラの頭を撫でながら言う。


「ジャンヌさんがどうするのか、私には分かりません。でも、一年近く、そして誰よりも近くにいたらエルヴィラさんなら、少しは分かるんじゃないですか? ジャンヌさんが、どんな人なのか」


「忘れ形見は……」


 愚直で、変なとこで融通が効かなくて、目の前のものを守ろうとするたびに命をかけて、努力家で、その割には他人には甘くて、料理が下手で、自分よりも他人を優先して、でも肝心なところで鈍感で、優しくて、強い。


「アイツは……良いやつだよ」


「じゃあ、そのジャンヌさんが、今まで一緒にいたエルヴィラさんを、簡単に嫌うと思いますか?」


「ちょっとは怒るかもな……でも」


 なるほど、確かに、彼女が誰かを本気で嫌いになる姿は、あまり想像できない。ましてや一年近く、一緒に暮らしていた相手を。


「ありがと、やっぱペリーヌは最高の友達だな」


「なんか負けた感ありますけど、どういたしまして」


 エルヴィラはクッキーを一つ頬張ると、そのまま店から出ていった。


 その直後、壁にかけてある鏡から「いーけないんだ」と茶化すような少女の声が聞こえた。


「なんですかジュリアさん」


「君だってエルヴィラちゃんに隠し事してるくせに、よくあんな事言うよね」


「ナンノコトデショウ?」


「露骨ー! ジャンヌちゃんの女神化の事だよ! 本当はバッチリ知ってるくせに!」


「私はエルヴィラさんと違って良い子じゃありませんから」


「ふはっ! 最低! でもそんなとこも好き!」


 ジュリアは鏡からズルズルと這い出て来ると、テーブルの上のクッキーを頬張りながら言う。


「でも大変な事になったねぇ……まさか本当にあんな事が起こりうるなんて、実物を見たのはボクも初めてなのに」


「私も話に聞いてただけで、実際に見たのは初めてですね……女神、まさか人間がなれるものだったなんて…」


 二人は神妙な面持ちを浮かべる。


 前例が無い、アレはほぼ嘘である。しかし、真意が分からなかったので、全部が嘘というわけでは無い。


 魔女の中でも、特に長生きしている者だけが知っている伝説があるのだ。


 曰く、魔女の始まりは、女神が恵みをもたらした事によるものだ、というもの。


「その意味がなんとなく分かって来たけど……要するに、何千年も、いや、何万年も前に、ジャンヌちゃんと同じように、女神化した子がいたんだ」


「その彼女が、魔法や魔女という存在を生み出した……女神というか、母神ですね、あくまでも可能性の話ですが」


「可能性、かなり高いでしょ。ボクは隠れて見てたから、女神モードのジャンヌちゃんが何をしてたのか、なんとなく分かったんだ……まぁなんというか、まさに神って感じだよ」


 ジュリアは苦笑いを浮かべながら言う。


「あの子はね、その場にある……いや、全世界にある、全ての魔力、あるいは魔法を操ってたんだ、はっきり言ってもう滅茶苦茶だよ」


「なるほど、ジャンヌさんがエルヴィラさんのオーバードーズを大量に生産、そして降り注いだと言うのにも辻褄があいますね」


 更に言えば、街や人を治したのも、その場には居なかったゲルダの治癒魔法だろう。ただし、ゲルダは直接触れなければ効果を発動できないのに対し、ジャンヌは翼を羽ばたかせただけで、その効果を広範囲に与える事ができるという、半ば効果の強化のような事が起こっていたが。


 加えて、マシューとアレックスのジャンヌへの攻撃がほぼ無効化されていたのも、彼らの心から悪意のようなものが薄れていったのも、どれもこれも、どこかにあった強力な特異魔法によるものだった可能性が高い。


 はっきり言って、異常な存在だ。魔女とか魔獣とか、そんな次元の話じゃない事は見て取れる。


「そもそもなんでジャンヌちゃんがそんな力に目覚めたかって事なんだけどね、どれにしたって非常事態だよ」


「そうですか? 異常事態ではありますけど、別に非常事態では無いと思いますよ」


「なんでさ! ボク達より遥かに上の存在になっちゃったんだよ⁉︎ 何が起きたって、もうボク達の手に負えないって事で、それはつまり」


「その力を扱う人間が、ジャンヌさんですから。そして、その側にいるのが、エルヴィラさんですから、ジュリアさんが思うような警戒すべき事態は、起こらないと思いますよ」


 それに、と、ペリーヌは紅茶をカップに注ぎながら言う。


「ジュリアさんは、どうしたいんですか? そんな強大な力を持ってるから危険かもって、理由で、ジュリアさんはジャンヌさんをどうしたいんですか?」


「そ、それは」


 ジュリアは口籠る。ジュリアもバカではない、すぐに察したのだろう。自分の発想が、まるで今まで自分達魔女を迫害して来た人間達と同じものだと。


 理解は出来るが、了解は出来ない。


 何の罪もない、むしろ国や人の為に戦い続けた彼女を、可能性だけで殺すなんて。


「落ち着いて様子見しましょう? それに、私達じゃ勝てなくなってしまってるんですから、もう騒いだって仕方ないですよ」


「はぁ……諦めるしかないね、ほんと、何が起こるか分からない、不思議な世の中だよ」


 苦笑いしながら、ジュリアは注いでもらった紅茶を飲む。


 ほんのり甘く、温かい。ジュリアの変な緊張は、緩く解かれていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「忘れ形見、ちょっと話があるんだけど」


「あ、エルヴィラ、私もエルヴィラに話したい事あったんだ」


 自室から出てきたジャンヌに、エルヴィラが声をかけると、ジャンヌは笑顔でそう返して来た。


 どうやら、互いに思う事があったらしい。


「お前……もう体は大丈夫なのか」


「え、うん、そもそも怪我無いし」


「そうじゃなくて、意味不明な翼が」


「ああ、うん、アレね、オーバードーズを手放して、力抜いたら自然に消えちゃったの」


 つくづく意味不明な現象だが、ジャンヌに特に変化がない事を確認すると、エルヴィラは彼女の手を引いて言う。


「ちょっと、外いいか」


「え、私の部屋じゃダメなの?」


「ダメだな、落ち着けない。とにかく、来てくれ」


 エルヴィラに連れられ、ジャンヌはすっかり暗くなった外に出る。


 大きな満月が真上にあり、雲ひとつない空ごと、街全体を照らしている。


「エルヴィラ、あの」


「ありがとな」


「ええ?」


 突然にお礼を言われ、ジャンヌは困惑する。


「お前がいなかったら、あんな危ねぇ魔法を七つも集めるなんて、絶対出来なかった……お前のおかげだ」


「私だけじゃないよ、ウルも、ドールちゃんも、ゲルダも、ジョーンさんも、騎士のみんな、それに、エルヴィラ自身の、全員の力があったから出来た事なんだよ?」


「まぁな、でも、私が最初に頼ったのはお前だから……とりあえず、な」


「……そう? じゃあ、私からも、ありがとうね、エルヴィラ、私と一緒に戦ってくれて。エルヴィラの魔法が無かったら、私、絶対死んでたもん、百万回ぐらい死んでたと思う」


 ジャンヌが言うと、エルヴィラは「あっそ」とそっぽ向いた。その顔が耳まで赤くなっている事には、気付かない事にした。


 二人は歩き続け、とある森の前までやってきた。


「ここって」


「覚えてるか? 私達が、初めて会った場所だ」


「だよね、そういえば、ここでエルヴィラに襲われたんだっけー?」


 意地悪にジャンヌが言うと、エルヴィラは「悪かったよ」と、意外な事に素直に謝った。


「あ、あれ? どうしたの、エルヴィラ? いつもなら『うっせー! 過去の事引き摺り出してんじゃねぇ!』とか言って、私の足を蹴りそうなのに」


「……忘れ形見、大事な話がある」


 月明かりに照らされた、真面目なエルヴィラの顔を見て、ジャンヌは少し困惑してから「どうしたの?」と、小首を傾げる。


「お前の、先生の事だ」


「…………」


 ジャンヌの唇が、少し震えた。彼女の目に、みるみる不安の色が見えて来る。


「あの日……何があったか……話そうと思ってな」


「……エルヴィラ」


 エルヴィラは、月を見上げながら、あの日の事を思い出し、ゆっくりと話す。


「ケリドウェンと戦ったのは、私と、ジョーンと、お前の先生だ」


「うん……」


「ジョーンのやつは瀕死にされて外に投げ飛ばされて、残った私達も、まともに動けるような状態じゃなかった」


「大変……だったんだね」


「そこで、私がオーバードーズを発現できた……のはいいが、魔力を吸い取るっていう能力にケリドウェンがキレてな、ついにアイツは魔獣化して、私達は本当に絶体絶命になった」


「…………」


「そんな時……お前の先生が、背後からケリドウェンを突き刺して、一時的に動きを止めてくれたんだ……そこを、私が……お前の先生ごと……魔法で焼いたんだ、デケェ炎にその場で襲われてたからな、過去の攻撃をこっちに持ってきて」


「それって、つまり」


 ジャンヌの声が震える、エルヴィラも、自分の唇が震えている事に気付いた。


「ーー私が」


 それでも、言わなければならない。覚悟を決めたのだ。これで、決着がつくのだから。全てのやるべき事が、終わるのだから。


「私がお前の先生を殺したんだ、ケリドウェンごと燃やして……私は、お前の先生を焼き殺して生き残った。そのくせ、その責任から逃れる為に、自分を死んだ事にした」


「エルヴィラが、先生を……? そう……だったんだ」


 ついさっきまで普通に話していたのに、今はもう、どんな顔でジャンヌを見ればいいか分からない。どんな風に、話しかければいいか分からない。


 こんな気持ちは、生まれて初めてだった。


「許してくれ、なんて言わない……言えないな……ずっと仲間面してた私が、お前の仇だったんだから……ここで斬り殺されても、文句は言えない……もしそうしなくても、私はもう、お前のそばにはいられねぇよ」


「え?」


 エルヴィラは、森の方に向かって歩き出す。


「七つの魔法は集めた、そして、真実も打ち明けた…もう、やるべき事は終わった……私はまた、森の魔女に戻る。お前の元には、いられない」


「エルヴィラ……? ねぇ、何言ってるの?」


 ジャンヌの声は、明らかに震えていた。きっと怒りで震えているのだろう。


 やはり、嫌われたか。当然だ、ジャンヌなら許してくれるなんて、とんだ甘い見通しだった。だれだって、親代わりの人を殺されて、その犯人が目の前にいたとして、許せるわけないだろう。


 殺されても文句は言えない。


「じゃあな」


 そう言って、森に向かって走り出した。


 否、走り出そうとした。


 しかし、すぐにその行動は阻止された。


「待ってよエルヴィラ! おかしいよ!」


 あっという間に捕まってしまったのだ。


「なんだよ! せめて捕まえるならもうちょい追いかけてからとかにしてくれよ! 滅茶苦茶かっこ悪いだろうが!」


「いや知らないよ! それよりも! なんで居なくなっちゃうのさ! おかしいじゃん!」


「いや、おかしくはねぇだろ……話聞いてたか? お前の先生を殺したのは」


「聞いたよ、聞いたけど、意味が分からなかったんだよ! なんで? どうして……エルヴィラが先生を殺した事になるの?」


「……は?」


 ジャンヌの顔を見ると、真剣に困惑しているようだった。考えが追いついていない、というより、理解し難い事実に頭を悩ませる事に精一杯、という感じだ。


「確かに、先生が死んじゃったのは悲しいよ? 悲しいけど……だからって、エルヴィラに怒りとか、憎しみとか、そんな感情抱くわけ無いよね……だって、生きるか死ぬかの戦争だったんでしょ? 悲しい事だけど、誰も死なないなんてあり得ない……そんなの、仕方ない事じゃない」


「お前……お前は、それで良いのかよ!」


 エルヴィラは、何故か声を荒げてしまう。


「私は! 自分が生き残る為にお前の先生を殺したんだぞ! お前にとって、それが仕方の無い事で片付けられるのかよ! 私になんの感情も無いとか……そんなの……」


「違うよエルヴィラ! 貴女が先生を殺したんじゃない! 貴女は…先生に生かされたんだよ……先生は、自分の身を犠牲に……エルヴィラを生かしてくれた……そして、私と会わせてくれた……どこにも恨む要素なんて無いんだよ」


 ジャンヌはエルヴィラを、背後から抱きしめて言う。


「私の勝手な解釈なんだけど、今までの出会い……全て先生がエルヴィラを生き残らせてくれたおかげだって、思えるんだ。エルヴィラに会えた事も、ドールちゃんに会えた事も、ゲルダにも、私の大切な人達は、先生がくれたものだって、思えたよ、そう思えたのは、エルヴィラのおかげ、貴女が、先生と一緒に戦ってくれたから……貴女が、生きててくれたから」


「…………」


「だから…怒ってない、憎んで無い、エルヴィラの事、嫌いになんてならない…それとも、エルヴィラは私の事嫌い? 一緒にいたくないから、離れようとするの?」


「嫌いとかじゃ……ねぇよ」


「私も、エルヴィラの事大好きだよ」


「は、恥ずかしい事言ってんな!」


「恥ずかしくない、大切な友達に、大切な気持ちを伝える事は、全然恥ずかしくない。私は、大好きなエルヴィラと、これからも一緒にいたい! だから、私からお願い……これからも、一緒に」


「……はぁ…なんつーか…アレだな」


 エルヴィラは、自分を抱きしめてくれる優しい腕にそっと触れて、ニヤリと笑いながら言う。


「お前ってバカだな」


「なぁ⁉︎ このタイミングで罵倒する必要ある⁉︎」


「うっせーバーカ、バーカバーカバーカ!」


 ケラケラと笑いながら、エルヴィラは言う。


「でも……そんなバカと一緒にいた方が、楽しいかもな」


「エルヴィラ……」


「お前らと長く関わり過ぎたせいで、ほんとに私は変わっちまった……でも、この変化は、嫌いじゃねぇ」


 エルヴィラは、ジャンヌに向き直って、一瞬躊躇してから、子供のようにギュッとジャンヌに抱き付いた。


「ありがとな、お前と会えて、良かった」


 月明かりが照らす中、二人は楽しそうに笑い合った。


 そんな二人の様子を、物陰から覗く者達がいた。


「ああいうのって、普通男女のイベントなのでは?」


 白髪の少年が言うと、氷の魔女がニヤつきながら言う。


「時代遅れだね、ウル、今は男も女も関係無い……愛し愛されるのに、決まりなんてないんだよ」


「そういうものですかね……って、あっ」


 ウルが気付いたが、時すでに遅し。二人の仲に嫉妬した少女が駆け寄って、勢い良くジャンヌに飛びついた。


「エルヴィラばっかりずるい! 私もジャンヌの事大好きだもん!」


「わぁ! ドールちゃん⁉︎ いつのまに!」


 驚くジャンヌに、ドールは更に強くしがみつく。


「ガキがいるって事は……テメェら、盗み見とは良い度胸してんなぁ」


 存在がバレたウルとゲルダも、そそくさと出てくる。


「いやぁ、なにしてんのかなーって」


「女同士の秘密だ」


「それにしては、なんか色々発展しそうだったけどー?」


「ぶっ殺すぞ」


 ゲルダが茶化し、それにキレるエルヴィラ。甘えてくるドールに、冷静に様子を見ているウル。


 誰一人欠けることなく、『いつも通り』が、そこにはあった。


「さて、夜も遅いし、帰ろっか」


 ジャンヌが言うと、みんなが頷いた。


 四人揃って、同じ道を歩いて帰る。


 ジャンヌは、嬉しくて笑みが溢れ、止まらなかった。


 魔法集めが終わっても、またこうしてみんなと居れるんだ。


 いつまでも。みんなで。




 月が、とても綺麗な夜だった。

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