三話
刀を抜いた青桐は、正面にある木に剣先を向けた。
「おい!バレバレだぜ、とっととかかって来いよ。」
そう挑発すると、木は突然揺れだし、小さな黒い影が素早く青桐たちに向かって飛んできた。
青桐がそれを手裏剣だと理解する前に、木蓮が刀でそれを撃ち落とす。
「どうした、びびって木から降りれないか?」
木蓮が笑いながらそう言うと、木から大きな黒い影が木蓮達に向かってきた。間違いなく、木に隠れていた人間である。
その男は大きな刀を木蓮に向かって振り下ろした。
ガキン、と刀同士がぶつかる音がする。木蓮は男の刀を自分の刀で受け止めたのだ。
「……っ!」
予想外に男の力が強かった。木蓮は一瞬圧されるも、すぐに踏ん張り男の刀を振り払う。
男と木蓮の間に沈黙が流れた。
「……………ははははは!!」
沈黙を破ったのはあの男だ。
腹を抱えて、面白くて仕方が無いように笑っている。
木蓮と青桐は呆気に取られてしまった。
「いやぁーごめんごめん!
アイツが娼館行くって言うからそこの警備はどんなもんか試したくてさ!
黒髪のアンタ、強いねぇ…十分伝わったよ。手裏剣を刀で撃ち落とす奴なんて初めて見た。しかもこの体格差で俺のこと振り払うし。」
顔を上げた男は木蓮に手を差し伸べた。
握手を求めているようである。
しばらく呆然としていたが、相手に敵意が無いことを感じ取った木蓮は素直にそれに応じた。
「どうも。お前も強いね、ちょっと怯んだよ。俺は木蓮。お前の名は?少将様の部下か何かか?」
木蓮がそう言えば、大柄なその男は照れ臭そうに笑った。
「俺は海蘭だ。まぁ、うん。部下って感じ。
…ここの警備はいいな。そっちの青髪は何もしてなかったけど。」
海蘭が青桐に視線を向け、ニヤリと笑う。
それは、明らかに青桐を馬鹿にしていた。
「今回は出番がなかっただけだ!俺だって本気出せば木蓮なんか目じゃないぜ!」
「えー?こーんなちんちくりんがぁ?そうなの、木蓮?」
思わず言い返した青桐に、クスクスと笑いながらさらに煽る海蘭。
木蓮が呆れたように笑った。
「二人とも餓鬼だぞ。青桐、お前が強いことは俺が知ってるから。
さ、少将様ももうすぐいらっしゃる。落ち着けよ。」
木蓮にそう言われてしまっては、どうしようもない。
青桐は刀を収め、木蓮の横に並んだ。
海蘭は、そんな二人をニコニコと笑いながら見守っている。
「うちの少将は優しい人だよ。そんなに改まらなくてもいいと思うな。」
海蘭の言葉に、木蓮は乾いた笑いを零した。
「少将様がどんなに優しい方でも、これが仕事だからな。」
無礼は許されない。
海蘭が悲しげに目を細めた。
「…仕事……仕事ね。」
そう呟いた海蘭の声は、風に消された。




