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魔女伝  作者: 倉トリック
蒼い鳥編
116/136

自分勝手で醜い女

 様子見。すぐにでも殺し合いが始まりそうな、殺伐とした雰囲気の中、マシューとアレックスは意外にも冷静に、相手の出方を伺っていた。


 出方を伺うとは言うものの、アレックスの場合、目の前で怪鳥がマシューへと姿を変える様子を見ているので、魔法の特性自体は掴めているはずだが、それでも、迂闊に動こうとしない辺り、考えるだけの頭は持っているのか、と、マシューは少しだけ感心する。


「お兄様兄上様愚兄様ぁぁ」


 アレックスがニヤリと口を歪ませながら言う。


「部下の教育はぁぁ、念入りにした方が良いですよぉぉ?」


「…殺ったのは…お前か、なるほどな…素直に褒めてやる、お前如きが、よく俺の仲間を殺せたものだな」


「全ては魔女の恩恵によるものですぉぉ…やはりぃぃ素晴らしいですねぇぇ、魔女という存在はぁぁ、高貴で高潔で高等な存在ですねぇぇ」


「虫唾が走る」


 顔を赤らめながら魔女を褒め称えるアレックスに、マシューは軽蔑の視線を送りながら言う。


「お前は変わらんな、良い意味では無いぞ? 成長していないという意味だ、そこら辺はお前の愛しい魔女と同じだ」


 マシューはふんっと鼻で笑う。


「口を開けば魔女、魔女と、奴らがどれほどの禍いをこの世界にもたらしてきたか、知ろうともせず盲信的に信仰する。理解出来ん、はっきり言って異常だな。正しい歴史を知っていれば、魔女を信仰するなんて発想がそもそも出てこないはずだが?」


「それはこちらの台詞ですねぇぇお兄様ぁぁ、魔女がもたらしたモノは最悪ばかりではありませんよぉぉ、むしろ、人間が魔女によって受けた恩恵の方が遥かに多いはずですからねぇぇ、その証拠にぃぃ、貴方も、貴方の部下も使ってたじゃあないですかぁぁ、便利な魔具という武器をねぇぇ」


 ケラケラと笑いながら、アレックスは血塗れで、ボロボロになった一冊の本をマシューの前に放り投げた。


「そちら遺品ですぅぅ、お返ししますねぇぇ」


「よほど殺されたいらしいな、同情するぞ、我の仲間には遺品を受け取ってくれる者がいるが…お前には居ないんだからな、そもそも、お前がこの世にいたという証を、たとえ髪の毛一本だろうと残すつもりは無いからな」


 マシューが掌を突き出し、アレックスは小さな水筒を取り出して蓋を開ける。まさに戦闘が始まろうとしたその時だった。


 大量の足音と共に、大勢の()()()()()が二人に向かって来る。


「なんだアレ」


「まぁ素敵ですねぇぇ! 魔法だからこそ出来る奇跡ですねぇぇ素晴らしいですねぇぇ!」


 困惑するマシューと、感激するアレックス、そんな二人を気にも止めず、群勢は、キョロキョロと何かを探すように辺りを見回しながら、散らばって動き始めた。


「だぁあ! もう! 言われた事しか出ないポンコツ共!」


 そんな声と共に、分身達の中から、たった一人だけ、短剣を振り上げてマシューに襲いかかってきた少女がいた。


 咄嗟に腕を突き出し防御態勢をとったマシュー、すると、彼の背中から青い翼が現れ、彼を守る盾のように覆いかぶさり、短剣を弾き飛ばした。


「チッ! かってぇな!」


「ほぉ…こんな事も出来るのか…わざわざ狙われやすい巨体にならなくてもいいのは、楽だな」


 翼を撫でながら、マシューは襲撃者の姿を確認する。


 金髪で、整った顔立ちなのは良いが、しかし、その鋭い目つきのせいで人を寄せつけ無さそうな、見た目が十歳前後の少女。いや、少女の姿をした、魔女だ。


「お前は…騎士団の」


「別に騎士団に入ってるわけじゃねぇよ…捕まったその日に施設ごとぶっ壊して脱獄とか…お前こそやる事が人間離れしてるじゃねぇか、十分化け物だっての」


 エルヴィラは、新たな短剣を握り、構えながら言う。


「言ったろうが、これで終わると思うな、とな」


「お前なんかすぐにでもぶっ殺して良いんだがな、忘れ形見がうるせぇから、一応忠告してやる、今すぐ鳥から離れて大人しくお縄につけ、その鳥をずっと体の中に持っとくのはかなり危険な気がするぞ」


「ああ、そうするつもりだ、我もこんなわけのわからん力をいつまでも自分の中に入れておくのは避けたいからな…お前ら全部殺した後に、手放してやる」


 マシューの背中の翼が大きく広げられる。そして、鋭い翼爪を振り上げ、エルヴィラに向けて振り下ろされた。


 大振りの攻撃、当たり前のように避けるエルヴィラ。しかし、叩きつけられた衝撃で、地面が割れるのを見て、その威力に戦慄した。


「当たったら死ぬな」


「当てるさ」


 マシューはバサッと羽ばたくと、天高く舞い上がり、そして急降下し、素早く、連続で翼爪をエルヴィラに振り下ろす。


「っ! …ああっ! テメェら! 標的はコイツだ! 殺れ!」


 エルヴィラの一声で、分身達は一斉に動き出し、マシューに襲いかかっていく。今までは、一人ずつ指示を出さないと動いてくれなかったが、ここ最近は、全体に呼びかける事で、全員が動いてくれるようになった。


 魔法集めの中で、魔法の使い方が上手くなったのかもしれない。


「数がいれば勝てると思ったか、ぐちゃぐちゃに潰してやる!」


 様々な武器を向けて襲いかかって来る分身達に怯む事なく、マシューは更に自分の中の怪物を解放する。


 マシューの体は飲み込まれ、街を破壊した怪鳥が再び姿を現した。地面が震えるほどの咆哮を上げると、怪鳥は羽ばたいて急上昇し、ぐるぐると上空を旋回し始めた。


「チッ、空飛べるのは反則だろ…!」


「エルヴィラ!」


 遅れて、本物のジャンヌも現場に到着する。


「あの鳥は…やっぱりマシューだった?」


「ああ、あのおっさんがでっかい鳥に変身して、今はお空を自由に飛んでいる…何する気か知らねぇけどな」


「何してるんだろう…」


 手も足も出ず、黙って空を見上げる事しか出来ない二人、そんな彼女達は突然、すごい力で後ろに引っ張られた。掴まれているわけではない、まるで、川の激流に流されているような感覚で、一気にその場から離れていく。


「なに…!」


「突然失礼しますぅぅ、ですが、とりあえず回避という事でぇぇ」


「何が」


 突然、轟音が鳴り響き、直後凄まじい突風が襲い掛かる。


 瓦礫が飛び散り、天高く土煙が舞い上がり、まるで巨大な爆弾でも落とされたかのような、そんな衝撃だった。


 やがて、土煙の中から、赤く光る目がこちらを睨み付けていた。血塗れの怪鳥が咆哮を上げると、内側に吸い込まれるようにその姿を消し、再びマシューが現れる。


「チッ…避けられたか」


「な、何をしたの…」


 マシューの足元には大量の分身達だったものが転がっている。元が誰だったのか分からないぐらい全身の損傷が酷く、再起は不能そうだった。


「急降下して突撃しただけだ、直撃は勿論死ぬが、その衝撃だけでも大ダメージだろう? その証拠に、貴様らが作った魔法のおもちゃ集団は、今の一撃で全滅したな」


 マシューは笑いながら、転がる分身の頭を蹴飛ばして言う。


「今度は外さん、次はお前らがこうなる番だ」


「…っ!」


「当たると思いますかぁぁ? あんな単純な攻撃にぃぃ、まんまと当たるとぉぉ? 頭の中がお花畑なんですねぇぇ」


 ジャンヌの背後から、アレックスが笑顔で言う。その姿は、水のように半透明になっていた。


「マーガレットさん…? 貴女…その姿は」


「『不定形の魔女』マーガレット…ああ、名乗るたびに全身に喜びが感激が快感が走りますねぇぇ! ええ、そうですよぉぉ、私はぁぁ、魔女へと進化しましたぁぁ」


「はっ…マジかよ」


 エルヴィラは呆れたような半笑いを浮かべる。そんな彼女を見て、アレックスはより一層笑顔を濃くし、液体になったまま、その場で跪いた。


「貴女が…貴女が貴女が貴女がぁぁ…あの『最後の魔女狩り』で、この国を防衛してくださった魔女の一人ぃぃ…『縄張りの魔女』エルヴィラ様だったのですねぇぇ…!」


「あ? なんで知ってんだよ、私名乗ってねぇだろ」


「先程ジャンヌ様が、エルヴィラ様の名前を叫んでおられましたのでぇぇ」


「忘れ形見ぃ!」


 ジャンヌは無言で両手を合わせる。


「ああ…こんな所で会えるなんて…下賤な私にとって身に余る光栄でございますぅぅ…記録では死亡されたとあったはずですがぁぁ…流石魔女様…所詮紙に書かれた死など、無意味だったという事ですねぇぇ」


「言ってる意味が分からん…普通に生き残っただけだ…つか、そんな事してる場合じゃねぇだろ、お前…とりあえずは、味方? で、良いのか? あの化け物倒すの協力してくれんのか?」


 エルヴィラが言うと、アレックスは嬉しそうに笑って、大きく頷いた。


「勿論でございますよぉぉ、彼は下賤な私にとっても邪魔で不愉快で目障りな存在ですゆえにぃぃ、仕留められるならここで仕留めたい所存でありますぅぅ」


「あっそ、なら…」


「協力、は、惜しみません…がぁぁ…下賤な私の小さな頼みを聞いていただく事をぉぉ、条件とさせていただきたいのですがぁぁ」


「あ? この期に及んで」


「それ相応の対価が必要とぉぉ、エルヴィラ様がおっしゃいましたよねぇぇ?」


 アレックスは、跪き、低姿勢のまま、エルヴィラとジャンヌに邪悪な笑みを向ける。


「なんですか…謝礼として、マギアの活動資金の要求とか…ですか?」


「いえいえ、金銭の要求ではございませんよぉぉ、何せ私は魔女ですのでぇぇ、それらに価値はありません」


「えっと…じゃあ、何を望むんですか」


 ジャンヌが不安そうに尋ねると、アレックスは満面の笑みを浮かべて言う。


「下賤な私の要求はただ一つですぅぅ、騎士団の、解体でございますぅぅ」


「…は?」


「そして、その後ジャンヌ様や他の方々には、マギアとして活動していただきたいと思い」


「馬鹿じゃねぇのか?」


 アレックスが言い終わる前に、エルヴィラがそう言って胸ぐらを掴もうとする。しかし、相手は液体なので、その行動は無意味に終わった。


「そうですよ…いくらなんでも無茶すぎます、つまり、マギアが騎士団を吸収するって、意味ですよね? 無茶苦茶ですよ」


「無茶苦茶とは…何故でしょうぅぅ? 下賤な私は、あの愚かな男とは違いますよぉぉ? 本気でこの世を平和にしたいと考えておりますぅぅ、世界全て…というのは確かに無茶でもぉぉ、この国の平和を願うのはぁぁ、ジャンヌ様も同じではぁぁ?」


「それは、勿論そうですけど…でも、私は、あくまでそれぞれの関係が平等で、均等な平和を望んでいるんです…貴女は、魔女に偏りすぎている…それじゃあ、結果として異端狩りと変わらない」


「何故…魔女と人間が平等でなくてはならないのですかぁぁ?」


「…え?」


 突然、アレックスの声色が変わり、口元を歪ませ、怒りを露わにした表情を向ける。


「魔女は、人間などという脆弱で愚かで下賤な生物とは違いますぅぅ、どんな奇跡も起こす事が出来る、どんな不可能も可能に出来る素晴らしい存在ですぅぅ…そんな高貴で高潔で高等な魔女と…不細工で不潔で不埒な人間を、どうして同じように並べるんですかぁぁ?」


「魔女だって元は人間です、元から魔女として生まれてくる子は一人もいませんよ…彼女達も人間です、そして、人間として扱われる事を望む魔女だっている、貴女のソレは、少し偏りすぎて…独りよがりです、貴女が思う以上に、魔女達は」


「貴女は…貴女は貴女は貴女はぁぁ…あの誇り高き『鎧の魔女』の後継者では…?」


「…そうですよ、そして先生だって、魔女が中心…というか、魔女が支配する世界を望んだわけじゃ無いと思います…貴女の野望には協力出来ません」


「…あ、ああ、なる、なるほど…危ない危ない…騙される…所でした…貴女はぁぁ、偽物ですねぇぇ?」


 アレックスはバシャリっと水音を立てながら立ち上がり、引きつった笑いを浮かべながらジャンヌに顔を近付ける。


「…マーガレットさん…?」


「『鎧の魔女』は…魔女を守る為に…防衛に…」


「『鎧の魔女』は騎士として、人間を守る為に戦ってたぞ、魔女の為っていうのはどっちかっつーと『反乱の魔女』どもだ、つまり、お前が信仰する防衛の魔女の敵側の思想だ」


 エルヴィラが言うと、アレックスはさらに口元を歪ませ、苦しそうに呻き出す。


「どおおおしぃぃてぇぇ、わかってくれないんですかぁぁぁあ! にせものめぇぇ! 魔女が全てですぅぅ! 魔女がこの世を支配すべき存在なのですぅぅ! ソレを認めないなんてぇぇ! 貴女は『鎧の魔女』の名ばかりか、すべての魔女を冒涜しているぅぅ!」


「なんだコイツ…」


「マーガレットさん!」


 アレックスは、叫びながら腕を伸ばし、ジャンヌの首に巻き付けた。液体が巻きつくといつ奇妙な感覚に戸惑いながらも、ジャンヌは必死に呼びかける。


「マーガレット…さん! 貴女の考えも…分かります…でも…どちらかに偏って、良い事はありません…!」


「魔女が正しいのですぅぅ…人間の小娘にぃぃ…管理されるほど脆弱な存在じゃあないのですぅぅ!」


 液体化した腕が、ジャンヌの口と鼻を覆う。


「マーガ…ごぼぼっ!」


「忘れ形見! テメェ!」


 咄嗟に短剣で巻きついた腕を斬り裂くが、液体を切断出来るはずもなく、水を通過しただけの空振りに終わってしまう。


「下賤な私はぁぁ、慈悲深いのですぅぅ…私が受けた魔女の愛を理解するならばぁぁ…無礼な貴女を許しますぅぅ…騎士団の団長などぉぉ…どうせ価値の無くなる立場になるのですぅぅ…この国はマギアが管理しぃぃ、いずれは世界を魔女中心にぃぃ」


「気持ち悪りぃな」


 突然、物凄い突風に襲われ、アレックスは吹き飛ばされてしまう。その拍子にジャンヌは水責めから解放され、膝をついて苦しそうに咳き込んだ。


「邪魔だ、どけ、小娘」


 そんなジャンヌを蹴飛ばして、マシューは吹き飛ばされたマーガレットに向かっていく。


「風なら、少しは液体も動かせるみたいだな…それにしても…なるほど、それがお前の本性か、アレックス」


「お前…お前お前…お前が一番目障りなのですよぉぉ…今すぐ消してやりたいぃぃ…こんなものと血が繋がって居ると思うとぉぉ…自分が滅茶苦茶になりそうなのですよぉぉ」


「我にとっても貴様のような妹を持った事は人生最大の汚点だ、まさか魔女化までしているとは…魔女が高貴な存在だと? 幼い子供まで殺しておいて、よくもまぁそんな事が言える」


「…! 殺した…まさか、リオを殺したのは」


 蹲っていたジャンヌが顔を上げる。というか、兄妹だった事もかなり衝撃だったが、いや、それよりも、だ。


「なんだ、意外と勘が悪いな団長、我の仲間を殺したのはコイツだ…まぁ、貴様に言わせれば、それも我が巻き込んだ事が原因なのだろう?」


「それは…そうだと思いますけど…だからって! 殺したんですか! マーガレットさん! あんな小さな子供を! 周囲に居た何の罪もない人達まで巻き込んで!」


 ジャンヌが叫ぶと、マーガレットは首をぐにゃりと傾げて不愉快そうに言う。


「だからぁぁなんだと言うのですかぁぁ? 愚かな人間のくせに魔女を否定する方が悪いのですよぉぉ…下賤な私はぁぁ、正しい事をしましたぁぁ、愚かなクズを排除したんですからねぇぇ…ろくに殺せない貴女より役に立つと思いますがぁぁ?」


「…貴女は…もうまともな思考すら出来なくなっている…魔法という力に溺れすぎたんだ…」


「やっと気付いたか、団長、アレが、本来の魔女の姿だ。アレが魔女という存在の本性だ、今は違うとしても、いずれすべての魔女はああいう思考に支配される…我は、人間を守る為に戦っているのだ、正義は我にあるだろう?」


「違う! 貴方達が狂ってるだけだ! みんな…貴方達の身勝手な兄妹喧嘩に巻き込まれて死んだ…人生を狂わされた…一番平和を脅かしているのは貴方達の方だって、まだ分からないんですか⁉︎」


 ジャンヌが叫ぶ。言っていて、虚しくなった。きっとこの人達には、何を言っても無駄だと、分かっているから。


「我が?」


「下賤な私が?」


 平和を脅かしている。


「馬鹿が、気が狂っているな、小娘」


「お話になりませんねぇぇ…貴女のような愚か者に、下賤な私は何を期待していたのでしょうねぇぇ」


 案の定、彼らはジャンヌにそう言い捨てて、ぶつかり合う。


「忘れ形見」


「エルヴィラ…分かってた、つもりだったんだけどね…この世には、話の通じない人間もいるって」


 ジャンヌは、ガクッと肩を落として言う。


「止められなかった…私は…なんの役にも立たない…」


 彼らの言う通り、ただの、小娘だ。こんなの、もう、どうしようもない。


「話し合いで解決、なんて、もう諦めろ、それより、アイツらを殺す方が早い」


「でも…人を殺せば…私も…」


 彼らと同じになってしまう。恥ずかしい事に、こんな事になっても、騎士という立場の自分が、人の命を奪うという事を躊躇っている。自分の手が汚れる事を、嫌がっている。


 自分勝手だ。何もかも、ジャンヌという女は、どこまでも自分勝手だった。


 正しくない、綺麗じゃない、偉そうに言った事も守れない。結局は、全て、保身だった。良い人でいる為の、その場しのぎの中身のない人間。


 そんな奴に、何が出来るというのだろう。


「覚悟を決めろ、お前が仕留めなきゃ、あいつらマジで世界を潰しかねない…殺さなきゃ、殺される」


「エルヴィラ…私…」


 この葛藤も、結局は、嫌われたくない一心なのだろうと、ジャンヌは自覚する。酷く、醜い。エルヴィラも、本当は愛想を尽かしているに決まっている。


 しかし、エルヴィラは、剣を握れと、ジャンヌの鞘から剣を引き抜いて、目の前に差し出した。


「…忘れ形見、確かにな、殺す事は悪い事だ。でもな、殺さなきゃいけない時なんて、この世にはいくらでもあるんだよ…食わなきゃ生きていけない、食う為には、殺さなきゃならない…生きていくって事は、殺すって事だ」


 エルヴィラは、殺し合うマシューとアレックスを指差して言う。


「そういう意味じゃ、あいつらも正しいのかもしれない…生きる為に、殺し合ってるわけだからな…で、お前はどうする、お前の正しさはどこにある? このままあいつらを放っておいて、魔女か、それとも人間が、大量に、そして無意味に殺されるのを、黙って見ておくか? 見殺しにするのが、お前の正しさか?」


「…違う…そんなの…」


「だろうな…私だって同じ気持ちだ」


 エルヴィラは、ジャンヌの肩に小さな手を置いて、言う。


「私はお前の味方だ、お前は、一人じゃない…一緒に戦って来たろ、魔法集めの間は、ずっと…だから、お前が背負う罪だって、私も一緒に背負ってやる」


 エルヴィラは、珍しく、笑って言った。


「お前は守りたいもんを守る為に戦え、私は、そんなお前を守る為に戦ってやるから」


「…」


 ジャンヌは、剣を握り、立ち上がる。


「…ありがとう、エルヴィラ…行くよ」


「おお、やるか」




 正義が、ぶつかり合う。

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