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モブと攻略対象のあれこれ  作者: 楠木千佳
傍観者(希望)です!
5/17

05



「…………ガン見、でした?」

「ガン見でした」


 うわああああああああああああ! 穴があったら入りたい……!

 新菜は羞恥で顔を真っ赤にし、先ほどとは別の理由から絶対に早月と視線を合わせようとしない。

 彼女としてはちら見レベルだったのだが、まさか気付かれるほど見ていたなんて。無意識って怖い。

 だが早月は追い打ちをかけるようにさらに言葉を続ける。


「その日の放課後も俺が阿井さん助けてるとこ、木の影からずっと見てたよな?」

「それも!?」

「阿井さんが立ち去った時の柳沢さんの驚いた顔が面白くって。その後はもう気付いたら目で追ってる感じ?」

「嘘でしょ!?」

「ホントホント」


 ということは、なんですか。主人公である志保ちゃんよりも先に私の方が彼の中である意味気になる存在になってしまったがために、志保ちゃんとのイベントが発生しなかったと……? 見たかったイベントが発生しなかった原因、私? ……え、そんなに私って面白いの? 女子としてそれは落ち込むんですけど。

 悲しみに打ちひしがれる新菜は最後の望みを捨てず、今にも泣くんじゃないかという顔で早月を見上げた。


「……つかぬことをお聞きしますが、」

「ん?」

「志保ちゃんのことはどう思っていらっしゃいますでしょうか……」


 新菜の問いに、早月は「なに、その言葉づかい」と笑った後、少しだけ考える素振りを見せた。

 期待しましたよ、期待しましたとも。だって考える素振りなんて見せるから!


「別に、なんとも」


 だからこそ、早月のあっけらかんとした淡泊な返答に、本気で涙が出そうになった。私のデバガメライフウゥゥゥゥ!


「大和撫子、守ってあげたい女子ナンバーワン、さらにはお弁当手作りしちゃう女子力高い志保ちゃんですよ!? フリーなのきっと今だけですよ!?」

「いやいや、どんだけ阿井さんのこと大好きなの」


 あはは、と笑い声をもらしたのも一瞬。早月は笑う、というよりも口角を上げる、という表現の方が正しい表情を見せた。新菜の背が、ぞわり、震える。


「柳沢さんがそんなだと、俺、阿井さんに妬いちゃいそう」

「え、え、」

「俺は阿井さんより柳沢さんとお近づきになりたいんだけど?」


 こ、これは、台詞とシチュエーションが違うけど宮本早月ルートハピエン間近の告白イベントに似てませんか!? 私いつの間にそんなに彼の好感度上げてました!? というか時期早すぎませんか!?

 新菜はまさかまさかの展開に、ギョッと目を見開いた。さっきから驚いてばかりだ。

 ゲームでこの告白イベントを起こすには、一学期の終業式までに彼の好感度をマックスまで上げておくことが条件だ。そして夏休みの課題を忘れた主人公がそれを取りに戻ると同じように早月も忘れ物を取りに来るところからイベントスタートである。

 早月を意識しまくっている主人公は二人きりという状況に耐えられず、一言二言言葉を交わしただけで早々に教室を出ようとするのだが、直前で後ろから伸びてきた早月の手が扉をしめ、所謂壁ドンという状態に追い込まれる。


『阿井さんて、俺のこと避けてるよね? 俺なんかしたっけ?』

『わ、わたし、宮本君のこと避けてたわけでは……!』

『でも俺が近づくと逃げるでしょ、阿井さん』

『それは…っ』

『俺は阿井さんともっとお近づきになりたいんだけど?』


 早月の思いがけない言葉に驚いて振り返る主人公は、ぞわり、背筋をふるわせる。彼の浮かべる、普段の爽やかさからは想像もつかない妖艶(ようえん)な表情に。またしても瞳の奥で揺れる、薄暗い色の炎に。そして――。


「――『俺のものになってよ』」


 頭の中で再生していた声と、現実に耳で捉えた声がまったく同じ台詞を口にした。


「……えええええぇぇぇ!? 私、志保ちゃんじゃありませんよ!?」

「だから阿井さんには興味ないって」

「嘘ですっ!」

「嘘じゃないから」


 逃がさないよう新菜の腕を掴み迫る早月の顔は、ゲームのイラストで見たあの、かなり本気で鼻血を出しそうになった過去最高に悶えたものに酷似しすぎていて。しかもゲームの時とは違い漂う雰囲気も、掴まれる腕の感触も、機械を通してではなく直接耳に囁かれる声も、すべてが現実的で。


「ご、」

「ご?」

「ごめんなさいいいいいいいいぃぃぃぃ」


 腕を力尽くで振り払い、新菜は全力でその場を逃げ出した。鞄を離さなかった手、偉い!


(うわああああぁぁもう寿命が縮む! なにあれなにあれなにあれ! 眼福とか役得とかそういうレベルじゃなく死ぬ!)


 内心で叫びながら早月から逃げ出した新菜は知らない。


「はははっ、やっぱ面白いや! ――でも、逃げ出す悪い子にはお仕置きが必要、だよな?」


 緩やかに口角を上げた早月がそんなことを呟いていたことも。彼の脳内でどう新菜を追いつめるかについて、様々な案が巡っていたことも。

 彼女は知らない。



 そうして一学期の終業式の日、ゲームで告白イベントが起こるはずの時間。本来なら彼の告白を断ってノマエンを迎え他のキャラの攻略を続けることも可能なのに、早月は巧みな誘導で新菜に告白を受け入れさせた。


「え、いやいやいやっ、でもちょっと待って! 宮本君みたいな人気高い人と平々凡々な私が並んでたら女子の皆様方の視線がですねっ」

「大丈夫、それはもう解決済み。それより新菜、もう逃がしてやらないから、覚悟しとけよ? 浮気なんて許さないからな? あ、あと敬語も禁止」


 後ろから新菜を抱きしめる早月は、それはそれは満足げに笑っている。

 怪しげな手つきで頬を撫でる彼から逃れようとするも、抱きしめる力にとてもじゃないが敵わない。新菜は赤くなったり青くなったりと忙しい頬を引き攣らせた。


「……こ、これのどこが爽やか腹黒……! 爽やか腹黒通り越して、おっそろしいくらいの執着粘着質系男子じゃないかっ!」

「あんま褒めても、大変なの新菜だけど」

「褒めてないっ! っ、や、ちょ、待ってまてまてまてどこ触ってんの……!?」


 頬をくだりますます怪しい動きを見せる早月の手と格闘しながら涙目の新菜は叫ぶ、心の中で。

 やっぱり私は傍観者希望ですっ! と。



END.

ということで乙女ゲーム転生もの第一弾、これにて幕引きです。


正直一番苦労したのは、早月さんのキャラが安定しないことでした。

紳士的なイメージになったり、スポーツ少年系のイメージになったり。

しっかりキャラづくりをすることの大切さを痛感いたしました、ええ、本当に(まがお)


第二弾、楽しみに心待ちにしてくださる方がいらっしゃれば幸いです。

読んでいただき、ありがとうございました!

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