エピローグ② その先にある日常
「――だからさ、それは絶対お前のせいだろ」
「違う」
「いや違わねえって」
カイルの声が、やけに響く。
昼休み。
いつもの場所。
いつものやり取り。
「お前が変なことするから、余計におかしくなるんだよ」
「変なことはしてない」
「してる!」
リゼが笑いをこらえながら言う。
「まあでも、最近ちょっと落ち着いたよね」
「何が」
「その……なんか“変な感じ”」
「……」
一瞬だけ、間が空く。
だが、すぐに答える。
「気のせいだ」
「絶対違うでしょ」
リゼが軽く笑う。
カイルは腕を組んだまま、じっとこちらを見る。
「……お前、なんか隠してるよな」
「してない」
「いやしてる」
「してない」
「してる!」
「してない」
「うるせえ!」
いつものやり取り。
変わらない。
何も。
何も変わっていない。
「……」
だが。
違うこともある。
視界の端。
わずかな歪み。
壁の隅。
空気の揺れ。
誰も気づかない。
だが、確かにある。
「……」
軽く視線を向ける。
意識を寄せる。
触れる。
「――固定」
小さく。
ほんのわずかに。
整える。
歪みは消える。
何もなかったように。
「……」
誰も気づかない。
当然だ。
変わっていないから。
ただ、整っただけ。
「……おい」
カイルが声をかける。
「聞いてるか?」
「聞いてる」
「絶対聞いてねえだろ」
「聞いてる」
「じゃあ今の話なんだよ」
「……どうでもいい話」
「違うわ!」
リゼが笑う。
「まあまあ、いいじゃん」
「よくねえよ」
「いいの」
「よくねえ!」
軽い言い合い。
平和な時間。
「……」
ふと、窓の外を見る。
空。
雲。
風。
何もおかしくない。
何も歪んでいない。
――今は。
「……」
だが、分かっている。
どこかで、また起きる。
歪みは消えない。
完全には。
「……」
そして。
それを見ている存在も。
消えていない。
見上げる。
空の向こう。
見えない場所。
「……」
何も見えない。
だが。
確かにある。
観測は、続いている。
「……」
小さく息を吐く。
問題ない。
今は。
「……」
カイルが言う。
「おい、昼終わるぞ」
「分かってる」
「急げよ」
「分かってる」
立ち上がる。
歩き出す。
普通に。
何も変わらないように。
「……」
だが。
ほんの少しだけ。
違うことがあるとすれば。
「……」
小さく呟く。
「……見えてるってことか」
それだけだ。
世界は変わらない。
日常も、変わらない。
だが。
その裏側を知っている。
それだけで、十分だった。
そして。
また一つ。
小さな歪みを見つける。
誰にも気づかれない場所で。
誰にも知られないまま。
そっと整える。
何もなかったように。
それが、今の自分の役割だ。
大げさなものじゃない。
ただ。
――見えてしまったから。
それだけの理由で。
続いていく。
何も変わらない世界の中で。
ほんの少しだけ、変わった自分として。




