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妖艶行進  作者: うみはら
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十話


「はぁ!?俺、何も聞いてねぇんだけど!!」


菖蒲に化粧を施される柊の隣で、青桐が叫ぶ。

それを聞いて、縁側で煙管をふかしていた木蓮が笑った。


「そりゃ、今初めて言ったからな。」


木蓮がそう言うと、青桐は木蓮を強く睨む。


「柊が今年の花魁役だなんて大事なこと、なんでもっと早くに言わないんだよ!もう当日だぞ?いっつも柊と木蓮はそうやって、俺らには何にも教えてくれない!なぁ、棗!?」

「えっ?あ、はい!そうですよ!」


青桐の同意を求める声に、柊の後ろで着物を整えていた棗が少し動揺しながらも反応する。

駆け足で青桐の隣までいき、腰を下ろすと、青桐と同じように木蓮に不平を鳴らした。


「僕たちだって『胡蝶の夢』の従業員なんですからね!?いつまでも子供だとか思わないでくださいよ!」


その年の少年としては、少し高い声で怒りながら、頬を膨らませる棗に柊が笑みをこぼす。

青桐はそれにも不満のようだった。


「笑ってごまかすなよ、柊!俺と棗の怒りは本物だからな!」

「そうですよ!」


柊から見れば、青桐と棗の怒りなど可愛らしいものだ。

大人になりたがる子供と同じ。まだ子供だからこそ、子供扱いに怒りを覚える。


「青桐も棗もうるさいわよ〜。それに棗は髪型も化粧もちゃんとしたんだから、崩さないようにあんまり動き回らないで。」


菖蒲がそう言うと、棗がハッとしたように大人しくなる。

男娼である棗は、今日行われる『妖艶行進』で舞を披露するのだ。そのために、今日は化粧も髪型も美しく整えている。


「菖蒲だって今知ったんだろ!?むかつかねぇのかよ!」


青桐がそういえば、菖蒲は呆れたように笑った。


「私はアンタみたいに短気じゃないのよ。それに、去年の評価からして今年は柊だろうと思ったわ。」


確かに、去年の『妖艶行進』での柊への評価は素晴らしかった。

柊がもつ元々の美貌と剣舞の美しさが混じり合い、まるで天からの使者のようだ、と漏らすものもいたぐらいだ。


「それにねぇ、青桐。アンタに今年の花魁役は柊だって伝えたら絶対に反対したでしょう?」

「当たり前だろ!これで柊に変な客が着いたらどうする!!」


菖蒲の問いに青桐は即座に答えた。

そんな青桐に木蓮がため息をつく。


「だから教えなかったんだよ。茅との計画のためにも柊には花魁役になってもらわなきゃ困るんだよ。

青桐、お前の柊贔屓にはちょっと呆れるぜ。」


木蓮の言うとおり、青桐は『胡蝶の夢』の従業員のなかで誰よりも柊を大切にしていた。

それは、かつて青桐を救ったのが柊であるからでもあるが、それだけじゃない。誰にでも優しく、決して人を傷つけない柊を、青桐は一人の人間として尊敬していた。


「いいか、青桐。柊に余計な迷惑をかけたくないなら俺の言うことをちゃんと聞け。俺とお前の役目は、将軍様まで柊の評判を届けることなんだからな。」

「うっ…わかったよ。」


柊に迷惑をかけたくないなら、という言葉が効いたらしい。

青桐は急に大人しくなった。


「それにしても藺草さんは?さっきから姿が見えないけど?」


柊がそう言うと、木蓮が確かに、と呟く。

店主である藺草が店にいないのは珍しい。


「今日の打ち合わせに行くって言ってましたよ!やっぱり、将軍様が来るかもしれないっていうことで、今年はどの店も気合が入ってるみたいです!」


棗が柊の疑問に答える。

その答えに柊は納得したように頷いた。

もし、今回の『妖艶行進』で将軍様の目に留まり気に入られることが出来たら、その店はきっと繁盛するだろう。皆、それを狙っているのだ。


「まぁ、そうでしょうね。はい、終わったわよ柊。そろそろ私たちも舞台にいきましょ。棗、準備して。」


柊の化粧が終わったらしい。

菖蒲は立ち上がると、自分の着物を整え始めた。

準備をして、と言われた棗も立ち上がり、部屋の隅に置いてある舞に使う扇子や剣を手に取った。

そんな二人を見ていた柊が、自分も準備をしようと立ち上がる。

木蓮と青桐が思わず目を見張った。


「柊、すげぇ綺麗。」


木蓮がそう呟くと、柊が照れ臭そうに微笑む。

それがまた、彼の美しさを引き立てた。

花魁役はどの遊女や男娼よりも美しく、高価な着物を着る。

女物の赤を基調とした着物は、柊に良く似合っていた。

纏められた髪につけられた金色の簪から垂れる、花の形をした飾りも柊が動くたびにゆれ、妖艶さを増させている。

なによりも、程よく施された化粧が素晴らしい。柊の元の美しさを消さず、引き立てている。目尻に惹かれた紅色が色気をかもしだす。


「木蓮…柊に手出したら赦さねぇからな。」


柊の美しさにうっとりとしていた木蓮を、青桐が強く睨む。

木蓮が肩を竦めた。


「確かに綺麗だけど、手は出さねぇよ。何年柊と一緒にいると思ってんだ。そういう対象だったらとっくに手だしてるっつうの!それになぁ、俺は女の子が好きなの!」


木蓮の言い分に、青桐はそれもそうだなと頷く。

そして、もう一度柊を見た。自分の尊敬する人物はこんなにも美しく、か弱そうだ。

俺が守るのだ、と強く強く思う。


「ほら、柊、棗。行くわよ。」


菖蒲が廊下から二人を呼ぶ。

柊は剣舞で使う剣を持ち、菖蒲のそばまで行った。棗も後を追う。


「じゃあ、青桐、木蓮。また後で。

いいかい、青桐。木蓮の言うことを聞くんだよ?」


柊がそう言うと、青桐が気だるそうに返事をする。

その返事に困ったように笑いながらも、柊は部屋を出て行った。



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