第三話 幕間 姫と三騎士
さっぱりした。今日は緊張して汗をいっぱいかいたから。やっぱり他人と話すのはすごく緊張する。
お風呂上り。パジャマに身を包んだ私は髪をイオンドライヤーで乾かしながら今日のことを思い出していた。自分の顔が少し微笑んでいることに目の前の鏡を見て気付く。
楽しかったな。相変わらずろくにお話は出来なかったけど。
そのタイミングでエリシアが話しかけてきた。
『いかがでしたか姫。鉢伏三色とかいうあの男は?』
私は髪を乾かす手を少し止めてしばし黙考した後答えた。
―――そうですね。最初はどうなのかしらと思いましたけど、気さくな方のようですし、なによりケーキを割り勘にして下さいましたから。
『然様ですか』
曖昧な私の感想をエリシアはちゃんと汲み取って首肯してくれた。この第一の騎士は、内気で口下手な私をいつもフォローしてくれる。私の気持ちを察してちゃんと真意を分かってくれる。
あの人はどうだろう。鉢伏さん。鉢伏三色さん。少し変わった名前のあの男の子は。
「やっぱり無理かな………」
思わず口を突いて出た弱音にエリシアが眉を吊り上げた。甲冑に包まれた腰に両手を当てるいつものお説教ポーズ。
『そのような弱気でどうなさいます! 姫には大望がおありでしょう! それを叶えるまでは挫けてはなりませぬ!』
騎士の叱咤を受けて私は苦笑気味に頷く。
―――ええ、そうですね。ごめんなさいエリシア。
『いいえ。………ともかく、です』
エリシアが年下の妹を気遣うような優しい口調になった。
『姫には我々三騎士が付いております。ご心配めさるな』
―――はい。
わたしは素直に彼女の言葉を受け入れる。そう。三騎士の存在はいつも私を安心させてくれる。
『それより次の試練は………』
『あたしの出番ねえ~ん』
エリシアの言葉の途中でそれを押しのけるように蟲惑的な声が割って入る。瞬間エリシアの眉がギュッと中央に寄るのが分かった。
『ダリア! まだ話の途中であろう!』
『いいじゃな~い。あなたの話はまだるっこしいんだもの』
『むむ………』
第二の騎士ダリアは睨みつけるエリシアの視線をさらりと避わして、くねりと科を作りながら、
『お姫様。日曜日の事、いろいろ不安だろうけどあたしがちゃあんとリードして差し上げるから安心なさって』
パチリとウインク。笑顔で頷く私と対照的に、エリシアはますます渋面で念を押す。
『………くれぐれも頼むぞ。羽目を外し過ぎぬようにな』
『わかってるわよん。三色ちゃんはあたしがば~っちり見極めてみせるから。う~ん、楽しみだわあん。良い男だといいわねえん』
『………。心配だ………』
エリシアは深々とため息をつくのだった。