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第十六話 捜索開始

 30分後。夢前さんはまだ熱く語っていた。


「そういうわけで鉢伏さんはパズル・ピースを七十巻まで買い揃えるべきです!! それはもう国民の義務みたいなものなのです!」


「う、うん。まあ二十一巻も思ったより面白かったし、ぼちぼち一巻ずつ集めてみようかな?」


「はいっ! そうして下さい!!」


 そういって「もう一つお菓子開けますね」とご機嫌な様子でコンビニ袋を探り出した夢前さんの麗しい姿を見ながら僕は深々とため息をついた。


 ………やっとひと段落着いたか。まったくマニアとは恐ろしいものだね。今度からはうっかりとスイッチを踏まないように気をつけよう。でもそうするとまた話題に困るわけで………、悩ましいね。


「はいどうぞ」

「ああ、ありがとう」


 チョコ嬉しいな。ちょっと血糖値を上げたい気分だったんだ。


「それでですね。次はパズル・ピースの世界観についてですが」

「まだあるのっ?!」


 やっべえ。これ無限コンボだわ。なんとかしないと。というか愛の奔流に流されて本題に全然入れてないじゃん! なにしてんの僕!!


「あー、夢前さん。ちょっと待ってくれるかな」

「はい?」

「パズル・ピースのお話はもう十分聞かせてもらったから、今度は僕の要件を済ませたいんだ。いいかな?」

「あっ!」


 僕の言葉で夢前さんは僕がどうしてここにきたのかを思い出したらしい。居住まいを正すと、


「確か家宅捜査をしたいとのことでしたね?」


 尋ねてきた。僕が頷くと夢前さんは思案深げな顔になった。


「といってもどこでもは困ります」

「そうだろうね」

「そこのタンスとかも探されると困りますし」

「そうだろうね」


 いかにも下着とか入ってそうな場所だもんね。


「賢者の石はもちろんのこと、薬草とかも入ってませんから」

「いや、そんなこと期待してないから。どっかのRPGじゃないんだから」

「それに机の中とかも困ります」

「あー、机の中ね」


 貴重品とか入ってそうだもんね。実は許しが出るなら探してみようと思っていた場所ではあるんだけど。


「机の中には私が五津神神社を巡って集めた大切なお守りがありますから。―――はっ?! まさかっ?!」


「いや、狙ってないから。そんなの全然狙ってないからね? いまさら不審者を見る目で僕を睨まないでくれるかな」


 彼女と僕の価値観が違いすぎる!


「ともかく調べていただいて構わないのは本棚だけです。それ以外の場所は駄目です。それでよろしいですか鉢伏さん?」


「うん。了解。じゃあちょっと調べさせてもらうね」


 許可を得て僕は本棚に向き直る。まずはざっとタイトルを確認していく。この本棚はほとんどが漫画本だな。パズル・ピースを中心に少年誌系のコミックスが並んでいる。すべてに透明なブックカバーが掛けてあり夢前さんがこれらの本を大事にしているのがよく分かる。


 彼女が言っていた通り、どうやら読書が趣味というのは本当らしいしね。まあ読むのは主に漫画とラノベのようだけど。


………ああ、それでデートもどきの日バスの中で「どんな本を読むの?」と尋ねた僕に内容を答えなかったのかもなあ。漫画とかラノベを読んでることを隠したがる人っているし。でも、隠していた趣味をこうして見せてくれたということは、あのときより少しは心を許してくれたということなんだろうか。だとしたら嬉しいけど。


 閑話休題。


 さてこのあたりで僕の目的について話そうか。


 僕が夢前さん宅に家宅捜索に来たのは、もちろん賢者の石のヒントを得るためだ。


 でも「これを見つける!」という確たる目標があるわけじゃない。


 僕は彼女がどんな本を読んでいるのか、どんな生活をしているのか そんな細々したことから彼女にとっての賢者の石がなんであるのか推察しようと思っていた。


 要は苦肉の策だ。


 僕は正直なところ行き詰っていた。絵本を見たときおぼろげに何か見えたような気はしたけど、それはまだ形あるものになっていない。


 夢前さんは第三の試練攻略の期限について特に言及してなかったけど、それはいつ「はいそこまで」といわれるか分からないということでもある。今更「期限はいつですか?」と尋ねて「じゃあ明日で」とか言われても困るしね。


 とにかく少しでもヒントが欲しい。

 いや必ず得てみせる!


 固い決意の元に僕は本棚を血眼になって観察していく。漫画の棚。ラノベの棚。そして………、

おや? これは………。


「ハードカバー………」


 思わず呟きがもれる。最後に見た本棚には豪華な装丁の書籍が並んでいた。なんかここまでの並びからしてちょっと意外なのだが。一冊手にとって見る。


「指輪物語?」


 J・R・R・トールキン作のファンタジーだ。


 他にもJ・K・ローリングのハリー・ポッターシリーズや、ル=グウィンのゲド戦記などもある。すべて僕でも知っている有名作品ばかりだった。もちろんすべて訳本。夢前さんは洋物ファンタジーも好きだったんだね。


「そういえばハリー・ポッターの一巻は賢者の石がらみのお話だったような………」


 夢前さんの元ネタは間違いなく孤島の王女と賢者の石だろうけど、いろんな作品から影響を受けているということもあるかもしれない。少し読んでみるか?


 世界的大ヒット作品を手に取ってみようとして、


「ん?」


 僕の目の端に、ある一冊の本が映った。


「………『孤島の王女と賢者の石』」


 やっぱりあったね。そして題名を呟いた瞬間。


 ピクリ!


 チョコを食べながら僕の家宅捜索をそわそわと見守っていた夢前さんが肩を震わせたのが分かった。


「………夢前さん?」

「なっ、なんどすか?」


 夢前さんがいきなり京都の人みたいになっていた。


 もうちょっと鎌をかけてみよう。


「この本、読んでみていいかな?」

「しょっ、しょの本でしゅかっ?!」


 今度は赤ちゃんみたいになってる!!

 

「駄目かな? 是非読んでみたいんだけど」


 拝むように頼んでみると夢前さんは口元をむにゅむにゅ蠢かせ散々躊躇ってから、


「わっ、分かりました。どうぞ」


 覚悟を決めたような表情で了承してくれた。


 改めて表紙を見てみる。


 他の本と同じように透明なカバーをかけられているけど、それ以前にだいぶ痛んでいたらしく表紙の絵が少し擦り切れている。中身にも装丁にも何度も補修した跡が見受けられた。つまり相当読み込まれている。


「ん?」


 そして僕は気づく。


 最終ページのあたりにこの本の紙の材質とは違う、紙の端がのぞいていることに。


 ドキドキと心臓が高鳴る。これが第三の試練攻略の端緒になるかもしれない。


 その部分もすごく気になるが、まずは一度最初から読み返してみるとしよう。ほかの文中にも何かヒントがあるかも知れないしね。





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