洗顔
三題噺もどき―はっぴゃくさんじゅうさん。
重たい頭を支えながら、ベッドから立ち上がる。
窓を叩くような音が、トントンと聞こえてくる。
電気の消えた部屋は、うっすらと水色に染まっている。
カーテン越しに入り込む外の光は、いつもより弱弱しい。
「……」
雨か……。
外を走る自動車が、濡れた地面を走る音が聞こえた。
びしゃびしゃとも、何とも言えない音だ。
更に遠くからは、相変わらずサイレンの音が聞こえてくる。
毎朝毎夜、よくもまぁ……この町はそんなにだっただろうか。
「……」
登校するときだけでも雨が止んでくれればいいのにと、ひそかに願いながら、動き出す。
このまま、ここに居てもいいのだけど、今日は普通の平日で、学校に行かなくてはいけない。
……昨日から高校受験の準備で午前授業になっているので、授業時間そのものは少ない。ありがたいことに。テスト期間でもないので放課後は残れないし、さっさと帰宅している。
おかげで、あの子と途中までは一緒に帰っているので、万々歳だな。
「……」
ただまぁ、そんなに短いのに行く必要あるかと思わなくもないが。
あの子に会いに行くと考えれば。
「……」
とりあえず、眼鏡をかけないと何も見えないので。
ベッド横に置いてある小さな棚の上にあるはずの眼鏡を探る。寝起きで何もかもがぼやけているので、視界は機能していないに等しい。私の妹は私より悪いので、これより視界が悪いらしい。生活に支障が出まくりだな。
「……」
冷たい感触を頼りに眼鏡を手に取り、かける。
視界がクリアになったことで、気持ち、頭が起きた気がする。
ついでにスマホで時間を確認する。まぁ、いつも通りの時間だ。
「……」
さっさと、顔を洗って、朝食を摂ることにしよう。
のそのそと部屋から出て行き、リビングへの階段を降りていく。
下からは、それなりの音量でテレビの音が聞こえてきている。光も漏れているので、すでに母と妹は起きているのだろう。
「……」
リビングを降りきると、炬燵に入りながら朝食を食べていた母がいた。
妹はまだ寝ているらしい。今日は朝練とかはないのかな。
「おはよう」
「……はよ」
聞こえたかどうかは分からないほどに、小さな挨拶もそこそこに、さっさと洗面台へと向かう。寝起きの状態で話しかけられると、少々イラっとするのは私だけだろうか。短気にも程があると思うが、どうにももやもやとしてしまう。
「……」
洗面台のある脱衣所には、洗濯が干されている。
すぐ横に風呂場があるので、基本的には室内乾燥をかけ、乾いた洗濯物たちがここにつるされる。あとから自分たちの部屋に持っていけと言われるが、正直着替えもここでしたりするのでここにかけっぱなしだったりする。
「……」
入り口すぐにかけられていた、妹の物であろうアンダーシャツをのれんみたいにくぐりながら、洗面台の前に立つ。
鏡に映る自分を見るのは好きではないので、さっさと眼鏡をはずし、お湯を出しておく。
ついでに、コンタクトを付けるので、洗浄液を棚の中から取り出しておく。コンタクトはハードレンズをつけている。
「……」
適度にぬるくなったお湯で、手を濡らし、次いで水を溜める。
前髪が濡れるのもお構いなしに、適当にバシャバシャと顔を濡らしていく。もう、洗っていると言うよりはホントに濡らしている感覚に近い。
ホントは、洗顔フォームもしっかりと使った方がいいのだけど、面倒なのでしない。
「……、」
タオルを取っておくのを忘れていたので、床が濡れるのを申し訳なく思いながら、タオルの置かれた棚へと歩いていく。
適当に引っ張り出し、さっさと顔を拭く。最近は朝でも寒いと思うことは少なくなってきたが、さすがに濡れたまでは冷えていく。
「……ふぅ」
洗面台の前に立つと、ぼんやりとした視界の中で鏡に映る自分がいる。
あまり見たいものでもないな。自分の顔なんて……何かの授業で鏡を見て自分の顔を描こうと言うのがあったけど、それなりに地獄だった。
「……」
ま、そんな地獄は置いておいて。
さすがに急ぎ足で準備をしなければ、学校に間に合わない。
さっさとコンタクトをつけて、朝食を摂るとしよう。
お題:挨拶・洗濯・アンダーシャツ




