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第十九話 幕間 姫と三騎士その2

 今日は大変だった。


 私はベッドに寝転がりながら深々とため息をつく。


『お疲れのようだね。大丈夫かい?』


 エノクが私の顔を覗き込んで気遣いの言葉をかけてくれる。


―――大丈夫ですけど。やっぱり疲れました。


 答える私の言葉には元気がない。


 さすがに自分の部屋に上げるのはやりすぎだったかな、と思う。今まで他人を入れたことがほとんどないので本当に気疲れした。鉢伏さんはアウェーだというのにいつもどおりマイペースで私のことをからかったりするし、事前の掃除も大変だったし。


『それは姫が日頃からこまめに片付けていないからだろう?』


 エノクが呆れたように周囲を見回す。そこには鉢伏さんと食べたお菓子の空や読んだコミックがそのままになっていた。


『これも早く片付けたらどうだい? 足の踏み場もないじゃないか』


―――んー。明日片付けます。


 枕に顔を押し付けぐりぐりしながら言うとエノクは肩をすくめた。


『やれやれ。僕に体があればこんな体たらくさせないんだけどね』


 エノクは綺麗好きだ。私が部屋を散らかしているといつもこんなお小言を並べてくる。


 三騎士は私の言うことをただ聞く従順な(しもべ)じゃない。時には苦言を呈することも辞さない。全て私を思ってのことだ。


『姫。』


 エノクが語調を変えた。少年めいた彼女の面差しが急に真剣みを帯びる。ボーイッシュな彼女がそんな顔をするとなかなかに迫力があった。私は思わず背筋をピーンと伸ばしてベッドに正座する。


『このまま行けばおそらく鉢伏君は遠からず真実にたどり着くだろう。彼の足跡がそれを物語っている。だがそのとき彼がどんな選択をするのか、あなたに受け止める覚悟は出来ているのかい?』


 厳しい声だった。それはエノクが私の行いに心から賛同してはいない証拠だろう。だけど私はこう答える。


―――はい。


 そうだ。そのためにいままでさまざまな事柄を積み上げてきたのだから。


『そうか………』


 エノクは目を閉じた。それはエノク自身も覚悟を固めるための仕草だったろう。


『ならばもう僕は何も言わないよ。姫は自分自身の責任でこれから起こることをすべて受け止めるんだ。僕たちにはそれを肩代わりすることは出来ない』


―――はい。当然です。


 誰のせいにも出来ない。それは私自身が選んだこと。その結果も私しか受け止められないのだ。


『我らが姫に神の御加護のあらんことを』


 呟くとそれきりエノクは口を閉ざした。

 私はうなずいてもう一度体をベッドに横たえる。


 その時は迫っている。私は待つことしか出来ない。


―――鉢伏さん。あなたはいったいどんな選択をするのですか?


 その日私は眠ることが出来なかった。





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