7 魔力感知と魔力探知
***《side:透流》
次の授業、俺たちは魔力学Ⅰを受ける。今日は魔力感知と、魔力探知についての授業をするようだ。
魔力感知は魔力を使い、目的の場所や、人物、魔力を大まかに感知する能力で、魔力探知は特定の場所、人物、魔力を探し出す能力である。ひとりひとり魔力には違いがあり、人によっては色が見えたりするらしい。
程度は人に寄りけりだが魔力感知は広範囲にわたって展開できるが、魔力探知はその魔力感知の最大範囲の半分くらいまでしか展開できない。特定の魔力の探索で精神力を使うため範囲を絞らないと消耗が激しいからだ。また、上級者になると探知されている方は、探知されていることが分かるらしい。
「では、やってみましょう。先生の魔力を感知して下さい。」
意識を集中して魔法感知を展開させた。
……教室中に感じていた魔力を感知したが、教卓の方にふいに大きな魔力を感じる。先生の魔力を大きくし、生徒たちが感知しやすくしたのだ。
「……できましたか? はい、それではこの魔力の形を覚えておいて下さいね。先生は今からどこかへ移動しますの頑張って探してみて下さい。他の生徒と協力してもOKです。先生が見つかったら学年と名前告げて下さい。それでこの授業の出席としますのであとは自由にして下さって結構です。授業内に見つからなかった人は一度この教室にもどってきてください。——では、健闘を祈ってます」
先生は転移魔法でどこかに移動したみたいだ。ちらほらと席を立って教室の外へでていく生徒がいた。
隣にいる相馬は眠そうにあくびをかみ殺している。さっきの授業で調子に乗りすぎて魔力を使いすぎたからだ。次の授業のことも考えておけよ。
「どうする? みんな出て行ってるみたいだけど……?」
「ここで探知してみる。駄目なら一度教室の外に出て移動しながら探知する」
「俺もう魔力切れそうなんだけど……あーもーなんでさっきの授業であんなにはしゃぎすぎちゃったんだろうー……」
「うるさいな。黙って俺についてこい」
「何そのかっこいいセリフ……!」
別にそういうつもりで言った訳ではない。ぐちぐち鬱陶しいから口を閉じろと言いたかっただけだ。
もう一度魔力を集中してさきほどの魔力の形を探す。高等部エリアにはいないみたいだ。俺は中等部エリアまで範囲を広げたが見つからなかった。
この建物は上にいく程学年が上がっていくので、高等部以下の生徒がとても行きにくい大学部にいるなんて意地悪はしないだろう……。とすると、初等部エリアよりも下だな…。
「中等部にはいなかった。下に行くぞ」
「俺、高等部エリアまでしか分からなかった……。魔力を消費しなければもう少しいける自信はあるんだけど」
エレベーターに乗り込み、降下しながら魔力探知を行う。横方向にめいいっぱい範囲を広げ、あとはエレベーターが勝手に下へ移動してくれる。
——見つけた。
途中でエレベーターを降り、目的の階にいくため丁度きた上りのエレベーターに乗り込んだ。図書館階で降り相馬に話しかける。
「ここからなら分かるだろう。一応授業なんだから魔力探知しておけ」
「うん、ありがとう……あ、こっちにいらっしゃるね」
相馬とともに先生の魔力が感じる方へ歩いていく。
先生は魔力学についての本が並んでいる本棚の近くに設置されている椅子に、腰掛けていた。手元には難しそうな本がある。
俺たちが来たことが分かっていたようで、笑顔でこちらに顔を向けていた。先生に近付き、学年と名前を告げた。
「1番乗りおめでとうございます。まさかこんなに早く見つかるとは思いませんでした。いつも場所を変えるので事前に知っていたわけではないようですね。ちゃんと探知していたみたいですし。一瞬だけ探知が通り過ぎたのだけど、どこから探知していたの?」
「エレベーターに乗りながらです。魔力探知を展開して降りてきました」
「あら、まぁ貴方も……?」
「? 俺も、とは……?」
「毎年前期と後期の最初の授業はこの内容なのだけど、去年の前期の時に貴方と同じ方法で探知した子がいたの。2人組だったんだけど、面倒だから一気に探そうと思ったんですって。1番上から1番下まで」
一番効率が良い方法だけど広範囲での展開でかなり魔力を消費するから、この方法を試すのはそう簡単ではない。思いついてもできるものは中々いないだろう……。
そのうちの片方の生徒は学年と名前を告げた後ぶっ倒れたらしい。正確には後は自由にして良いということなので素直に寝たらしい。……場所くらい選べよ。
「魔力量は大きんだけど、魔法を使うと疲れて寝ちゃうのよね……花波さん。」
ん?花波って確か波鳥と波月と間のにいたような……。
「波鳥くんは全然平気そうだったんだけど……。花波さんを運んで医療館へいったわ。本当元気よね」
お前ら兄妹は……!なんだ俺、あいつらと思考回路が一緒なのか?
「そのことを聞いていたのか、半年後妹さんも同じことをしていたわ。あの子は元気に走ってきたわね」
波月まで……。先生はその時のことを思い出しているのか、楽しそうに笑っている。
「それよりも、その子も今にも倒れそうよ。もう自由にして良いから仮眠室にでも行ってらっしゃい。一日に授業は3コマしかないけれど、あまり魔力を使い過ぎないようにね。」
「はい。失礼します」
「失礼します……」
隣を見るととても眠そうな相馬がいた。こいつにもぶっ倒れてもらっては困るので、先生に挨拶をしてその場を離れた。
「お前、このまま仮眠室に行くのか?」
「うん。もう限界。悪いけど次の授業まで寝てくるよ」
「そうか、俺はしばらくここにいるから」
「ん、じゃまた」
図書館に来るのは初めてなので、少し見学することにする。
なにか面白い本がないかと館内を歩いていると、魔力学を受けていた生徒が先生のいる方へ行くのを何人か見かけた。見つかって安心したのか嬉しそうに走っていくのを図書館の司書に怒られている生徒もいた。まぁそう落ち込むな。先生はちゃんとそこにいるぞ。
「あのっ!」
入り口近くのおすすめ書籍に目を通していたら、女子生徒が話しかけてきた。
無視しても良いが俺が手に取っている本が目的かもしれないと思い、一応目を向けた。
「魔法学を受けていた人だよね! 私もなの。この階に先生がいることは分かったんだけど魔力が足りなくてどこにいるかまでは分からなくて……。一緒に探さない?」
また面倒なのがきた。今は相馬がいないから自分でなんとかしなきゃいけないが……こういうのは大抵無視しておけば諦めてどこかへ行く。
俺は本に目を戻した。
「あれ? もしかして時間ないから諦めちゃった? だいじょーぶ! この図書館内にいるのは分かってるから一緒に探そうよ!」
こいつは俺がまだ先生を見つけていないと勘違いしている。場所を教えてやっても良いができるだけ関わりたくない。
これがただのおせっかいの女なら問題ないが、きっと違うだろう……。「この前はありがとう!」とか馴れ馴れしく話しかけられるのが目に見えている。
「あ、ねぇもう時間なくなっちゃうよー?」
女がそういった直後授業終了のチャイムが鳴った。これでこの女は去るだろう。
「あーあ、終わっちゃった。仕方ないね、一緒に教室行こう?」
「断る」
「えーいいじゃん、行く場所は一緒なんだし」
「俺は行かない」
「でも——」
「あらあら、せっかくここまで来て頂いたのに、もう授業は終わりましたよ。今から教室に向かいますのでついてきて下さい。」
図書館の入り口付近にいた俺たちに先生が声をかけた。どうやら今のやり取りを見かねて彼女を連れて行ってくれるらしい。
「ほら、行こう?」
「彼は一番乗りでしたから必要ありません」
「えっ?」
「他の生徒も待っています、さぁ行きましょう」
「……はい」
女はしぶしぶといった感じで先生の後をついて行った。今後はあの女とは出来るだけ離れた場所に座るようにしよう。
図書館を出るまで俺の方に視線を向けていた女に背を向けるように、俺は図書館の奥に足を進めた。