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第四話 【ジンの正体】

この話でついにジンの正体が明らかになります。


あの日から数日たっても、ジンは夜裏庭へ現れなくなった。



「レモンケーキ・・誰の為に作ってあげてると思ってるのよまったく」



マカは青い月の出てる夜は、いつジンが来てもいいようにレモンケーキを用意していた。


しかし一向にジンは現れず、ついに満月の青い月は欠け始めていた。




そしてある雨の日。



マカのもとに一本の電話が入った。



「ねぇトッドに聞いたよ!甘党なお化けさんのお話」


「ほんと!?ねぇシーナ教えて」



「時計塔に住んでる、時の番人さんじゃないかって」


「時の・・番人?」


「そう、色んな街にいるみたいだよ、番人さんって。

 例えば森の番人、花の番人、水の番人、夢の番人・・・

 普段人の目には見えないけど色んな所に色んな番人さんがいるんだって。」


「へぇ~」


「それで、マカの住んでる街の史書とかトッドが調べてくれて

 もしかしたら時の番人さんなんじゃないかなって」



「そっか・・時計塔にいるのね」


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++;




その日の夜も、ジンは裏庭に現れなかった。


「来ないなら・・こっちから行ってやるんだから」


そしてマカは真夜中に、街の時計塔に向かった。



ケーキ屋から時計塔までそれほど距離はなく、あっという間に辿り着く。


マカは時計塔の前に立ち、高くそびえる時計塔を見上げた。


真っ暗闇にそびえ立つ時計塔は、昼間見るより不気味な雰囲気を放っていた。


「い…いるのは分かってるんだから」


塔の扉をそっと押すと、施錠されてないらしく

簡単に開いた。


中は埃っぽく真っ暗で足元も見えない状態だった。


「ジン…いるんでしょ?」


懐中電灯の灯りを点けようとしたその時だった。



ボゥッと火の灯る音がした。


「蝋燭…」



足元から道しるべのように蝋燭の火が順に灯っていく。


「この灯りを辿っていけばいいのね…。」



マカはおそるおそる蝋燭の火を辿り時計塔の奥へ進む。



しばらく進むと、梯子が現れた。



梯子の先を見上げると、壁に掛けられた灯台に火が灯り塔の頂上まで続いていった。




「ここまで来いって…ことよね」



塔の頂上まで幾度も梯子が交差して架かってあった。



マカは一歩一歩梯子を昇りはじめた。



塔の半分ほどの高さでマカは息があがりはじめた。




「ジンはっ……簡単に、私に会いに来てるっていうのに…こんなの不公平よっ!」




マカは半ばムキになりだして梯子を昇り続けた。



そしてようやく頂上に辿り着く。



すると出迎えたのは巨大な3つの鐘だった。




「ここの鐘…こんなに大きかったんだ。」




鐘楼に足を踏み入れると、自分が月明かりに照らされていることに気付き



明かりのさす方へ目を向けると、鐘楼の手すりにジンが腰を下ろしていた。



「いた……」



ジンはすっと視線だけマカに向ける。



「こんばんは、マカさん」



ジンは普段と変わらない笑顔を向ける。




「こんばんはじゃないわよ…急に来なくなるなら一言くらい

何か言ってからにしてくれない?レモンケーキ、せっかく作って待ってたのに」



「すみません」




ジンは苦笑する。



「いつもここにいるの?」


マカはゆっくりと鐘楼を見渡しながらジンに近づく。



「そうですよ、ここが我が城です。

 いい眺めでしょう」



鐘楼からは街を360度眺められるようになっていた。


「いつもここから街を眺めてるの?」


「えぇ、そうですよ。

 そんな事より、この時計台に来たという事は

 私の正体もバレてしまったという事ですかね」



「うん、あなた時の番人なんでしょ。」


「大正解」


「ね、時の番人ってどんなことしてるの?」




「どんな…ん~そうですねぇ。」



ジンは腕を組みしばらく考え込んだ。



「この街のみんなが、消えないように守る…といったところでしょうか」



「消えないようにって?」




「過去を変えれば未来が変わるということです。この世に存在する魔法は、

得体の知れない力を持つものもありますから…

もしもどこかの魔法師が、過去を変えようとこの街に現れたのならば、それを阻止するのも私の役目の一つです。

マカさんに会いにいっている時でも、何か異変が起こればこの鐘たちが知らせてくれる。

 この鐘たちがいるから私はこの時計台を離れていても街の異変に気付くことが出来る、守ることが出来るんです。この街のみんなの、過去も、今も、未来も。」



「過去を変えれば未来が変わる…か。

ね、私がもし時を移動できて昨日の失敗をやり直すとかも…だめ?

メレンゲの入ったボウルひっくり返した失敗をやり直したいとか…」


「もちろんだめです。でも、そのくらい可愛らしいミスをやり直したい

という魔法師ばかりなら、私も苦労しないかもしれませんね」



ジンはクスクス笑う。



「でも番人って言われてもイマイチぴんとこないのよね。見た目は私と変わらないのに…。」


「今は…月明かりに照らされているからですよ。」



ジンはてくてくと歩きだし、壁にかけられた灯台を手にする。


「マカさん、この灯台を持って…あの月明かりの当たらない壁を照らしてみてください。」


「え…うん。」



マカはジンから火の灯った灯台を受け取ると、月明かりの届かない鐘楼の隅を照らした。


「ね、照らしたよ?」


マカが振り返ると、ジンの姿が見当たらない。


「ジン…どこ?」


マカは再び灯台で照らした壁を見ると


「あっ…!」



灯台で照らされた部分に、腕の伸びた影が映りこんでいた。


しかし、影の対象が見当たらないのだ。


「ジンの腕…じゃあ」



マカは灯台を持って一歩後ろへ下がる。



壁の照らされる面積が広がった。


すると今度は人影が映りマカに向かって手を振っている。


「これ…ジンの影なの?」


マカがそう呟くと、フッと影が消え背後から声が聞こえた。


「これで分かったでしょう。私が月明かりに照らされていないと、この姿でいられないことが。」


振り返ると、月明かりに照らされたジンが鐘楼の手すりに座っていた。


「うん…分かった。」



ジンはよかったと微笑むと再び夜空に浮かぶ月を見つめた。


ひどく切なそうな表情で。


「また…ケーキ食べに来てよ」


マカは小さな声で呟いた。


しかしジンは反応しない。


「~っ…」


マカは少し眉間にしわを寄せると先ほどより大きな声でもう一度言う。


「アンタの為に作ってるのよあのレモンケーキ!ちゃんと食べてよ!」



ジンはゆっくり振り返る。


「ほんと…貴方には参ってしまいますね。」


そう言ってジンは笑う。


「これ以上あなたに愛着が湧いてしまわないように…こうして会わないようにしていたのに。

とうとう時計塔にまで来てしまって。これじゃあ台無しじゃありませんか。」



そしてジンはそっとマカを抱き寄せた。


マカは抱き寄せられた瞬間、ジンに体温を一切感じないことに気付く。



「冷たいのね・・」


「きっと、私がお化けだからでしょうか」


ジンはゆっくりとマカを抱く腕をほどいた。



「今日はもうお帰りください。」


スッとジンはマカの目を手で覆う。


ジンの手が離れた時、マカは塔の入口に立っていた。



塔の中を照らしていた蝋燭の灯りも全て消えていた。


「…またね。」


マカはそう呟くと、塔を出て真っ直ぐ帰宅した。




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