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イルマちゃん

作者: 大島 健太郎


イルマちゃん


僕の友達、といってもまだ僕が5つくらいの年のことだが、イルマちゃんというのがいた。

イルマちゃんは、とても感受性の強い女の子で、赤という色を見ると、とたんに明るくなったりする。

僕が水色を着ていると、「なんだかテツくん(僕の名だ)が泣いているような気がする。」なんて言っていた。

とても面白い女の子なので、僕はいつもつるんで遊んでいた。


そんなイルマちゃんだったが、猫が大嫌いのようで、なんでかというと、猫がそこらへんのネズミを咥えてきて、イルマちゃんの前でぽとりと落としたからなのだそうだ。

「猫って、何も私のこと考えられないの。私、死んだネズミなんて見たくない。」と言っていた。

反面、犬は大好きのようで、

「今日、ブール(近くの家の犬の名前)に、お手って言ったらお手してくれたの。素直だよね。」なんて言っていた。

そんなイルマちゃんと、一回大冒険をしたことがある。

といっても、子供のころの話なので、今となってはそんな大冒険でもないのであるが。


近くに大きな湖があった。

といっても、琵琶湖ほど大きいのではもちろんなく、大人が入ったら深いところで首までつかるといった程度の大きさだ。

それにしても、子供にとってはとても大きなものだった。

冬のある日であった。

「テツくん、見て見て、湖に氷が張ってるよ。」

「本当だ。」

本当に湖には一面、氷が張っていた。

「テツくん、上に乗ってみようか。」

イルマちゃんは、なかなかおてんばな性格でもあった。

「ええ、良いよ。危ないよ。」

僕は反対したが、

「いいから、いいから。」

といって、僕を湖の上に引っ張ってきた。

「ああ。なんか、つるつるするね。」

「本当だね。」

僕らは、しばし、スケートを楽しんでいた。

「テツくん、大発見。なんと氷の下で、魚が泳いでるよ。」

僕は思わず言った。

「ウソだあ。魚もみんな、凍っちゃってるでしょ。」

「ウソだと思うなら、来てごらん。」

僕は、湖の中心部まで連れてこられた。

「下を見てみて。」

確かにきらっときらめくものがあった。

魚が泳いでいる。

「もしかして、湖の中って、意外とあったかいのかな。」

僕は言った。

「なんか、気持ちよさそうだよね。テツくん、一緒に湖の中潜ってみない?」

「え~、どうやって?」僕は言った。

「そこらへんの石とか持ってきて、氷を割れば入れるんじゃない?」

今考えると、かなり危ないことなのだが、僕らはまだそんなことは考えられなかった。

「わかった。イルマちゃん、ちょっと待ってて。」

僕は湖から出て、石を探した。

かなり大きな石を見つけ、これなら氷を割れるんじゃないかと思って、持って湖の中心部に戻って、

「こんなのどう?」

「じゃあ、それで氷を割ってみてよ。」

僕は、せーのと言って石を氷へ投げつけた。

ボッチャーン。

かなり大きな音がしたと思うが、気にかけて声をかけてくる大人はいなかった。

「割れたね、テツくん。じゃあ、入ってみようか。」

「え~、良いよ、危ないよ。」

「大丈夫、私泳ぐの上手いんだ。」

イルマちゃんがそう言うので、男の子の僕も、負けてはいられなかった。

「よーし、わかった。じゃあ僕が先に入るよ。」

池の水は、びっくりするほど冷たかった。

でも僕は、泣き言を言っていられないので、

「イルマちゃんも入りなよ、冷たいけど。」と言った。

「本当に冷たいね。でも私、あの魚と泳ぐんだ。」

と言ってイルマちゃんは、湖の中に潜っていってしまった。

僕は、不安になったが、イルマちゃんの後に続こうと思い、潜った。

中には、イルマちゃんは見つからなかった。

でも、魚の近くにいるんだろうと思い、キラキラしているところを探した。

キラキラは、見つかった。

キラキラしている方に向かって泳いだ。

魚はびっくりしたのか逃げてしまった。

さて、イルマちゃんはどこにいるんだろうと探したが、見つからなかった。

しょうがない、じゃあ池の外に戻ってみるかと思い、上を見上げた。

衝撃だった。どこが氷の穴の部分か分からなかったのである。

僕は焦り、浮上するが、氷に頭がぶつかるだけ。パニックになった。

肺にパンパンに詰めていたはずの空気も、やがて酸素がなくなっていく。

「もうだめだ、見つからない。」

僕はあきらめかけた。その時、僕の手をつかむものがあった。

その手につかまれ、どこかに連れられていく。

「イルマちゃんかな・・。誰なんだろう。」僕はうつろな意識でそう思った。

気が付くと、僕は湖の上にいた。

隣には、イルマちゃんが立っている。

「心配したよ、テツくん。だけど私が引っ張ってきた。」

「イルマちゃん、どうして僕の居場所が分かったの?僕は探したけど、ぜんぜん見つからなかった。」

「だってテツくん、赤色の服着てるんだもん。すぐわかったよ。」

どうやら、紺色の服を着ていたイルマちゃんは、水に紛れて見えなかったらしい。

イルマちゃんは、魚と戯れて(その魚は僕の見つけた魚ではなかったのかもしれない。)一回浮上して、池の上に戻ったが、いつまでたっても僕が帰ってこないので、心配になって僕を探しに池の中に潜ったそうだ。

「テツくん、このこと親には内緒ね。私たち怒られちゃうもん。」

そういって笑うイルマちゃんだったが、僕はどうしても笑うことができなかった。

これが僕らの大冒険である。イルマちゃんは小学校に上がる前にどこかへ引っ越してしまった。

何をしているだろうと、時々想像するが、あの持ち前の性格で男を尻にしいているんじゃないかと思う。また、そうであってほしいと思う僕であった。


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