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第五話 【もう二度と】

ジンの過去に触れていきます!

そしてNEWキャラ登場です!

青い月の欠け始めたある日の夕方。


今日はケーキ屋の定休日だった。



「なんでアンタがうちに来んのよ」


「いいだろ別に、俺たち同期だろ、助け合おうぜ」



今日はマカの家に同じケーキ屋で働く同期のラントが訪ねてきていた。


「アンタの家でだって出来るでしょ!?」


「いやぁなんか1人でやってると煮詰まってくるんだよなぁ~」


ラントはヘラッと笑う。


「私は集中できなくて大迷惑なんだけど・・」



マカはテーブルにノートを広げる。


「なぁマカ新作のアイデアどう?浮かんできた?」


2人はケーキ屋で新しくだすスイーツのアイデアを考えろという課題が与えられていた。


「大体ね、レモンケーキのアレンジでいこうと思ってるんだ」


「おぉー、マカのレモンケーキまじ美味いもんなぁ~」


「ラントはどうなのよ、浮かんでるの?」


「俺?俺はねぇ~」



ラントは嬉しそうに鞄からノートを取り出し広げた。


ラントの広げたページにはケーキのデザインが描かれていた。



「ミルフィーユ?」


「そ!でもそのデザイン飾り付けがまだまだなんだよ。もっと色のバランスとか考えたいし」


ラントは腕を組んで首をかしげた。



「でもラントって、大雑把にみえるのにほんっとにケーキ作りにおいては繊細よねぇ。

 この色使いもすごく綺麗」



「そっ・・そう思う!?」



ラントは目を輝かす。


「うん、喋るとバカみたいなのにねぇ」


「刺さること言うね・・。でも褒めてもらえてるんだしいっか」



ラントは顔を真っ赤にしてうずくまる。


「まぁ味じゃ負けないけどね。」


「な・・なぁマカ?」



「ん?」


ラントはもじもじしながら呟く。



「マカの夜の居残り練習さ・・俺も参加したいなぁ・・なんて」



「だめ」



マカは真顔で答える。



「何でだよぉ~」



「アンタの家だって立派なケーキ屋でしょ!?

 店閉めた後は自由に使わせてもらえるんだって言ってたじゃない」



「だ・・だけど」


「とにかく絶対ダメだから、アンタが店で練習するなら私が練習場所変えるから」


「そんなぁ・・」



ラントはしょんぼり項垂れる。


「ほら集中してよ、じゃないと追い出すわよ」


「それは嫌だっ!」


ラントは慌ててノートに向かう。



そして新作のデザインを互いに考えながら

あっという間に日が暮れていった。


「そういえば、マカこの街来て短いから知らないかもしれないけどさ」


「なに?」


「青い月の亡霊って知ってる?」


マカがペンを動かす手を止める。


「なんでも青い月の出る夜に話し相手を求めて街を彷徨い歩くんだよ。

それで月が欠けだすと途端に姿を見せなくなる」


「え…?」


「お、興味持った?」


マカは頷く。


ラントは嬉しそうに話しだした。


「大昔、その亡霊に恋してしまった女性がいるんだって。

その女性が自分に想いを寄せている事に気付いた亡霊はその女性を冷たく突き放し、それから二度と姿を現さなくなったんだってさ。

それからまた100年経ち、女性は亡霊に心を奪われては突き放されるんだって」


「ねぇ、ラント」



「なに?」


「どうしてその亡霊は…会う女性を突き放すんだろう」


「ん~…」


ラントは腕を組み首をかしげる。

そしてしばらく考えラントは口を開いた。


「優しいからじゃない?」


ラントはヘラッと笑い答えた。


「優しい?」



「だってさ、どの女性も結局自分より早く歳とって死んじゃうわけだし、ほんの数日の出会いでその人の一生を縛り付けたくなかったんじゃないかなって俺は思う。」



「………」


「まぁ俺の想像だけどねぇ。でも亡霊もその女性に惚れたとしたら悲しいよな」

「っ……」


マカは、はっと息を呑む。


「亡霊が恋する女性はみーんな自分以外の誰かにまた恋をして自分より先に死ぬんじゃさ、その亡霊は女性の思い出にしかなれないんだもんな」



「ラントってさ…」



「うんっ!」



「たまにはまともな事言うんだ」


「そんな、ほ…褒めんなよぉ」


「馬鹿だけど」


「っ……とにかくっ!お前は亡霊に心取られたりすんじゃねーぞっ!じゃあ、俺帰る!」


ラントは頬を真っ赤に染めながらそそくさとマカの家を後にした。





その日の夜。


マカは自宅からぼんやりと塔を眺めていた。


「このまま、会えなくなるのかな。」


マカの頭のなかに、切ない表情のジンの姿が浮かんでは消える。


「ジンの気持ちはどうだったの?

ジンを愛した女性を、突き放した時…貴方はどんな顔してた?」


窓から見える時計塔に向かいマカは呟いていた。


しばらくぼんやり眺めていたが、

数分後マカは立ち上がりバッグを持ち家を出た。



そしてマカは再び時計塔を訪ねていた。




そっと玄関の扉に触れる。

しかし扉が開かない。



するとマカはバッグからノートを取り出した。


「お店の新作のアイデア、レモンケーキにするつもりなの。

試食したからには協力する義務があるはずよ!」



扉は開く気配がない。



「アンタは優しさで今まで会った人を遠ざけてきたのかもしれない!

だけど…私にしたらそんなの優しさでもなんでもないじゃない?

最後まで付き合いなさいよ!」


マカは扉を叩く。



「黙ってないでなんとか言いなさいよっ!」


その時扉が勢いよく開き突風がマカの体を突き抜ける。


「キャッ!」



目を突然の強い風に目を閉じた瞬間、浮遊感がしたあと


ゆっくり目を開くと、マカはいつの間にか鐘楼に立っていた。



「いた…。」



「本当に貴方には…、調子を狂わされてばかりですね。」


ジンは鐘楼の手すりに座りいつものように苦笑していた。


「迷惑だった?」



「まさか。」


ジンは軽く首を振る。


「それより私が優しさで今まで会った人を遠ざけてきたのかもしれないって

 一体何の話ですか?」



「今日、あなたの話を聞いたの。

 昔、貴方に恋をする女性は皆あなたに突放されたって」



「それが私の優しさの行為と?」



マカは頷く。



「それは随分私を買いかぶった考えですね」


ジンはくすくす笑う。



「それはただ臆病な私の逃げなんです」



「逃げ・・?」


ジンは遠くを見つめて話しだした。



「今から数百年前に・・私は初めて恋をしたんです。

 その子はリアという少女でした。

 彼女も私を愛してくれた、そして彼女に会える最後の日・・

 彼女は私に約束したんです」


「約束?」



「私は生涯、あなた以外を愛したりしない」



マカの胸はズキリと痛んだ。



「最初は私も信じていました。

 でも彼女は数年たってすぐ街の青年に恋をして結婚した。

 そして街を出て行ったんです。」



「・・・・・・」



「思えば、それからでしょうか。

 せっかく青い月が出ていても、人と関わるのが怖くなったのは。

 近づきすぎればまた傷ついてしまうと恐れて。

 愛さないように、愛さないように言い聞かせてきていたんです。」



ジンは深呼吸をする。



「それからは、随分楽になりました。

 自分の気持ちをセーブするのにも慣れてきて。

 安心していたそんな時です。

 貴方に出会ったのは」



マカはふいに視線を向けられ鼓動が高鳴る。



「やっと分かったんです。

 どうしてこんなに心が満ち足りているのか。

 毎日こんなに満たされているのに怖くてたまらないのは。

 リアに出会ったときと同じ感情だからだって」


ジンはゆっくりマカに近づいた。


そしてマカの手をとり微笑む。


「新作ケーキ、ぜひ一緒に考えたかったんですけど・・・

 私はもう・・貴方に会うのがつらいんです。」


「ジン・・・」


ジンはマカの手をゆっくりと引き、抱き寄せた。


「青い月が消え、私が影になってしまったら・・

 もう二度と、貴方の温かい肌に、触れられなくなる。

 腕に、背中に・・こうやって抱き寄せて・・

 貴方の体温を感じることも・・もう二度と出来なくなる。

 愛しくてたまらない貴方の名を呼んでも、想いを叫んだって

 二度と貴方の耳には届かない。」

 

ジンはマカの肩に顔をうずめる。



「臆病な私をどうか許してください・・・。

 これ以上会うと別れがつらくなります・・どうか分かってください」



消え入るような声でジンはそう呟くと、そっと手をほどき、マカから離れた。


「お帰りください」



マカはその時気がついた。


自分がこの時計塔の番人に、心奪われてしまっていることを。




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