叩扉
タイトルは「こうひ」と読みます。
「チャンス?」
どこまでも上から言う態度は気に食わないが戻れる可能性を貰えるならば我慢せざる負えない。
「うん。そうだな・・・。」
数秒の間黙り混み、うーんと唸っていると突如、俺Bの頭上に豆電球が現れた!何かが閃いたようだな。なんとわかりやすい演出だろう。
「僕が与える試練を乗り越えたら元に世界に帰れるってのはどうだい?ありきたりだけど、シンプルで分かりやすいだろ?」
俺Bはパッと思い付いたテンプレなアイデアに満足気に頷いている。
「試練だろうが何でもいいから何をすればいいのかさっさと決めろ。」
顎に手をあて再度考え込む。
「じゃあ、魔王となった俺を倒す、というゲームとかでよくある、ファンタジー系ロールプレイング形式でいいかな?」
自分と瓜二つ(とはいってもほぼ同一人物なのだが)の人を倒すというのは少々気が引けるが、今までこいつにされてきたことの鬱憤を晴らすのには実に合理的な設定ではある。わざわざ倒されるための設定を自ら作ってくれるとは案外良い奴じゃないか。
一通り考えを巡らせ、了承のサインを込めて首を縦に振る。
「オーケー。じゃあ、やるよ?」
俺Bはいきなりやる気を出して右肩を回している。
何をするのかと尋ねる前に俺Bは親指と人差し指でパチンと音を鳴らす。
それと同時に俺の体は白い光に包まれていく。
「お、おい!何するんだ!?」
状況の説明を求めた問だったのだが笑顔を向け、無関係の言葉が返ってきた。
「いってらっしゃーい。」
「ふざけんなよ!!行ってきます!!!!!!!」
俺Bの姿も回りの景色も全てが塗り潰されていき、視界は白一色となった。
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三百六十度見回しても白が広がっている景色。自分が立っているのは地面なのかもわからないほどに白で塗りつぶされている。そこにぼうっとひっそり佇むこれもまた白い扉が一つあった。扉に近づいていくと歩を進めていく事に空気が重くなっていくのを感じる。
扉を開けるとゲームやアニメのような世界が広がっているのだろう。現実とは違う世界に飛び込むことに体はウズウズしている。でもここは何かの名台詞を言って格好をつけてから始めるべきだろう。取っ手に手をかけ、力を込める。
「さあ、冒険の始まりだ!」
──ガチャ
「・・・。」
──ガチャガチャ
「・・・・・・・・・・・。」
あ、開かない・・・。
すると、どこからともなく拡声器を通したような声が響く。
「ぐ、ふふ…。マイク音量大丈夫?チェック、1、2…。どうも、神の声でーす。」
明らかに笑いを堪えているようなくぐもった俺Bの声だ。
「ごめん、ごめん。折角、格好をつけたのに出鼻をくじいちゃったね。今、設定変えるわ。」
すると、扉が淡い光に包まれる。
「ほい、メンテ終了。それでは張り切ってテイク2をどうぞ!」
──ブツッ
俺Bを殴る回数を一回増やすことにして、仕切り直す。
今、この瞬間に新しい世界への扉は開かれた。
ようやく本編に入ることができそうです。