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元オタク系モブ×爽やか腹黒系担当攻略対象(実は???系男子)
進級式及び始業式、受付を済ますと同時に渡されたこれからの一年自分が在籍するクラス名簿を見ていた時。自分の名前のいくつか上に印刷された名前を見つけて、雷に打たれたような衝撃が頭のてっぺんから足の爪先に向かって走り抜けた。
そして確証なくとも確信した。
――ここが乙女ゲーム『運命の導』の世界だと!
『運命の導』とは正規攻略対象四名、隠し攻略対象一名、総勢五名のうちから一人を選んで攻略ができるゲームだ。エンドはそれぞれノーマルとハッピーが用意され、それとは別に全員の好感度をまったく同じだけ上げることが条件である逆ハーもある。
舞台は甘美市にある甘美西高校で、ゲーム開始は主人公が転入してくる高二の始業式。そう、まさに今日だ!
(イラストでしか堪能できなかったあのシーンとかあのシーンとかあのシーンが生で! 見られるチャンス! 幸せだ!)
名簿を手に持ち微動だにしないその一人の女性の心の内はまさしくお祭り騒ぎだった。
柳沢新菜、本日より甘美西高校二年になる、ゲームでは名前もイラストも登場さえもしなかったモブキャラに転生したようです! ヒャッホーイ!
新菜がこれほど喜んでいるのは、前世で唯一ドハマりしたゲームがこれだからだ。まあ前世、とはいってみるもののこのゲームに関することしか思い出せないけど。
お気に入りだったのは爽やか腹黒系、宮本早月君! 表面は爽やかに笑う人気者なのに、主人公に対しては次第に腹黒い一面を見せて追い詰めていく。意地の悪そうな瞳をしてたまに囁く甘い言葉に「くぅ……っ!」と悶えたのはもはや数え切れぬほど。いろんなルートを試したが、彼以上にやりこんだルートはないほどだ。
ちなみに宮本早月は運動神経は良いが部活には所属せず、時折助っ人として参加する程度だ。一番助っ人率が高いのがサッカー部、という裏設定は製作者側にサッカー部イコール爽やか男子という思考を持つ人がいるのではないかと噂されていた。完全に余談である。
そんな風に、新菜がゲームのことを思い出したのは彼の名前を見たから。これぞ愛の力! ……なんちゃって。あくまで求めているのは主人公とのイベント諸々であり、恋人にしたーい、なりたーいなどという感情はない。
もう一度言う、下心は、ない。傍観者希望だ。
「……ハッ、始業式始まっちゃう!」
始業式の前に教室に集まることになっている。新菜は廊下を駆け出した。
ちゃっかり、クラス名簿に主人公である『阿井志保』の名前があることを確認して。