表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

何の変哲もないショートショート集

死闘! < vs レインボーラーメン>

作者: ぐらんこ。

「ほう、わたしの非奥義、レインボーラーメンに挑むと言うのか?」

 ラーメン屋店主のおやじは、不適な笑みを浮かべた。

「ああ、どんなラーメンでも出された限りは食い尽くす。それが俺の流儀だ!」

 達也のラーメン辞書に『お残し』という言葉はない。

 かくして、おやじと達也の異種格闘ラーメン対決が始まった。


「第一の迷宮! 橙色のラビリンス!」

 おやじが始めに出したのは何の変哲もないラーメンだった。

 醤油ベースのスープに具は、メンマと煮卵。それにチャーシュー。

 若干拍子抜けしながらも麺をすすった達也であったが……

「こ、これは……。この甘酸っぱい柑橘系の香り。さては麺に蜜柑が練りこんであるな!」

「よくぞ、見抜いた。そうだ、蜜柑だよ。給食でオレンジライスという異色のメニューを味わった、特定地域の特定世代にのみ存在するトラウマに向けた、アンチテーゼだ。本来であればスープのこってりさを打ち消すためだとか、風味にアクセントを加えるためだとか、創意工夫のもと、使用する蜜柑だが……」

「た、たしかに、この蜜柑の風味。なんの役にも立ってない、しかも若干、それさえなければかなり旨そうなオーソドックスな醤油ラーメンを台無しにしている!」

 達也の意識は天を駆ける。龍にまたがり、オレンジ色の空間を疾走する。

 そう、あれだ。グルメ系アニメとかでよくある描写だ。

 ほうぼうに散らばる蜜柑に頭を打ちつけながら、龍の上でラーメンを食う達也。

 そんなアクロバティックなシーンではあるが、詳細については触れない。

 なお、字数の都合で以下のラーメンでは同様のシーンは割愛。

 でもって、そのラーメンを完食する達也。


「さあ、続けていくぞ、第二の混沌! レッドペパー!!」

「赤か、たしかにこれだけ唐辛子が入っていると……さすがにきつぜ。だがしかし! 俺は食う!」

 そのラーメンをなんとか完食する達也。

「ふっふっふ。やるな小僧め」


「次だ! 第三の衝撃! グリーンペッパー!」

「なにぃ! こんどは、緑の唐辛子だとぉ! いい加減にしやがれ。辛さで全てを誤魔化そうったってそうはいかない!」

 そのラーメンを勢いで完食する達也。

「安心しろ。辛さで攻め立てるラーメンはここまでだ!」


「どんどん行くぞ! 第四の恋慕! イエローマスタード!!」

「これは……、辛いのはさっきまでとか油断させておいて! からしだとぉ!!」

 そのラーメンをまったりと完食する達也。

「安心しろ。辛さで攻め立てるラーメンはここまでだ!」


「さあ、こんどはどうだ! 第五の超特急! 緑色のトルネード」

「わ、わさびとは……」

 そのラーメンを自画自賛で完食する達也。

「安心しろ。辛さで攻め立てるラーメンはここまでだ!」


「なかなか、できるようだな、小僧。しかしその余裕。どこまで持つかな?

 第六の欠陥!!!! 藍色の憂鬱!!」

「こ、このラーメン、全然藍色じゃない! しかも辛い!」

「そうだ、とりあえず、辛く、それだけをコンセプトに。藍色なんてことに対するこだわりより辛さを優先した、いわば、コロンブスの卵ともいえる至高のラーメンだ!」

「くそう! だが、俺は負けない。どんなラーメンでも食い尽くすのが俺の流儀だ!」

 そのラーメンを口笛まじりに完食する達也。


「ほほう、楽しませてくれる小僧だ。だが、お遊びはここまでだ!

 第七の適当!! 青い稲妻!!」

「こ、このラーメン、たしかに青いが……これは、塗料!! 鶏がらで丁寧に取ったスープに青色の塗料を入れているのか! どうりで青いわけだぜ! しかも何故だか辛い!」

「気付いたか。そうだ、口に入れても大丈夫な塗料をくださいとわざわざ東急ハンズに行ってまでして買った青色の塗料だ。それをスープに混ぜた。日本では、いや世界でもここでしか食べられない奇跡のコラボだ!!」

 そのラーメンをめっぽう完食する達也。


「青を攻略したのはお前が始めてだ。だが、次なる紫の洗礼を受けるがよい!

 第七の暴走! パープルもしくはヴァイオレットワンダーランド!!」

「こ、このラーメン、赤唐辛子と青い塗料だ。なるほど、あわせると紫!!」

「よく気付いたな。ここまでたどり着くとは大した奴だ。だが、最後の難関を突破できた奴は居ない」

 そのラーメンをぐったりとしながらも完食する達也。


「いくぜ!! 第七の困惑!! 白髪ネギの微塵切りによる白の演出」

 おやじは、両手に包丁を持ち、白ネギを刻み始めた。

 おやじの包丁捌きのあまりのスピードに、おやじの体は宙に浮き上がる。

 ゲームセンター嵐の連打と同じ原理だ。もはや重力がどうなっているのだかなんだかわからい状態の中、白髪ネギが大量に生産されていく。

「どうだ! このネギの量! このネギが麺を、スープを全てを包括する!」

 そういって、おやじが差し出したラーメン鉢の中にはもはやネギしか入っていない。

 ネギと、おやじが誤って自分の手を少し切ってしまったときの皮膚の破片しか入っていない。

 ネギとおやじの皮膚と、おやじが勢い余って自分の手の爪まで切ってしまった時の爪の破片しか入っていない。

「だが、俺は食う! 食うが如しだっ!」

 ラーメンを完食する達也。



「完敗だ。俺のラーメン7杯が起こす奇跡の虹の物語を攻略したのはお前が始めてだ。礼を言わねばならんな。これから俺は初心に帰って、基本に忠実に、旨いラーメンを作ることを目指すことになるだろう。そして、その結果として、キワモノメニューしか無くて、客が全然来なくてつぶれそうだったこの店も、にぎわいを取り戻すだろう……」

 達也に握手をもとめるおやじ。達也はその手を強く握り返し、

「おやじ、楽しかったぜ! 麺は万里を超え、スープはここにあり だっ!」

「そ、それは、伝説のラーメン評論ファイター、麺宮寺達也が、旨いラーメンを食ったときに放つというお約束の台詞!! あ、あんた……まさか…………!?」

「ごちそうさん、お代はここに置いとくよ」

 そういい残すと麺宮寺達也は、ラーメン屋を後にした。


 次回予告

 麺宮寺達也に襲い掛かる魔の手。新たな魔人、つけ麺入道によって、達也の口に無理やり、つけ麺が運ばれる。しかも2回に一回はスープをつけずに素の麺という念の入れようだ。果たして、達也の運命は……。

「スープとの決別! つけ麺の奇跡」

 乞うご期待!!!!

短編ですので、もちろん続きません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ