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妖艶行進  作者: うみはら
8/11

七話


商店街を鼻歌交じりに歩く。

余ったお金で好きなものを買っていいと言われた少年は何を買おうか、考えを巡らせていた。すると、八百屋の桃に目が止まる。美味しそうだ。


「おじちゃーん!この桃一個頂戴!!」


少年が店の片隅の掃除をしていた店主に大きな声をかけると、店主はすぐに駆け寄ってきた。


「やぁ、楓くん。今日はご機嫌だねぇ。もう一個おまけしてあげる!」

「えぇ!いいの!?ありがとおじちゃん!」


楓と呼ばれた少年は、花が咲いたように笑った。

そんな笑顔に、店主の頬も緩む。


「先生にもよろしくね。」

「うん!おまけでもらった桃は先生にあげることにする!はい、お金!

じゃあねおじちゃん!」


店主に金を払い、楓は商店街をまた歩き出した。

頼まれていた買い物は終わったので、家にかえるのだ。

籠に入った桃を食べることを考えると自然と笑みがこぼれる。

美しい金髪を揺らし、愛らしい笑顔を浮かべたまま歩く楓の姿は、道ゆく人々を癒した。


「楓くん、お買い物はもう終わったのかい?」


商店街を抜けようとする直前に、声をかけられる。

声のした方向を見ると、杖をついた老婆が楓に手を振っていた。


「呉服屋のおばちゃんだ〜!うん!終わったから帰るんだ。おばちゃん、最近体の調子はどう?気分悪くなったらいつでもおいでね?」

「おやおや、楓くんは優しいねぇ…。最近は随分調子がいいの。先生と楓くんのお陰ね。改めて先生にありがとうございました、って伝えてくれるかしら?」

「もちろん!先生きっと喜ぶよ!じゃあね、おばちゃん!」

「ありがとう、楓くん。ばいばい。」


老婆に手を振り、帰路を急ぐ。

昨晩も遅くまで仕事をしていた先生は、疲れ切っているに違いない。早く、この甘い桃を食べさせてあげたい。

町の外れにある緑に囲まれた家。それが、楓と先生の家だ。


「先生ー!!ただいま!桃あるよ!」


先生がいるであろう、診察室まで駆け足で行く。

先生は、医者だ。腕の良さとその不器用ながらも優しい性格から、それなりに繁盛している。

扉を開き、自分の帰りを告げると、机に突っ伏して仮眠をとっていた先生が顔を上げた。


「おー…おかえり楓。」


すこし橙色が混じった赤色の髪がボサボサになっている。

先生改め、紅葉はあくびをしながら楓の頭を撫でた。


「先生、酷い顔!!今日は早く寝てよね〜。それより!今日のお昼ご飯はなに?食後に桃食べよ、桃!」

「うるせぇ。睡眠より金だ、金!俺は今のとこ仕事が生きがいなの!

昼はそうだなぁ、胃に優しい物がいい。粥でいいか?」

「俺、先生の粥好き!」

「おー、じゃあ粥な。」


紅葉が椅子から立ち上がり、台所へと向かう。

楓も、中身の入った買い物籠を持ち紅葉の後に続いた。


「そういえば、呉服屋のおばちゃんがありがとうございますーって!体の調子いいらしいよ!」

「そりゃよかった。呉服屋さんにはお世話になってるからな。

そうだ楓。お前、夏祭り用に浴衣仕立ててもらってこいよ。」

「え!先生一緒に夏祭り行ってくれるの!?」

「ああ?夏祭りはふざけて怪我するやつがいっぱい出るから俺は忙しいんだよ。お得意様の餓鬼ども引き連れて行ってこい。」

「えぇー!先生とがいいー!」


台所につき、紅葉はもくもくと粥を作り始めた。

楓はその横で、食後に食べるようにと桃を切り分けている。


「先生行かないなら俺もいーかない!」

「馬鹿…子供は遊ぶもんなんだよ。」

「じゃあ一緒に行こうよ!」

「だから忙しいの!」


一緒に行こう、と引き下がらない楓に、紅葉はため息を漏らした。

それを聞いた楓は紅葉を怒らせてしまったのでは、と焦った。

だが、少し困ったように笑った紅葉は怒ってなどいない。


「わかった、こうしよう。夏祭りはどうしてもいけないから、今度やる『妖艶行進』に二人で行こう。屋台もたくさん出るし、祭りみたいなもんだろ?」

「本当!?嬉しい!先生とお出かけ!」


嬉しそうに笑った楓につられて、紅葉も自然な笑みをこぼした。

『妖艶行進』とは、町にある娼館が主催する祭りのようなものである。各娼館の遊女や男娼が舞を披露したりするのだ。そこにはたくさんの屋台も出店され、さながら夏祭りのようである。


「もしかしたら会うかも知れないけど、そろそろ金もたまる。大丈夫だろ…。」

「え?」


紅葉が小さく呟いた言葉を、うまく聞き取れなかった楓は聞き返した。だが、紅葉はなんでもないと言ってもう一度言うことはなかった。


「ほら、粥できた。はやく食べるぞ、楓。」

「………うん。」


少し、悲しげな色をともした紅葉の目を楓は見ることしかできなかった。

自分の命の恩人は、過去に何かあったのだと、楓は理解している。

だからこそ、もう一度聞き返すのは、これ以上踏み込むのはいけないと、わかってしまった。

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