-8- 転化
画面には、もう説明はいらなかった。
――この子、ほんと綺麗だな。
――目が優しい。
――こんな普通の子が追い込まれたってのが一番キツい。
美咲の写真は、完全に「被害者」として消費されていた。
誰も彼女を疑わず、
誰も彼女の弱さを責めず、
ただ無垢な存在として持ち上げていく。
それと同時に、もう一方の写真は別の意味で盛り上がっていた。
――うわ……。
――人相ってやっぱあるよな。
――性格の悪さが顔に出てるタイプ。
河合の写真は、嘲笑と嫌悪の的になっていた。
言葉はどんどん下品になり、
「醜い」「気持ち悪い」という表現が、
いつの間にか「だから何をしてもいい」にすり替わっていく。
佐々木は、モニターの前で動けずにいた。
これは自分が始めた流れだ。
だが、もう自分の言葉は必要とされていなかった。
そんな中、ひとつだけ、妙に温度の違うレスが流れに混じった。
――でもさ、放置してきた周囲も悪いだろ。
一瞬、流れが止まった。
――確かに。
――学生一人を追い込むって、周り何してたんだよ。
――職場だろ?大人いっぱいいたはずじゃん。
そこから先は、空気が変わった。
――あの店、前から問題あったらしい。
――河合って女、仕事できないのにシフトだけはやたら入ってた。
――注意すると面倒だから、誰も触らなかったって話。
佐々木は眉をひそめた。
なぜ、こんな内部の話が出てくる。
――店長も見て見ぬ振りだったんじゃね?
――パートのおばさん連中も同罪だろ。
――結局、全員で殺したようなもんだ。
言葉は、いつの間にか「個人」から「構造」へと広がっていた。
――だったらさ。
――法じゃ裁けないなら、俺たちがやるしかなくね?
――私刑ってやつだよ。
それは、提案というより確認だった。
――やるなら、今が一番いい。
――騒ぎになってるうちじゃないと意味ないし。
――閉店後とか、狙い目だろ。
反対意見は、ほとんど出なかった。
出たとしても、「偽善」「日和見」と一言で流されていく。
私刑を求める声は、
もはや過激な意見ではなく、
この場の“空気”そのものになっていた。
佐々木には、もう何も書けなかった。
彼にはついていけないほどのやり取りが、
目の前で、猛烈な速さで進んでいる。
更新されるたびに、
現実が一歩ずつ、取り返しのつかない方向へ近づいている。
佐々木はそれを、
画面のこちら側で、ただ黙って見ていることしかできなかった。




