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魔女伝  作者: 倉トリック
蒼い鳥編
112/136

怯える少女

 なんであんな言い方しちゃったんだろう。


 しばらくして、ジャンヌは激しい後悔に襲われた。自分でも原因はよく分からないが、突然ムカッとしたというか、いつもなら軽く流せるのに、今日だけは、というか、さっきだけは何故か湧き上がったイライラを抑えきれず、つい喧嘩腰になってしまった。


「謝らないと…」


「どうして?」


 隣を歩くドールが、不思議そうにジャンヌの顔を覗き込む。


「ジャンヌ悪くないよ」


「んーん、ああいうのはね、どっちもどっちなんだよ。売り言葉に買い言葉って言ってね、相手が乱暴な言い方をしてきたからって、こっちまでムキになってたら何も解決しない。ちゃんと冷静になる、冷静になれるって事が大事なんだよ」


 って、今の自分が言えた立場では無い。我ながら本当に情けないとジャンヌは反省する。大勢の前で、みっともなく感情的になり、必要以上に言い過ぎて、エルヴィラを怒らせてしまった。


「だから、まずは謝らないとね」


 すぐに引き返そうとしたが、気が付かないうちに随分と遠くまで出てきてしまったようだ。本部が見えないどころか、周りの景色が見慣れない街並みになっている。


「あ、あれぇ?」


「わ、うわぁ…」


 異変に混乱していると、そんな怯えたようや声が背後から聞こえた。


 振り向くと、異端狩りのリオがプルプルと震えながら立っていた。


「え、貴女異端狩りの」


「どおしてぇ…なんでぇ…き、騎士団の、だ、だだ、団長が、こ、ここにいるのですかぁ…?」


「どうしてって言われても…普通に歩いてただけ」


「む、無意識の、う、うちに…げ、ゲートを通りましたね…? め、迷惑なんです…けどぉ…」


「…一体な何の事?」


 オロオロと慌てふためきながら、何か呟くリオ。とりあえず話を聞こうと、ジャンヌが一歩近寄ると、リオは大慌てで距離を取り、震えた声を上げる。


「ち、近づかないでくださいぃっ! わ、わわ、私達は、て、てて、敵同士! な、なんですよ! い、今は、わ、わ、渡す情報は何もないです! そ、それ以上近寄ったら、こ、ころころ、殺しますよ!」


「わ、分かったよ…でもとりあえず質問には答えてくれない? 何もしないって約束するから」


 とりあえず気になっている事から。


「…あのさ…ここどこ? 私だけが、この変な空間に来ちゃったってわけ?」


 リオの発言と、いきなり周りの景色が変わった事から察するに、ここは異次元空間的な何かなのだろうと思う。ずっと手を握ってたはずのドールも居なくなっている。ドールからすれば、ジャンヌの方がいきなり消えたのだろう。


 心配しているはずだから、早く元の世界へ帰りたいのはこちらも同じ気持ちだ。


「…わ、私の…ま、魔具の世界ですよ…こ、ここは…わ、私だけの世界なんです…そ、それ以上は…お、お、教えません…と、とにかく、も、も、元の…げ、現実世界で…な、無い事は…た、た、確かですぅ…」


「なるほど…出来れば帰りたいんだけど…どうすれば良いかな」


「と、通ってきた…ゲ、ゲートから…ふ、普通に帰れる…はず…ですよ…」


「…うーん、ごめんね、困った事にそれらしい場所を通った覚えは無いんだ…。私的には、突然ここに飛ばされたような」


 すると、リオはスッと顔から怯えの色を消し、なんとなく納得したように頷いて、少しだけこちらに近寄ってきた。


「あ…な、なるほど…じゃあ…あ、あ、貴女が検索結果…な、わ、わけですか…」


「…何? 検索結果って?」


「む、むむ、六つ目の…か、回収に…せ、成功された、のですね…お、おめでとうございます…」


「え、どういう事? 六つ目って…まさか、魔法の事?」


「わ、私達の、か、会話の中で…なら、そ、それ以外に、な、無いと、お、思われますが…」


 リオは不満そうに顔を俯けて「はぁあああっ」とわざとらしく大きなため息を吐きながら、ジャンヌに背を向けて、トボトボとどこかへ歩き出す。


「ちょ、ちょっと待ってよ、何がなんだか意味不明なんだけど⁉︎」


「け、結果は…か、変わりませんよ…ざ、残念ながら…あ、あ、あの鳥は…か、かなり特殊です…もう…私達の手には…入らない…」


「…」


「そ、そこで、じ、ジッとしてて、く、ください…わ、私が、ま、魔法を解けば…す、すぐに、元通りです…」


 最後にリオは、良かったですね、と、皮肉っぽく言って、姿を消した。

 そして気が付くと、元の場所に立っていた。


「ジャンヌ!」


 意識が戻った途端、ドールの泣きそうな声が聞こえてきた。


「忘れ形見! お前…こんなチビほったらかしてどこ行ってやがった⁉︎」


 続いて、妙に気まずい声も聞こえてきた。


「ドールちゃん…は、分かるけど、エルヴィラ? どうしてここに?」


「言い過ぎたって事にして、謝ってやろうと思ったんだよ! そしたらこのチビが泣きながらお前を探してやがった!」


「ジャンヌ、いきなり消えたんだよ? 何かされたの? どこも痛く無い?」


 ジャンヌは辺りを見回し、リオの姿を探すが、どこにもいない。持っているであろう魔具の気配すら感じない。


「聞いてんのか、チビが心配してんぞ」


「異端狩りがいたの」


「ああ⁉︎」


 すぐにエルヴィラは両手に短剣を構えて、警戒する。


「どんな奴だ!」


「いや、もう居ないみたい…でも、なんか気になる事言ってたな…鳥はもう自分達のモノにならない…とかなんとか」


「はぁ? どういう事だ? 敗北宣言か?」


 そう、なのだろうか? いや、あまり考えられない。あっさり魔法から手を引く様な組織なら、ここまで苦労させられない筈だ。ましてや、さっき現れたのは、ある意味ジャンヌが最も厄介だと感じているリオだ。あの怯えた態度の裏では、かなり黒い思惑が渦巻いていると思う。情報収集能力を使って何をしようとしているのか分からないうちは、彼女のいう事を鵜呑みにするのは、あまりに危険だろう。


「ちゃっかり騎士団を壊滅させようとする様な子だからね…それより…エルヴィラ、さっきはごめんね?」


「あん? ああ…まぁ、私もさっきはなんか変にイライラしたからな、お互い様って事で、許しとけ」


「うん、許すから、許してね」


 ジャンヌは朗らかに笑って、エルヴィラの両頬を掴んでむにむにと揉む。


「いみがわからん」


「仲直りの証」


「いみがわからん」


 そう言いながらも、エルヴィラは抵抗しようとはしなかった。それなりに、自分も悪いと感じているのだろう。


 こうして、ものすごく短い喧嘩は幕を閉じた。


 そして、閑話休題。二人は、本題へと思考を戻す。


「異端狩りの奴ら…なんか企んでるのか」


「元から企んでるんだろうけど…今回はなんか毛色が違う気がするね」


 悶々としていると、ドールがエルヴィラの袖を緩く引っ張る。


「ん、どうしたのドールちゃん、お腹すいた? それともトイレ?」


「んーん、違うよ…あのね、ジャンヌ…今までは、向こうから会いに来てたでしょ? だから、たまには、直接異端狩りのボスに聞いてみたらいいんじゃないかな?」


「あっはは、そうだね…それは…いや、それもそうか」


 ジャンヌはしばらく考えて、ドールの頭を撫でながら言う。


「直接聞きに行こっか、マシューに」


「お前マジで言ってんの?」


 ジャンヌのとんでもない決断に、エルヴィラは諦めにも似たため息を吐く。さっきの喧嘩の反動で、物事を正しく考えられなくなっているのだろうか。そうだとしたら、自分にも多少なりとも原因はあるだろうけど。


「…行くならゲルダと…あとジョーンも連れて行くぞ。ゲルダには治癒、ジョーンには瞬間移動っていう緊急時の離脱にピッタリの魔法がある。私達だけで行くのは無謀過ぎるわ」


「え⁉︎ 賛成してくれるの⁉︎」


 まさかの展開だった。てっきりまた怒られるかと思っていたが、やっぱり普段のエルヴィラは素直でいい子なんだ。


 でも、そうなってくると、やっぱりさっきの言い争いは、ちょっと不自然だった様な気もする。


(お互いイライラが溜まってたんだって思えば、それまでなのかもしれないけど…)


「とりあえず、アイツらと合流するぞ…まぁ、私らが勝手に飛び出しちまったんだけどな」


「そうだね、心配してるだろうし、いったん帰ろうか」


 三人は計画を練るため、元来た道を、並んで引き返した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 リオは心の中で舌打ちした。まさか六つ目を既に回収されていたとは思わなかった。この自分の情報収集が追いつかなかったなんて、この上ない屈辱だと、はらわたが煮えくりかえる思いだった。


 立ち寄ったカフェの隅っこの席で、リンゴジュースを飲みながら、リオは不満を露わにしている。


「騎士団にアレを捕まえる様な戦力…まだ残ってたっけ?」


 ストローを憎たらしそうに噛みながら、リオは思考する。


 ランスロットの暴走のおかげで、各支部の騎士に大打撃を与えた筈だ。ジャンヌ率いる中央支部の戦力だって、今なお回復しきっていない。新人ばかりで、教育にも手を取られ、主戦力となるような騎士はウルとジャンヌだけのはずだ。


「ああ、後、魔女か」


 本人達は隠してるつもりらしいが、騎士団が魔女を使って魔法回収をしている事は既にわかっている。いや、だからこそ、今回先手の先手を打たれて回収された事に納得がいかない。


「蒼い鳥…アレは魔獣だ…しかも特殊な魔獣…魔力を感じる事すらままならないっていうのに…ここ最近動きがなかったように見えた騎士団が、いつの間に?」


 騎士団にいる魔女は三人。


『縄張りの魔女』エルヴィラ。


『凍結の魔女』ゲルダ。


『不可視の魔女』ドール。


 自分の集めた情報によれば、この三人らしい。そして、三人のうち、まともな戦力となるのはエルヴィラと、ゲルダ、更に言えば、この中で最も厄介な魔女は、ゲルダだけ。逆に言えば、エルヴィラとドールは取るに足らない雑魚という事だと、リオは勝手に思っている。


「三人の特徴として、魔法攻撃が全部純粋な魔力で構成されているって事かな…闇も氷も透明化も、魔法強奪の剣、オーバードーズですら、魔力の塊…これじゃあ魔獣の捕獲なんて到底出来ないはず」


 かと言って、魔力を感じる事すら出来ないウルや、すぐ側に居ないと分からないジャンヌに、鳥の魔力を判別して捕獲出来るとも思えない。


「そうなると、やっぱり新戦力が加わったって事?」


 そんな検索結果は出ていなかったが。もしかして、本人達にとっても予想外の事だったのだろうか。そうなると、確かに自分の検索に引っ掛からなかった事にも納得が出来る。


「誰だろ、どれだろ? とにかく、切り替えて七つ目、つまりは最後の魔法回収に集中すべき?」


 リオとしては、七つ目回収を急ぎたかった。自分達はまだ、一つも持っていないというのに、騎士団は既に六つ。散らばった魔法のほとんどを回収してしまっている。


 最終的に騎士団から奪う予定だったが、こうなってくると約束がどうのこうの言ってられない。すぐにでも行動すべきだと、リオは思う。


 しかし、その決定権はリオにはない。まずはリーダーであるマシューへの報告が先だ。


「ボダンさんもマルティンさんも殺された…犯人は分からないけど…とにかく私達に引き返す道は無い」


 多少強引にでも、マシューには、七つ目の回収、あわよくば、騎士団から今まで回収した魔法の強奪までを優先して考えて欲しい。


 その為にも、いつまでも寛いでいられないと、リオは席を立ち、店を後にする。


 否、後にしようとした。


 開けようと思った扉が、外側から開けられたのだ。つまり、自分が店を出ようとしたタイミングで、入店して来た客がいた、という事だ。


 めんどくさいな、とリオは思う。あんまり自分は目立っていい立場では無いのだから、極力こういう事は避けたかったのだが。


 しかし、外からやってきた彼女の姿を見て、リオはそうも言ってられなくなってしまった。


「随分とぉぉ、真面目に深刻に真剣にぃぃ…考え事をされていたようですがぁぁ?」


「うわぁああああああああ⁉︎」


 ダラリと伸びた髪と、ニヤけた口元。マシューから要注意人物として知らされているので、間違えるはずもない。


 異端狩りの敵対組織にして、その教祖。


「ア、ア、アレックス・マーガレット…!」


「おやおやおやおやぁ? 下賤な私を知っておられましたかぁ。流石に、警戒、注意、敵視されているようですねぇぇ…」


「う、ぐぐぅ…ううう…」


 怯えながらも、リオは懸命に睨みつけ、相手を精一杯威嚇する。


 予想外の邂逅に、怯え、戸惑いながらも、リオはチャンスだとも思っていた。コイツをここで仕留める事が出来れば、これ以上異端狩りの邪魔をする奴は居なくなる。今後の自分達の活動がスムーズになる、と。


 しかし、リオはもう一つの可能性も忘れてはいなかった。


 マーガレットがここに、丸腰で来るだろうか?


 少なくとも、自分は戦闘用の魔具はちゃんと持っている。一般人など相手にならないほど強力な武器を懐に忍ばせている。


 だが、それは向こうも同じ事なんじゃないだろうか。自分を異端狩りと知っていて声をかけてきたのなら、何かしら対抗手段があると言う事では。


「お、おお、お前…お前、い、一体、わ、私に…何の用」


「何用か…と聞かれればぁぁ…そうですねぇぇ…簡単に、単純に、安易にぃぃ…貴女を殺しに来た…というべきですかねぇぇ?」


「な、なんの、た、ために?」


「邪魔なんですよぉぉ、貴女ぁぁ、有能すぎてねぇぇ…実は本当は本来は、貴女方のリーダーを殺したかったんですがぁぁ…先に貴女を見つけたのでぇぇ、まぁ、だったらついでに、という感じですぅぅ」


「お、お前…わ、私に…か、勝てるとでも…思ってるのか…! ううっ…!」


 リオが怯えながらもそう言うと、マーガレットは腹を抱えながらぐにゃぐにゃと奇妙な動きをしながら大笑いし始めた。


「あっひゃひゃひゃひゃひひひひひひっ! あ、あ、当たり前じゃないですかぁぁ! なんの有利性も勝算も勝ち目もないのにぃぃ、堂々と殺しにかかると思いますかぁぁ?」


 やはり、読み通り、奴は何か攻撃手段を隠している。


 もしかしたらそれは、自分の持つ魔具よりも強いかもしれない。


 だからこそ、リオはそれ以上の言葉は聞かず、先手必勝と言わんばかりに攻撃を開始した。


「し、死ねっ!」


 リオは懐から、液体の入った水風船のような物を取り出して、それを上へ放り投げた。


 ここが外なら、勝負は分からなかったかもしれない。でも、ここは室内、自分の攻撃用の魔具が真価を発揮する。


 放り投げた魔具は、天井に叩きつけられ、破裂した。その瞬間、店内全体に異臭を放つ液体が撒き散らかされた。


「なんですぅぅ? これぇぇ?」


「り、理解する…ひ、必要なんて…お、お、お前には無い!」


 リオは体を震わせながらも、不敵に笑った。


 巻き散らかされた液体、それが店員や客に触れた途端、あちこちで耳をつんざくような悲鳴が上がった。


 異臭を放ちながら泣き叫ぶ人々、その体は、まるでシチューのようにぐずぐずと溶け、崩れていたのだ。


 皮も骨も溶け、それでも尚溶け続け、ついには辺り一面に誰のものか分からなくなった内臓が散らばり、それすらも溶けていく。


 たちまち店内は赤色に染まった。


 勿論マーガレットにも降りかかり、ぐずぐずと肩から溶け始めている。


「ふ、ふふふ…下衆で外道で非道ですねぇぇ? 一般人は関係無いのではぁぁ?」


「わ、私達の戦いを見られた以上、い、生かしておけませんね…そ、それより、し、死ぬ前に答えてください」


「なんでしょう?」


「や、山小屋で、わ、わ、私達を襲撃し、ア、アンリさんを、こ、こ、殺したのは…あ、貴女ですか」


「…針を…使う人でしょうかぁぁ? そうですねぇ、あまり覚えてませんがぁぁ、殺したかもしれませんねぇぇ、申し訳ありませんが、クズの顔はすぐに忘れてしまうんですぅぅ」


「や、やっぱり…お、お前の、お前のお前の、お前のせいで!」


 リオは感情に任せてもう一つの水風船を直接マーガレットに叩きつける。


 当然の如く破裂し、大量の溶解液がマーガレットを襲う。


 リオの攻撃用の魔具、『凄惨性溶液』は液体の魔具である。使用者と使用者の私物以外全てを溶解させ、蒸発させ、やがて存在ごと消してしまう、凶悪で残忍な魔具。目撃者の口封じと、証拠隠滅に使っていた。


 こんな風に堂々と主力として使う事はあまり無かったが、関係無い、コイツには、真面目で惨たらしい死がお似合いだ。


 グズグズと崩れていくマーガレット。しかし、その口元はまだ邪悪にニヤけている。


「このぉっ!」


 その笑顔が不快で、リオはもう一つ、水風船を投げつけようとした。


 しかし、不意にその手に力が入らなくなった。続いて、腹部に貫かれたような激しい痛みを感じ、リオは叫びながらその場に倒れ込んだ。


「な…なに…なにぃ?」


 息を荒くしながら、自分の腹部に手を当てる。目の前に持ってきた両手には、赤くヌルリとした液体が大量に付着していた。


「高圧で噴射された水はぁぁ…岩をも砕くんですよぉぉ…貴女のまるで、マシュマロのように柔らかいお腹などぉぉ…最も簡単に貫けますぅぅ」


「な、なにを、言って…ああ⁉︎」


 言いながら、リオは自分の失敗に気付いた。


 アンリの死に方、それは水などどこにも無い山奥での溺死だった。そして、そのアンリを殺したのがこの女なら、当然気付くべきだった。


 リオ自身が、犯人は魔女だと断定していたのに。なぜ、マーガレットが魔女化しているという可能性に行き着かなかったのか。


 その魔法の特性が、液体を浴びれば液体になれる、というものかもしれないと、普段のリオなら、すぐに気付けたはずなのに。


 たった一人、そして、味方を殺した憎き仇。その感情的な部分が、リオの判断を狂わせた。


「不注意ですねぇ、迂闊ですねぇ、いい加減ですねぇ…下賤な私の愚かな愚兄は、部下の教育もまともに出来ないのですかねぇぇ…」


「な、なにを…言って」


「理解する必要はありませんよぉぉ? 貴女のもう死にますからぁ」


「…う、ぐぅ…やだ、やだやだ、死にたくないよぉ! おねがいします! たすけて、ごめんなさい! もうしません! おねがいしますぅっ!」


 泣きながら命乞いをするリオを、つまらなさそうに眺めて、マーガレットは液体化した自分の身体をリオの傷口から体内へ侵入させる。


「子供だから手加減するとでもぉぉ? 許される行為と許されない行為がありますよねぇぇ? 害悪な人類は排除すべきです、例えそれが老人だろうと、幼子だろうとねぇぇ?」


 そう言いながら、リオの体内へ完全に侵入したマーガレットは、直後、リオの身体を内部から破裂させ始めた。


 最初は足の爪先から、順に頭部へ、ゆっくりと、まるで風船が破裂するように、骨や血肉を飛び散らしていく。


「いいぃいいいいぃいああああああっ! いだいっ! いだいいだいっ! やべでっ! ころさないでっ! しにたくない! しにたくないよぉおおおお!」


 幼い少女は、その命が終わるまで、喉が張り裂けんばかりに叫び続けた。


 最後に頭部を破壊したマーガレットは、満足そうに店を後にした。

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