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第二話 【お化け?】

ジンとマカの秘密の時間。

だんだんジンという人物が明かされていきます。

彼は一体誰なんだろうと思いながら読んで頂けると光栄です。

あの日から、マカとジンは約束の時刻にケーキ屋の裏庭で会うようになった。



「こんばんは、マカさん」


「こんばんは」


マカは照れ臭そうに、そっぽを向いて挨拶をする。



「いつも、待っていてくれるんですね。ケーキ屋は朝早いのでは?」



ジンは申し訳なさそうな表情を浮かべてマカを見つめる。



「だって…話し相手、ほしいんでしょう?」


「優しいんですね、マカさんは。」


ジンは優しく微笑むと、庭の大きな石に腰かけた。


「はい、今日はママレードとホワイトチョコレートでコーティングしてみました!」


「わぁ、美味しそう。いただきます」


ジンはいつものように幸せそうにケーキを口に運ぶ。



「………どうかな」


「うん、とーっても美味しいです。」


ジンはニコリと笑みを浮かべた。



「そうだ。近いうちに…雨が降ります。その時は・・私もこちらに来れませんし、夜ふかしせずに。

ゆっくり休んでくださいね。」


「ねぇ、あなた普段、何をしてるの?」


マカは庭に置いてある、白い椅子を、ジンと向かい合うように置き、腰かけた。




「普段ですか?そうですねぇ・・・。」


ジンはケーキを食べる手を休める。


「絶えず移り流れる時の番をしているといいますか・・・

 この街に流れる時の流れが狂ってしまわないよう守り、未来まで流れ移り続けていることを伝えるのが役目でしょうか。」


「鐘つきさん?」


「ん~、惜しいです。」


ジンは苦笑する。


「あなたの言葉は難しいわね、職業名はないわけ?」


「ん~・・職業というのも違うのかもしれないような・・」


「変わってるのね」


マカは難しい顔をしたあと、諦めたようにため息をついた。


「確かにそうかもしれませんね、でも大変なんですよ。

 生まれてこの命尽きるまで、人目に触れることなく永遠に役目を果たし続けることは。

 自由になれる時間は限られていますしね。」



「その時は、何してるの?」



ジンはふと寂しそうな表情を浮かべた。


「自由になれる時には、散歩したり・・ですかね。

 月明かりに照らされなければ影として誰にも気づかれませんし。

それくらいしかすることがありません。誰とも話したり出来ないんですから。

だから散歩の他には・・ただ、ぼんやりとしています。

影も喰われる雨降る闇夜なら、ぼんやりしながら、まるで雨水に意識を溶かされていくように、

静かに…そして、そのまま眠ってしまいますね」。



「そうなんだ」


寂しそうなジンの表情がうつったのか、マカも少し寂しげな表情になる。


ジンはいけない、と首を横に振り、パッと笑顔を作りマカに問いかけた。



「マカさんは、雨の日もお店でケーキ作りですか?」


「うん、もちろん!」


「じゃあ~、お休みの日は、何を?」


ジンは楽しそうに問いかける。



「休みの日は…買い物に行ったり、本を読んだり。あとケーキ作りかなぁ」


「お休みの日もケーキを?」


「えぇ、大好きだから!」


生き生きとしたマカの表情をジンは優しく、どこか寂しそうな表情で見つめていた。


「素敵ですね。お買い物に、読書に、ケーキ作り。」


「………」


マカの表情が曇る。


「あ…気にしないでください!元々私とマカさん達とは住んでいる世界が違うんです。日々の過ごし方だって違うのが当然です」


ジンは再び苦笑する。


それがマカには無理して笑みを作っているようにみえていた。



「ねぇ、一体あなたは誰なの?何処からここへ来てるの?」


マカは真剣な表情でジンに問いかけた。


「私は…さぁ、誰でしょうか」


ジンは石から立ち上がり背を向ける。



「またそうやって」


「あててみてください、私は一体…何者でしょう」


ジンはクルッと体を回して振り返りニコリと微笑む。



「………お化け…とか?」


マカはいたって真面目に答えた。


「お化け…プッ、アハハハハ」


ジンはお腹を抱えて笑いだした。


「だって、いきなり現れて、消えたり!明るい場所にいられなかったりするんでしょう!?」


マカは顔を真っ赤にする。


「そうですね、お化け。私はお化けなんだと思います」


「その言い方、また誤魔化してるでしょう」


「さぁ、どうでしょう」


子どもをからかうようにジンはマカを軽くあしらう。



「…怒るわよ」


「だけど…本当にお化けなら、月の出ない闇夜に怯えたりする事もしなくてすんだり…同じお化けとお友達になれたのでしょうか」


ジンは月明かりの届かない木々の陰を見つめる。



「…淋しいの?」


「分かりません、淋しいという気持ちがどんなものだったのかすら…忘れてしまいました。」


ジンはマカと目を合わすのを避けるようにじっと木の陰の闇を見つめていた。



「……」


「ケーキ、ごちそうさまでした。では…私はこれで」


ジンは会釈をする。



「明日も…来るんでしょ?」


ジンは意外そうにパチクリと目を瞬かせると

ふわりと微笑んだ。



「…美味しいレモンケーキ、食べにきますね」


そしてジンは闇に姿を消していった。




………………………………………


「雨降っちゃった…」


ケーキ作りの修行も終え、早々と帰宅したマカ。


シャワーを済ませ寝る準備にはいると電話の子機を手にする。


そしてベッドに座ると、友人に電話をかけた。


「もしもし?」


「シーナぁ、どうしよ。私お化けが見えるの」


「えぇ!?」


唐突な話題の振りに受話器の先のシーナは驚きの声を上げる。



「それも甘党…」


「か・・かわいいお化けだね。」


「ね、トッドさん、物知りなんでしょう?何かしらない?甘党なお化けのこと!」


「甘党なお化けかぁ。うん、聞いてみるよ!」



「お願いね」


「ね、そのお化けさんと仲良しなの?」


「私が!?まさかぁ。ケーキ泥棒なんて」



「あはは、泥棒さんなの?」


受話器越しに笑い声が聞こえる。


「そうよ?夜な夜な現れて、私が練習に作ったケーキを食べるのよ?」


「美味しいって言ってくれた?」


「・・うん」


「マカの作るケーキは美味しいもんね、私大好き!中でもレモンケーキは絶品で」


「あっ!」


「どうしたの?」


「彼も・・・レモンケーキ好きだって」


「あははは」


「もうシーナさっきから笑わないでってばぁ!」


「ごめんごめん。なんだか、マカがそのお化けさんの事

 そんなに嫌がってないような気がして」


「はぁ!?」


「今日は来なかったの?その泥棒お化けさん」


「今日は・・雨だから。

 彼、月が出てる時にしか来られないんだって」


「ねぇマカ、寂しいんでしょ」


「もうっ!寂しくなんかないわよ、あんなワケのわからない男」


「そっかそっか。」


「シーナの意地悪っ、からかってるでしょ」


「からかってなんかないよ!ごめんね、ちゃんとトッドに聞いておくから。何か分かったら電話するね」


「よろしくね!あ、そうだそっちは最近どうなの?進展あった?」


「うぅ~・・それがなかなか」


その日は夜更けまで2人はお互いの近状を語り合い終わった。



次の日。

いつものようにマカはオーナーと並んでケーキの仕込みの準備をしていた。


「ねぇオーナー」


「なんだい?」


「月の満ち欠けって、30日くらいなんですよね」


「そうだね。大体そのくらいだね」


マカのメレンゲを作る手に力が入る。



「今出てる青い月・・なんだか満ち欠けが早い様な気がするんです・・気のせいですよね?」


「いや、気のせいじゃないね。それはブルームーンだからだよ」


「え?」


マカの胸がチクリと痛んだ。


「特別な月なんだよ、ブルームーンは。だから満ちて欠けるまでが普段の月より早いんだ。

 普段出てる月の満ち欠けの早さの・・半分くらいって言われてるね」


「半分っ!? うわわっ・・」


マカは思わず手に持ったボウルをひっくり返しそうになってしまった。


「随分気になってるみたいだね。ブルームーンのこと」


「そ・・そんなことないです。」


そう言いつつマカの頭はジンのことでいっぱいになっていた。


彼はこの事を知っているのだろうか。


だとしたら、ただでさえ短い期間、雨が降ることで外に出られないことをどう思っているだろう。


彼にとって限られた時間があまりに少なすぎる。


そんな貴重な時間を私のケーキを食べることに費やして彼は本当にいいのだろうか。


自分のケーキなんかで。



「マカ」


「はいっ!」


「大丈夫?なにか心配事?」


「だっ・・大丈夫ですごめんなさい」


「無理しないで。なにか悩みがあるなら聞くよ?」


「ありがとうございます。平気です」


マカは両頬をペチンを叩くと再び作業に集中した。




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