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エピローグ 戦士の休日明け

 いつもの喫茶店。いつもの隅の席で固まって座った友人達に僕は事後報告をしていた。


「まあそんなわけで僕は夢前さんの友達になることになったんだ」


 僕は勤めて明るく軽い調子で言ってぺこりと頭を下げた。


「ごねんね。せっかく協力してもらったのに」

「いやそれはいいんだけどさ」


 御手洗さんが怒っていいやら慰めていいやら迷ったような、要するに微妙という他無い表情で口を開く。


「みっきーはほんとにそれでよかったわけ?」


 御手洗さんにしては簡潔な問いだった。僕は苦笑気味にうなずく。


「まあね。というか他に選択肢は無かったし」


 僕がどうしても夢前さんと離れたくない以上、友達になるしか無かったというのが実際のところだ。


「そっかあ………」


 御手洗さんは肩を落とし深々とため息をつく。


「みっきーは結局そんな夢前さんのことも許しちゃったんだねえ。もうみっきーのストライクゾーンの広さは敬遠球もホームランにしちゃいそうな勢いだよね。ほとんど新庄だよ。あ、みっきー新庄知ってる? 敬遠球打ってサヨナラ安打にしちゃったんだよ。ああサヨナラ安打といえばねえ………」


 あさってに放たれるマシンガンもいつもよりキレが無い。ほとんど壁に向かって話しかける認知症老人のような風情であった。どうやら他人事だというのに軽くヘコんでいるらしい。いやヘコんでいるじゃなくて、ヘコんでくれているだろう。僕に同情してくれているんだ。有難いけども彼女がこんな風だといつもの無駄に元気なテンションMAX御手洗さんが恋しくなってくるなあ。


 一方。


「お前ほんとに馬鹿な」


 一言目でバッサリと切り捨ててくれたのは若桜君である。彼は心底呆れた様子で男前フェイスを不快気に歪めていた。


「お前は夢前の恋人になりたかったんじゃねえのかよ。友達になってどうすんだ。頭おかしいんじゃねえのか」

「うぐ」


 返す言葉も無い。いちいちごもっともだ。

 夢前さんへの思いを貫くためにあえて彼女の意向を無視した彼に言われると重みが違う。


 とはいえ若桜君の呆れ顔からは僅かに安堵のようなものも感じ取れた。僕が夢前さんと付き合えないと分かってほっとしているんだろう。頭おかしいといわれた腹いせにここは一言毒を吐いておこうと思う。若桜君こそ未練がましいよ、とね。面と向かって言うと確実に乱闘騒ぎになるので心の中だけだけど。


 さて友人ズ最後の一人邪田さんは、


「………」


 さっきから一言もしゃべらず俯いていた。長い髪が邪魔になって表情が全く窺えないけど、多分怒ってるんだろうなあ。


 彼女は始めから夢前さんを嫌っているようだったし、僕に『悪いことは言わない。もうあの女に関わるのは止めておけ』と真剣に忠告してくれてもいた。


 僕はそんな彼女の気遣いを無視して夢前さんの第三の試練に挑み、挙句の果てに恋人ではなく友人になってしまった。邪田さんが怒るのも無理は無い。


 うーん、どうしよう? これは絶交とか言われちゃうかな? 嫌だなあ、僕邪田さんのこと好きだし。そうだ安直だけどお詫びに何かおいしいものでも奢ろうか。


 焦った僕がメニューを広げ出したとき、その声が聞こえた。


「そん………うだ」


 ぼそり。邪田さんが長い前髪の奥から呟きを零した。くぐもったような声でなにをいっているのかよく聞こえない。


「ん? くるちゃんなんてい―――」


 御手洗さんが聞き返そうとしたときそれは起こった。








「そんなの三色がかわいそうだっ」







 邪田さんは、―――泣いていた。


 それもボロボロボロボロと号泣というのがふさわしいほどに涙を滂沱と頬に伝わせて。


 長い前髪が涙で頬に張り付いている。カラーコンタクトで緑色に光る瞳はぐにゃりと無残に歪み、口元は内面の激情を噛み締めるようにへの字を作って戦慄(わなな)いていた。


 皆が呆気に取られていた。誰もが邪田さんの泣き顔に度肝を抜かれていた。邪田さんもそれに気づき慌てて両手でグシグシと頬をぬぐおうとしたけど、涙は止まらなくて、ついには鼻水まで出てきて、結局顔を両手で覆って机に伏せてしまって。


 それでもその制服に包まれた体の震えは止まらなくて。


 その時、そっと柔らかな手が触れた気がした。


 同時に今まで穴が開いて寒々と風が通り抜けていた場所が、暖かい何かでじわじわと満たされていくような感覚。


 空いていた穴は僕の心の中にあった。満たされて今ようやく僕は自覚した。


 僕は傷ついていたんだ。


 夢前さんに友達になって欲しいと言われて。


 そしてその瞬間に穴が開いた。空いた場所にもともとあったのはきっと僕の恋心。いやときめきといったほうが正しいかもしれない。夢前さんと一緒に過ごすたびに狂おしいほどの熱を体中に循環させていたその発生源。


 自分の心のど真ん中に開いた大穴から僕は目を逸らそうとしていた。傷ついてなんかいないと。そうじゃなければこの傷は深すぎて、吹き出す血の量は多すぎて倒れ伏してしまいそうだったから。


 でもいくら目を逸らしても駄目だった。傷はそこにある。もし大穴を空けたまま夢前さんと一緒にいたら僕はすぐに壊れてしまっていたかもしれない。


 でも今邪田さんがその大穴に手を当ててくれた。そっと優しく塞いでくれたと感じる。傷はまだ癒えていないけれど血は止まったと感じる。


 脳裏に蘇るのは彼女を初めて見たあの時。騒がしい入学式後の教室。一人で窓から遠くを眺めていた邪田さんの姿。


 なんだか不機嫌そうな彼女が妙に気になって、声を掛けたんだ。そしたら邪田さんは「うるさい。話しかけるな」って答えた。普通だったらこれで会話は終了。僕だってさすがにそれ以上彼女に関わろうとしなかっただろう。


 でも、


 邪田さんはその一瞬後、自分が口にしたことを後悔するような顔を見せたんだ。


 それはきっと僕が傷ついたような表情をしていたから。


 でも開きかけた口からは何の言葉も出なくて。


 その時僕は決めたんだ。彼女を友達にしようって。どうしても友達になりたいって。どうしてか僕にはそんな邪田さんがとても美しく見えたから。


 そしてそれは間違っていなかったと今感じる。


 ありがとう。


 口に出せばきっと邪田さんは嫌がるだろうから心の中だけで呟く。


 僕のこの学校に入って初めての友達。君が泣いてくれたから、僕はまだ戦えるよ。まだ頑張れるよ。


「おーよしよし! 泣かないのくるちゃん!」


 能天気な声の割には気遣わしげな様子で、泣き伏している邪田さんの頭をぐりぐり撫で回し、伏せたままの邪田さんにベシ! と手を払われている御手洗さんや、意外と女の子の涙に弱いのか、椅子から半分立ち上がっておろおろ周囲を見回している若桜君を見ながら僕は決意を固めた。


 それは闘争の決意だった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 数日が経過していた。


 僕はこの数日で夢前さんの友達としての対外的な地位を確固たるものとして固めていた。


 始めは不幸の手紙だった。


 端から見ればやたらと夢前さんと一緒に居るようになった僕をやっかんで、男子たちが毎日山盛りに不幸の手紙を下駄箱に突っ込んでくれたのだ。


 内容は「死ね」とか「殺」とか、「爆発しろ」とか、まあほぼ僕に速やかにお亡くなりになって欲しいというものだった。


 僕は多少うんざりしつつも実害がそれほどあるわけではなかったので、いただいたお手紙を掃除用に廊下に置いてあるデカいポリバケツにそのままポイするという作業を繰り返していたのだが、ある日夢前さんが手紙を抱えている僕を発見。


 唯一の友人が不幸(の手紙)に見舞われていると知った彼女はただちにぶちキレ、学校中に轟くような大声で叫んだ。






「誰ですか鉢伏さんにこんな手紙を出したのは?! 何でこんなことするんですか!! 私の『友達』に酷いことしたら許しませんよ!!」





………以来僕は学校公認の夢前さんの友人ということになり、不幸の手紙の配達サービスはぴたりと止んだ。


 ちなみに不幸の手紙自体よりも夢前さんの友達発言のほうがよっぽど僕の胸を抉ったのは言うまでもない。………そりゃね。友達になるとは言いましたけども、それで胸が痛まないかというとそれはまた別問題というか。「あたしあんたに気なんてありませんから」と真っ向から言われてるようなもんですからね。


 さて、そんなこんなを経つつ本日。


 夢前さんは今まさに告白を受けている最中であった。


 付きまとっている僕が友人だと分かって、様子を見るようにしばし吹き止んでいた告白の嵐がまた再開されたのだ。


 しかしその様子はおそらく以前とは異なっている。


「ごめんなさい!」


 校舎裏の植え込みの影あたりから夢前さんの声が聞こえてくる。


 そこは校舎からも学校に面した道路からも隠された、我が一豪高校における告白のメッカだった。


 僕は夢前さんとこの後約束をしていて「近くで待っていてください」と言われていたので、校舎の影に身を潜めるようにして告白の様子をひっそり伺っていた。ようは出歯亀である。人の告白を覗き見るなんて決して褒められた事ではないが、好きな人が近くで告られていたら気になるのは、どうしようもない人情というものだろう。


「私に恋人は必要ないんです。だからお付き合いはできません! ごめんなさい!!」


 夢前さんのお断りの言葉。続いて植え込みの影からうなだれた男子がとぼとぼと歩み出てきた。必要無いとまで言われてはもはや食い下がることすら出来なかったんだろう。悄然とした姿は見るに忍びなく僕は彼から目を逸らす。


 そう夢前さんは告白してきた男子に試練を課すことを止めていた。それどころか今聞いたようにきっぱりと告白そのものを断るようになっていた。


 どうやら彼女には友達百人作りたい的な願望は無く、たった一人、僕という友人を得たことで満足したらしい。まったくもって誰にとっても幸いなことである。あんな試練なんてものを続けていたらそのうち刺される。


「鉢伏さん」


 物思いに耽っていた僕を夢前さんの声が呼んだ。


「こんな物陰にいたんですか。ちょっと探しちゃいましたよ」


 テテテと軽い足音をさせて走り寄ってくる。ちょっと口を尖らせているその表情には、以前には無かった親しみが含まれているような気がして、僕は思わず頬が緩みそうになる。


 友達付き合いは順調だった。


 朝は夢前さんとバス停で待ち合わせて短い距離ながら一緒に登校。ともに帰宅部である僕たちは放課後もバス停まで一緒に歩くようになっていた。


 そして彼女が一番喜んでいたのがお昼休みだった。


 彼女のたっての頼みで、僕が彼女のクラスに行って空いている机を借り、合体させた二脚で即席のテーブルをこしらえ、その上に彼女はお弁当を僕は購買のパンを広げるのだが、そんな『一緒にお昼』の初日、彼女が見せた姿は本当に携帯に撮って残しておきたい代物だった。


 彼女は準備が終わるとおもむろに教室を見回し、様子を守っていた女子たちに向けて胸を張りにやっと笑って見せたのだ。


 それはもしそんなものの教本があるなら模範例として提供したいぐらいの見事過ぎるドヤ顔だった。


 何やかやと言われたりハブられたりしていたことをやはり腹に据えかねていたのだろう。友達を得たこの機に反撃に出たというわけだ。クラスメイトの彼女への扱いについては僕も思うところがあったから、隣で僕もドヤ顔をしていたかもしれない


 そしてそんな日常の変化とともに彼女自身にも大きな変化が生まれていた。


 三騎士が出てこない。


 僕が友達になってから数日が経つというのに、僕は最終試練以来、三騎士のどのキャラを演じる夢前さんも見ていなかった。僕が接したのはすべて彼女自身、夢前さんの素のキャラだけだった。


 三騎士は居なくなったのだ。


 彼らはそもそも、孤独だった夢前さんが寂しさのあまりつくり出した妄想の友達。夢前さんがそのキャラを演じていたのもその延長だと考えられる。たぶん僕が友達になったことで夢前さんの孤独が解消され三騎士はその役割を終えたのだ。


 きっと三騎士は夢前さんにとってのイマジナリーフレンドだったのだろう。


 夢前さんと友達になってからネットで調べてみたのだけど、空想の友達、イマジナリーフレンドを持つのはそんなに珍しいことでもないらしい。むしろ人間の成長過程ではよく起こる心理学的、精神医学的現象なのだそうだ。


 まあ夢前さんは現実には干渉し得ない三騎士を自ら演じることで、対人コミュニケーション能力を補おうとしていたということで、少し特殊かもしれないけど。


 イマジナリーフレンドは人間関係に不慣れな小さな子供などが作り出すことが多いらしいけど、夢前さんの場合他人とのコミュニケーション不足が原因なんだろうね。


 それも現実の人間関係を知れば自然に消滅するそうだから、僕という現実の友人を得た今三騎士がいなくなるのはある意味当然だったのかもしれない。

 

 そうなってみるとちょっと寂しい、………とは正直僕は思わなかった。だって三騎士を演じる夢前さんははっきり言って変だったし、一緒に居ると周りの視線が痛かった。三騎士が居なくなったことで夢前さんはかなり付き合いやすい女の子になったのだ。きっとそれは僕だけでなく彼女にとっても良いことであるはずだった。


 そうだ彼女はこれから変わっていくはずだ。どんな風に変わっていくのかはわからないけど、それが彼女にとっての良い変化になるよう僕は見守っていくつもりだった。


「じゃあ鉢伏さん行きましょうか?」


 夢前さんが機嫌良さそうに促してくる。さっき男子を振ったというのにもうそのことは忘れているようだった。僕も友達にならなければこんな風に忘れられていたんだろうなと思うと複雑な気分だ。


 ともあれ僕の機嫌も悪いわけではない。いやむしろかなり良いといってよかった。


 何しろ僕はこれから彼女と二人きりで喫茶店に行くのだから!


 それも僕の友人達といつも溜まっている喫茶風見鶏ではなく、あのモンスター・パフェが売り物の駅前のおしゃれな喫茶店だ。これが嬉しくなくてなんだろうか。正直僕は今にも踊りだしたいぐらいの気分だった。


 ………しかしこんなことで喜んではいられないのだ。


 僕は隣を歩いている夢前さんをギラリと光る目でターゲットロックする。


 そして僕は彼女への攻撃を始めた!


「ところでさあ夢前さん」

「はい? なんですか?」


 小鳥のように小首を傾げる可愛らしすぎる彼女を前に僕は人知れずごくりとつばを飲み込む。ミサイル発射!


「放課後に二人で喫茶店に行くなんて、ちょっとデートみたいだよね! 周りから見たら僕たちどんな風に見えるかな?」


 そう。僕は諦めた訳ではなかったのだ。


 なにをって?


 もちろん夢前さんの恋人になることをさ!!


 夢前さんの友達になるとは言ったけど、ずっとそのままの関係を続けるなんて一言も約束してないからね。それに布石だって実はすでに打ってあるのだ。


『僕が君を好きでいることを許して欲しい』


 あの言葉を夢前さんは了承した。つまり僕が彼女に恋愛感情を抱き続けることは夢前さん公認なのだ。だから僕は友達の関係でありながらこうして夢前さんに好き好き光線を照射することが出来る。


 僕の狙いはまさにそこにあった。


 僕はこれから夢前さんと過ごす度に僕が彼女のことを大好きであることをアピールしまくるつもりだった。


 すると当然夢前さんは僕の事を友人としてではなく一人の男性として意識するようになる。自分のことを好いてくれる他人のことを人間は悪く思わない。結果どんどん夢前さんの好感度は上がっていき、やがては両想いに! その先に待つのは恋人同士のハッピーエンドしかありえないだろう! 


これこそ我が『友達から始めてゆくゆくは夢前さんの恋人になる計画』の全貌だ。

どうだ完璧だろう?!


 ………。


 うん。分かってる。穴だらけだよね。無理があるよね。分かってる。そもそも一方的に好き好き言われて果たして夢前さんの好感度が上がるのかはなはだ疑問だ。下手したらストーカー呼ばわりされて通報されるんじゃないだろうか。


 しかし僕にはこの方法しかないのだ。夢前さんに想いを伝え続けるしかない。


………おお?! まだ闘争は始まったばかりだというのになんだこの崖っぷち感は?!しかし決して諦めるまい。僕のために奮闘してくれた友人たちのためにも。


 見とれよ夢前さん。そのうち夢前さんにもこの胸がきゅんきゅんするときめきを味あわせてあげるからね。


 これが鉢伏三色の恋愛リベンジだ!!


 ふんぬーと鼻息荒くテンションMAXの僕。


 だが、しかし。


 やはりというか当然というか、ここでも夢前さんは僕の予想を遥かに超える反応を見せた。


「なんだと? 貴様何を言っているのだ?」


 あ、あれ? き、貴様?


「そうよねえ~。お友達同士で喫茶店に行くことをデートだなんていうわけないじゃな~い。ウッフ~ン!!」


 ちょっと待って、まっまさか?!


「ましてや周りから見てどう見えるかなんて答えるまでもないだろう? 『友達同士に見える』に決まっているじゃないか」


 うぞ――――――?!


 どうなってんの?! あれ? そ、そんな馬鹿な!!


「三騎士は居なくなったんじゃなかったの?! 僕が友達になったから!!」


 はあ? とエリシアモードの夢前さんが不可解そうな表情をする。


「貴様何を馬鹿なことを言っているのだ?」


 続いてダリアモード。


「そうよ~ん!! あたしたちが居なくなるわけないじゃな~い!」


 エノクモード。


「どうやら鉢伏君は勘違いをしていたようだね。我々がしばらく姿を見せなかったのは、働き詰めだった僕達に姫がしばしの間休暇を下さっただけのことだよ。南の島でバカンスを楽しんでいたのさ」


 あ~、そっかあ~。休暇中だったんだあ~。南の島でバカンスだったんだあ~。いいなあ~。僕も行きたかったなあ~。


―――じゃなくて!!!


 ナニソレ! なんなのほんとに! イマジナリーフレンドに休暇をあげるとか!! 意味が分からないんだけど?! しかも、


「うっふふ~ん! やっぱり持つべきものは優しいお姫様よね~ん!!」

「全くだ。久々に羽を伸ばさせていただいた。英気を養ったこの上は以前よりもなおいっそう姫様のために働く所存だ」

「エリシアは結局それだね。僕はまだベルナール海を見渡す南国の楽園が恋しいよ。もう少しバカンスしていたかったね」


 ………これ夢前さんが一人で演じてるからね。真面目な顔で腕組みしたり、不思議な踊りを踊ったり、ボーイッシュな口調でクールに微笑んだり、完全に一人芝居だからね。いやむしろ劇団一人だからね。要するにこれって、


 変 人 度 が アップ して いる だと?!


 やっべえ。これもう人様にお見せできないレベルだわ。とりあえず隠そう。


「夢前さん早く行こう! 素早くこの場から離脱しよう!」

「もう鉢伏さんたら、そんなに喫茶店に行くのが楽しみなんですか?」


 違うわ! いやそれもあるけども、人目がある場所で一人三役してる君と一緒に居るのが恥ずかしいんだよ!! 分かってお願い!


 心の中で激しく突っ込みを入れる僕の気持ちも知らず、夢前さんは相変わらず上機嫌。どこまでも無邪気にこんなことをおっしゃる。


「鉢伏さんと一緒にお茶するの私もとっても楽しみです」

「ふぐ」


 思わぬ不意打ちに僕はひとたまりもなく息の根を止められた。


 だってこの笑顔だ。そんな訳無いと分かってはいるのだけど、まるで心の中身を全部曝け出したみたいな屈託のない笑顔。せっかく綺麗に整った顔をまるで子供みたいにくしゃくしゃにして。………こんなのずるいじゃないか。


 僕が夢前さんを攻撃していたはずなのにいつの間にか攻守逆転。彼女の無垢なる天使のスマイルで僕の好感度だけがうなぎのぼり。僕はもはや認めざるを得ない。


 たとえどんなに変人でも僕は夢前さんを嫌いになれないんだ。こんな通学路のど真ん中で一人三役の独演会を開催するような女の子でも。どんなに傲慢で、どんなに自己中でも。


 いいさ。こちとら対人ストライクゾーンの広さだけが取柄の男だ。彼女の残念さもどーんと受け入れよう。まあそれで恥ずかしさが軽減されるわけでもないけどね。


「じゃあ行きましょう鉢伏さん!」


 弾んだ声で夢前さんが僕の手首の辺りを握った。ひぐっと僕の喉から押し潰したような悲鳴が、いやそんな言葉はないけど喜鳴とでも呼ぶべき声が漏れる。直接触れた肌の暖かさ柔らかさに心臓が止まりそうになる。


 なっなんてことをするんだ夢前さん。男にこんな簡単に触れるなんてはっ破廉恥な! やっぱりちょっと無防備すぎるんじゃないか?! うああ。顔が赤くなっているのが自分で分かるよ。


 でもそんな僕の様子に気づくこともなく夢前さんは長い黒髪をさらさらと音をたてそうな様子で美しく靡かせながら、ぐいぐいと僕を引っ張ってバス停へと走り出す。


 満開だった桜もとうに散り、今や薄っすらと夏の香りを漂わせ始めた坂道を彼女と一緒に走りながら僕は口元が笑みの形を作るのを感じていた。


―――夢前さん。この坂道で僕達は出会ったんだよ。入学式の日に。


 あの時僕は君に一目惚れしたけど、君はきっと僕が居たことさえ覚えていないだろうね。


 でも今僕たちはここにいる。二人手を繋いで同じように息を切らして。二人とも笑顔で。


 これがいったいどれほどの奇跡か。君に分かるかい?


 僕は噛み締めるように二人の繋がれた手と手を見つめる。


 大丈夫。きっと大丈夫。僕たちは一緒に進んで行ける。


 僕たちの未来は繋がっている。


 今だけはそう信じることが出来た。


………まあバス停についたらあっさり手を放されちゃったんだけどね。









 蒼い世界を船の上から羨ましそうに眺めていた姫君。


 まだ彼女にはそこに飛び込む勇気はない。


 だから僕は力一杯ジャンプして水面から飛び上がり船の上、彼女の隣に寄り添うことにした。


 でもそれだけじゃ駄目なんだ。僕も変わらなくちゃいけない。ただの魚ではなく、僕は両生類になるんだ。そうだ、僕は彼女と蒼い世界を繋ぐ架け橋になる。


 最初は恐々だろう。


 でも二人一緒ならきっと彼女は蒼い世界に飛び込んでいける。


 そうすればいつか息継ぎの仕方も覚えて泳ぎ出すことができる。


 不器用で、でも一生懸命な彼女の周りには僕だけでなく仲間も集うはずだ。


 そうしてやがて群れとも呼べない集まりはゆっくりと一緒に泳ぎ出すはずだ。


 その時僕らは蒼すら越えて七色の果てしなく広がる世界へ。






 どこまでもどこまでも泳いでいけるだろう。





                                     END


プロローグの前書き以来になります 作者の立倉支です


というわけで、君は彼女を好きになれない。はこのお話で終了ということになります


読んでいただいたみなさんは、このお話にどんな感想を抱いたでしょうか?


若桜君が冒頭で予言したように、夢前さんのことを好きになれなかったでしょうか?


小説内では色々書きましたが、結局のところそれは私にはわかりません


ただ一つだけ言っておきたいのは、私はこの小説のキャラがみんな大好きということです


皆さんにも一人でもいいのでこの小説の登場人物を好きなってもらえたらなあと思います


そして立倉はこれで終わりではありません


次回作も考えておりますので、また読んでいただけたらとても嬉しいです


最後にここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました! またお会いできることを楽しみにしております!



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