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魔女伝  作者: 倉トリック
魔導兵器編
103/136

究極の兵器

「若干ボクへの不満入ってなかった?」


 話し終えたペリーヌに、ジュリアは真顔でそう言った。


「そう聞こえましたか? まぁ、今でもたまに思いますよ、なんでケリドウェンさんの暴走を止めてくれなかったのかなぁって」


「『大虐殺』はマジで仕方なかったんだってば! っていうか、結果としてアレが良い方向に事を進めてくれたんじゃないか! ボクのせいにされるの納得いかなーい!」


 エルヴィラとの関係よりも、なんで自分が肝心な所で信用されないのか、その理由が分かってしまったジュリアは必死に抗議する。


「誰もジュリアさんを責めてはいませんよ、そもそもケリドウェンさんを警戒していなかった私に責任があるんです、彼女の暴走行為にもっと早く気付いていれば…はぁ」


 いや、気付けていたとしても、恐らくは止められなかっただろう。


 あの頃の彼女は、態度こそ変わらなかったが、もっとずっと人間を憎んでいた。『最後の魔女狩り』時のケリドウェンは、ペリーヌとジュリアから見てみれば、かなり丸くなった方なのだから。


 当時のケリドウェンを本気で止めるのなら、殺すしか方法は無かっただろう。


「まぁそれもほぼ不可能に近かったかな、あの頃には既にアラディアとかグローアとかいたし、ケリドウェンチーム全員に襲われたら流石のボクも死ぬだろうね」


「でしょうね、私も自信ないです」


「またまたぁ」


 実際、ケリドウェンが作ったチームの完成度は、過去最高とも言えるぐらい高かった。一人一人の戦闘能力が高いのは勿論だが、何より、チームとしての結束が最高だったのだ。


 あの十二人が今もここにいれば、世界の一つや二つは軽く滅ぼせるだろう。


 本当に、惜しい人材を亡くしたものだと、ペリーヌは小さくため息を吐く、


「『大虐殺』…私は参加していなかったんですけど、実際どうだったんですか、『反乱の魔女』が四人も亡くなった原因は」


 ペリーヌが尋ねると、ジュリアは悲しそうに泣くフリをしながら答える。


「人間側についた魔女がいた事が、主な原因かな…それこそ、ここの主人、『皮剥の魔女』だって襲ってきたんだ、まぁ最も彼女はどちらの味方もしてなかったし、戦場をしっちゃかめっちゃかに引っ掻き回して、好き勝手滅茶苦茶に暴れるだけ暴れて帰ったけどね」


 普通に大迷惑だったな、とジュリアは懐かしそうに言う。


「クエットさんもいたと聞きましたけど…何気にその頃から『防衛の魔女』的な存在はいたんですね」


 そうなると、この場所は二人にとって、かなり因縁深い場所ということになる。


 決して小さくないダメージを、『反乱の魔女』に与えてくれた魔女が住んでいた場所。そこに、今『反乱の魔女』を創設した二人が足を踏み入れている。


 何百年か越しに、責任を取ってもらいにきたみたいだ。


 いや、取りに来たのは魔法だが、しかも自分達の元メンバーの魔法。


「因果を感じるねぇ」


「おかしいですね」


 ペリーヌが急に立ち止まり、辺りを見回しながら言う。


「どうしたんだい?」


「いえ、大したことは無いんですが…そうですね、どうも私達、さっきから同じ場所をずっとぐるぐる回っているようです」


「滅茶苦茶大したことじゃないか、っていうかマジだ、さっきここ通ったよね」


 ジュリアの足元には、ゴーレムが壁を突き破った時に出来たであろう破壊痕があちこちにあった。しかし、破られた壁だけは、既に修復されていた。


「ゴーレム君は既にいない…ボク達を探してるのか…」


「それに関しては大丈夫です、アレが姿を見せれば、即座に時を止めて逃げる予定ですから…しかし、うーん、妙ですね、魔法の気配を辿っているのに、一向に近付かない…かと言って遠ざかってるわけでもない…」


「結界でも貼られているんじゃないのかい? というか、結界の一つや二つ、無い方が不自然だと思うけど」


「ええ、勿論結界はありました…なのでそれは解除したんですよ…そしたらこのザマです」


「二重結界?」


 ジュリアが、両手の人差し指をクロスさせながら言うと、ペリーヌは首を横に振り、同じように両手の人差し指をクロスさせて言う。


「というよりは、魔法効果を掛け合わせた、魔法複合型の結界と言うべきでしょうか」


 ペリーヌは壁に触れながら再び歩き出す。


「二重結界にもしてあったみたいです、ただ、二重目のそれは守る為では無く、結界を解除した者を検知する用の、いわばダミーでしょうか」


「なるほど、ダミーの破壊が発動条件になって、メインの結界が発動したってわけ、やられたねぇ…ミスれば振り出しに戻される、双六か迷路みたいだ」


「すみません、迂闊でした」


「いやいや、むしろ追い詰めてるでしょ、このメインを突破すれば、直で魔法所有者って事でしょう? 向こうも焦ってるんじゃないかなぁ」


 楽しそうな笑みを浮かべるジュリアを、少し羨ましいとペリーヌは思う。


 どんな事でも楽しめるというのは、凄い才能だと思う。自分にはとても真似できない。世の中のありとあらゆる問題が、ペリーヌにとっては取るに足らない事ばかり、それ故に、どんな事が起きても常に冷静というか、悪く言えば冷めた態度ばかり取ってしまう。


 迷路感覚でこの状況を楽しむジュリアとは違って、ペリーヌはさっさとこの結界を解除する方法は無いかと探っていた。


 魔力の発生源を探り、結界を発生させている術式を見つけて破壊出来れば、すぐにでも解除出来る。


「…おや、これは」


 しかし、事はそんな単純な話では無いようだった。


 魔力の発生源、つまりは、この結界を作る術式は見つけた。しかし、そこに辿り着くのは、少々骨が折れそうだった。


「なるほど…ジュリアさん、まさに迷路ですよ」


「ん?」


 ペリーヌは、重そうな扉の前で立ち止まる。そしてゆっくりと開けて、中に入っていく。


 そこは本棚が立ち並ぶ、書斎のような場所だった。


「この部屋が術式がある場所なのかい?」


「いえ…違います、アレを見てください」


 ペリーヌが指差す先には、本棚と本棚の間に、不自然に設置された扉があった。そこ以外にも、いたるところに扉がある。


「なんだいこれ、別室に繋がってるのかな、この施設こんなに部屋があったっけ?」


 ジュリアがドアノブを掴み、回した瞬間、一瞬強い魔力を感じた。


「なんだ…今の」


 謎の魔力に混乱したが、それよりもジュリアは別の事に驚愕する事になる。


 扉を開けた先に広がっていたのは、さっきまで彷徨っていた廊下だった。


「アレ?」


 扉を間違えたのだろうかと思い、振り返ると、更に困惑する事態が起こっていた。


 さっきまで自分達がいたのは、本棚が沢山ある書斎のような場所だったはずだ。しかし、今目の前に広がっている部屋は、食器やキャンドルなどがテーブルに並べられている、食堂のような場所に変わっていたのだ。


「どうやら文字通り、別室に繋がっているようですね…次元を超えて」


「マジで迷路って事? これ、もしかして、正解な扉をあけながら進まないと、すぐに廊下に戻される上に、スタート地点まで別の場所にリセットされるって事?」


「どうやら今回の魔法の所有者は、相当遊び心に満ち溢れているようですね」


「いやいや普通に迷惑なだけだよ、どうするのこれ」


 その時、ガチャリと、扉を開く音がした。


 ペリーヌとジュリアでは無い、第三者が、この部屋に通じる扉を開けたのだ。


『魔女ヲ発見、抹殺シマス』


 そのゴツゴツとした重々しい見た目には似合わない、機械のように無感情な女性の声でそう言いながら、兵器ゴーレムが現れた。


「…そしてどうやら、不正解の扉を開けた場合は、私達の存在が彼に伝わり、その場に召喚されるという罰ゲーム付きのようですね」


「不正解時のペナルティが多過ぎるし大き過ぎるでしょ!」


 ゴーレムは一瞬屈んで、狙いを定めてから、拳を振り上げ二人に向かって一気に跳躍する。


 石で出来た巨体が、落下の衝撃を加えながら拳を叩き込んで来る。二人は避けたが、さっきまでいた場所がまるで爆弾でも爆発したかの如く木っ端微塵に破壊された。


「相変わらずその図体の割には速いよねぇ!」


「すごい技術ですね、石をこんなにスムーズに動かせるなんて、私出来ませんよ」


 土煙の中からこちらを見つめるゴーレムに、ペリーヌは称賛の声をあげる。


 しばらくゴーレムは二人を交互に見て、標的をペリーヌに絞り、再び拳を構えた。


『高濃度ノ魔力ヲ感知、目標ノ駆除ヲ最優先ニシマス』


「あらあら」


 再び跳躍し、ペリーヌに殴りかかる。当然の如くペリーヌは避けるが、攻撃の連打は止まらない。


 連続した強力な打撃、そして立て続けに繰り出される蹴り。


 だが、ペリーヌも、機敏な動きでそれを避けていく。


「すっご」


 いつものふんわりした雰囲気からは想像もできないほど、素早い動きでペリーヌはゴーレムの懐に潜り込み、掌を思い切り叩きつけた。


 ペタペタと、張り手のように何度も掌を打ち付ける。


 勿論それ自体に威力などある訳がなく、すぐにゴーレムに振り払われてしまった。


「まぁ、こんなものでしょうか」


「ペリーヌ、今のは」


「離れましょう」


 ジュリアの話を最後まで聞かず、ペリーヌは彼女の手を引いて、急いでゴーレムから離れる。


「どうしたのさ! 何をしたっていうんだい⁉︎」


「爆破の魔法で、突破します」


 そう言って、ペリーヌはパチンと指を鳴らす。その瞬間、ゴーレムに触れた部分が赤く光り、直後激しい爆発を連続して起こした。


 触れた部分を任意のタイミングで爆破する特異魔法、『掌安爆薬しょうあんばくやく』。ペリーヌが最も使いやすいと評価し、そして最も嫌う魔法の一つである。


「動き回らなきゃいけませんし、派手に爆発しますし…品がないんですよね、恥ずかしい」


 しかし、その甲斐あってか、ゴーレムはグラグラと揺れ、ドシンと軽く地面を震わせながら倒れた。


 あれだけ頑丈だった体にヒビが入り、そこから白い蒸気が噴出している。


「はははっ! ざまーみろ!」


 ガッツポーズをしながら喜ぶジュリア、しかし、ペリーヌは怪訝な表情を浮かべる。


「なんでしょう…何か変ですね」


 ゆっくりと、ゴーレムが立ち上がる。


 相変わらずヒビから蒸気は漏れているが、それが、どうやらダメージによるものでは無いようだった。


 ヒビは、どんどん広がっていき、ゴーレムの体の至る所から蒸気が噴き出している。


『想定外ノ損傷ヲ確認シマシタ、戦闘データヲ元ニ、バージョンアップシマス』


 そう言って、ゴーレムは蒸気に包まれ姿が見えなくなった。その直後、凄まじい爆発とともに、石の破片が辺り一面に飛び散った。


 二人とも防御魔法を展開して身を守ったが、そんな爆発よりも、目の前で起こった異常事態にうんざりしていた。


「なるほど、マリちゃんは天才だったわけだ、これを兵器としてバラまかれてたら、本当に魔女は絶滅したろうね」


「ええ、あまり気持ちの良い言い方ではありませんが、本当に彼女が死んでいてくれて感謝です」


 爆煙の中から、重い足音と共に、再びゴーレムが姿を現わす。


 しかし、その姿はさっきまでのゴツゴツとした石像のようなものではなく、よりはっきりと人間の形をしたものとなっていた。


 しかし、それよりもペリーヌが気になったのは、ゴーレムの両腕に浮き上がった魔法陣である。


「あれは…私がよく使う術式ですね…」


 何か嫌な予感がする。


『バージョンヲαカラβヘ更新シマシタ。引キ続キ、魔女ヲ駆除シマス』


 そう言って、ゴーレムは再びペリーヌに襲いかかる。


 先程よりも更に素早い動きで一気に距離を詰め、両手をペリーヌへと伸ばした。


 すかさず伸ばされた手を押し退け、ペリーヌも再度両手でゴーレムの体に触れようと伸ばす。


『危険魔力ヲ探知、防御シマス』


 そんな音声が流れた直後、ペリーヌのその手が触れるより先に、ゴーレムから熱風が噴き出した。


 そのあまりの風圧に、軽いペリーヌの体は簡単に吹き飛ばされ、壁際まで追い詰められてしまった。


「大丈夫かいペリーヌ!」


 慌てて駆け寄るジュリアの手を掴み、態勢を整える。


「手強いですね…今まで戦ってきた誰よりも強いと思います」


 服についた汚れを払い落としながら、ペリーヌは言う。


「ジュリアさん」


「ははーん、二人で協力して破壊しようって事だね? 任せてよ」


「いいえ、逃げるが勝ちです。これは多分、相手にしていたらキリがないパターンですよ」


 ペリーヌは、軽い火傷を負った自分の両手を見つめながら言う。


「彼の兵器としての特性が分かりました、今この状態では太刀打ちできません」


「兵器としての特性?」


「彼は兵器でありながら、私達魔女に欠如したものを持っていますからね」


 魔法攻撃への対策を練り、戦闘経験を元に姿形を変え、そして攻撃力などを更に上げている。


 戦闘を通して、()()()()のだ。


「戦闘経験を積めば積むほど、相手が強ければ強いほど、より強力に成長していく、尚且つ一部魔法攻撃によるダメージは無効化される、なるほど、まさに対魔女兵器の完成形、究極の兵器と呼べますね」


 ベースが人間の死体なだけありますね。


 再びゴーレムがこちらに飛びかかろうとしていた。


「やむを得ませんね」


 ペリーヌの声を合図に、二人は一気に一番近い扉へと走り出した。


 最強と恐れられた『反乱の魔女』が、初めて逃亡するまで追い詰められた瞬間であった。

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