-7- 喪失
気付いた時には、空が白み始めていた。
カーテンの隙間から朝の光が差し込み、部屋の輪郭だけをぼんやり浮かび上がらせている。
佐々木は椅子に座ったまま、パソコンの画面を見つめていた。
スレッドには、いつの間にかいくつかの返信が付いている。
誰かの自分語り。
それに対する軽い突っ込み。
彼の書き込みは、話題の中心からすでに外れていた。
その中に、短いレスが混じった。
「その自殺した女の子って可愛かったの?」
佐々木は一瞬、画面から目を離した。
ため息のように息を吐き、フォルダを開く。
美咲の写真を一枚選び、何も書かずに貼り付けた。
数秒の沈黙の後、スレは反応した。
「普通に可愛いじゃん」
「これで死ぬのはもったいない」
「男途切れなさそう」
「人生イージーモードだろ」
レスは増え続ける。
美咲の人生は、顔立ちだけで切り刻まれていった。
佐々木は画面を見つめながら悟った。
――こいつらは、結局、容姿でしか語れない。
指が動いた。
「この子をイジメてた方」
それだけ書いて、もう一枚の写真を投下した。
河合の写真だった。
空気が、はっきりと変わった。
「うわ……」
「これは無理」
「どっちが被害者か一瞬で分かるな」
「そりゃ病むわ」
誰かが河合を嘲り、
誰かが美咲を悼み、
誰かが正義の言葉を語り始める。
画面は加速していった。
佐々木には、もう付いていけなかった。
目の前で交わされているやり取りは、彼の手を完全に離れていた。
彼はただ、流れていく画面を見つめていた。
写真一枚と、短い説明だけで、世界が動き出してしまったことを。




