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Not Perfect World(打ち切り)  作者: 有栖
第1章 亡国の姫君
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#3 魔王の再来

目的地の屋敷に着いたのは昼頃。

森の中の小さな湖。そのほとりにひっそりと佇む3階建ての屋敷。小さいかは少し微妙ではあるが。

そこで2人は違和感に気づく。

この屋敷、いや、湖の周りに不自然なまでに全く動物の気配がしないのだ。湖に野鳥の1羽もいない。


「リリーナ、この屋敷はいつもこんな感じなのか?」


「いえ、違うわ。いつもと何かがおかしい。ちょっと屋敷の中に入ってみましょう。」


玄関の扉を開けた先のエントランスは妙に薄暗く、人の気配がまるでない。

入ってみても、ただ木の床が軋むギシギシという音が鳴り響くのみ。


「とりあえず1階を調べてみましょう。」


1階の部屋全てをまわってみるが、誰もいない。

若干荒らされた形跡があり、物が床に落ちたり窓ガラスが割られたりしていた。


「もぬけの殻だな…」


「ええ、きっと何かあったに違いないわ。次は2階を調べましょう。」


エントランスに戻ろうとリリーナが廊下からエントランスの扉を開けようとしたその時、


「待て、何かの気配がする。」


ユーリが制止する。


「何かって...何の気配?」


「わからない。だが武器を構えておけ。行くぞ、1...2...3!」


扉を開けた先には何も居ない。さっきみた薄暗いエントランスだ。


「ちょっと!何もいないじゃない!脅かさないでよ!」


「違う!上だ!」


「え?」


上を見ると天井には大きな蜘蛛が張り付いていた。どうみても魔物だろう。

リリーナが蜘蛛に気づいた瞬間に蜘蛛はこちらに糸を吐きつけてくる。

ユーリはリリーナをひっぱって廊下まで避難させる。


「何でこんなところに魔物が!?この森はあんなの居なかったはずよ。」


「今はそんな話をしている場合じゃない。リリーナ、何か魔術は使えるか?」


そう聞くとリリーナは少し笑い、自慢げな表情を見せる。


「使えるも何も炎の魔術のスペシャリストよ?伊達にエフリートと契約してないわ。」


「エフリート...あの帝国の奴が言ってたやつか。」


「ええ、炎の上位精霊エフリート。破壊と再生を司る炎の魔神よ。」


「じゃあその力を当てにさせてもらう。俺が奴の気を引く。くれぐれも屋敷を全焼させるなよ?」


「わかってるわ。」


合図をするとユーリはエントランスに出て屋敷の壁を走って登り出す。

走りながら蜘蛛の魔物に向けてナイフを投げるが、硬い背甲に刺さるだけでダメージを与えられない。

蜘蛛の魔物はユーリのほうへ向き、長い脚を伸ばしてくる。

ユーリは壁を蹴り、2階に着地して避ける。


「全く、本当に人間なのかしらあの人...まぁ、いいわ。」


リリーナは隠れながら魔術の詠唱を始める。

魔術師でないと分からない言語を口にしながら、周りに炎を形どった魔力を纏う。

色は紅色。彼女の髪や瞳と同じ色の炎。

その炎はやがて炎の槍を形どり、リリーナの右手に収まる。


「受けなさい!フレアジャベリン!」


炎の槍は蜘蛛を貫き、体を燃え上がらせる。

天井に張り付いていた蜘蛛は天井から落ち、床へと落ちる。

蜘蛛の魔物の脚が丁度リリーナの真上に伸び、下敷きにしようとする。

避けようとするが、何かにつまづいて体勢を崩す。


「きゃっ!?」


「油断するな。」


ユーリは脚を大剣で斬り落とし、軌道を逸れさせる。

そして床に落ちた蜘蛛に大剣を突き刺してトドメを刺す。

蜘蛛は大剣で刺され、身体を炎で焼かれ、しばらくすると動かなくなった。

ユーリは腰を抜かしているリリーナに手を差し伸べる。


「怪我はないか?」


「う、うん。ありがとう、助かったわ。」


「さっき壁を登っていたときに3階から物音がした。」


「え、ホントに!?」


「ああ、間違いない。誰かがいる。」


「行きましょう。3階へ。」


床で倒れている蜘蛛の魔物に警戒しつつ、2人は階段を登って3階へ行く。

3階は錆びた鉄の臭いがただよっていた。そう、血の臭い。

廊下には血がべっとりとついていて、傍らに無惨な姿の男性が居た。

白髪の老紳士だが、髪や髭は血で赤く染まり、右手と左足は何かに食いちぎれたように無くなってしまっている。


「ひ...姫様...」


「ウィルズ!?何があったの!?」


「申し訳...ありません...魔物が...ごほっごほっ」


「もういい!喋らないで!」


ウィルズは血塗れの手で廊下の奥を指さし、掠れた声で喋り続ける。


「お嬢様が...奥の部屋に...」


「ラスティが!?」


「お願い...します...」


ウィルズは息絶える。血の涙を流しながら。


「ウィルズ...ラスティは私に任せて安らかに眠って...」


リリーナは少し俯いた後、一番奥の部屋へと急ぐ。

奥の部屋を開けるが、誰もいる気配はない。

どうやら書斎のようだ。この部屋だけ妙に荒らされておらず、本も綺麗に並んでいる。


「誰も居ないぞ?」


するとリリーナは本棚のほうへ歩いていき、


「ここに隠し扉があるの。ここから地下へ行ける階段。」


ある本を押すと本棚がぐるりと回り、階段が現れる。

そこを降りて行くと地下室の扉が現れる。

鍵が付いた堅牢な扉。しかし、鍵は壊されており、少し扉が開いている。

耳を澄ますと、中から誰かの声が微かに聞こえる。


「...はどこ...いわ...さもな...」


リリーナが扉を開けると、剣で刺された少女と仮面を付けた黒衣の人物が居た。

地下室は暗く、あまり詳しく様子を見ることは出来ないが、微かな灯りが剣を鈍く光らせる。


「ラスティ!」


「リリィ姉様...逃げて...ください...」


ラスティが刺されたままリリーナに言う。

仮面の人物がこちらに向き直る。


「運が良い。探し物が自分からやってくるとは。」


仮面の人物は喋る。声を変えているのか、性別は判断出来ない。

しかし、体から溢れ出す魔力とオーラは最早人間のものではなかった。

見るだけで悪寒がするこの感覚。只者ではない。


「貴方、一体何者!?よくもラスティを!」


「私は...魔王。魔物を統べ、この世に混沌を生み出す者。」


「魔王?魔王は5年前に倒されたはずよ?よくもそんな戯れ言を...」


「ふふふ...復活した、とでも言っておこうか。私は正真正銘、魔王。」


「...」


頭で否定するが、リリーナには感覚で分かってしまった。

間違いなく、目の前にいる人物は魔王だと。

リリーナは以前にこれと似たような感覚に出会ったことがあるからだ。

それは5年前、ローランドが襲撃されたとき。


「エフリートの力を持つローランドの姫、リリーナ・エフリート・フォン・ローランド。私と一緒に来てもらおう。」


「お断りよ!魔王、貴方と思い通りにはさせないわ!」


「じゃあお望み通り、力づくで連れていくとしよう。」


剣をラスティから引き抜き、リリーナに襲いかかる。


「探したぞ。」


キンッ

ユーリの大剣と魔王の剣がぶつかり合う。


「き、貴様は...!」


魔王が動揺した様子を見せる。


「魔王か何か知らないが、仮面のお前。俺の母と姉を殺した仇、ここで取らせてもらう。」


「ハハハ...ハハハ!!!こんな所で貴様と相見えることになろうとは!何と面白い運命の巡り合わせだろうか!よかろう、今日の所は退いてやる。また会おう、リリーナ姫。そして、ユーリ!」


魔王が闇に呑まれて姿を消す。


「チッ!待て!」


ユーリが大剣を振り下ろすがもう魔王の姿はなかった。

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