最終話 【夢の終わり】
最終回です。
最後まで見届けていただけたら光栄です。
------藍夜祭前日-------------------
「じゃぁ、明日は2人とも頼んだよ。」
「「はい!」」
藍夜祭に向けての準備も整い、明日に備えて今日は早めに店を閉めた。
「凄いね、街中キラキラ」
「そりゃぁ100年に1度のお祭りだからな!」
街中がお祭りムード一色に、マカは目を輝かせる。
「明日には街中の灯りがついて飲めや歌えの大騒ぎなんだぜ?」
「凄いなぁ・・」
店を出て街を眺めると、ふと時計塔がマカの目にとまる。
「明日で・・最後なんだね」
切なげな表情で呟くマカを見て、ラントは昨日の男を思い出す。
「なぁ・・マカ」
「なぁに?」
柔らかく微笑んで振り返るマカが、どこか大人びて見えてラントは顔を赤くする。
「あ・・の、俺がこんな事言うのも、変かもしれないんだけど」
「何よ、じれったいわねぇ」
「つまり・・なんだ、言いたいことがある時は・・ちゃんと言った方がいい!絶対!」
たどたどしく話すラントにマカは思わず笑う。
「アハハハ、ラントったら。意味がわからないわよ」
「お前が・・吹っ切れたって意地張って、無理してんの見るの俺イヤなんだよ。」
「・・・・・ラント?」
「そのままじゃ、きっと後悔する。一生・・取り返しのつかないことになる前に・・
ちゃんと、ケジメはつけるべきだ。」
真剣にそう話すラントにマカは言葉を失う。
「・・・俺になにか出来ることあるなら何でもするからさ」
そう小さく呟くラントにマカは、何も言わずに微笑んだ。
「ありがとう、ラント」
そう一言だけ告げて、マカは帰っていった。
「これって・・失恋なのかなぁ~」
ラントは弱弱しく独り言を呟いて、その場にへたれこんだ。
-----------------藍夜祭当日------------------------------------------------
「いらっしゃいませ~美味しいケーキはいかがですか~」
「ただいま新作ケーキの試食も開催いたしておりま~す!」
藍夜祭が開催され、マカやラントはケーキの販売に大忙し。
2人の作ったレモンケーキとミルフィーユも大好評。
そしてあっという間に数時間が経ち・・・・。
すっかり陽が落ちて藍夜祭の盛り上がりもピークを迎えていた。
「完売したよ、2人ともお疲れ様」
「「お疲れ様です!オーナー」」
「今日は後片付けは僕がやっておくから、2人はお祭りを楽しんできな」
「ありがとうございますっ、行こうマカ」
「うんっ!」
2人はオーナーの言葉に甘えて、服を着替え店の外へ駆けだした。
外に出て、マカはふと立ち止まり空を見上げる。
「月が・・・ほとんど見えない」
マカは街を見渡すと、眩しいほどの灯りが街中を包みこんでいた。
「・・・ごめんラント・・私・・行かなくちゃ」
ラントは、優しく微笑んだ。
「行って来い、ちゃんとお別れしてきな」
「っ・・ありがとう」
マカはラントをぎゅっと抱きしめて、時計塔へ走って行った。
「・・・やっぱり、亡霊だったんだ。あの男」
マカは人混みの中を必死で駆け抜けて、時計台へ向かう。
途中で人混みに足をすくわれ転んでしまった。
しかしマカはすぐに立ちあがり、膝を擦りむきながらも、時計塔を見つめて一心不乱に駆けていく。
そしてついに時計塔の玄関の扉が見えた。
「どうせ、閉まってるんでしょう?突っ込んでやる・・け破ってやるんだからぁーー」
マカは目をキュッと閉じてそのまま扉に突撃していく。
扉にぶつかるかぶつからないかの寸前、マカに突風が吹きつけた。
「きゃぁっ!!」
「おっと」
それと同時に、マカは誰かに抱きとめられた。
そっと顔を上げると、そこは鐘楼で。
そこにはマカがどうしても会いたかった人の顔が。
「ジン・・」
「まったく、最後まで貴方には調子を狂わされてしまいます」
「っ・・ごめんなさい・・ごめんなさいっ・・ごめんなさい」
マカはジンの胸に顔をうずめてワンワンと泣きだした。
ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返し呟きながら。
ジンは何も言わずに、ただマカを優しく抱きとめて髪を撫でていた。
「ごめんなさい・・逢いに来たら、ジンに迷惑かかるって、分かっていたのに・・」
「迷惑なもんですか。大丈夫、大丈夫です。もう謝らないで下さい」
そのまま数分、ジンはマカを優しく宥めていた。
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「あと、どのくらいで・・月が消えてしまうの?」
「朝日が昇るのと、ほとんど同時だと思います」
2人はぼんやりと鐘楼に、寄り添って座っていた。
かたく、手を握って。
「たくさん・・話したい事、あったはずなのに。全部忘れちゃったみたいなの」
「そうですか」
「さっきまで、もっと、もっと焦っていたのに。ジンに逢えたら・・気が抜けちゃったみたい」
「そうですか」
「レモンケーキ、持ってきたらよかった。それも忘れちゃうなんてっ・・」
「そうですか」
「せっかく、完成したのに。色んなお客さんに喜んでもらえたレモンケーキ・・っ」
「マカさん」
「どうして忘れちゃったの?こんなに・・大切なこと」
「そうやって、ゆっくり忘れられます。全部・・夢だったように」
ジンは、遠くを見つめてそう言った。
「嫌だよ・・」
「今は、そう思うかもしれません。でも、私は所詮は人の浅き夢のような存在。
人の心にずっと留まったらいけない存在なんです」
「嫌だぁっ!」
マカは再びジンの肩に手をまわし抱きしめる。
そして肩に顔をうずめてすすり泣く。
「マカさん、もう・・逢えなくなりますけれど、遠くへ行くわけじゃありません。
この時計塔でずっと、マカさんの事を見守っていますから。
どうか泣かないで」
「もう・・時計塔の中にも来られないの?」
「はい、扉は封印します。」
「・・・お願いがあるの。最後のお願い」
「なんですか?」
「私が・・眠るまでずっと、手・・握ってて」
「・・・風邪をひいてしまうかもしれませんよ?」
「構わない、お願い・・明日、目が覚めたら私も・・ちゃんと夢から覚めることが出来るから」
「・・・分かりました。」
マカはそっとジンの隣に寄り添って、ジンの手を握る。
ジンはその手を握り返す。
「相変わらず、冷たい手」
「お化け・・ですから」
マカはクスリと笑い、目を閉じる。
「さようなら、マカさん。貴方と過ごした時間は私のかけがえのない宝物です。
どうか末永く・・幸せで」
マカは静かに涙を流し、ゆっくり・・眠りについた。
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ジリリリリリリリーーーーーーーーー
「うわっ!」
目を覚ますと、そこはマカの部屋のベッドの上だった。
「・・・夢?」
ぼんやりとした意識で、マカはケーキ屋に向かう準備を済ます。
「おはよーございますっ!」
「おーす」
店にはすでに開店準備をしているラントの姿が。
「おはよう、ラント」
「おぅ・・昨日は、ちゃんとお別れできたか?」
「・・・夢じゃない」
「は?」
「うん!ちゃんとお別れ出来たよ。」
「そっか」
「・・よーっし!夢から覚めたことだし、今日もバリバリ頑張りますかー!」
「そ・・そうこなくっちゃ!」
2人で笑いあいながら開店準備を進めだしたとき。
街は時計塔の鐘の音が、高らかに鳴り響いていた。