ガールズトーク(愚痴)
ペリーヌが使える特異魔法は、その数なんと二十。
とは言え、数だけで言えば、ケリドウェンの方が上である。彼女は千を超える特異魔法を持っていたのだから。
それでも、ケリドウェンもペリーヌには勝てなかった。
通常、一度に使える特異魔法は一つだけ、併用できるのはかなり無理して、多くても二つが限度だ。
しかし、ペリーヌにはそれが無い。二十個の特異魔法を、一度に全て使う事が出来る。
現在使っている、時を止める、否、時を操る魔法『ウォッチング・ストップ』もそのうちの一つだ。
「そろそろ良いですかね」
ペリーヌが後方を確認しながら、時止めを解除する。
「なんの躊躇いも無く解除したねぇ、時止め解除後は完全無防備状態だっていうのにさ」
そう、勿論強過ぎる能力には、大きな代償が伴う。
ウォッチング・ストップの使用後は、魔力と不死性が完全にゼロになってしまうのだ。十秒止めれば十秒間、一分止めれば一分間、ただの人間になってしまう。
心臓を貫かれても死んでしまうし、頭を潰されても死んでしまう。本当にただのか弱い少女と化してしまう。
だと言うのに、一切慌てず動じず、ペリーヌはあっさりと魔法を解除したのだ。
「ほんの三十秒ほどでしょう? それぐらい大丈夫ですよ、それに…ちゃんと使用後のケアぐらい自分でしてます」
完全な無防備状態になる、しかし、使用者がペリーヌだった場合は、その限りでは無い。
その証拠に、時止め使用直後だと言うのに、ペリーヌは次の魔法を使っていた。
「…あれ、えっと、ど忘れしちゃった、なんだっけソレ、なんですぐ魔法が使えるんだっけ」
「『反動耐』、この世の全ての反動や衝撃を無くす魔法です…魔法を酷使した事による反動で起こる不具合も、全て無かった事にしてくれます」
「ああ、それか…二十個も覚えられないな」
「当然でしょうね、全部見せてませんし」
「五百年ぐらい一緒に居て、まだボクが見てない魔法とかあるってマジ?」
「マジです」
わざと隠しているのか、わざわざ見せる必要が無いのか、その真意は分からなかったが、少なくともペリーヌにとって、魔法を使うデメリットなど存在しないと言う事が分かった。
どんな事が起きても、何かしら対処できる。
彼女の落ち着いた性格は、こういう余裕から生まれるものなのかもしれない。
「見つけました」
壁に触れながら辺りをキョロキョロしていたペリーヌが、突然そう呟く。
「何を?」
「魔法所有者です、ですが…なんでしょう、妙な感覚ですね」
当然の如く、対象を見つけてしまった。
「いや、もう特に何も驚かないや」
「何がですか?」
「ううん、別に、行こ行こ」
思考を停止させて、ジュリアは子犬のようにペリーヌの後を追う。
ジュリア達が『反乱の魔女』を名乗り出して、もうどれぐらいになるだろう。世間では壊滅したとされているが、確かにまだここに二人、しかも要の二人が残っている。
その原点がこんなにも分かりやすく最強なのだから、壊滅などするわけが無い。あるとすれば、ペリーヌが正式に解散と言った時、初めて『反乱の魔女』はこの世から姿を消したと言えるだろう。
魔女狩りは無くなり、世界は一見平和そうに見える。
しかし、ペリーヌは組織の解散を宣言しない。それは、まだこの世界に疑いの目を持っているという証拠である。
「ペリーヌ」
「なんですか」
「君は人間が嫌いかい?」
「…その質問、あまり好きじゃ無いんですよね」
ペリーヌはうんざりしたように言う。
「逆に聞きますけど、ジュリアさんは人間が嫌いですか?」
「嫌いだねぇ、見てて面白いけど、それだけかな。前にも言ったけど、カブトムシか何かだと思ってるよ、見て楽しむ生き物、それぐらいの距離の置き方がベストだと思ってるかな…ああ、でも、中には本当に面白い子もいる、そういう子は好きかな、もしかしたらボクを殺しうるような力を持ってるかもしれないだろ?」
「まぁ、おおよそ分かっていた解答ですね、でも私はそっちの方が好きです」
ペリーヌは満足そうに頷いた。
「好きな人もいれば嫌いな人もいる、私や貴女の場合、嫌いな人間が大多数を占めているというだけで、別に人間が嫌いなわけじゃないんですよね」
「そう言われてみればそうかも」
「だから、私が嫌いなのは、頭の悪い人が嫌いです」
ペリーヌは今までの事を思い出しながら言う。
「得にもならないのに、知ろうともせず思考停止で魔女が嫌い、人間が嫌いと喚く人達が嫌いですね、人間も魔女も、貴女なら分かるでしょうけど、言ってる事もやってる事も本質は何も変わりません、憎しみ合う事自体が不毛だと言うのに、それを理解しない、理屈じゃないってよく聞きますけど、いや、理屈ですよ、理屈以外に何かあるって言うんですかね」
「感情のコントロールっていう話?」
「大まかに言えばそうです、だから私は、人間だけじゃなくて、人間を毛嫌いする魔女も嫌いですよ」
まるで心当たりがあるかのように、ペリーヌは指折りしている。
「でも、昔から辛い目にあってきた魔女なら仕方ないんじゃない? 恐怖って、どうしても制御きかなくなっちゃうと思うけど」
「向き合ってみようともしないからでしょう? 確かにいきなり燃やされかけたり、吊るし上げられそうになったらトラウマにもなるでしょうけど、何故そんな事をするのかって、考えようともせずに、人間は全部怖い、悪いって決めつける、最低の極論と言いますか、思考停止丸出しで恥ずかしくないんですかって小一時間ほど問い詰めたいですよ」
勿論これは人間にも言えます、とペリーヌは付け加える。
「同じ魔女にだって、色んな人格を持つ魔女がいるじゃないですか、大らかな人も粗暴な人も、しっかり者も怠け者も、私たちも含め、色んな人格を持って、別々の意思で、違う思考を持った魔女がいるじゃないですか、だったら人間側にも色んな人格を持った、色んな思考を持った人間がいるに決まってるでしょう、酷い事されたなら、酷い事をしてきた人間だけを恨むなら分かりますけど、それで全人類を敵だと認識するという発想は、本当に理解に苦しみます、何回も言いますけど、これ人間側にも言える事ですからね?」
そもそも魔女は人ならざる異能を持っているというのに、何故人間は、自分達が一方的に蹂躙出来ると考えるのか意味が分からない。本気を出せば明日にだって滅亡させる事が出来る、そうしないのは、意味が無いからだ。
無害な人間を巻き込む意味が無いから、取るに足らない相手に真剣に腹をたてる意味が無いから。
そう、相手になるわけが無いのだ。魔女にとって、人間は敵じゃない。
「人間も魔女も、どこかズレてる人が多過ぎです、敵視する必要が無い人にさえ敵意と殺意を向けて、無意味に憎しみ合う、なんであんな事出来るんでしょうね、無意味に疲れるでしょうに」
ペリーヌは今までに無いぐらい、凄い勢いで喋り出す。
日頃の鬱憤が溜まっていたのか、ほとんど愚痴のようにもなっていた。
そして、ここぞとばかりにジュリアもそれに便乗する。
「分かるわぁ、ペリーヌ、それすごい分かる、ボクも昔さぁ、顔も知らない奴に刃向けられて、何事か尋ねたら、昔魔女に家族殺された復讐だって言われてさぁ…いやそれボクじゃないし、関係無いし、お前どんな思考回路したんだよって思ったから、返り討ちにした」
「まさにそれですね、いや、だったら殺した相手を探した方が良いでしょうって、根本からズレてるんですよ、そのズレっていうのは、やっぱり悲劇の主人公な自分に酔ってるだけなんでしょうね、だってちゃんと復讐を考えているなら、他の事に気なんて取られないはずですし、復讐対象が魔女なら、個人の特定も確実に出来るでしょうに」
「あー、でも、相手の正体が分からなかったらどうする?」
「犯人の顔が分からないから、とりあえず魔女を片っ端から殺すって普通にサイコパスじゃ無いですかね? 普通考えますけどね、絶対手がかりってあるものなんですから、自分の大切な人の死を理由に、自分の殺害欲求を満たそうとしてるとしか思えませんし、シンプルに最低ですよ、ほんと」
散々愚痴を吐きあって、二人は少しスッキリした顔になる。
分かっているのだ、自分達がどうこう言おうと、世界の在り方が変わるわけではない。自分達の価値観が全てではないのだから、当然である。
それでも、誰かと考えを共有できるというのはとても楽しい。
「だから結論としては、私は別に人間も魔女も嫌いじゃありません、私が嫌いなのは、極論をぶちまける勘違いした人間や、魔女です」
「みんながみんな悪い子なわけ無いからね、ボクも同意見だ、ただどうしても、ボクは魔女に肩入れしちゃうかな、人間の方が圧倒的に頭が悪い子が多い気がする」
「それはそれで良いんですよ、だから私は貴女やエルヴィラさんが好きなんです」
「なーんでそこで『縄張りの魔女』の名前が出てくるのかなぁ」
「エルヴィラさんは賢いですからね、ああ見えて平等で公平な考えのもと生きてるんですよ」
「ふーん」
面白くなさそうに、適当な相槌を打つ。
ジュリアにとって、ペリーヌは生きる全てだ。しかし、ペリーヌにとってのジュリアはそうで無い事は、ジュリア自身が一番よく分かっている。
はっきり言って信用されていない。いや、全くというわけではないが、肝心な所は多分信用されていない。
悔しいが、ペリーヌの生きる意味は、全然違うところにある。
『縄張りの魔女』エルヴィラ。
ペリーヌの生きる意味は彼女にしか無い。
一体彼女の、どこに惹かれる要素があったのだろう。
口は悪いし、目つきも悪いし、自分勝手だし、大した魔法は使えない癖に妙に強者ぶっているだけの小物。
彼女が『最後の魔女狩り』を生き残れたのだって、ペリーヌが裏で操作したからというだけで、本来なら髪の毛一本残さず死んでいるはずなのだ。
どう見ても死ぬ運命だったエルヴィラを、わざわざ助ける為に未来すら強引にペリーヌは変えた、否、エルヴィラが変えさせたようなものだ。
「よく分からないなぁ」
先に会ったのはボクなのに、と、ジュリアは子供みたいな理由で本気で拗ね始める。
「何が分からないんですか」
思いのほか大きな独り言になってしまっていたようで、ペリーヌが振り向いてそう言った。
「え、いや、別に…いや、そうだな、いい機会だ」
こんな状況だが、真相を確かめる事にしよう。
一体、何が、どうなっているのか。
「ペリーヌってさ、『縄張りの魔女』の事が大好きじゃん?」
「ええ、愛してますよ」
「なんでかなーって」
「…うーん」
ペリーヌは暫く考えた後、ポツリポツリと語り出す。
「そうですね…どこから話せば良いかと言えば…アレは…そう、私達が『反乱の魔女』として暴れていた頃ですね…少し長くなりますけど、聞きたいですか?」
「うん、是非、前からかなり気になってたんだ、君と『縄張りの魔女』の馴れ初めがどんなものだったのか、なんで君はそんなにも彼女に夢中なのか」
少し話が逸れたとしても、是非聞かせてほしいな、とジュリアは言う。
「物好きですね…では、歩きながら話しましょうか」
どこで、どんな風にペリーヌとエルヴィラは出会ったのか。
その出会いが、ペリーヌをどんな風に変えたのか。
少し、いやかなり話が本編から逸れてしまうかもしれないが、魔女二人の雑談に、ほんの少しだけ付き合ってもらう事にしよう。




