表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリスタル・エイジ  作者: ヒドゥン
第一章 テスラと少女とブレイディア
5/15

第一章 Ⅱ

 現れた少女は見た目には合わない服装をしていた。

 灰色のオーバーオールに、その下に黒いTシャツ、ショートカットにされた明るい色の髪の毛をヘアピンで留めている。オーバーオールにはいくつものポケットが付いていて、それらにペンが刺さっていたり、工具のようなものが入っているようだ。とてもただの少女には見えない。

「色々質問があるんだが、いいか?」

 テスラはその少女に話しかける。少女は、

「いいよ」

 とテスラの反対側のソファーに腰を下ろした。持っていたロボットは少女の膝の上に座っている。

「じゃあ最初に、お前の名前は?」

「ボク? ボクはアリス・ローズ。スラムの技術屋をやってる。呼ぶ時はアリスでいいよ。お兄ちゃんの名前は?」

「テスラ・ギルティニア。ザウラ帝国軍少尉だ。お兄ちゃんではなく、テスラと呼んでくれ」

「それでお兄ちゃん」

「無視かよオイ」

「何であんな所にいたの?」

「あんな所?」

「……アイン、地図持ってきて」

 座っていたアインと呼ばれたロボットはぴょこんと床に降りると、先程と同じ甲高い音を立ててテーブルに向かった。

「おいアリス。あのロボットは?」

 さすがに気になるのでテスラはアリスに聞く。するとアリスは誇らしげに、

「ボクが作ったアインMk-Ⅱ三号機だよ! 甲高い音が聞こえるのは駆動系にモーターを使ってて、足のつま先と踵に仕込んである超小型ホイールが連動して動いてるの」

「なるほど。どうりで滑るように見えるわけだ」

 アリスの説明が終わったのを見計らってなのか、アインが長机の上に飛び乗ってきた。上に上げた両腕の先には丸まった紙が手で掴まれている。アインはそれをバサッと広げた。

 アリスはポケットからペンを取り出すと、地図に円を描き始めた。

「ここが今いるボクの家の場所。で、お兄ちゃんが倒れてたのはすぐそこの広場なんだけど………何であそこに?」

「あ~………誰かに手紙で呼び出されて、襲いかかってくるスラムの住人を蹴散らしてたのは覚えてるんだが……」

「手紙? 今持ってる?」

「ん? ああ、これだ」

 とテスラはポケットにしまっていた手紙を取り出してアリスに文面を見せる。いつもポケットに入れるものは雑にしまっているのでクシャクシャになっているが、それでもかろうじて読めるようだ。

「……………あ」

「なんか気付いたのか?」

「これ、用意した人知ってるよ。暇つぶしに潜入してきたグループの人だ」

「意味が分からん。暇つぶしに潜入って何だよ?」

「技術屋って仕事無いと暇でさ、やる事無い時には近くの不良グループに潜入して情報収集してるの。それで、今日潜入してきたグループで……」



 広場横の大きな建物の窓側の一室に大人数の人が集まっていた。

「良い音だ」

 近くで連続して聞こえる殴打音で悦に入る男は、紫色の液体が入ったワイングラスを光に透かして見ていた。その男の関係者と思われる柄の悪い男達が口を開く。

「で、オレらは何をすりゃいいんだっけ?」

「なに、簡単な事だ。今から来る男を痛めつけて欲しい。実に簡単な事だろう?」

 そう言って男はワイングラスに入っていた紫色の液体を飲み干す。

「金は払った。良い仕事ぶりを期待しているよ」

 男は椅子から立ち上がるとその部屋を後にする。バタンと扉が閉められ、部屋に残された柄の悪い男達は襲う方法を確認し始めた。

「………という方法だ。何か質問は?」

「ちょっと聞きたいんだけど」

 男性というか女性というか、中性的な声で聞いてきた。姿が見えないから、部屋の壁寄りにいるのだろう。

「姿が見えないが、それは置いておこう。で、何を?」

「さっきの人、だれ?」

「………名は聞いたが偽名だった。本名はジョイル・モルゲン、元大尉らしいな。それだけか?」

 どこから取り出したのか、色々な事が書かれた紙を見ていた。ずいぶんと細かな事まで書かれているようだ。

「いや、まだだよ? 何であの人ワイングラスでワインじゃなくてグレープジュース飲んでたの?」

「ただ単に金がないのか、はたまたジュースの方が好きなのか。それは本人にでも聞いてくれ。こちらとしては先払いで金を貰ったからどうでも…………?」

 そこまで言ってから気付いたのか、中性的な声がした方を見つめて、

「……なぜ依頼人の事を知りたがる? というか、お前はオレの部下か?」

「……………………………………………」

 答えが無い。ふと見ると、部屋の扉が開いている。いつの間にか部屋を出たらしい。

「まあいい。今必要なのは実績だ。スパイを見つけ出す必要はない」

 そう言って依頼の準備に取りかかった。



「で、その後に広場で伸びてたお兄ちゃんをボクの家に運んだの」

「そいつはどうも。しっかし……実績? 不良グループが?」

 アリスの話を聞いたテスラはそこを疑問に思った。実績が欲しいならもう少しまともな事をしろよ、とも思ったが当人がいないのに言っても意味がないので心の内に留めておく。

「ほら、そろそろ年末でしょ?」

「確かにそろそろ十一月だな」

「アンダースラムでは年の終わりに次のリーダーを決める行事があるんだけど、それの決め方が前任者の指名なの。で、リーダーに名前を知ってもらうために目立つような事をしないといけないから、実績が必要になるんだよね」

「そんなもんがあるのか」

 アリスの話は聞いていたが、あまりテスラの頭の中には残っていない。テスラの頭の中では、

(にしても、ジョイルの野郎が俺を狙ってきたってのはマズいかもな。とりあえず親父の所に行って………)

 とソファーから立ち上がり、小型通信端末で時間を確認する。時刻は午後四時。時間は少し余裕がある。

「アリス、俺はそろそろ行く。世話になった」

「え? もうそんな時間?」

「まだ四時くらいだが、少し用事ができ――――」

「しまったぁぁぁぁぁああああ!!」

 いきなりそう叫んだアリスはバタバタとテーブルに走り、ごちゃごちゃと積んである場所からリモコンを引き抜き、モニターの電源を入れた。電源が入ったモニターには多くの不良のような人物達が映る。

「どうしたアリス? 見たいドラマでもあるのか?」

 テスラが茶化すように話しかけるが、アリスの顔はやってしまった、と言わんばかりの表情をしたままだ。

「……今映ってるのはボクの家の玄関なんだけど………」

「人がスゲェな」

「……これから二週間、外に出れないんだ……」

「はぁ!?」

 正面のモニターを見ていたテスラは思わず振り返る。

「どういう事だよ?」

「さっきも言ったけど、新しいリーダーを決めるために実績が必要って言ったでしょ? これからすぐそこの広場で誰が一番強いかを決める催しがあるの。これの順位が実績になるから相当数の人が集まって一対一の喧嘩が始まるんだけど、それが毎年長いんだ。去年は二週間くらいで終わったけど、今年はもっとかかりそうだよ……」

「大規模な喧嘩があるのは分かった。だが、何で出れないんだ?」

 とことことソファーに戻ってきたアリスに聞くと、

「不参加者が出歩くと参加者と見分けがつかなくなるから、事前に出るな、ってお知らせが来るの。催し関係者に頼めば買い物とかしてきてもらえるから別にいいんだけどさ」

「マジかよ………」

 思わず頭を抱えるテスラ。軍に戻れないから戦線に戻れない、アルバイトに行けない、最悪除隊処分物だ。なんとかならないか、と必死に痛みの残る頭をフルで使い考える。

 そんなテスラにアリスは、

「ん~、アレが終わるまでここに住む?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ