望み
は?何をこいつは言っているんだ。言っていることがわからない。意識を失ったのなら、意識は取り戻せるはずだ。もし、最悪の場合で戻れないとしてもそれは「最悪の場合」だ。戻れる可能性はあるはずだ。なのに・・・。
「どういう意味だ。」
「そのままの通りなんだけどね。はあ、君はすっかり忘れているようだね。最初に言ったでしょ。『俺と入れ替われ』って。つまり、向こう側の肉体が意識を取り戻すときに君の精神が戻るのではなく、俺の精神が代わりに戻るということなのさ。そして、取り残された君はこの夢の中にずっといてもらうことになる。簡単だろ?」
「ふざけんな!そんなこと許すはずも無いだろう!!」
「お前が許す、許さないの問題じゃあない。俺がするか、しないかの問題なんだ。君に選ぶ余地なんて無いんだよ。君がどっぷりこの世界に入って来てしまった瞬間にね。残念だったね。己の不幸を恨みたまえ。」
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。
「ふざけるな!!そんなこと認められるか!」
「見苦しいよ。」
あいつが指をパチンと弾いたとき、同時に俺の意識も失った。
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パチン!と指を鳴らす音と同時に意識が甦る。目を開ければ、椅子に座った俺Bが頬杖をつきながらティーカップに注がれた珈琲に角砂糖を次々に運んでいた。どうやら俺も椅子に座らされたらしく、おまけにロープで固く体を椅子に縛られ身動きがとれないようにされていた。
「やあ、おはよう。少しは冷静になれたかな?」
「ああ、お陰様で。でもまたすぐに冷静でいられなくなりそうだな。」
俺がチラッと縛られた腕のほうを見ると、
「でも、外したらそれはそれでまた暴れたら大変じゃない。」
俺Bはティーカップに口を付け、珈琲を啜ると「あまぁい。」とうんざりした顔をして舌をだす。
ざまぁ。と内心で呟くと俺Bが再度話を始める。
「それで、三つ目の質問だけど、俺の正体だよね?」
俺は頷く。
「実際に正体と言われてもね。言えることは一つなんだよ。さっき言ったように俺は君だ。君は俺で俺は君。同じ人物なんだよ。。簡潔に言うと、君の頭の奥深くに眠っていたもう一つの人格かな。」
もう一人の俺、と言われて面食らう事実だが魔法やらんやら見せられた後だ、何でも来い!
「追加の質問、いいか。」
「どうぞ。」
俺Bは指を弾き、一つのティーカップを出す。どうやら俺にも珈琲を注いでくれるらしい。「甘めで。」と注文すると頷いて角砂糖を2つばかり投入され、目の前のテーブルに出される。それと同時に俺を縛っていたロープも光の粒子となって空気に溶けていく。ロープも魔法の一種なのだろうか。
程よい甘さの珈琲を一口啜ると本題を始める。
「本当に俺が現実に帰る方法はないのか?」
気絶させられる前(ここに来てから2回目の)に俺Bは自分が戻すか戻さないかを決めると言っていた。つまり、説得さえできればもとに戻れる可能性がゼロではないということ。もし、説得出来なかったとしても諦めるつもりも毛頭ない。
俺Bは少しの間をおいてからゆっくりとした口調で話した。
「ない。とは言えないな。正直、言いたくはないんだけどね。それでは不公平だ。君にチャンスをあげよう。」
現在では珈琲はマグカップなどに注がれますが、昔は珈琲もティーカップに入れて飲んでいたそうですね。
大して拘りもないお年頃なので作品中では昔の方を採用しました。
紅茶と珈琲の味、混ざらないのかな・・・。