表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月と魔法と王子様  作者: kisa
本編
2/160

2 編入生は王子様

 ——浅い眠りの中、隣に人の気配を感じた。


 ……誰?知り合いだろうか?

 用があるなら起こすなり寝ているから何処かへ行けば良いものの、今私の隣にいる人物は立ったまま動く気配がない。多分知らない人だ。


 じゃあ、なんだろう?

 もしかしてこの席はいつもその人が使っている席なのだろうか?それで今日は私が座っているから、邪魔だな早くどけよという意思表示だとか……?

 確かにこの席は日当たり的に最高だ。どうしてもこの席が良いという人がいてもおかしくない。だがしかし、私はこの席を譲る気はない!


 早くどこかに行ってくれないかな~と無視を決め込む。きっとそのうち諦めて他の席に行ってくれるだろう。窓際の席はここだけじゃないぞ~。


 しかしながら一向に移動する気配がない上、休むことなく注がれる視線が気になって気になる。うー……なんだろうめちゃくちゃ睨まれてんのかな?

 もう少し寝ようと思っていたのに気になって寝れない。この人は何がしたいんだろう?


 ガタッと音を立てて隣の椅子が動いた。先ほどから立っていた人物が私の隣の席に腰掛けたのだ。


 え? 座っちゃうの。う~~なんか居心地悪い。ど……どうしよう、やっぱ席を譲るべき……?


 顔にかかっていた髪に誰かの手が触れた。

 いや、多分隣にいる人物だろうけど。え、何?何ですか?その手は私の髪を掬って耳にかけた。うぅ……もうなんか無理。

 ビクってなってしまったからこのまま寝てたら狸寝入りしてるんじゃ……とか思われる?……起きるか。


 意を決して目を開けて隣の人物に顔を向けてみる。

 今まで目を閉じて頭を伏せていたから目がしょぼしょぼして視界がぼんやりている。だんだんと鮮明になってきた視覚が捉えたのは、窓から射す陽射しで眩しいくらいに輝く金色。

 隣に座っている人物の髪だ。風に揺れている綺麗なその髪に触れてみたいと思った。


 そのキラキラ輝く金の髪をなびかせて男子生徒は私を見ていた。とても綺麗な深緑の瞳を大きく開いた後、ふわりと優しく微笑んだ。吸い込まれそうなその色を見つめながら私は思った。


「王子様だ」


――と。




「――え?」

 男子生徒が驚いたように目を見開いて言った。


 しまった!! 声に出てた! 違うんです違うんです!いえ、違わなくないんですけどあーーもーー!!

 王子様すっごく驚いてるし!そりゃイキナリ変なこと言われたら困惑するだろうな!!どうすんだよこれ。


「あっ……あの……」


 声をかけてみようとも何を言ったら良いのか分からなくて言葉が出てこない。


「すまない。気持ち良さそうに眠っていたのに」


 だったらほうっておいてくれれば良いのに。そう思ったが口には出さないでおく。


「い、いえ……。えっと……何か?」

「えっと……あ、その参考書見せてくれないか?」


 参考書?あぁ、私が枕にしていたこの本か。ヤバい、司書さんに見つかったら怒られるとこだった。そうかさっき髪をよけたのはこの本が何かを確かめるためだったのか。

 男の人に触れられた事を思い出してちょっと恥ずかしくなった。


「え、あ、どうぞどうぞ。私はもう良いので持って行ってください!」


 確かもう一冊あったと思うが他の生徒も借りていたのかな?まぁ、私は復習のために見てただけだし、読みたい人がいたなら本棚に戻しておけば良かった。


 そんなことを思いながら私が占領していた参考書を差し出す。

 うん、涎はついてないから大丈夫。これを持って早く何処かへ行ってくれないかな。知らない人と話するの苦手なんだけど、私。

 彼は私から本を受け取ると、ありがとうと中身を確認し出した。


 う……動く気はないのか……!なんか本格的に読み出したぞ。……うーん、もういいや、仕方ない……私が移動するか。

 この暖かな場所は名残惜しいけど。


 そそくさと立ち去ろうと席を立って彼の後ろを通り過ぎようとした。


 ――が。


 ガシッと手を掴まれる。


「う……うぇえ!」


 びっくりして変な声が出てしまった。

 え……な、何ですか!?

 彼の方に目を向けると左手で私の右手を掴み椅子に座ったまま身体をこちらに向けていた。私の顔を見つめている深緑の瞳と目があって何だか落ち着かない。


 うぅ……そうやってじっと見つめられるとなんかドキドキしてしまう。私の周りには結構美形が揃ってるからイケメンには慣れてるはずなんだけど……やっぱ初対面の人はダメだ。

 手、放してくれないかな……。


「あのさ。俺、今期から魔法科(ここ)に編入してきたんだ」

「え、あ、そうなんですか……」


 突然話し始める王子様。なるほど、道理で初めて見る顔だ。魔法科は幼い頃から魔法をコントロールできるように、早い子は幼等部から入学させられる。だから年の近い生徒の顔はほとんど知っている。

 特にこんなイケメンな生徒は印象強くて絶対に覚えているし、女子生徒もキャーキャーと騒ぐだろう。それにしても何故こんな中途半端な時期に、しかも――


「編入?」


 私は疑問を口にした。


「あぁ、去年1年間普通科にいたんだ。でもやっぱり魔法科の方が良いなと思って、こっちに編入してきたんだ。前期はずっと自主学習室で勉強していた」


 もともと魔力は強くてコントロールできていたから、あとは同級生に追いつくための単位の取得のみだという。

 高等部からの編入はよっぽど大きな後ろ盾がある者か、眠っていた才能がいきなり開花した天才くらいしか編入できない。しかし私達が中等部の3年間で履修した単位を短期間でクリアしたということは、このイケメンかなり優秀な生徒らしい。こんな膨大な単位、そう簡単には取得できないぞ……。

 ふとここで先ほど瑠璃と食堂でしていた話を思い出した。


 あれ? 普通科って……自主学習室にいたってことは瑠璃が言ってた噂の男子生徒って彼の事だろうか……?イケメンだという噂は本当だったんだ。あとで瑠璃に教えてあげよう。


「へー。ずっと普通科にいたのに何で今更魔法科に?」

「ずっとではない。高等部から普通科に入学した。魔法は使えたがあまり興味がなかったし、将来のために特進クラス(シアン)で知識を深めようと思ったんだが……」

「……?」


 思ったんだが、なんだろう……?

 深緑の瞳が私をじっと見つめる。うっ……また胸のドキドキが復活してきた。どうやら私はこの秀才イケメン王子様の瞳に弱いらしい……。

 次の言葉を待っていると彼がふっと笑った。そして掴んだままの私の手を自身の口許に持っていき、――口付けた。


「……!!なっ……えっ……?なっ…………!?」


 なになにイキナリ何なの!?なんで手にキス……!?

 兄や姉と戯れで頬や額にキスはしてたけど初対面の男の人にこんなことされたのは初めてだ。顔がものすごく熱い!絶対今までにないくらい赤くなっている!

 離してもらおうと手を引いたが、逆に強い力で腕を引かれた。バランスを崩した私は彼の腕の中に抱え込まれた。


 え……!ちょっ何何っ!!なんで私、抱きしめられてっ……!


「欲しいものがあると知ってここへ来た」


 彼は耳元でそう言ったがそれどころでない。

 もう私の頭の中はパニックを起こしてグチャグチャだ。私は混乱しながらも魔力を集中し転移魔法を使って…………逃げた。


「――に――れる……。――波月」


 無我夢中で魔法を展開した私は彼が呟いた言葉は聞き取る事が出来なかったが、名乗ってもいない私の名前をその唇が紡いだ事は分かった。




 混乱した頭で転移魔法を使ってしまったがちゃんと成功したらしい。さ、さすが私!

 お気に入りの場所である中庭でちょこんと座っていた。見上げると聳えるように大樹が佇んでおり、ここも木陰が心地良い絶好の昼寝スポットである。芝生がもふもふで気持ちいい。

 地や水を得意属性としている生徒が大事に世話をしている。私も時々手伝っているが、やっぱり得意属性を持つ子の方が上手だし丁寧だと思う。


 みんな自分の部屋や仮眠室で寝るけど私は専らここで魔力を回復させている。さすがに夏の暑い日や冬の寒い日は部屋で寝ているけど。

 そしていつもの癖でここに転移してしまったが……失敗した。転移魔法は高等魔法のため魔力の消費が激しい上、身体にも負担がかかる。特に今は午前の実技で多少魔力を消費している時に使ってしまった。


 何が言いたいのかってめちゃくちゃ眠い!ヤバいよマジヤバいこのままだと本気で午後の授業に出れなくなる。


 ――しかしもう限界。

 身体が重いし、頭もふらふらしてきたし、瞼も自然に落ちてきた。どうせ授業に出ても寝てしまうだろうし、ならいっそここで寝てしまおう。


 そう結論付け、私は木陰の下で身体を丸めて腕を枕にして瞳を閉じた――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ