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-16- 純化

「続報です。

先日発生した未成年者誘拐事件について、警察は特定の思想コミュニティとの関連性を視野に入れて捜査を進めています。

被害に遭ったのは、都内在住の会社役員の孫で——」


淡々としたアナウンサーの声が、昼下がりのリビングに流れていた。

犯行声明は出ていない。

だが、ネット上ではすでに“どこがやったのか”は共有されていた。


河合教。


名前だけが、一人歩きしていた。


「これで少しは変わるだろ」

「政治家も企業もビビるはずだ」


掲示板では、そんな書き込みが並んでいた。

だが、数時間が経ち、数日が経っても、現実は何一つ変わらなかった。


物価は下がらない。

給料は上がらない。

社会保険料の通知は、いつも通りの額で届く。


「……結局、何も変わってねえじゃん」

「誘拐までやったのに?」


苛立ちは、次第に焦りへと変わっていった。

行動すれば、すぐに何かが返ってくる。

そう信じていた者ほど、現実との落差に耐えられなかった。


そんな空気の中、ひとつの書き込みが現れた。


「これ、普通にやりすぎだろ」

「関係ない子どもを巻き込むのは違うと思う」


一瞬、スレッドが静まった。

だがそれは、嵐の前の静けさだった。


「は?」

「お前、どっち側だよ」

「行動もしないくせに綺麗事言うな」


否定は、即座に敵認定へと変わった。

理屈は要らない。

正しさを語る者は、“邪魔者”だった。


「こういう奴がいるから社会は変わらない」

「偽善者は一番の害悪」


袋叩きにされる中で、その書き込みはやがて途絶えた。

ログだけが、虚しく残った。


それを最後に、似たような意見は現れなくなった。

正しい倫理観を持った人間は、静かに去っていった。


残ったのは、怒りと焦燥だけだった。


「次は、もっと効くやつをやらないとな」

「中途半端だからダメなんだ」


河合教は、少しずつ“選別”されていった。

疑問を持つ者が消え、過激な者だけが残る。


暴走は、もう止まらなかった。

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