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第四話 超絶美少女とデートすることになりましたー事前準備1-

「ぱんぱかぱ~ん!! おめでと~おおおうううう!!!」


 パン! パン!


 目の前でいきなりクラッカーが爆ぜて色とりどりの小さな紙片が撒き散らされる。さらに嫌そうな顔の若桜君が、面倒臭そうに掲げた小さなくす球から下がった紐を、御手洗さんが引っ張ると、ポン! と玉が割れて中からやはり紙片と、それから小さな垂れ幕が飛び出した。曰く、


「第一の試練突破おめでとおおおお~~~!!!」


 垂れ幕と同じ言葉を口にして御手洗さんが盛大に拍手をする。一方若桜君は用済みになったくす球を机に放り出して不機嫌顔で腕組みし、同様に不機嫌顔の邪田さんはクラッカーを静かに机に置くと淡々と周囲に散らばった紙片をカタし始めた。うわあ。何だこのほとばしる『やらされた感』。盛り上がってるのは御手洗さんだけだよ。


 なんだかいたたまれない気持ちになる僕と白け切っている残り二人を全く気にせず御手洗さんは無邪気度マックスの笑顔。


「いやあよかったねえみっきー!! これで夢前さんの恋人に一歩近づいたわけだ!! ほんとにおめでたいよ! あたしも方々駆けずり回ってお手伝いした甲斐があったね! 正直みっきーは落ちると思ってたけどコレは奇跡か幻かってね! あっ幻っていえばイリュージョンだけどみっきー昨日の世界達人ショー見た?!! すっげええの!! なんかねビルが宙に浮いたりすんの!! あれどうなってんだろうね?! あたしが考えるに多分ピアノ線でビルを吊り上げてるんじゃないかなあ!! みっきーはどう思う?!」

 知りません。でも多分ピアノ線ではない。


 などと思いつつやはり今日も明後日の方向へとマシンガンを放ち始めた御手洗さんをスルーしながら、黙々とテーブルを片付けている邪田さんを手伝う。


相変わらず御手洗さんは後先を考えないなあ。床に落ちた紙くずは後で箒か何かを借りて掃き集めないと。最近、主に騒々しい御手洗さんのおかげで喫茶風見鶏店員さんの視線が厳しいんだよね。このままじゃそのうち出入り禁止になっちゃうよ。


 でも………、と僕は若桜君によって放置されていたくす球を手に取る。


注目は垂れ幕の部分だ。これよく見ると厚手の布に糸で文字を刺繍してあるんだよね。彼女が手芸部であることは知っていたけど、デザインも何気に凝ってるしさすがに手縫いではないとはいえ、手間が掛かっているのは間違いない。多分だいぶ前から用意してくれていたんだろう。彼女なりのエール。僕にはそう思える。だからこのくす球と垂れ幕だけは大切に持って帰ることにしよう。


 そんなことを考えてブツを通学鞄にしまっていると、いつの間にかマシンガンの連射を止めていた御手洗さんと目が合った。


「ありがとうね」


 僕がそういうと、御手洗さんはちょっと頬を赤くしてアルプスの少女ハイジに登場するペーターのように鼻の下を擦った。


「へへへっ! イリュージョンだよ!」

「いやそれは意味が分からない」

 照れ隠しにしてもね。



「というわけで夢前さんとデートすることになりました」

『なにいい―――?!』


 僕が言い渡された第二の試練について報告すると盛大な驚きの声が女子二人から上がった。おや? 若桜君はそんなに驚いてないね。一応サプライズのつもりだったんだけど。まあいいか。


「どゆこと?! え?! もう付き合っちゃうってことなの?!」


 御手洗さんは目をまん丸に見開いてテーブルから身を乗り出している。


「おっ、落ち着け椿女。あっアレだ。きっとアレだ。アレなんだ」


 邪田さんは手に持ったティーカップをカタカタ揺らし目をキョドキョドと彷徨わせながら「アレだ」を繰り返している。アレってドレだ?


 驚かし甲斐がある二人を楽しく眺めながら、僕は真相を告白、―――する前に若桜君がポソリと。


「どうせ何処かについて来いって言われただけだろ」


 おっよくわかったね若桜君。勘がいいなあ。


「うん。日曜日にバス停前で待ち合わせして、そこから何処かに行くから付いてきて欲しいんだってさ」


 僕が答えると邪田さんがコホーとダースベイダーみたいな息を吐きつつ長い前髪の隙間から翠色の鋭い視線で睨みつけてきた。


「紛らわしいことを言うな。呪うぞ。三日三晩鼻水が止まらない呪いを掛けてやるからな。 しばらく口呼吸しか出来ずに苦しむがいい」

「それはなんというか地味に嫌な呪いだね」

 口の中が乾きそうだ。


「いやいやいや!!」


 なごやかムード(?)の僕達の間になんだか切迫した形相の御手洗さんが割って入る。


「それデートじゃん!! 立派なデートじゃん!! 第二の試練がいきなりそれなの?! 夢前さんは高嶺の花じゃなかったの?! ハードル低いじゃん!!」


「いやあ僕もびっくりしたんだけどね。いきなり二人でお出かけなんて。御手洗さんは第二の試練がこういうのだって知らなかったんだ?」


「知らないよお!! 第二までパスした人は見つからなかったんだもん!! だいたい第一でみんな落ちてるんだよ。………しかしそっかあ~。デートっすかあ~。夢前さんってほんと謎だわあ~」


 御手洗さんは可愛らしいお顔の眉間に皺を寄せてしきりに首をひねっている。まあひねりたくなる気持ちは分かるよ。僕も夢前さんの考えてることが全然理解できないのだから。しかし、僕にはそんなことより取り急ぎ差し迫った問題があるのだった。


「というわけでみんなに聞きたいんだけど、当日何を着ていったらいいかな?」


 そう。デート、というか同年代の女の子と二人きりで出かけた経験など皆無の僕には、当日どんな格好で夢前さんに会えばいいのか皆目見当が付かないのだ。そこでここは頼もしい仲間達の意見を聞こうと思ったのだが、


『………』


 あれ? 何この沈黙。しかも皆さん僕と目を合わせてくれないんですけど?


「えーと、みんな?」


 僕が怪訝に思って促すと、まず御手洗さんが、ちょっとバツが悪そうというか申し訳なさそうというか微妙な表情で答えた。


「いやあ~。力になってあげたいのはヤマヤマなんだけど、ちょっとそれはあたしには荷が重いといいますか。なんというかですね、実はワタクシ生まれてこの方ずっと清い体なわけでして、男子が女子とデートするときにどんな服を着るかなんて見たことも聞いたことも無いわけでして、申し訳ないですがこの案件については他の方を当たっていただくのが適当かと思う所存でございまして」


 恐縮しきりという感じで御手洗さん。いいけどなんで得意先に言い訳するサラリーマンみたいな感じなの。


「えー、じゃあ邪田さんは?」


 黒髪の友人に水を向けると彼女は半眼をさらに細めてぼそりと呟きを零す。


「私がデートに着ていく服のコーディネートなど出来ると本当に思っているのか? 思っているならすぐにお前はその頭の中身を交換した方がいい。なんなら今すぐにやってやろうか? せっかくだから頭部ごと薬缶と取り替えてやろう。よほど役に立つかも知れんぞ」

そうだね。すぐにお水を注げるしね、ってひどいなっ。


「う~。じゃあわかさ」

「知らん」


 うは。若桜君は率直だなあ。しかし無愛想で粗雑だがモテ男でもあるという彼に僕は食い下がる。


「そんな事言わないで何かアドバイスだけでもお願いできないかなあ」


 僕は結構必死である。そんな僕を見て若桜君は迷惑そうに眉をひそめ、カプチーノを一口飲んでから頭の悪いやつを諭すような口調で言った。


「あのなあ。俺が俺のセンスでアドバイスしたとしてお前にそれが似合うと思うのか? 無理無理。お前と俺とでは基本スペックがまるで違えんだよ」


「いやあ。そこは僕に合わせてよ」


「何で俺がお前に合わせないといけねえんだよ。諦めろそしてダサい服を着ていって夢前にフラれろ」


 ひどいな!! ………いや、でもこれは酷すぎるんじゃないか? 普段の若桜君も粗雑ではあるけど、なんか夢前さんの事を相談してるときの彼の無関心な仕草、投げやりな態度はちょっと度を越えている気がする。そのくせ毎回出席してるし。………何か違和感があるね。


 うーん? まあ今ここで考えても仕方ないか。


 それより友人達に相談できないことが分かった以上、他の手を考えないとね。

 他にオシャレに通じてそうな人物は………。


あの人しかいないか。




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