表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者:

 ある所に、蟲が一匹居た、そう芋虫、白く艶のある絹のような肌触りの虫。その虫は毎日葉を食べるだけの生き物、ただそんな彼にも趣味が一つある、暗く湿った所で寝るのが至福の時。趣味があれば夢だってある、彼の夢は誰も食べたことの無いような大きくて立派な葉っぱを食べること。それは彼自身どれだけ大変か、なんて事は理解もせず、友人に夢を語ると「おまえは蝶になるんだろ、いつまで葉っぱを食べてるつもりなんだ」と認めてはくれない。

 葉の青臭くも癖になる味と、何より歯ごたえが蟲は好きだった。そんな食いしん坊な虫だから、周りの虫より一回り大きくなり、いつの間にか木に登る事すら困難になってしまった。そうなってしまっては仕方が無い、本当は木に生えている肉厚の歯が好きなのだが、地に生える雑草で我慢するしか無いのだ。

 そんなこんなしているうちに、友人達は皆サナギになり、その殻の中では体を液化して蝶の体へと作り直す作業に入っている。だが彼は木に登れないので、サナギになることができない、地でサナギになってしまったら間違いなく誰かに殺されてしまうだろう。だが彼は蝶になれないことを気にしてはいない。蝶になると口を失い、口にストローを作ってしまうからだ。だから彼は夢を達成するまで蝶には成るまいと決心していたのであった。

 それからしばらく経ち、蝶になった友人達は皆、寿命か蜘蛛の奴に殺されてしまった。彼は食物繊維を多くとっていたからかどうか、未だ長生きで元気に葉を食べて、腹を膨らませたら岩の下で寝ると言う生活を続けていた。それでも最近は年のせいか食も細くなり、以前と比べずいぶん細くなり。俊敏さも失われていた。

 だが、それだけ時間を掛けていたのには理由がある、彼はとうとう一番食べたい葉を見つけたのだ。その葉は、ここらである葉とは違い一際目立つ、ある時はまん丸で、ある時は雑草の様に細くなったり、日によって姿形を変える不思議な葉。彼はその葉をいつも食べに行こうとするが、どうしてもたどり着かない、道が無いのだ。周りの葉とは色も形も違い、通り道さえない場所にある葉を、どうすれば食べられるのか彼は毎日考えた。至った結論は蝶になることだった。蝶になれば道が無くとも飛んでいける。ようやく考え付いた案に、善は急げとサナギになる虫。できれば口にストローは無く、以前と同じような口、と願い彼は羽化した。だが彼は矢張り年を取りすぎたのか、羽は小さく胴は大きい、触角は無い、奇形の蝶ができあがった。だが恐ろしい程広域の視界も同時に手に入れた。そして一番重要な口は、ストローが付かないままの虫の口であった。これは彼も大喜び、早速その葉が出るのを待つ。辺りが暗くなり、煌々と光を射す葉が彼の夢の葉だ。羽の小さい彼はうまく飛び方が解らず、大分蛇行してはいたが、常に視界に入るその葉は、彼を呼んでやまないのだ。今日の葉はまん丸ではなく、良い感じの楕円。日によって姿を変えるその葉は、今まで木に生える楕円の葉を食べて来た彼を呼んでいるような形であった。それを見た彼はなお更高く飛ぶ、真上に葉を目掛けて一直線に。

 だが、その内力も尽きてきて、一休みと木を探すけれど見当たらない。随分高いところまで飛んできてしまった様だ。せめて一口、あの綺麗な葉を口にしてみたい、という一つの夢のために全身全霊を掛けて飛び立った蝶は、とうとう力尽き、落下してしまう。元々胴の大きい奇形の蝶だ、一度落下してしまっては再び飛び上がることは困難だった。それ以前に彼は悔しさで羽を広げようともしなかったが、その時視界に入ったものは、今まで彼が生活していた地面だ。葉に気を奪われていたが、良く見ると地平線が見えた。そんなもの想像もしたことも無かったが、気を惹かれている内に地面に近づく。そして彼の最後の瞬間、自分が食べたかった葉がどんな物か、少し解った気がした。そうして彼は地面に落ちてしまった。もちろん体は潰れて辺りには体液が飛び散り、肉や羽も散り散りになってしまった、結局彼が夢見た、月という葉は、口にすることはできなかったが、彼はもっと大きなものを口にしていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ