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第十四話 家宅捜査

というわけで僕は今夢前さんの自宅前にやってきている。


付き合ってもいないのに自宅に押しかけるとか、やっている事は完全にストーカーのそれだが、本人の許可を得ているのでOK。僕も思いついたもののさすがに駄目だろうと、諦め半分で彼女にお願いしてみたのだけど、例によって夢前さんはあっさりと僕が自宅に入ることを許可してくれた。


本当に何なんだろうね、この辺のガードの緩さは。提案した僕のほうがびっくりだよ。


 ………それにしても女の子の家に入るなんて初めての経験である。いまさらながらなんだか緊張してきた。インターホンを押す手が震えるぜ。


『はーい』


 ボタンを押すと夢前さんのものではない高い声がスピーカーから聞こえてきた。誰だろう? もしかして夢前さんの妹さんかな? そういえば僕は彼女の家族構成も知らない。


「えーと、鉢伏と申しますが。夢前さ………、いやえーと美跳さんはいらっしゃいますか?」


 うわあ。美跳さんだって。初めて名前で呼んじゃったよ。なんだろう、くすぐったいような気分だ。


『あ、お姉ちゃんのチャレンジャーの人だね』


 ちゃ、チャレンジャー?

 

『ちょっと待ってて今開けるから』


 言われたので待つが、チャレンジャーってなんだろう。アカレンジャー、キレンジャー、チャレンジャーみたいなことだろうか? いつから僕は日曜戦隊の一員に? そんなことを考えていると、


「いらっしゃいませ~!」


 玄関ドアがガチャっと開き元気な声とともに女の子が飛び出してきた。小学校六年生ぐらいだろうか。栗色の長い髪を頭の両側で結ったきらきらと輝くように明るい印象のかわいらしい少女だ。


「待ってたよ~!! どうぞどうぞ入って入って!!」


 彼女は満面の笑みでそういうと僕の手をとりぐいぐいと玄関に突入して行く。かっ、活発な子だなあ。


 唖然としているうちに僕は夢前家の玄関に侵入を果たし、ドアまで閉められてしまう。さらにツインテールの夢前さんの妹さんと思しき女の子は上がり框に並べられたスリッパを指差し、


「スリッパどうぞ!! 好きなのを履いていいよ!! のびる的にはミッキーがお勧め!!」


 と室内履きを勧めてくれる。後ろ手に両手を組みニコニコと見守る彼女の前で、僕はお勧めのディズニーキャラクタースリッパを履きながら、


「え、えーと夢前さ、美跳さんは?」


とやっと尋ねることが出来た。ツインテールさんは、


「お姉ちゃんはお茶菓子のお買い物! だからちょっと待ってて欲しいの! すぐ帰ってくるからそれまではのびるがお相手します!」


 はきはきと答える。そっかー、お相手されるのかー、と頷く僕は彼女の高いテンションに押されっぱなしだ。またも手をとられて廊下を歩き、キッチンを通り過ぎてリビングまで案内されてしまう。いっ、いいのかな。夢前さんもいないのに上がり込んじゃって。


「好きなとこに座ってて!! 今飲み物を出すから!!」

「あっおかまいなく~」


 てってってー、と身軽な動作でキッチンまで駆けていく彼女に僕はやっと遠慮らしいことが言えた。駄目だろう僕。年上なのに。ツインテールさんのほうがよっぽどしっかりしてるぞ。


 自戒しつつリビングのソファーに座る。あ、座り心地いいな。家にもこれ欲しい。


「冷えたほうじ茶と、カルピスどっちがいい~? それとものびるが紅茶入れようか? コーヒーでもいいけど」

「ああっ、えーと、えーと、ほうじ茶で!!」

「は~い!」


 駄目だろう………、ドモりすぎ。軽くへこむ僕の元にツインテールさんはほどなく、お茶とカルピスらしき白い液体が入ったガラスコップが乗った盆を届けてくれた。「はいっ!」とお茶のほうを差し出してくれる彼女に礼を言い冷えた飲み物をいただく。


「はふう………」


 喉を通って行く冷たい感触に思わずため息が漏れた。ウマし。どうやら喉が渇いていたらしい。そんな僕を見てツインテールさんは「あはは」と明るい笑い声を上げた。思わず頭を撫でたくなってしまうような愛くるしい表情だ。さすがは夢前さんの妹。末恐ろしいほどの美少女でいらっしゃる。口を開けたときに覗く八重歯もキュートだね。


「あっそうだ! 自己紹介がまだだったよ!!」


 いっけね!と、てへペロすると、


「のびるは美跳おねえちゃんの妹で、夢前のびるっていいます! 小学五年生です!! 彼氏はまだいません!」


 栗色のツインテールを跳ねさせて勢いよくお辞儀。なんで恋人の有無について言及したのかは謎だけどなかなか礼儀正しいお嬢さんだ。


「えーと僕は鉢伏三色って言います。高校一年です。彼女はまだいませんが出来れば君のお姉さんを彼女にしたいと思っています」


 僕も彼女に習ってぺこりとお辞儀をしてみた。我ながらちょっと間の抜けた自己紹介を聞いたのびるちゃんはトシッと軽い体をソファーに預けながらニハッと笑う。そして、


「ユーアー、チャレンジャー!」


 イエー! と僕のほうに向けた両手をひらひらさせてくる。


「えーと、そのチャレンジャーっていうのは?」


 いい機会なのでさっきから気になっていたその単語について尋ねてみた。


「うん。うちではお兄さんみたいな人の事をそう呼んでるんだよ。だってまだお姉ちゃんの彼氏じゃないし、友達でもないし、知り合いっていうのともまた違うでしょ? お姉ちゃんにフラれたら知り合いですらなくなっちゃうわけだし」


 ………な、なんか今さらりと酷薄なこと言いましたよこの子。胸の辺りにグサッときたんですけど。しかしのびるちゃんは我関せず、


「だからチャレンジャーなの。入れ替わり激しいからいちいち名前なんか覚えてられないしね」


 言って、コクコク………。普通にカルピスを口にする。もう慣れっこという感じだった。


「あっ、でも!!」


 そこでいきなり彼女は身を乗り出してきた。ほんのりとカルピスの甘い香りが漂ってくる。近い近い。顔が近い。


「お姉ちゃんが家にまで上げた人は、お兄さんが初めてなんだよ?」


「えっそうなの?」


「うん!  あっでも二人きりになっても強引に迫ったりしないほうが良いよ!」


 いやそんなことするつもりはないが。やっぱり妹さんとしては姉のガードの緩さが心配なんだろうか?


「お姉ちゃんあれですごく強いからギッタンギッタンにされちゃうよ!」

「そっち?!」


 心配されていたのは僕の身の安全のほうだった。


「お母さんの実家が道場なこともあってのびるもお母さんも合気道の段位を持ってるけど、お姉ちゃんには敵う気がしないんだよね」

「そ、そうなんだ。夢さ、………美跳さんも何か武道をやってるの?」

「ううん。なんだか分からないけどお姉ちゃんは天然で強いんだよ」


 妹さんにもなんだか分からないのか。夢前さんは本当に謎だらけだな。


 でも夢前さんのガードの緩さの理由は分かった気がする。単純な話で彼女自身が強いからだ。家まで送らせてくれたのも自分はもちろん段位持ちの家族がストーカー程度に遅れをとるとは思ってないからだろう。それは無意識に『女の子としてのガード』も緩くなるというものだ。


「お姉ちゃんめちゃくちゃモテるけど身持ちもすごく硬いからなあ。あんなに綺麗なのにまだ彼氏も出来たことないんだよ、信じられる?」

 シンジラレナーイ!! 夢前さんが年齢イコール彼氏なし歴だなんて。っていうかありえないだろう。のびるちゃんが把握してないだけなんじゃないかなあ。


「そんなわけだから安心してねお兄さん!!」

 ん? 何を安心しろと?


「お姉ちゃん絶対処女だから!!」

「はあっ?!」


 いまなんと?! 小五女子の口から出てはいけない類の単語が飛び出した気がするんだけど?! 思わず耳を疑う僕だがどうやら聞き違いではなかったらしい。


「だからお姉ちゃんは処女だよって話。たぶん間違いないよ。だってTVでキスシーンを見ただけで真っ赤になって自分の部屋に逃げちゃうくらいなんだもん」


 ………いやあ、そんな家族の一幕を語られても。僕には返す言葉なんかありませんぜ? 


 ええ?! まじっすか?! 超純情じゃんやっほー!! とかテンション上がったりもしないし。夢前さんが処女だろうがビッチだろうが僕の気持ちに変わりはないもの。


でも一番身近で彼女を見てきた妹さんが言うんだから夢前さんのクラスの女子が言ってた様な『遊んでる』感じでないことは確かなんだろうな。まあ今まで夢前さんと接してきて、なんとなくそうだろうとは思っていたけども。


「ちなみにのびるも処女だよ!!」


 だからそんな情報を与えられてもリアクションに困るんだってば!! というか何で僕は小五の女の子に男性経験を語られてるわけ? 今僕らの会話にどんな流れが来てるの?! まったく訳が分からないよ!! ………などと小学生相手に僕が赤面しつつ言葉を失っていたときだった。




「キエエエええええええ―――!!!!!!」




 奇声が聞こえてきた。





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