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俺だけ世界の“ズレ”が見えるんだが、それを直していたら上位存在に目を付けられた ―見ているだけのはずが、“選ぶ側”に引きずり込まれる―  作者: 黒木ソウ


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第6話 見返すという選択

 ――見られているなら、見返すしかない。


 そう考えた瞬間だった。


「やめろ」


 教官の声が、これまでで一番低かった。


「それ以上踏み込むな。これは訓練の範囲じゃない」


「分かっています」


「分かってないから言ってる」


 正しい。

 だが、それでも。


「でも、止まらないです」


「何がだ」


「向こうの干渉です」


 言葉にした瞬間。


 ベッドの上の生徒の体が、再び跳ねた。


「っ……!」


 シーツ越しでも分かる。

 さっきより強い。


 状態表示が揺れる。


 状態:活動低下 → 活動停止 → 活動不安定


 安定しない。

 むしろ悪化している。


「……時間がない」


 小さく呟く。


「アレン!」


 教官が一歩踏み出す。


「ここで止める。これは医務室の管轄だ。お前の役目じゃない」


「はい」


「なら――」


「でも、もう関係してます」


 静かに言う。


 全員が止まる。


「俺のスキルに“反応してる”」


 備考:記録再参照中


 その表示が、何よりの証拠だ。


 向こうは、こちらを見ている。

 ただの対象じゃない。


 “観測者”として。


「……」


 教官が言葉を失う。


 判断の時間はない。


「一度だけ、やります」


「何をだ」


「見返します」


 答える。


 リゼが一歩前に出た。


「それ、どうやるの」


「分からない」


「出た」


「でも方向はある」


「どこに」


「さっき見えた場所」


 あの、暗い空間。

 何もないのに“見ている側”。


 あそこに。


「……行くの?」


「行くわけじゃない」


 少し考える。


「“繋げる”」


「もっと分かんない」


 当然だ。


 俺も分かっていない。


 だが。


 記録は“観測”に依存する。


 なら。


「観測を逆に使う」


 言いながら、意識を集中する。


 対象:人間

 状態:活動不安定

 備考:記録再参照中


 この“再参照”。


 これが接点だ。


 ここに触れる。


「っ……!」


 頭が軋む。


 今までで一番強い。


 だが、止めない。


 押し込む。


 参照される側ではなく、参照する側へ。


 ――逆転させる。


「アレン!」


 誰かが叫ぶ。


 無視する。


 意識を深く沈める。


 再参照。


 再参照。


 再参照。


 その“先”。


 ほんの一瞬。


 また、視界が切り替わる。


 暗い。


 広い。


 何もない。


 だが、今度は違う。


 “向こう”が、こちらに気づいた。


「……」


 言葉はない。


 形もない。


 ただ。


 視線だけがある。


 その瞬間。


 強烈な違和感が走る。


 見ているのに、見られている。


 観測しているのに、観測されている。


 ――逆転していない。


 同時だ。


「……なるほど」


 思わず呟く。


 これは一方通行じゃない。


 双方向だ。


 なら。


「条件は同じ」


 向こうも、何かを“見ている”。


 つまり。


「……見せればいい」


 何を。


 “記録”を。


 対象ではなく、“状態そのもの”を。


 思考をまとめる時間はない。


 直感でやる。


 表示に意識を向ける。


 対象:人間

 状態:活動不安定


 この“状態”。


 これを、そのまま。


 押し出す。


 見せる。


 叩きつける。


「――これだ」


 その瞬間。


 視界が揺れる。


 暗い空間の“向こう側”に、わずかな変化。


 何かが、引いた。


 同時に。


 医務室。


「っ……!」


 ベッドの上の生徒の体が、静かになる。


 表示が変わる。


 状態:活動不安定 → 活動低下 → 活動安定


「……止まった」


 医師が呟く。


 呼吸が安定している。

 脈も正常だ。


 完全ではない。

 だが。


 さっきまでの“揺れ”は消えた。


「……お前」


 カイルが言葉を失う。


「今、何した」


「見せた」


「は?」


「状態を」


「意味分かんねえ」


「俺も完全には分かってない」


 正直だ。


 だが、結果は出ている。


 外部干渉は、止まった。


「……成功、なのか」


 教官が低く言う。


「一時的には」


「一時的?」


「たぶん、また来ます」


「……」


 誰も否定しない。


 それが現実だ。


 リゼが、じっと俺を見る。


「ねえ」


「何だ」


「今の、あんた見えてたでしょ」


「少しだけ」


「何が」


 少し考える。


 言葉にするのは難しい。


 だが、できる範囲で言う。


「“見てる場所”」


「場所?」


「違うな。“見てる構造”」


「だから分かんないって」


「俺も」


 また同じ返答。


 だが、さっきよりは進んでいる。


 確実に。


 そして。


 もう一つ。


 新しい事実がある。


「……向こうも、こっちを認識してる」


「は?」


「さっき、反応があった」


「……それ、最悪じゃねえか」


 カイルの顔が引きつる。


 正しい反応だ。


 俺もそう思う。


 これはもう。


 “見られている”だけじゃない。


 ――関係が成立している。


 教官が静かに言う。


「アレン。これは報告案件だ」


「はい」


「お前一人で抱える問題じゃない」


「そう思います」


「なら――」


「でも」


 少しだけ遮る。


「たぶん、俺じゃないと見えない」


「……」


 教官が黙る。


 それが答えだ。


 この問題は、共有できない部分がある。


 少なくとも今は。


 視界の端で、文字が揺れる。


 備考:記録参照完了


 完了。


 初めて見た表示だ。


 つまり。


「……終わった」


 小さく呟く。


「何がだ」


「向こうの操作」


 今は、だが。


 静寂が戻る。


 だが。


 安心はない。


 むしろ逆だ。


 はっきりした。


 これは偶然じゃない。


 向こうに、意志がある。


 そして。


 こちらも、もう“無関係”ではいられない。


「……面倒だな」


 また同じ言葉。


 だが、意味が変わっている。


 これはもう、逃げられない。


 そのとき。


 視界の端で、最後の文字が浮かぶ。


 ――対象:アレン

 ――状態:観測対象


「……」


 一瞬、思考が止まる。


 今まで、見えていなかった表示。


 それが、初めて。


 自分に向けて、出た。

ここで「外」からの干渉に対して、初めて能動的に対抗できました。

ただし――今度はアレン自身が“対象”として認識され始めています。


ここから一気に話が加速していきます。

もし面白いと感じてもらえたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

次話もぜひ読んでください。

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