第17話 複数という前提
――複数。
その認識が浮かんだ瞬間、体の奥が冷えた。
「……おい」
カイルの声が、明らかに低い。
「今、何見えてる」
「増えた」
「は?」
「一つじゃない」
短く答える。
視界の奥。
“あの場所”。
そこに、複数の“視線”。
はっきりと分かる。
「……数は?」
管理局の男が問う。
「分からない」
「大体でいい」
「……三以上」
「……」
空気が止まる。
「増えすぎだろ……」
カイルが吐き捨てる。
「同意」
軽く返す。
だが、事実だ。
今まで一体だけだった。
それでも危険だった。
それが複数。
「……アレン」
リゼが小さく言う。
「これさ」
「何だ」
「さっきのと同じ?」
「違う」
即答する。
「質が違う」
「どう違うの」
「……見てるだけじゃない」
「は?」
「“待ってる”」
「……」
その言葉で、空気が一段沈む。
そう。
今までは、接触だった。
だが、今は違う。
これは。
――観察されている。
しかも。
複数に。
「……まずいな」
管理局の男が低く言う。
「完全に対象になっている」
「そうなります」
「君一人が、だ」
「そうです」
正確には違う。
だが、説明する時間はない。
今は。
「……対応します」
「方法は」
「あります」
「言え」
「分散させる」
「……何?」
リゼが眉をひそめる。
「何を?」
「視線」
短く答える。
「今は全部、俺に集中してる」
「そう見える」
「だから、割る」
「どうやって?」
「対象を増やす」
「……は?」
当然の反応だ。
だが。
「俺一人じゃなくする」
それだけだ。
「……危なくない?」
「危ない」
「軽いのよ!」
「でも、それしかない」
正直に言う。
集中されると、突破される。
なら。
「分散する」
管理局の男が静かに言う。
「……つまり」
「囮を作る」
「そう」
短く答える。
「対象を分ける」
「……できるのか」
「やってみます」
即答する。
時間はない。
すでに、向こうは動き始めている。
視界の奥。
一つが、わずかに前に出る。
「……来る」
「おい!」
カイルが構える。
だが、今回は違う。
侵入ではない。
“圧”だ。
空間そのものが、押される。
「……っ!」
足がわずかにずれる。
強い。
さっきより、明らかに。
「……分散する」
意識を集中する。
対象は、自分。
状態:基準点
これを。
分割する。
「――分岐」
押す。
強い抵抗。
だが、構わない。
さらに押す。
結果。
表示が変わる。
状態:基準点(複数)
「……来た」
その瞬間。
視界が、二重になる。
いや。
三つ。
自分が、複数の位置に“重なる”。
「……何これ」
リゼが呟く。
「増えた?」
「そう見えるなら、正解」
短く答える。
カイルが目を見開く。
「おい、分身かよ」
「違う」
「じゃあ何だ」
「“観測の分割”」
「分かるか!」
「俺も完全には分かってない」
正直だ。
だが、効果は出ている。
視界の奥。
“視線”が、分かれた。
一つが右へ。
一つが左へ。
そして。
一つだけが、正面に残る。
「……効いてる」
小さく呟く。
「どうなってる」
男が問う。
「分散しました」
「どの程度だ」
「三分の一」
「……」
男が即座に判断する。
「なら、正面の一体を処理しろ」
「了解」
短く答える。
残った一つ。
さっきより、明らかに弱い。
これなら。
「――固定」
押す。
今度は軽い。
抵抗が弱い。
そのまま押し切る。
結果。
状態:外部
「……戻した」
“それ”が消える。
完全に。
「……一体、処理完了」
男が装置を見る。
「異常反応、一つ減少」
「成功です」
「まだ二つ残っている」
「分かってます」
短く答える。
だが。
視界の奥。
残りの二つ。
さっきより。
――近い。
「……」
理解する。
これは。
「……学習してる」
「何だと」
「分散に対応してる」
「……」
リゼが小さく息を呑む。
「それ、やばくない?」
「やばい」
「軽いのよ!」
怒鳴られる。
だが、事実だ。
これは。
単なる存在じゃない。
――適応している。
「……面倒だな」
小さく呟く。
だが、今回は違う。
これはもう。
戦いではない。
“進化”の領域だ。
そのとき。
視界の奥。
残りの二つが。
同時に、こちらを見た。
そして。
――同じ動きをした。
ここで「複数存在+分散対応」という新しい段階に入りました。
ただの対処ではなく、“相手が適応してくる”フェーズです。
ここから一気に戦いの質が変わります。
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次話もお楽しみに。




