-20- 破滅
「本日、国会議事堂で大規模な自爆テロが発生しました。負傷者は多数。現在も詳しい状況は確認中です。新しい情報が入り次第、お伝えします」
淡々としたアナウンサーの声が、画面の向こうから流れていた。
河合教の信者たちは、自爆テロを実行した。
彼らには、やがて司法の厳しい判断が下されるだろう。
それがどれほど重いものであったとしても、彼らが犯した行為に見合うかどうかは分からない。
それでも、彼らは自爆テロを行った。
それでも、彼らは信じていた。
自分たちは理想のために行動したのだと。
その理想の尊さは、一般人には理解できないのだと。
──そうでなければ、ここまで来られなかった。
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「……なんで、私がこんな目に……」
病院のベッドの上で、河合春紀は天井を睨んでいた。
あの襲撃で、彼女は大火傷を負った。命は助かったが、元の姿には戻らない。
「本当に……許せない……」
自分が何をしたのか。
なぜ、こんなことになったのか。
そうした問いは、彼女の中には一切浮かばなかった。
あの襲撃は自業自得だった。
そして、その襲撃をきっかけに生まれた集団は暴走し、ついには自爆テロにまで至った。
全ての元凶は、この女だった。
にもかかわらず、彼女は自らを顧みることはなかった。
「……私の……」
震える声で、河合は呟く。
「私の……美しい顔を……返して……」
クズは、クズのまま。
それが人間の、悲しい本質だった。
「パパー、きょうね」
ちゃぶ台の向こうで、美咲は箸を置かずに話し始めた。
白いご飯の湯気が、まだ細い声を包んでいる。
「ようちえんでね、かけっこしたの。みさき、ころんじゃった」
「そうか」
父は新聞をたたみ、美咲の方を見る。
「いたかった?」
「うん。でもね」
美咲は少しだけ胸を張った。
「じゅんぺいくんがね、せんせいよりはやくきてくれたの」
「またじゅんぺいくん?」
母が味噌汁をよそいながら、くすっと笑う。
「それで?」
「それでね、こうやって」
美咲は自分の膝を小さな手でさすりながら言った。
「いたいのいたいの、とんでいけーって」
父は一瞬だけ目を細めた。
「優しいな」
「うん。だからね」
美咲は箸を置き、真剣な顔で言った。
「みさき、おおきくなったら、じゅんぺいくんとけっこんする」
「また始まった」
母はため息まじりに笑う。
「この前はパパと結婚するって言ってたでしょ」
「うーん……」
少し考えてから、美咲は言った。
「じゃあね、パパとじゅんぺいくん、ふたりとけっこんする」
父は困ったように頭をかいた。
「それは……どうだろうな」
「だめ?」
「だめです」
即座に母が言う。
「ご飯が冷めるから、早く食べなさい」
「はーい」
美咲はまた箸を持ち、ご飯を口に運ぶ。
その様子を見ながら、父と母は顔を見合わせ、何も言わずに笑った。




