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Not Perfect World(打ち切り)  作者: 有栖
第2章 気狂いピエロ
8/19

#1 悪政

トラキア王国。

絶対的な階級制度が敷かれ、偽りの平和が保たれていた。

弱き者は虐げられ、強き者がのさばっている。

そんな腐った国に今一人の若者が立ち上がろうとしていた。



コンコン


町外れの森小屋に一人の青年が訪ねてくる。

ジークフリード・アルノーグ。上級貴族アルノーグ家の一人息子。

その服装は見るからに貴族だが、この国の貴族にしては物腰が柔らかい。


「エミリア、僕だ。」


「ジーク!今日も来てくれたの!」


小屋に住んでいる少女が音に反応してドアを開く。

エミリアと呼ばれたこの銀髪の少女は目が見えない。

目が見えなくなって5年ぐらいになるが、何とかこの小屋に一人で暮らしている。


「ああ、エミリア。今日はパンを持ってきたよ。」


「パンなんていいよ!早く今日のお話を聞かせて!」


「分かった分かった。まずは...」


そうやっていつも通り青年と少女の他愛のない話が始まる。

この場所には階級制度など存在しない。



-------------------------------------------------


5年前。

ジークは今の生活に飽き飽きしていた。

神童や天才などと周囲からもてはやされていたが、ジークはどうしてもやる気が起こらなかった。

こんな腐った国に目標なんて持っても無駄。そう思っていたからだ。

だから暇を見つけては外に出て物思いにふける。時には壁の外へも出る。

そんなある日の事だった。


「...ん?」


いつも来る森の湖に人がいる。

外に人がいるなんて珍しい。何故なら、下流階級の人々が逃げだすのを防ぐために門には厳重な警戒がされているからだ。

魔物もいるし、外にいるなんて冒険者ぐらいだろう。

だが、近寄ってみると森の湖にいるのは少女だった。まだ10歳前後ぐらいだろうか。

この国では珍しい銀髪だが、服装はこの国のもので間違いないだろう。


「ちょっと君、ここは危ないよ?早くおうちに帰ったら?」


「お兄ちゃん誰?」


「僕はジーク。君の名前を聞かせてくれるかな?」


「私はエミリア!お父さんとこの森に住んでるの。」


「この森に?驚いたな、この森に人が住んでるなんて。」


この森はこの国の人間なら立ち寄らない。何故ならば、ある言い伝えがあるからだ。

それが本当かどうかは分からない。でもこの国の人々は妄信的に森を忌避していた。


「んー、じゃあエミリアちゃん。お父さんはどこにいるの?」


「お父さんはねー帰ってこないのー」


「帰ってこない?」


「うん、一昨日から街に行ってからおうちに帰ってきてないの。だからここでお父さんを待ってるの。」


街に行ったきり帰ってこない。

そう聞いたジークの脳裏に嫌な予感が渦巻く。

何故ならば新しい大臣が就いてから今のトラキアの治安はすこぶる悪いからだ。最悪と言っていいかもしれない。

何日も帰ってこないのならば、何かに巻き込まれている可能性が高い。


「お父さんがどこに行ったのか分かる?」


「うーん、お買い物に行ったから商店街かな?」


「分かった。僕がお父さんを探してくるから、エミリアちゃんはおうちに帰って待ってて。」


「えー!私も行くよ!もう待つのは飽きたもん!」


「そうは言っても街は危ないよ?おうちに居たほうがいいんじゃ...」


「行くったら行くの!」


「やれやれ...」


放っておいても1人で行こうとするだろうと思ったジークはエミリアも連れていくことにした。

自分と一緒ならまだ1人よりかは安全だろう、そう安易に考えていたが、この選択を後に彼は深く後悔することになる。



-------------------------------------------------


秘密の裏口を通って城壁を抜け、トラキアの商店街に来たジークとエミリアはとんでもない光景を目にする。

処刑。

低流階級の人々が次々と文句をつけられ処刑されていく。

既にこれは虐殺と言っていい内容だった。

それを取り仕切っていたのはボティスという男。この国の大臣だった。


「やめてください!妻や子がいるんです!私が死んだら飢えてしまいます!」


「ふん!知ったことか。税10万ガルを払えない貧民などこの国には要らぬ!妻と子共々死んでしまえ!」


「そ、そんな...!命だけはお助けを...!」


処刑台に立たされた男は命乞いをするが、大臣は理不尽なことを言って全く聞こうとしない。

そして大臣の命令により男は処刑され、悲鳴だけが観衆の耳に残る。

このあまりにも惨い光景に本当にボティスは人間なのかとジークは思った。

ボティスへの怒りとこんな男が大臣になれるこの国に嫌気がさす。


「噂には聞いていたが、ここまでとは...くっ!」


「な、なにこれ...人が...」


「エミリアちゃん!お父さんはいない?」


「ちょっと待って...いた!あそこ!」


エミリアが指さした方向は丁度処刑の順番待ちの列だった。ジークの悪い予感が的中したようだ。

ジークはフードを深く被って腰から細身の剣を抜く。


「エミリアちゃんはここまで待ってるんだ。お父さんを助けてくる。」


そう言って処刑会場へとジークは乗りこんでいく。

今まさに処刑が始まる寸前で兵達の腕を細身の剣で斬り、槍を落とさせる。

そしてすぐさま処刑台から蹴り落とし、処刑されかかっていた人を救い出す。


「な、何者だ貴様は!?この俺が大臣だと知っての暴挙か!」


「お前のような人でなしに名乗る名前などない!」


ジークはボティスに斬り掛かるが兵達に邪魔されてしまう。

ジークは深追いせずに魔法を唱える。


「フラッシュ!」


処刑会場は光に呑まれ、兵達は視界を奪われる。

その間にジークはエミリアの父を救い出し、エミリアと合流する。


「おとうさん!」


「エミリア!あ、あの...貴方は一体...?」


「話は後です。今はここから逃げましょう。」


そうして3人は貧民街の方向へと逃げ込んだ。







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