#5 宿命の対決
鍔競り合いから距離を取り、魔王と対峙するユーリ。
魔王は笑みを、ユーリは怒りの表情を露にしていた。
「ユーリ!」
「お前達は下がってろ。俺が決着を付ける。」
「でも!」
「でもじゃない。これは俺の戦いだ。」
リリーナが呼びかけるが、ユーリの目線は魔王をじっと見て離さない。
復讐を果たす。ユーリの頭の中にはそれしかない。
そのやりとりを見て魔王はさぞ面白そうに笑う。
「その性格は相変わらずだな、ユーリ。」
「どういう意味だ。」
「そのままの意味だが?まぁユーリ、こんなところじゃ興も乗るまい?私達にふさわしい舞台を用意しておいた。」
「ふさわしい舞台だと?」
「そう、私達の戦いにふさわしい舞台だ!」
そう魔王が言うと辺りは闇に包まれ、景色が変貌する。
「なっ...ここは...」
幼い頃、ユーリが姉と母と住んでいた村に。
まるで映像を見ているかのように時が進み、突然村の建物から徐々に火の手が上がり、悲鳴が聞こえる。
迫り来る魔物。逃げ惑う村の人々。そして、一方的な虐殺が始まる。
「ふふふ、蘇ってきたか?昔の記憶が。その記憶が私への憎悪を引き立てる。」
「ふざけやがって!」
「魔王の声に耳を貸しちゃ駄目!全て幻よ!」
リリーナが叫ぶがユーリの耳にはもう悲鳴しか聞こえない。
「ふふふ...リリーナ姫、そこで黙ってみていたまえ。」
魔王がバチンと指を鳴らすと、リリーナとラスティの周囲に半透明の膜が出現し、2人を覆ってしまう。
リリーナとラスティは膜の破壊を試みるがびくともせず、完全に覆われてしまう。
声は完全に遮断され、ユーリと魔王の姿を見つめるだけしか出来なくなる。
ユーリは悲鳴を聞き、怒りのあまり歯ぎしりさせながら、大剣を構えながら前に立っている魔王を睨みつける。
その姿を見て、魔王は高らかに、さぞ面白そうに笑う。
「ふふふ...ははは!!!そうだ!その目だよ!さあ、来いユーリ!」
「貴様だけは!俺がこの手で殺す!」
ユーリは大剣を振りかぶり目にも止まらぬ速さで魔王に向かって振り下ろす。
魔王は右手をかざして闇で大剣を受け止める。
ユーリはその闇に対して何度も大剣で叩き、その余りにも重い斬撃に闇にヒビが入る。
「うおおおお!!!」
「ふっ、少しは出来るようになったようだな、しかし!」
魔王の周囲にあった闇が剣へと姿を変え、ユーリへと襲いかかる。
「ブラッディレイン!」
飛び退いたユーリに剣の雨が降り注ぐ。
それをユーリは大剣で斬り払い、全て凌いでみせる。
「よくぞ凌いだ!だが!」
魔王がユーリの目の前に瞬間移動し、剣でユーリに斬り掛かる。
避けられず、ユーリは咄嗟に左腕で庇ったが左腕ごと胴を斬られてしまう。
斬られた左腕は宙に舞い、おびただしい量の血が溢れ出る。
「ぐっ...」
痛みを堪えながらも片手で大剣を振るが、あっさり防がれてしまう。
「ふふふ...どうだ、痛かろう?苦しかろう?」
「この程度...どうということはない!」
再度大剣を振るがまた防がれ、蹴り飛ばされてしまう。
「がはっ」
「そろそろ茶番は終わりにしよう。この闇の大魔法でな。」
魔王が呪文を唱えるとユーリの頭上に球体が出現し、急激に肥大化しはじめる。
「こ、これは...」
「そうだ!お前の義母に致命傷を与えた魔法だ!お前もこの魔法で死ぬがいい!グラビティブレス!」
何十倍、何百倍とふくれあがり、ユーリへと襲いかかる。
しかし、ユーリの体はもう動かない。
左腕から溢れ出す血がユーリの意識を確実に奪っていっていた。
「...ごめん、母さん。姉さん。」
そしてユーリの体は重力の塊に飲み込まれていった。
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「...そろそろ時間か。」
女性が酒場の席を立つ。
三つ編みにした銀髪は田舎の酒場ではとてもよく目立つ。
いかにも冒険者のような格好をしており、腰には剣をぶら下げている。
「姉ちゃん、お仲間と待ち合わせでもしてたのかい?」
「同じようなものだ。」
「じゃあそのお仲間と仕事でもしてみないかい?魔物退治なんだが、報酬は弾むぜ?」
「それはいいな。またすぐしたら戻ってくるからそのときに詳しく聞かせてくれ。」
「おう、じゃあ待ってるぜ。」
そう言って女性は酒場から出る。
その姿をチラッと見た酒場のマスターが女性の腰に下げた剣を見て、思わず目を見開く。
それは紛れも無い、伝説の聖剣だったからだ。
-第1章 fin-