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妖艶行進  作者: うみはら
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九話


「どうするよ、柊。」

「どうするって言われても…どうしようか。」


はぁ、と柊と木蓮はため息をついた。

部屋には二人しか居ない。棗と青桐と菖蒲は寝床についてしまった。

茅が柊達に告げた、処刑阻止計画は「処刑がある日に将軍の目を引くような問題を起こして欲しい。」という実に単純なものだった。

処刑が行われる日は、『胡蝶の夢』も参加する『妖艶行進』がある日と被っており、やり易いはずだと茅は言っていた。


「やり易くなんてねぇよなぁ…何しろってんだよ。」

「そうだね。将軍様の気を引けるほどの何かか…。青桐や棗にやらせるわけにはいかないし、菖蒲も女の子なんだから危険なことはいけない。

僕か木蓮でやるしかないね。」

「そうだな。」


木蓮はもう一度ため息をつくと、煙管を取り出し部屋の中の火鉢で火をつけた。

煙管を口に銜えながら柊を見ると、彼は月明かりに照らされて、それはそれは美しい。

木蓮は苦笑をもらした。


「…いかにもか弱そうなのになぁ…見た目で判断しちゃいけないな。」


木蓮の呟きに、柊が怪訝そうな顔をする。


「なんだい、突然。」

「いいや、別に何でもねぇよ?

それより、どうする。俺がどっかの軍人襲撃するってのも手だと思うんだけど。」

「それはダメだ。君の負担が大きすぎる。」


柊が木蓮の提案をすぐさま否定する。そんな柊に、木蓮は苦笑を漏らした。


「じゃあ、どうするんだよ。俺か柊が強行突破するしかないだろう?俺はともかく、お前の身が危険に晒されると青桐がうるさいんだ。柊に何するんだ!って。」

「だからと言って君が危険に晒される必要はないよ。」

「柊って頑固だよなぁ。」


木蓮がため息交じりにつぶやいた時、襖で仕切られた廊下から床が軋む音が聞こえた。

誰かが部屋の前に立ったようだ。

柊と木蓮は黙って、部屋の前の人物が喋るのを待つ。


「柊と…木蓮か?入るぞ。」


その声は紛れもなく、『胡蝶の夢』の店主、藺草のものだった。

柊が急いで、どうぞ、と言うと、襖が開く。

銀色の長い髪が藺草の動きに合わせて揺れた。


「なぁんで木蓮が柊の部屋にいるんだ?しかもこんな夜更け!なになに?お楽しみ中でしたーってかぁ?今日は少将様がお早めに帰られたから、柊たちにとってはいい休みだってのによー!」


部屋に入ってきた藺草は意地の悪そうな笑みを浮かべて、木蓮に詰め寄る。木蓮が困ったように笑う様が面白いようだった。


「ちょっと意味わかんないこと言わないでくださいよ、藺草さん!俺が柊に手出してたら青桐に殺されてますよ!」

「はっ、それもそうだな。」


藺草はそう言うと、柊の隣に腰を下ろす。


「俺はこんな話するためにここに来たんじゃねぇの!あのな、柊!大ニュースだ!」

「どうしたんです?」


柊を見て、ニコニコと笑っている藺草に、柊も自然と笑みがもれる。

『胡蝶の夢』は、男娼や遊女たちと店主が仲のいい珍しい店だった。大抵の店は店主の立ち振る舞いが横暴で、遊女たちは『飼われているもの』として扱われている。だが、藺草は柊たちをそれはそれは大切に、家族のように扱った。


「今度の『妖艶行進』の花魁役、柊に決定したぞ!」

「え!?」


妖艶行進には、花魁役というものが存在する。それは、妖艶行進の主役とも言え、美しく豪華な衣装を身に纏い、観客たちのまえで他の誰よりも長く舞を披露するのだ。

花魁役は、数ある遊邸の遊女や男娼の中から毎年一人を、遊邸の店主たちの話し合いで決める。花魁役を担った者がいる店は、その一年、とても繁盛するのだ。


「去年お前、剣舞やったじゃん?あれ、すごく好評でさ!!満場一致でお前に決定!」

「本当ですか!?僕、頑張ります!この店にもっとお客様くるようにします!」

「頼んだぞ!でも、あんま無理すんなよ!」

「はい!」


勢い良く頷いた柊の頭を、藺草が撫でる。柊は頭を撫でられる心地良い感覚に笑顔をこぼした。


「今回の『妖艶行進』の日は、どうやら罪人の処刑の日と被っているらしくてな。上手くいけば、処刑に立ち会う将軍様の目を引けるかもしれない。頑張れよ!」

「任せてください!」

「おう!じゃあ、今日はもう寝ろ。明日も仕事だからな。」


藺草が立ち上がって部屋を出て行くと、木蓮が急いで柊の近くによった。柊も木蓮を見て大きく頷く。


「柊が花魁役として注目を集めれば、将軍様の気をひけるな!」

「ああ!上手くいくかはわからないが、なんとかしよう!これなら誰も傷つかない!」


嬉しそうに笑う柊に、木蓮も微笑んだ。これで茅の役に立てる、と安堵のため息をこぼす。


「なんとか解決策が見つかって良かった。俺は部屋に戻るよ。おやすみ、柊。」


木蓮は、煙管の中の刻み煙草を火鉢の中に捨てると立ち上がった。

柊は座ったまま彼を見上げ、おやすみといって手を振る。

月明かりに照らされた柊は、やはり美しくか弱そうなのだ。

木蓮は柊の部屋を出て、自分の部屋へと向かう。初夏とはいえ、夜はまだ冷える。冷たい床の温度が足先から伝わった。


「万が一のことがないとは限らないしな…。俺が皆を護るんだ。」


窓から見上げた月が青白く光っている。

木蓮は拳を強く握った。


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