四話
この国には4つの身分が存在する。
将軍やその周りの職につく者たちが「上人」。
農民や商人など体を売らない仕事につく者たちが「中人」。
遊女や男娼など体を売る仕事につく者たちが「汚人」。
重労働を強いられる「奴隷」。
階級が一番高いのが上人。その下が中人。その下が汚人。そして一番低い階級が奴隷である。
汚人と奴隷には人としての権利は与えられていない。
彼らは人以下の生物として扱われる。
馬の足音がすぐ近くまできた。
青桐と木蓮は、少将様を出迎えるために跪く。
二人の前にある、『胡蝶の夢』の門が開く音がした。とうとう少将様が中に入ってくるようだ。
「おせぇよ。」
海蘭がそう言うと、少将様が笑う。
青桐たちは顔を上げないまま、少将様に話しかける機会を伺っていた。
青桐たちは、体を売ってはいないが娼館で働いている今のうちは、汚人と呼ばれる階級であり、人としての権利はもっていない。
少将様のような上流階級の人間を、ジロジロと見てはいけないのだ。
「アンタが来る前に警備を確かめといたんだ。ここの警備は結構いいね。ほら、木蓮。コイツを案内してやってくれ。」
海蘭が上手く機会をくれた。
木蓮が顔を上げないままに、少将様に話しかける。
「本日は、我々の店を選んでくださりありがとうございます。少将様は初めてのご来店ですよね?でしたら、まず中で相手を選んで…」
「いや、僕は始めて来たわけじゃないぞ、木蓮。」
「え…?」
予想外の返事に思わず、木蓮が顔を上げる。
そして、少将様の姿を確認した瞬間驚いたように目を丸くした。
「え…あれ!?茅!?」
紫掛かった黒髪。金色に光る、切れ長の目。
木蓮は、それらに見覚えがあった。
少将様改め、茅は驚く木蓮に笑いかける。
「やぁ、久しぶりだな木蓮。
跪かなくていい、立ち上がってくれ。」
「え…え!?少将様ってお前のことだったのか?でも、お前…。ていうか今まで何してたんだよ!どこ探しても見つからねぇし…!」
木蓮は立ち上がり、溢れ出る疑問を茅に投げかける。
そんな木蓮を唖然と見る海蘭と青桐は何も言えなかった。木蓮が、信じられない物を見るような目をしていたからだ。
何も言えない二人を一瞥した、茅は静かに木蓮に話す。
「落ち着け、木蓮。話したいことはたくさんある。柊と菖蒲にも、だ。
一旦中に入ろう。」
「……わかった。柊と菖蒲を呼んでくる。
青桐、コイツを一番奥の個室に案内してやってくれ。」
木蓮はそう言うと、足早に中に入って行った。
残された青桐は、そっと立ち上がり目の前の茅をじっと見つめる。
どうやら木蓮と知り合いらしいが、相手は少将様だ。自分達とは住む世界が違う。
「…奥の個室まで案内します。着いてきてください。」
青桐がそう言うと、茅の後ろで海蘭が吹き出した。さっきまで生意気なことばかり言っていた青桐が、急に改まったのが面白かったのだろう。
青桐が海蘭を睨むと、彼は肩を竦めた。
「ああ、ありがとう。」
素直に返事をした茅に背を向け、青桐は歩き出す。
後ろから、茅達がついてくる気配がした。
何故、少将様ともあろう方が人としての権利も持たない汚人である木蓮と知り合いなのか。聞きたいことがたくさんある青桐だが、自分も汚人という立場な上に、茅と知り合いでもない。後で木蓮に聞こう、と疑問を胸にしまった。
「なぁ、茅。木蓮と知り合いだったのか?すげぇ驚いてたけど。」
海蘭が、そう問うと茅は目を細めた。
遠い昔を思い出しているようだった。
「そう、だな。友人なんだ、彼は。もう長いこと会っていなかったけど。」
「ふーん…。」
茅の顔が少し悲しげに歪んだのを見て、海蘭はそれ以上は何も言わなかった。
誰しもが、人には言いたくない過去を持っているものである。それに必要以上に踏み込むほど、海蘭は馬鹿ではない。
「…海蘭。今日、木蓮たちに話すことは君にも話しておきたいことだ。
真剣に受け止めてくれよ。」
切れながらの目に見つめられた海蘭は、ニヤリと笑って頷いた。
「ああ、もちろんだ。少将様。」




